真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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最近、花粉症が酷くて鼻水が止まりません。


第73話

 ガレスとセリアの参加する競技はゴールドラッシュと呼ばれる競技だった。

 

 精霊によってばら撒かれたコインを捜索するという内容の競技であり、選手は選ばれたフィールドであるイニテの森と呼ばれる高位精霊が跋扈する危険な森の中に移動した。

 

 今回、ユートレア学院からはガレスとセリアの二人が参加している。他の学院も二人~三人と人数の上では似たり寄ったりで今回は天競(スカイレース)のユーマのように一人だけのチームは無かった。

 

「これは私達の出番ね」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 本来であれば野良の高位精霊と選手を同時に相手取る厳しい内容の競技だが、今回に限って言えばユートレア学院が他校に比べて圧倒的な優位に立つことになった。

 

「さぁ、やるわよッ! ドリアードッ!」

 

『うむ、心得たッ!』

 

 現れた緑色のドレスを纏った幼女、セリアの契約精霊であるドリアードは主人のやる気に感化された様子で尊大な態度で返事をしながら勢いよく地面にその小さな腕を突っ込む。すると霊力が地面を伝って周辺に広がっていく。やがて辺り一帯に生えていた木々がゆっくりと、不気味に、まるで生物のように動き始める。

 

 そのまま木々は枝を触手のように動くと、やがて枝で摘まむようにして周囲に落ちていたコインを回収していく。

 

「これは……」

 

「独壇場じゃん」

 

 散らばったコインを凄まじい勢いで回収していくドリアードの姿に後輩二人が驚きながら感想を述べる。

 

「あれがドリアードの本来の力だよ」

 

 ロークは視界を遮るリリーの頭を退けながら言う。

 

 高位木精霊であるドリアードは周囲の自然を文字通り自分の手足の如く操ることがきる。かつて共に探索したルナの遺跡では場所が建物の中だった為、その能力を十全に発揮することができなかった。

 

 だが今回は違う。外で且つ自然に包まれた環境、ドリアードが最大のポテンシャルを発揮できる状況は整っていた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

 

「ふ、防ぎきれないッ!」

 

 他校の選手も演武祭に参加しているだけあり、実力はある。

 だが、それでも地の利を得ているドリアードの実力は凄まじく接敵した相手を精霊もろとも次々に吊し上げていく。

 

「ぐッ! おのれぇええ!」

 

「こんな植物如き……焼き払え、ヘルハウンドッ!」

 

『ガウッ!』

 

 無論、選手の中にはドリアードの弱点属性である火属性を得意とする精霊師もいる。彼らは自然などお構いなしに辺りの自然ごとドリアードを焼き尽くそうと試みるが————。

 

「そうはさせない」

 

『グォオオオッ!』

 

 そうなると今度はガレスとベオウルフのコンビがセリア達のカバーに入ってくる。

 

 ヘルハウンドの口腔から放たれた火炎は燃え広がる前にその全てが凍り付き、そんな氷原の上をまるで滑るようにして魔剣を携えたガレスとベオウルフが駆けていく。

 

 

『グォォオオッ!』

 

『ガァァアアッ!』

 

 相手に迎撃の構えを取らせる間もなく一気に距離を詰めたベオウルフは極寒の冷気を浴びせながらヘルハウンドに喰らい付く。二体の精霊はゴロゴロと転がりながら互いに牙と爪を突き立てるが、ベオウルフが放ち続ける冷気によって段々とヘルハウンドの動きが鈍くなる。

 

 

「ふッ!」

 

 

 そしてそんな二体の頭上へと跳躍したガレスが魔剣グラムを逆手に持つとそのまま動きが鈍くなっているヘルハウンドの頭部をその刃で貫いた。

 

「くっ、一度退いて——」

 

『グルル』

 

 契約精霊がやられても素早く後退して態勢を立て直そうとする精霊師だったが、足が思うように動かずその場に倒れ込んでしまう。

 

「なッ!?」

 

 何事かと慌てて足元を見れば足首に木の根が巻き付いており、精霊師はいつの間にとその目を見開きながら驚く。

 

「悪いね、今回は僕達に有利過ぎた」

 

 背後から聞こえてくるガレスの謝罪と共に首元に衝撃が走り、精霊師は意識を失った。

 

「速い」

 

「相手が悪いな」

 

 ガレスは剣技においてはロークをも上回る技量を持ち、彼の契約精霊であるベオウルフはその俊敏さと冷気を操ることで近、中距離においては無類の強さを発揮する。

 

 遠距離をセリアとドリアード、中、近距離をガレスとベオウルフがサポートするというあまりにバランスの良いパーティはそのまま制限時間まで相手を圧倒し、そのまま一位で競技を終えるのだった。

 

 

 

******

 

「いぇーい」

 

「イェーイ!」

 

「イェーイ」

 

 ガレスたちが控室に戻って来るとリリーが気の抜けた声と共に手を挙げた為、セリアとガレスも応じて同じ掛け声でハイタッチを交わす。

 

「お疲れ、圧勝だったな」

 

「僕……というよりはセリアの活躍によるところが大きいけどね」

 

 空気を呼んでロークも「イェーイ」と二人とハイタッチを交わしながら労いの言葉を掛けるとガレスからそう苦笑気味に返されてしまう。

 

「そんなことはないだろ。上手くセリアのサポートしながら精霊ぶった斬ってたじゃん」

 

