真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第69話

「精霊院……」

 

 

 精霊院。

 拝霊教と呼ばれる宗教を信仰する団体で今回、俺たちが参加する大精霊演武祭の運営であると同時に開催場所である聖都を始めとした聖域の管理を担う巨大宗教組織である。恐らく、この大陸で尤も信仰されている宗教だろう。

 

「皆様は大精霊演武祭に出場するユートレア学院の選手の方々でよろしかったでしょうか?」

 

「はい、間違いありません」

 

「それでは———」

 

 案内役であるノルンと名乗った女性とアルベルト先生が何やら確認作業を行っている中、俺はコソコソとガレスに声を掛ける。

 

「なぁ、実際のところどうやって移動すると思う?」

 

「やっぱり飛行艇とかじゃないか? この人数をそれなりの速度で移動させるとなると手段は限られているだろうし……」

 

 俺とガレスが移動法について考えていると話を終えた様子のアルベルト先生と案内役がこちらに近付いて来る。そろそろ移動だろうか?

 

「それではユートレア学院選手の皆さん、これから聖都へと移動するので一ヶ所にまとまって頂けますか?」

 

 

 予想通り移動するらしく、言葉通り俺たちが一ヶ所に固まったのを確認するとノルンさんは懐から依代を取り出し、宙に向かって放り投げる。

 

 すると中から岩を円形に繋げた不思議な形をした精霊が姿を現した。

 

 

「あれはサークリスか? 初めて見た……」

 

「ああ、まさか精霊の化石とも謳われる古代の精霊とお目に掛かれるとは……」 

 

 文献でしか見ないような精霊を生で見て驚く俺とガレスを他所に頭上に浮かんでいたサークリスが円形の身体を目一杯広げてノルンさん含めて俺たち全員を囲い込んだ。

 

「では、これより移動を行いますが安全の為、その場から動かないようお願い致します」

 

 ノルンさんはそう呟きながら大量の霊力を消費しながら地面に複雑な幾何学模様の術式を描いていく。

 

「……んん? ちょっと待って、この術式ってもしかして———」

 

 驚きながらも刻まれた術式の効果に気付いた俺が声を上げようとした直後、視界が淡い輝きに包まれ、次の瞬間には眼前の景色が一変していた。

 

 先程まで見えていた筈の学院の校門は跡形もなく消え、代わりに荘厳な装飾が施された白い噴水が視界に入る。考えるまでもなく、これは—————。

 

「転移術……」

 

 空間と空間を繋ぐ最高難易度の霊術。そのあまりの難度から現代において使用できる精霊師はほとんどいないと言われていたが、まさか生で見ることができるとは…………。

 

 

「……ふぅ、もう動いて頂いても構いません」

 

 

 衝撃を受けている俺の耳に汗を流し、疲労感を滲ませたノルンさんの声が耳に入る。やはり転移術の使用には凄まじい霊力と体力を消耗するのだろう。

 

「ユートレア学院の皆様、聖都へようこそ。我々精霊院一同、皆様を歓迎いたします」

 

 

 その声に振り返ると純白の修道服を纏った三人の女性が頭を下げると共に挨拶を述べていた。

 

「またこちらで宿を手配していますので今日のところは宿の方で英気を養って頂き、明日の大精霊演武祭に備えて頂ければと思います」

 

 

「ありがとうございます。ユートレア学院とロムス王国を代表して感謝します」

 

 

 そう言って優雅な所作でミーシャが礼を述べる中、俺はこそっとアルベルト先生に近付き、声を掛ける。

 

 

「先生、少し聖都を見て回りたいんですけど良いですか?」

 

 

「まぁ、聖都に来る機会なんて滅多にないだろうしね。明日に響かない程度なら問題無いよ」

 

「ありがとうございます」

 

 先生から許可が出たことに俺は内心でガッツポーズをしながら喜ぶ。折角、聖都に来たのだ、時間のある内に見れるものは見ておきたかった。

 

 

「では宿の方へ案内しますので、どうぞこちらへ」

 

 

 精霊院の方々の案内に従いながら俺は聖都巡りに思いを馳せるのだった。

 

 

******

 

 

「さて、どこに行こうか」

 

