真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第71話

「始まったね」

 

 

「竜種が三体もいる」

 

 ガレスが天競の映像が流れているスクリーンに視線を向けると横にいたリリーがボソリと呟く。

 

 映像には先頭を飛ぶユートレア学院の赤竜、サラマンダーの背後からリベル学院の白竜とドラコニア学院の緑竜の精霊が後を追い、更に背後からはティタニア学院の走者が使役する契約精霊翼を生やした馬、ペガサスとクラスト学院の契約精霊である巨大魚が空を水中の如く泳ぎながら進む姿があった。

 

 控室の外からは現れた高位精霊たちが光霊鳥(ルクーリア)を追って飛ぶ姿に興奮しているのか、歓声が聞こえてくる。

 

 

「緑竜の方はドラコニア学院、白竜はリベル学院ですね」

 

 

 ミーシャが制服を確認しながら呟く。リベル学院は勿論、ドラコニア学院も前回の大精霊演武祭で準優勝者を輩出した強豪校だ。

 

「あれ、ドンパチやらないの? 妨害して良いんでしょ?」

 

 

「まだ序盤も序盤だからね、いきなり仕掛けはしないだろ」

 

 迫力こそあるが、光霊鳥(ルクーリア)の軌跡に沿って飛び続けるだけで何も起こらないことをつまらなそうに呟く燈にガレスがそう答える。

 

 確かに妨害は許されてはいるが、ゴールまで先は長い。

 まずは互いの精霊の基本性能を確認しながら策を練っている段階だろう。

 

 

「にしても、どのチームも流石ね。結構危ないルートを進んでいる筈だけど、どこもスピードを落とさずに飛んでいるわ」

 

 

 セリアが飛ぶ精霊たちの様子を見ながら感心した様子で呟く。

 山を旋回するようにして下っていく光霊鳥(ルクーリア)は時には石柱や石筍が立ち並ぶ険しいルートを通るが、どの精霊も問題無く通過している。

 

 流石は大精霊演武祭に選ばれた猛者たちといったところか。

 そのまま暫くはそれぞれが卓越した飛行能力で静かにしのぎを削り合っていたが、やがてドラコニア学院の選手たちによって状況が大きく変化し始めた。

 

「動きますね……」

 

 大きく翼を広げながら緑竜は速度を落とし、三位から最下位まで一気に順位を下げたドラコニア学院の様子を見つめながらミーシャは静かに呟いた。

 

******

 

「レイア」

 

「……はい」

 

 ロークの声掛けにサラマンダーへの指示を出しながらも異変に気付いていたレイアは深刻な表情を浮かべながら頷いた直後のことだった。

 

 

 後方から雷鳴が響き渡り、強大な霊力を感知する。

 

「来るかッ!」

 

 嫌な予感と共に振り返れば最後尾に移動した緑竜がその身体に雷を帯びながらその口腔に霊力を溜めているのを確認する。言うまでも無く、ブレスで選手を一掃する気だろう。

 

「回避しますか!?」

 

「……いや」

 

 ロークは一瞬の逡巡の後、レイアの提案を退ける。

 込められている霊力量からしてこれから放れる攻撃は回避しきれない可能性が高い。

 

 回避より防御に意識を向けるべきだ。

 

「レイア、お前はそのまま飛行に意識を向けてろ。俺が何とかする」

 

「ですが……」

 

「心配しなくてもお前に傷一つ付けさせしない。任せとけ」

 

「……お、お願いします」

 

 俺の宣言にレイアは僅かに顔を俯かせ、どこか恥ずかし気に言ってくる。

 

 そんなレイアの様子を見ながら流石に傷一つは言い過ぎたかもと思ったが、今更「やっぱり少し傷付けちゃうかも」とは言えず、ロークは意を決しながら依代を勢いよく広げる。

 

 

「来いやぁッ!!」

 

 先輩としての威厳を守るべくロークは精一杯の虚勢を張りながら依代から微精霊を呼び出すと簡易契約を結び迎撃の構えを取る。

 