「ええ、普通に助かったわよ」

 

 ロークの言葉に同意するようにセリアも頷く。確かにセリア一人でもある程度は活躍できただろが、それでも一位を取ることは難しかっただろう。この成績はガレスのサポートがあってこそだったのは間違いない。

 

「いいなぁ、そろそろ私も出たいなぁ」

 

 そんな話をしていると燈が足をプラプラさせながら競技に参加したローク達を羨ましげに見つめて呟く。

 

 するとロークの下半分の視界でリリーの頭が「分かる」という言葉と共に前後に揺れ動き、二人の出たいという強い意志が見て取れる。

 

「先輩、あの精霊とちょちょいと簡易契約を結んで私を出場させるように命令してよ」

 

「無茶言うな、っていうか仮にできても退場させられるぞ」

 

 参加選手を選出する天使の精霊を指差しながらバリバリの不正行為を要求してくる燈にロークは呆れながら答える。

 

「えー、ケチ」

 

「ケチとかいう話じゃねぇ。心配せずともその内、呼ばれるから大人しく待ってなさい」

 

「じゃあ、暇だから遊ぼう。誰かトランプとか持ってきてない?」

 

「お前、俺の話を聞いてたか?」

 

 今は待機中とはいえ、大精霊演武祭の真っ最中だというのにこの実家にいるかの如き自然体の燈にある種の敬意すら抱きながらロークは言う。あのミーシャですら多少の緊張の色が見える辺り、燈の胆力がいかに凄まじいかが分かる。

 

「トランプなら持ってる」

 

「なんでさ」

 

 スッとどこから取り出したのかトランプを掲げるリリーに思わず突っ込む。何でトランプなんか持って来ているんだ。

 

「みんなとやるかもって」

 

「やらんわ。競技を見ろ、競技を」

 

 ロークはそう言って断ろうとしたが結局、燈とリリーの強い要望により次の競技の発表の前に一回だけすぐに決着が着くポーカーを一試合だけすることになったのだが……。

 

 

「リリー」

 

「なに?」

 

「手札、丸見えなんだけど……」

 

 リリーはロークの膝から降りずにポーカーを始めた為、手札をフル公開とするいう駆け引きもクソも無い勝負になるのだった。

 

「私より弱い役でよろしく」

 

「ゲームの趣旨を根本から破壊しようとしないでくれないか?」

 

 そんな風に過ごしながら次の競技を待っていると———。

 

「私の時代がきた」

 

 遂に精霊に選ばれたリリーがロークの膝上から退き、輝く手袋を掲げながら呟く。

 

 どうやら待ちに待った自分の番ということだけあって興奮しているらしい。

 

「行ってらっしゃい、リリー。頑張って」

 

「リリー先輩、頑張って下さいッ!」

 

 ガレスとレイアの声援にリリーはその表情こそ変えなかったが、グッと親指を立ててやる気をアピールする。

 

「ようやく膝が軽くなった」

 

 そしてロークはと言うとリリーが膝上から消えたことによる開放感に浸っていた。

 

「あ、じゃあ私まだ暇だから座るね」

 

 その直後、再びロークの膝に柔らかな重みが掛かり、視界が燈の黒髪で覆われる。

 

 横から「へあッ⁉」というレイアが漏らしたとは思えない素っ頓狂な声が控え室に響くが、今のロークの耳に入ることはなかった。

 

「いやいや、ちょっと待てや」

 

「ん?」

 

 ロークがそう声を掛けると燈が不思議そうな様子で振り返ってくる。距離がやたらと近い上に甘い香りが漂ってきた為、ロークは思わず仰け反りながら尋ねる。

 

「何さも当然かのように座ってるの?」

 

「だって空いたから」

 

「申し訳ないが俺の膝は椅子では無いんだ。降りなさい」

 

 ロークがそう言うも燈は退く気ゼロらしく、こちらの命令をガン無視して視線を前に戻す。

 

「わ、私の特等席が……」

 

「お前はさっさと集合場所に行きなさい」

 

 膝に座る燈の姿を見てショックのあまり崩れ落ちるリリーにロークは呆れながら言う。

 

「ほら、オラリア。一緒に行こう」

 

「遅れたら怒られるぞ」

 

「あぁ~」

 

「すみません、お願いします」

 

 するとそんなリリーを見かねた競技の参加メンバーに選ばれた三年の先輩達によって控室から引っ張り出される。ロークが頭を下げながらその背中に感謝を述べると先輩方は気にしないでと笑顔を浮かべながら控室から出て

行った。

 

「あ、燈さん、先輩から離れて下さいッ!」

 

「え~」

 

「え~、じゃ、ありません! 殿方の膝に座るなんて淑女がすることではありません!」

 

「そんなこと言って、嫉妬しているだけでしょ?」

 

「ち、違ッ! 誰がその人の膝に⁉」

 

「…………」

 

 ワーワーと騒ぐ後輩二人を止める手段を知らないロークは静かに天を仰ぎながらただ口論が終わるのを待つ。

 

「何だかあそこは賑やかですね」

 

「ただの痴話喧嘩ですよ」

 

「ほう?」

 

 ロークに助けを求められる前に飛び火を警戒して避難していたガレスは不思議そうに三人を眺めるミーシャにそう答える

 

「楽しそうですね」

 

「えっ?」

 

 どこか羨ましげに呟くミーシャにガレスは困惑気味にそう返すのだった。

 

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