 大精霊演武祭参加者の為に用意されていたらしい豪華過ぎる宿から颯爽と出た俺は精霊院の方から貰った聖都の地図を眺めながら俺がどこへ行こうか、悩んでいると背中をポンポンと叩かれる。

 

 

「よっ」

 

 

「リリーか」

 

 

 振り返るとこちらを見上げるリリーの姿があった。多分、コイツが俺を狙う暗殺者だったら既に十回以上殺されている気がするが……まぁ、それは良いとして———。

 

 

「お前も一緒に聖都を回るか?」

 

「うん」 

 

 

 俺の提案にコクリと首を縦に振るリリー。その様子は一見すると普段通りに見えるが、彼女の瞳がキラキラと輝きを帯びているのを俺は見逃していない。どうやらリリーも初めての聖都に興奮しているらしい。

 

 

「よし、そうと決まれば時間は有限だ。行くぞ、リリー!」

 

 

「おー」

 

 

 気の抜けたリリーの返事を聞きながら俺は聖都を時間がいっぱいまで堪能するべく駆け出していく。

 

 

「リリー、これ聖都流行りのお菓子だって。食う?」

 

 

「食う」

 

 

「よし、すみません。このお菓子を———」

 

 聖都で流行っていると言う少し割高なお菓子を買ったり……。

 

 

「やっぱり聖都の図書館っていうべきか、蔵書の数が桁違いだな。若干、宗教関連の本が多い気がしなくも無いけど……」

 

「…………」

 

「リリー、集中しているところ悪いが、そろそろ行くぞ」

 

「…………」

 

「リリーッ!」

 

 

 聖都の図書館に足を運び、その大きさに興奮したリリーが本に齧り付いて予定時間を大幅に超えて居座る羽目になったり……。

 

「似合う?」

 

「おー、似合ってるじゃん」

 

「じゃあ買お」

 

 聖都の雑貨屋でぶっちゃけ聖都以外の場所でも売ってそうな雑貨を見たり……。

 

「これが邪霊戦役の決戦を描いたと言われるルーメンの証か」

 

 悪名高き精霊師イーヴァンと四凶と思わしきの黒い影たちと光り輝く剣と槍を手にして立ち向かう英雄、アーサーの姿が描かれた戦争画を眺めながら呟く。パッと見る限り絶望感のある描写だが、果たしてアーサーはどんな気持ちで邪霊たちに挑んだのか……。

 

「…………」

 

「リリー、眠くなってきたか?」

 

「……そんなことない」

 

「いや、凄く眠そうだけど……」

 

 美術館がつまらなかったのか、それとも疲労によるものかは不明だが、そろそろリリーはお眠のようだ。そろそろ宿に戻る頃合いだろうが………。 

 

「リリー、最後に少しだけ寄りたいところがあるんだけど良いか?」

 

「……ん」

 

 無事、リリーに許可を貰うと美術館を出て俺が今回一番見たかった聖都の中心に存在する英雄広場と呼ばれる広場を目指して足早に移動する。

 

「ローク」

 

「なんだ?」

 

「英雄広場ってどんな場所なの?」

 

「うーん、まぁ……割とそのままの意味の場所だよ」

 

「……?」

 

 どういうことと不思議そうに首を傾げるリリーに俺は「行けば分かる」苦笑気味に言う。こればっかりは言葉で説明するよりも実際に見た方が早いだろう。

 

「……ほら、見えてきた」

 

 

「………ッ!」

 

 

 俺が指差した先。まるで塔のように聳え立つ結晶を視界に収めたリリーは眠気など吹き飛ばした様子で目を見開く。 

 

 

「あれって、もしかして………」

 

 

「ああ、あれが英雄アーサーと共に戦ったと謳われる聖槍の精霊、ロンゴミニアドだよ」

 

 

 騎士のように白い甲冑に身を包み、その背からは一対の純白の翼を生やしたその姿はとても神秘的で英雄然としている。

 

 

「凄い」

 

「ああ、本当にな……」

 

 

 リリーの呟きに同意しながらロンゴミニアドを改めて見上げる。

 今でこそ、こうして結晶で眠るように封じられているが、かつてこの精霊があの戦争画のように英雄と共に戦っていたのだと考えると胸に込み上げてくるものがある。

 

 

「曰く、ロンゴミニアドは契約者たるアーサーの死と共に自らに封を掛けることで忠誠のあかしとしたらしいですね」

 