 

 

『ガァアアアッ!!』

 

 

 果たしてそんなロークの叫びに呼応するかの如く、後方の緑竜が口腔に溜まった霊力を解き放つ。雷を帯びた霊力の光線が射線上にいる選手たちを纏めてリタイアさせるべく大気を裂きながら突き進んでいく。

 

『ギョアッ!?』

 

「ぐぁッ!?」

 

「きゃあッ!?」

 

 

 咄嗟に回避を試みる選手たちだったが、そのブレスの速度と距離の近さ故に回避が間に合わなかった巨大魚はその背に乗っていたクラスト学院の選手共々、大ダメージを受ける。

 

 

「くっ!」

 

 

 ペガサスを使役するティタニア学院はその翼にブレスが掠りこそしたが、他の精霊たちと比べて小柄な身体と高い機動性が故に直撃を回避することには成功する。

 

 

 二チームの精霊を負傷させ、尚も突き進み続けるブレスはそのままユーマとその契約精霊へと向かっていく。

 

「ちぃッ!」

 

 予想以上の火力にロークは思わず舌打ちをしながら術式を構築し、全力の障壁を展開しようとするが————。

 

「薙ぎ払いなさい、クロム」

 

 そんな彼を他所にユーマが迎撃の態勢を取った。

 

『グォオオッ!』

 

「ッ!?」

 

 

 

 主人からの指示に白竜、クロムは雄叫びを上げながら反転。

 その盾の如く分厚い翼の片翼で迫ってきたブレスを受け止めるとそのまま翼を払い、雷のブレスをあらぬ方向へと弾き飛ばした。

 

「なッ!?」

 

 その様子に緑竜の契約者である選手が信じられないと言わんばかりに目を開いていた。

 

「まずい」

 

 結果的にブレスはこちらに到達することはなく、無傷で済んだが状況は楽観視できるものでは無かった。

 

 緑竜はダメージを与えた巨大魚をリタイアさせるべく追撃に入っており、代わりにペガサスと特にクロムと呼ばれた白竜が後方から一気にスピードを上げて迫ってくる。

 

「レイア、スピード上げるんだッ! ヤバいのが来るッ!」

 

「これ以上スピード上げるのは———」

 

『ゴオァッ!』

 

 レイアの言葉を遮るようにサラマンダーが吠える。

 舐めるなと言わんばかりにギロリと主を睨み付けた赤竜はそのまま加速していく。

 

 が、相手も速く振り切ることができない。

 

 

「ライオネルッ!」

 

 

 そのまま付かず離れず飛翔する精霊三体が天井のあるルートに差し掛かったところで今度はティタニア学院が動く。

 

 

 ペガサスの背に腰掛ける二人組の少女の内、その後ろに座っていた少女が名を叫び契約精霊を呼び出す。

 

 輝きと共に現れた赤い獣毛に包まれた獅子は軽やかに跳躍すると天井に張り付き、猛スピードで疾走してユーマ達を抜かしてローク達の頭上に迫る。

 

「こっち狙いかよッ!」

 

『ガァッ!』

 

 ロークが叫ぶと共にライオネルが天井を蹴って突っ込んでくる。

 

「颶風剣ッ!」

 

 

『グオッ!?』

 

 ロークは依代から取り出した剣精霊に風を纏わせるとそのまま勢いよく横薙ぎに振るう。

 

 サラマンダーに向かって落下しようといていたライオネルは剣から放たれた烈風を浴びたことで軌道を変えられ、そのまま重力に従って落下していく。

 

「邪魔」

 

『ギャウン!?』

 

 

 そして宙で無防備になったライオネルはその直後、後方から勢いよく迫ってきたクロムに翼で払われて近くの石柱に衝突する。

 

「そろそろ僕も行かせて頂きますよ」

 

 ライオネルに同情の念を抱く間もなく、今度はユーマが動き出す。

 彼は懐から一冊の本を取り出し、広げるとその中から幾つもの光球、光属性の微精霊が現れる。

 

