真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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今回は少し短めです。


第72話

 思ったより雷獣を利用した肉体強化の負担が重かったらしく会場に帰還するや、精霊院の救護室で治療を受けたロークは未だ若干痛む身体で控室へと帰還した。

 

「ローク、お帰り」

 

「ああ。ただいま」

 

 ロークは寄って来たリリーの頭を撫でながらスクリーンに映る映像を見ようとゆったりとした足取り近付く。

 

「どうなった?」

 

「いい試合だったよ」

 

 ロークの問いにガレスはスクリーンから視線を外すと「お疲れ様」という労いの言葉と共にそう答える。

 

「……駄目だったか?」

 

 親友の言い方に違和感を覚えたロークが悟ったような表情を浮かべながら再度、そう尋ねる。

 

「いえ、そんなことはありません。彼の言う通り、お二人とも素晴らしい活躍でした。」

 

「……結果は?」

 

「二位です。良い滑り出しと言えるでしょう」

 

 

 ミーシャの言葉を聞きながら画面に表示された天競(スカイレース)の順位を確認すると一位リベル学院、二位ユートレア学院と表示されているのが目に入った。

 

 

 暫くすると順位ごとに入る獲得ポイントが各校に上から5~1Pずつ振り分けられ、総合順位が表示される。

 

「あのサラマンダーのブレスに耐えたのか……」

 

「ええ、咄嗟に防御したみたいね。流石に無傷でといかなかったみたいだけど」

 

 セリア曰く、どうやら至近距離からの炎をユーマは霊術とクロムの翼による防御によって耐えたらしい。

 

 そして、そのままサラマンダーを撃退した後にスピードを上げたクロムは光霊鳥(ルクーリア)を捕まえて競技は終了したという。流石に業火を諸に浴びたクロムの翼も無事とはいかなかったらしいが、それでも競技継続には何の支障もなかったようだ。

 

 

「恐ろしいな」

 

 

 最初に緑竜のブレスを防いだ時から感じていたことではあったが、改めてクロムの頑丈さに戦慄を抱かずにはいられなかった。

 

 

「そもそもリベル学院の人、ずっと遊んでたでしょ」

 

 

「遊んでた?」

 

 

 無視することのできない燈の指摘にロークの隣で話を聞いていたリリーが尋ねる。

 

 

「先輩がリタイアした前と後で動きが全然違った。最後、加速して光霊鳥(ルクーリア)を捕まえて競技を終わらせていたけど、最初からあのスピードで飛んでいたらすぐに決着付いてたよ。多分、先輩の実力を確認したかったんじゃない?」

 

 

「…………」

 

 

 確かに思い返せばずっとこちらの前後を陣取っていたり、斬り掛かったら喜んだりと思い当たる節はある。

 そもそもローク自身もユーマの契約精霊である筈のクロムが積極的に戦闘に参加せず、微精霊が主体の戦闘に違和感を覚えていた。

 

 

「まぁ、別に良いじゃないか。こっちもロークは手の内を隠したまま二位で競技を終えた訳だしね」

 

 

 若干、空気が重くなりかけたところで今まで黙っていたケイが楽しげに呟く。

 

 

「え、いや……」

 

 

 めっちゃ本気だったのですが……。

 

 ロークがそう口にしようとするも控室の空気は「確かに!」、「それもそうですね!」と謎の納得ムードになり、何も言えなくなってしまう。

 

 

「ただ今、戻りました」

 

 

「あ、レイアちゃんお帰り!」

 

 

 と丁度、誤解によって空気が明るくなったタイミングで競技を終えたレイアが控室の扉を開けて中に入ってくる。

 

 

「お疲れ様、頑張ったね」

 

 

「ナイスファイトだったよ!」

 

 周囲から掛けられる労いの言葉にレイアが「ありがとうございます」とぎこちない笑み

と共に感謝を述べていく。

 

 

 ロークはそんなレイアを暫く眺めていたが、周囲からの声掛けが途切れたタイミングで彼女に近付く。

 

 

「レイア」

 

 

「……先輩」

 

 

 ロークが声を掛けるとレイアはどこか申し訳なさげに顔を俯かせる。折角、先輩が作ってくれた好機を生かし切ることができなかったことに負い目があるのだろう。

 

 故にロークが慰めの言葉を苦にしようとした時だった。

 

 控室全体に響き渡るほどの勢いでレイアは自分の頬を両手で思いっきり叩いた。

 

 

「ッ!」

 

 

「お、おい、大丈————」

 

 

「ローク先輩」

 

 

 赤くなった頬を見ながら大丈夫かと声を掛けようとするロークにレイアはどこかスッキリとした表情で言う。

 

 

「次は絶対に勝ってみせます」

 

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 レイアの真っ直ぐな決意の込められた言葉にロークは思わず口角を上げる。

 

 どうやら自分は彼女のことを気付かない内に甘く見積もってしまっていたようだと反省しながらロークは言う。

 

 

「絶対に勝ってやろうッ!」

 

 

 その言葉と共にパンッ! とハイタッチによる小気味の良い音が控室に響き渡った。

 