「……貴方は」

 

 

「精霊と精霊師の絆を感じさせる素晴らしい美談だと思いませんか?」

 

 

 横から聞こえてくる解説に視線を向ければ同じくロンゴミニアドを見上げていた黒い学生服を纏った少年が隣に立っていた。

 

 

 目元近くまで伸びた白髪に黒縁のメガネを掛ける理知的な少年は柔和な笑みを浮かべながらこちらに手を伸ばしてくる。

 

 

「始めまして、ユートレア学院の方々。僕はリベル学院の生徒会長を務めるユーマ・シュレーフトです」

 

 

「お、俺はユートレア学院のローク・アレアスです」

 

「リリー・オラリア」

 

 

 自己紹介と共に握手を求めてきたユーマに俺は動揺しながら応じる。まさか、こんな場所で前大精霊演武祭優勝校の生徒会長と会うことになるとは……。

 

 

「にしても君がローク・アレアス君でしたか……」

 

 

「俺のこと知っているんですか?」

 

 まるで前から知っているような口振りに俺は反射的に聞き返してしまう。

 

 

「ええ、色々と話は聞いてますよ。君のことはユートレア学院最強のミーシャ・ロムスさえも凌ぐ凄腕の精霊師だって聞いていますよ」

 

 

「……ホントですか?」

 

「ええ、本当ですとも」

 

 微笑みながら頷くユーマを尻目に俺は自分の噂が流れているという事実に思わず頭を抱えながらその場に蹲ってしまう。

 

 嘘だろ……。外にまで俺のこと伝わってるのか? 絶対、尾鰭付いてるじゃん……勘弁してよ。

 

 後ろで頭を抱える俺の姿に「だ、大丈夫ですか?」と心配そうな様子を見せ、前にはフフンとどこか誇らしげに腕を組みながらうんうんと頷いているリリーの姿があった。

 

 お前は一体どういう立場で頷いているんだ? と突っ込みを内心で入れながら俺は「大丈夫です」と立ち上がる。

 

 

「きっと疲れているのでしょう。今日はもう休んで明日に備えた方がよろしいかと」

 

 

「はい、そうします。お気遣いありがとうございます」

 

 

「いや、こちらこそいきなり声を掛けて申し訳ございませんでした。大精霊演武祭で君と全力で戦えることを楽しみにしています」

 

 そう言って楽しげな笑みと共にその場から去っていくユーマを「お、お手柔らかに……」と曖昧な笑みを浮かべながら見送る。

 

 

「…………」

 

「ローク先輩?」

 

 どんよりとした気持ちになっていると背後から聞き慣れた声が耳に入り、振り返るとレイアと燈が並んで立っていた。

 

 

「……二人も見に来てたのか、意外だな」

 

 

「私は宿で寝たかったけど、レイアに無理矢理連れてこられた」

 

 

「ああ、そう言えばレイアはアーサー伝記を読み聞かされてたんだもんな」

 

 

 気怠げな燈の言葉を聞いて俺は納得する。そう言えばクレープ屋に行った時にそんな話をしたなぁ。

 

「はい、折角の機会ですのでここだけは見ておきたいと思いまして」

 

 

「本当はローク先輩と一緒に行きたかったらしいけど、先輩がさっさと出るから私が付き合わされる羽目に……」

 

「あ、燈さんッ‼ な、なな何を言って⁉」

 

 そう言って若干不満げな様子で俺に文句を言ってくる燈を顔を真っ赤にしながらブンブンと肩を揺らす。

 

 

「まぁ、確かにどうせならアーサー伝記知っている人と回りたいよな」

 

 

「そ、そうですッ! そうなんですッ‼ 折角なら物語を語り合える人と一緒に回りたいと思って———」

 

 

「え、でも私のところに来たときは———」

 

「燃やしますよッ⁉」

 

 荒ぶるレイアにブンブン揺らされ続けている燈は燃やされるまでもなく力尽きそうになっている。そろそろ解放して上げた方がいいだろう。

 

 

「ほら、レイア。そこまでにしてやってくれ、ちゃんと分かったから」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ああ、誤解される辛さはよく分かってるから大丈夫だ、安心しろ」

 

 俺は自信を持って答える。こういう時はとにかく本人の言を信じるに限る。本人が言っているんだから間違いない。

 

 