 

「レイア、サラマンダー、悪いが防ぎ切れない。回避は任せるぞ」

 

 ロークの言葉にレイアが返事をする間もなく、クロムの周囲に浮かんだ微精霊たちが一斉に光弾を放ってくる。

 

「ぉぉおおおッ!」

 

 眩い輝きに染め上げられる視界。

 どこか幻想的にも思えるその景色を前にしてロークは気合の叫び声を上げながら剣を素早く振るい、次々に飛来してくる光弾を斬り払っていく。

 

 限界ギリギリまで肉体強化を施し、腕を全力で稼働させながらが驚くべき速度でロークは迎撃していくが、それでも微精霊たちが放つ光弾を捌き切るには遠く及ばなかった。

 

「サラマンダーッ!」

 

『グォオオッ!』

 

 ロークの対処の限界を悟ったレイアの指示に従い、サラマンダーが回避行動を取る。

 

 身体を回転させ、時には翼を閉じ、前方に現れる障害物を回避しつつ、後方からの光弾も避けていく。

 

 それは曲芸の如き見事な飛行だったが、そんな動きをすればスピードが落ちてしまうのは必然的であり———。

 

 

「駆け抜けなさい」

 

『ガァアア!』

 

 

 その隙を逃さず、一気に加速したクロムがサラマンダーを追い抜いてそのままトップに躍り出た。  

 

 

「あッ!抜かされて……ッ!」

 

 

「だ、大丈夫だ……。まだ抜かせるタイミングはある筈だ」

 

 

 予想以上のアクロバティックなサラマンダーの飛行に振り回され、必死にサラマンダーの背にしがみ付いていたロークは態勢を立て直しながら焦るレイアにそう告げる。

 

「それよりも———」

 

『クラスト学院、リタイア』

 

 

 ロークの言葉を遮るように大気を揺らす轟音が響き渡り、次いで撮影役を兼ねて選手たちの周囲を飛行していた精霊からそんなアナウンスが流れてくる。

 

 言葉に反応して三校それぞれの選手が背後を振り返ると周囲一帯に雷が迸る中、巨大魚と共に落下していく選手と走者以外のサポート役の契約精霊と思わしき精霊の姿があった。

 

 

 クラスト学院の選手たちを精霊院の精霊たちが保護していく中、眼前の敵を討ったことで速力を上げた緑竜が後方から一気に距離を詰めてくる。

 

「マズいな……」

 

 ロークは表情を険しくしながら呟く。

一応、間にまだティタニア学院がいるがこのまま竜二体に挟まれるような状況は回避したかった。

 

 となると今取るべき手段はスピードを落として一気に順位を落とすか、もしくは————。

 

「抜き返しましょう」

 

 そんなロークの思考を読んだかのようにレイアはそう提案する。

 

「だが……」

 

「先輩と一緒ならば、私はできます」

 

 

「…………」

 

 ジッとこちらを見上げてくるレイアの瞳からは強い信頼を感じ取ることができた。

 

 

 入学した頃からは想像もできないその信頼の厚さに苦しさと嬉しさを抱きながらロークは口元を緩ませる。

 

 

「……ああ、分かった。なら、リベル学院の生徒会長に俺達の強さを見せつけてやろう!」

 

「はい!」

 

 

 実際のところユーマに勝てる自信はそれほどない。

 けれども後輩の信頼を裏切ることをできないロークは精一杯の虚勢を張りながら叫ぶ。

 

 色々と不安に思うことはあるが、それ以上に可愛い後輩の前ではできるだけ格好良い先輩でありたかった。

 

「レイア、とりあえずブレスだ。一発、大きいのをぶち当ててやれ」

 

「分かりました、大きいのをいきます!」

 

 

 ロークの指示に頷いたレイアが意識を集中させ、サラマンダーと共に霊力を溜め始める。同時にサラマンダーの身体が熱を帯び始め、その口からは炎が漏れる。

 

 

「来ますか」

 

 

