真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
『ここに大精霊演武祭の開催を宣言しますッ!』
拝霊教の大司教による開会宣言と共に聖都全体から歓声が響き渡る。
「…………」
大精霊演武祭の起源は元々、この聖都に祀られている拝霊教の善神アールマティとその遣いとされる精霊に奉納する為の舞い、つまりは神楽であったとされている。
それが長い時の中で演舞から演武へと変化し、今では各国の精霊師育成機関が集まってその実力を競い合うという性質上、それぞれの国の精霊師の実力を誇示する為の場として扱われてしまっている。
事実、無数の精霊と霊術を使用して大精霊演武祭の様子を各国に中継をしており、この期間の学院都市ガラデアは学生たちは勿論、市民のほとんどが学院の多目的ホールや劇場、闘技場などの中継設備のある場所へと集まり、精霊師たちの勇姿を見届けるという。
つまりはここで恥を晒すとロムス王国どころか世界中に晒されるという訳である。ロークからすれば恐しいことこの上なかった。
「緊張しているかい、ローク?」
「しない訳がないだろう」
拝霊教の聖歌が響き渡る厳かな開会式を終えると共に選手控室で待機していた俺はガレスに声を掛けられ、顔を顰めながら答える。
契約精霊がいない、相手側に変な噂が流れている、仲間からの期待、そして自分がこの大精霊演武祭の舞台にいるという幾つもの事実がロークの精神状態を不安定にしていた。
その事実をガレスに包み隠さず話すと「なんだ」と気の抜けた表情を浮かべられる。
「いつも通りじゃないか」
「お前、何を言って………確かに」
確かによくよく考えてみると学位戦の時と状況自体は大して違わない。何ならほぼ一緒なまである。
「…………」
「少しは落ち着いたかい?」
そう思うことで若干、気が楽になってきた俺にガレスは笑いながら尋ねる。
「なんか理解されてて怖いなぁ……」
「それだけ君が分かりやすいんじゃないか?」
「馬鹿な……」
「お二人とも、始まりますよ」
俺とガレスがそんな雑談をしていると割って入る形でミーシャが告げる。
二人が彼女の視線に釣られるようにして空を見上げれば羽を広げて宙に浮かぶ二体の天使の精霊の姿があった。片方の天使はその手に天秤を持ち、もう片方の天使はその手に炎に包まれた木製の杯を手にしている。
『これより第一種目の競技とフィールド、参加選手の選出を行います』
その言葉と共に上空に天使たちが持つ天秤の皿と炎の映像が大きく投影され、次の瞬間にはその左右の皿の上で天使が放り投げた木製の賽子が転がる。
「さて、運試しだね」
「とりあえずハードな競技は嫌だな……」
大精霊演武祭において実施される競技はその全てが人ではなく、精霊の手によって決められる。これは演舞祭と呼ばれていた頃からの名残で、あくまで競技は神と精霊たちに捧げる儀式であり、故にこそ精霊たちが望む競技を行う為にその全てを精霊に委ねているのだ。
『最初の競技は
天秤を持つ天使によって競技と場所が決まると今度は天使の持つ杯の炎が激しく燃え上がり、同時に俺が嵌めている手袋が輝き出す。
『手袋に光が帯びた方々が今回の選手になります。各校、選ばれた方は所定の場所へお集まりください』
「……なるほど」
予め精霊院から選手の方はめるようにと手渡された物だが、どうやら参加選手の選定の為だったらしい。
「っていうか、最初から俺かよ……」
「あっちにも一人いるよ」
最初の競技から自分が選ばれたことに絶望しているとガレスからもう一人メンバーがいることを告げられる。見れば向こう側からも光が漏れており、その光源を辿るとレイアの手袋が光っていることに気付いた。
「どうやらお二人がこの競技の参加者のようですね」
「…………」
ミーシャの言葉にレイアはまだ状況が理解しきれていない様子で俺を見つめてくる。
まぁ、そうだよな。いきなり選手って言われても動揺するよな。実際、俺もまだ突然過ぎて混乱しているし。
「行こう、レイア。栄えある先陣だぞ」
が、それでも敢えて俺は強気に、自信ありげにレイアにそう呼び掛ける。その言葉にレイアが少し驚いた表情で目を見開くと口元を緩めながら頷く。
「はい、行きましょう。先輩」
レイアの言葉に他のメンバーたちからの「がんばれ~」、「次席の力を見せ付けろ~」なんて声援で控室が溢れかえる。
「お二人とも、ユートレア学院の代表として恥じぬ戦いを」
最後にミーシャが控室を出て行こうとする俺達にそう言った後、最後に相好を崩して続ける。