「そ、そうですか。何よりです……」

 

 

 俺の言葉にホッとしたのか、ようやく燈を揺らす手が止まる。解放された燈は若干グロッキー状態ではあるが、とりあえずは大丈夫だろう。

 

 

「ところでローク先輩、さっきまでリリー先輩の他に誰かと一緒にいましたか?」

 

 

「ああ、見てたのか……」  

 

 

 どうやら先程のユーマとの会話の様子を見ていたらしい。まぁ、別に隠すほどのことでも無いので言っていいか。

 

 

「リベル学院の生徒会長と偶然会って話してたんだ」

 

 

「リベル学院の生徒会長ッ!」

 

 

「…………」

 

 

 流石に生徒会長と話しているとは思わなかったのかレイアは驚きの表情を浮かべ、半グロッキー状態になっていた燈は纏う雰囲気が一変する。

 

 

「どうした、燈?」

 

 

「……会ったのは生徒会長だけ?」

 

 

「あ、ああ。そうだけど……」

 

 

 燈の質問内容に疑問を抱きながら俺がそう答えると彼女は「そう……」と気のない返事と共に纏っていた険呑な雰囲気を霧散させせる。   

 

 

「……姉貴のことか?」

 

 

「……何でもない」

 

 

 燈は否定しているが、恐らくリベル学院に所属しているあの姉のことだろう。尤も本人が何でもないと言う以上はこちらから追及はしないが……。

 

 

「ローク」

 

 

「……ああ。そうだな、そろそろ帰ろうか」

 

 

 リリーの言葉に頷きながら俺は言う。明日のことを考えるならそろそろ宿に戻って休んだ方が良いだろう。

 

 

「二人はどうする?」

 

 

「……私達も戻ります。見たいものは見れましたし」

 

 

 チラリと燈の様子を見ながら答えるレイアに俺は頷く。きっとその方が良いだろう。

 

 

「じゃあ、みんなで戻ろうか」

 

 

俺はそう呟くと三人を伴って寮へと向かって歩き出す。ふと空を見上げると先程まで明るかった空は薄暗くなっており、日没が近いようだ。

 

 

「…………」

 

 

 俺はそんな空を眺めながら内心に漠然とした不安を抱えるのだった。

 

******

 

 

 時は少し遡り、リリーとロークと湧かれた直後。

 ユーマ・シュレーフトは当ても無く聖都をブラブラと歩いていた。

 

 

「やっと見つけた、会長」

 

 

「おや、貴女が僕に用とは珍しい」

 

 

 すると背後から声を掛けられ、振り返れば同じ学院の制服を纏った少女がこちらに視線を向けていた。

 

 肩口ほどで揃えられた黒髪、ルビーのような赤い瞳には泣きぼくろが付いている。身体付きは細身ではあるが、胸元は制服越しにも分かるような膨らみがあり、異性の視線を吸い寄せる魅力的な容姿をしている。

 

 そんな彼女は蠱惑的な笑みを浮かべなら「違うよ」とユーマの言葉を否定する。

 

「私じゃなくて、先生が会長を呼んでいるの」

 

「なるほど、それは迷惑を掛けましたね」

 

 わざわざ自分を探しに来たのであろう少女に謝罪の言葉を述べながらユーマは足先をリベル学院の学生達がいる宿へと向ける。

 

 

「……会長」

 

 

「何ですか?」

 

 

「何かいいことでもあった?」

 

 

 その質問にユーマは思わず足を止め、振り返って少女に視線を向ける。

 

「そう見えますか?」

 

「とても」

 

「……ふむ」

 

 隠しているつもりだったが、どうやら顔に出てしまっていたらしい。

 

「実は前々から気になっていた学生と会えましてね。そのせいかも知れませんね」

 

 

 

「へぇ~、どこの学生?」

 

 

「ユートレア学院です」

 

 

 校名を答えると少女の表情が僅かに変化した為、ユーマは珍しいなと思いながら尋ねる。

 

 

「貴女もあの学院の誰かに興味が?」

 

 

「フフッ、まぁね」

 

 

 言葉とは裏腹に楽しげに答える彼女の様子をやはり珍しいなと思いながらユーマは再度、歩き出すと背中越しに言う。

 

 

「望みの相手と戦えると良いですね、月影さん」

 

「お互いにね」

 

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