 そして先頭を走るユーマは背後から攻撃の兆候を敢えて見逃してやるほど優しくはない。落ち着いた様子で周囲に微精霊達を展開すると再度、弾幕を展開する。

 

「ッ!」

 

「回避はしなくて良い。攻撃もレイアがいけると思ったタイミングでぶちかませ」

 

 先程とは打って変わってロークはそう呟きながら剣を構える。

 その肩にはケイ・トラルウスとの戦いでも呼び出した精霊、雷獣が乗っており、彼は背を低くするとそのまま勢いよく跳ぶ。

 

「今度は全部、斬り落とす」  

 

 ロークは宣言と共にサラマンダーの背から一歩、足を踏み出す。

 そして次の瞬間には宙を雷光が迸り、サラマンダーに向かって放たれる光弾が片っ端から斬り裂かれて消滅していく。

 

「……ッ! ハハハッ! この数の光弾を全て斬り裂くのかッ!?」

 

 放った光弾が一つも標的に届くことなく雷光と共に消えていく光景にユーマは目を見開き、次いで堪え切れないと言わんばかりに笑う。

 

「片鱗を見せたなッ!? ローク・アレアスッ!!」

 

「別に隠してねぇけどなッ!」

 

 稲妻は弾幕を斬り裂きながらユーマへと迫り、そのまま微精霊の一群を送還させるとクロムの背に落ちる。

 

 

「はぁあああッ!」

 

 

 雷光を帯びながら振り向き様にユーマへと剣を振るうロークだったが、その一撃は間に割って入ってきた微精霊たちによって受け止められる。

 

 

「弾けよ!」

 

「ぐッ!」

 

 微精霊は最後の役目と言わんばかりにその身体から眩い光を放ち、一時的にロークの視界を奪う。

 

 反射的に目を覆いながら後退を試みようとするも、直後に腹部に衝撃が走った。

 

 

「ぐぁッ!」

 

 

「良いですね、楽しくなってきましたよ!」

 

 

 無防備な腹部に重い蹴りを受けたロークがタタラを踏むと更に追撃とばかりにユーマは霊術による衝撃波を放つ。

 

「うぉおおッ!」

 

「ハハハッ! まだまだッ!!」

 

 万全の体勢ならばまだしも、完全に体勢を崩していたロークはその衝撃波に耐えることができず、クロムの背から落下してしまう。

 

 そんなロークを見下ろしながらユーマは喜々とした表情で叫び声を上げながら更なる追撃を掛けるべく無事な微精霊たちを操る。

 

 

「ッ!」

 

 

 気付けば落下するロークの周囲を微精霊たちが包囲しており、そのまま光弾を放つべくその小さな身体を輝かせる。

 

 

「さぁ、もっと力を———ッ!?」

 

 

『グォオオッ!?』

 

 

『ガァアアッ!』

 

 

 喋っている途中で勢いよく突っ込んで来るサラマンダーにクロムが応戦したことで激しい揺れと共に微精霊の指揮が乱れる。

 

 

 そんなユーマの姿にロークは思わず笑みを浮かべながら告げる。

 

 

「俺のどんな噂を聞いたかは知らないが、過剰評価し過ぎだ。俺はあくまで前座だぞ」

 

 

 ロークの言葉を聞きながらユーマは視線をサラマンダーとレイアへと移す。

 

 

 

 そして————。

 

 

 

「サラマンダー、焼却しなさいッ!」

 

 

『ガァアアッ!』

 

 

「ッ!」

 

 

 至近距離で組み合っていたサラマンダーは口腔に溜まった必殺の業火が至近距離からクロムに向かって解き放った。

 

 

 

 既に無茶な身体強化の反動によって碌に身体を動かせず、落下するしかないロークの視界は肌を焼くような熱気と共に視界が赤色に染め上がる。

 

 

「やっぱすげぇや」

 

 

 

 ロークがサラマンダーの一撃に感動していると飛来してきた天使にキャッチされ、リタイアを言い渡されたのだった。

 

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