「そして何より、目一杯楽しんで来て下さい」
******
大精霊演武祭に参加する学院数はユートレア学院、リベル学院、クラスト学院、ティタニア学院、ドラコニア学院の五つだ。どの学院も同盟を結んでいる四国所属の学院で、中でも一番の大国であるアルザス帝国は精霊師育成機関が唯一、二つ存在する為、リベル学院とクラスト学院の二校が参加している。
「やっぱりドキドキしますね」
「まぁ、そりゃな」
恐らくレイアの比でないほど心臓をバクバクさせながら俺は言う。周囲には集まった精霊師たちが計十数人ほど集まっており、その全員が強そうに見えて仕方ない。というかよく見たらリベル学院に至っては先日会った生徒会長であるユーマが出てきている。初っ端から激戦になる予感しかしない。
「今から天競の説明を行います。まず最初に参加選手の中から精霊に乗ってレースを駆ける走者を決めて頂きます。その他の選手は走者のサポートメンバーとして———」
少して現れた精霊院の神官から
「よし、走者はレイアだな」
「私で良いんですか?」
俺の発言にレイアが確認するように聞き返してくる。
「当然だ、お前のサラマンダーなら充分に勝機はある」
「先輩のシグルムは?」
「無い」
「無い⁉」
今回、師匠からシグルムは受け取っていない。何よりそもそもクロとのひと悶着以降、アイツは俺に苦手意識を持ってしまった為、簡易契約では以前のように力を発揮してくれないだろう。
「まぁ、そもそも竜種の飛行能力を超える精霊なんて早々いないからな。やっぱりお前が走者になるのが一番だと思うぞ」
「分かりました。でしたら私が走者としてサラマンダーと共に駆けさせて頂きます」
「ああ、よろしく頼む」
「競技を行うに辺り、飛行能力を持つ精霊を持たないチームの為にこちらで簡易契約用の精霊の貸し出しを行っています。必要な方は事前に仰って下さい」
その説明に場合によっては今更ながら飛行能力を持つ精霊と契約していない精霊師だけのチームがいる可能性もあることに気付く。
どっか事故っていてくれないかなと俺が内心で願うも特に神官の下に封霊石を貰いに行こうとするチームは無く、俺の希望は儚く砕け散る。流石に選ぶ精霊もそこは配慮しているのだろうか?
「ではこれよりレースの開始地点に移動を開始しますので選手の方々はこちらのサークリアの中へ入って下さい」
そんなことを考えている内に移動の準備ができたらしく、聖都に来た時と同様に円形の身体を広げているサークリアの下に俺たちを含めて参加者たちが集まる。
「まさか初手から君と当たるとは……」
「は、はは。ホントですね」
こちらの気付いたユーマから嬉しそう声を掛けられた俺は乾いた笑みを浮かべながら返事をする。けれど不幸中の幸いか、リベル学院の参加者はユーマ一人のようでサポート役がいない。彼の実力は未知数だが、これなら何とかなるかも知れない。
「楽しみにしていますよ、アレアス君」
「ええ、俺もです」
俺の返事と共に視界が光に包まれ、視界が一変する。
美しい建物が立て並んでいた景色からまるで何もない荒野のような景色に早変わりし、上を見れば先程よりも随分と近くなった空がある。どうやら無事にドルカ山へと転移したらしい。
「これより最終確認を行います。コースについてはこのドルカ山の頂上から麓まで、走者の方々にはこちらの腕輪を嵌めた後、この
神官のその言葉と共に一匹の美しい鳥の姿をした精霊が金色の軌跡を描きながら俺たちの頭上を舞う。
「
つまりは下手に遅く飛んだりショートカットをすると失格になる可能性が高いということだろう。まぁ、正攻法で圧倒できるであろうサラマンダーならばどちらも問題無いだろう。
後は他のチームからの妨害だろうが、これはもう相手チームの契約精霊によるので臨機応変に対応するしかない。
「先輩、間もなく始まるみたいです」
「ああ、分かった」
腕輪を受け取ったレイアに頷ききながら俺は彼女と共に開始位置に着く。他のチームも同じように待機場所に着き、場が一気に張り詰める。
「では今から光霊鳥を飛ばします。選手の方々は十秒後に飛んでください」
神官がそう呟き、
「
「来なさい、サラマンダーッ!」
合図と共にレイアがサラマンダーを召喚すると共に俺達はその赤色の巨体の背に乗り、勢いよく山頂から飛び出す。
よし、スタートダッシュは悪くないッ!
先頭に出たことを喜びながら他の走者の契約精霊を確認するべく、視線を背後に向けた俺はサラマンダー以外に巨翼を広げて背後から迫って来る二体の竜を見て硬直したのだった。