 

 

******

 

 

 

「珍しいね」

 

 

「ん?」

 

 

 ロークが控室のソファに座って次の競技の発表を待っているとガレスからそう声を掛けられる。

 

 

「いつになくやる気じゃないか」

 

 

「そんなことは無いさ。正直、天競(スカイレース)で頑張ったし、後の競技は全部みんなに任せたいいくらいだ」

 

 

 ガレスの言葉を否定しながらロークは言う。実際、もう大精霊演武祭に参加するという最低限の役目は果たした筈だし、可能ならこのまま控室でぐーたらしていたいが……。

 

 

「……まぁ、けどあと一回くらいは頑張ってもいいかな?」

 

 

 続けてロークは手袋に視線を落としながら苦笑気味にそう語り、ガレスが「へぇ」と興味深げに呟く。

 

 

「その心は?」

 

 

「今日はちょっと格好を付けたい気分なんだ」

 

 

「……なら今日は何か起きるね」

 

 

「おい、どういう意味だ」

 

 

 何故、ちょっとやる気を出すだけでそう思われなくちゃいけないのか。思わずロークが抗議の声を上げようとしたところでガレスの手袋が輝き出した。

 

 

 視線をスクリーンに向ければ丁度、選手を選出したところで控室を見回せば他にも選ばれた者がいるようで光っているのが見える。

 

 

「さて、君達の仇でも取ってこようかな」

 

 

「余計なお世話だ。やられた分は自分でやり返す」

 

 

「そうかい? それは失礼したね」

 

 

 これから競技だというのにまるで緊張を感じない自然体でガレスはそう言うと控室の出入り口に向かって歩く。

 

 その後ろ姿を見送りながらロークはふと思う。

 

 

「お前もいつになくやる気だな?」

 

 

「そう見えるかい?」

 

 

「ああ」

 

 

 纏う雰囲気と言うべきものが普段よりも熱を帯びているように見える。そして多分だが、気のせいでは無いとロークは気付いていた。

 

 

「まぁ、多分さっきの競技を見ていたせいかな」

 

 

 足を止めて振り返ったガレスはそう言いながら魔剣の柄に触れながら答える。

 

 

「僕も君の活躍を見ていたら格好付けたくなってね」

 

 

 ガレスは最後に「だから僕も派手にぶった斬ってくるよ」と物騒な宣言をしながら控室を後にした。

 

 

「がんばれ~」

 

 

「それ言うの遅すぎない?」

 

 

 ガレスが控室を去ってから声援を送るリリーに思わず突っ込みを入れる。

 

 

「私の出番まだかな」

 

 

「まぁ、こればっかりは運だからな」

 

 

 選手も競技も完全な精霊の気まぐれな為、こればっかりは出たいと思ってもどうしようもできない。

 

 精霊のみぞ知るというやつだ。

 

 

「むぅ、私も出たい」

 

 

「心配しなくてもその内、出番が来るさ」

 

 

 不満げな表情を浮かべるリリーの頭を撫でながらロークは言う。

 実際、一回も出ないということはまず無い。何なら普通に何回も出ることになる可能性もある。

 

 

「ロークはまた出たい?」

 

 

「……そうだな、あと一回くらいなら」

 

 

 ロークがガレスの時と同じ答えを口にするとリリーが少し驚いた様子で目を見開く。

 

 

「意外」

 

 

「何が?」

 

 

「もう絶対に出たくないって言うと思ってた」

 

 

「……ガレスにも似たようなことを言われたよ」

 

 

 リリーの頭を撫でながら苦笑気味にロークは言う。確かにらしくは無い、この大精霊演 武祭の空気に充てられているのか、或いは———。

 

 

「先輩」

 

 

「ん?」

 

 

 ロークが視線を上げればレイアと燈が一緒に立っている。その様子に何だかデジャブを感じているとレイアがおずおずと声を掛けてくる。

 

 

「一緒に競技を見ても良いですか?」

 

 

「……ああ、一緒に見よう」

 

 

 レイアの提案に一瞬、ポカンとしたロークだったがすぐに相好を崩しながら頷く。その言葉にレイアが分かりやすく顔を輝かせ、ロークの隣に腰掛ける。

 

 

そんな友人を面白そうに眺めながら燈が座る。

 

 

「…………」

 

 

「え、いきなり何? 邪魔なんだけど?」

 

 

 そしてそんな後輩達の様子を見たリリーは流れるような動作でロークの膝の上を陣取り、ロークの視界の下半分を奪い取る。

 

 

「私の特等席」

 

 

「違うが?」

 

 

 何故、隣にスペースがあるのに自分の膝の上に座るのか。

 ロークが抗議の声を漏らすもリリーは得意げな笑みを浮かべるだけで一向に退く気配が無い。

 

 しかもリリーが膝の上に乗った辺りからレイアに鋭い視線を向けられ、燈には笑われている。

 

 

「………俺、悪くないよね?」

 

 

「あ、始まる」

 

 

 ロークが自分に対する責任の有無を考えている中、次の競技が始まった。

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