真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第76話

 

 幾つもの霊力が消滅と出現を繰り返している中、一度も交戦も会敵もすることなくスニーキングをしているローク・アレアスこと俺は冷や汗を流しながら動きを止めていた。

 

「こんな派手に暴れているのはどこのどいつだ? 怖いんだが……」

 

 先程から何度となく響き渡る破壊音とその度に激しく振動する迷宮に俺は戦々恐々としながら呟く。どこの誰かは知らないが、強い精霊師が少し離れた場所で派手に戦っているようだ。

 

 

 

 使うか?

 

 

 戦闘地点からここまで相応の距離が離れているにも拘らず肌に感じる重圧に棄権の二文字が俺の頭にチラつく。

 

「いや、けど流石にここで割るのは意味不明か……」

 

 別に怪我した訳でも危機的状況に陥っている訳でもないのに割る姿を晒すのは流石にマズい。いや、実際には最初からずっと危機的状況な訳だけども………。

 

「……続けるしかないか」

 

 一応、周囲に霊力反応はあるものの充分に接敵を回避できる距離だ。仮に狙われてもスピード型の精霊でもない限りはダッシュで逃げ切れるだろう。

 

「とりあえず他の動きに気を付けながら……」

 

 俺は決して探知を切らすことなく、周囲の霊力の動向を常に確認しながら迷宮内を進み続ける。

 

「………ん?」  

 

 とにかく霊力反応から遠ざかるように動き続けていた俺はふと足を止めて少し離れた場所に存在する一つの霊力反応に違和感を覚える。

 

「この霊力……」

 

 暫くその霊力を観測していた俺は抱いていた違和感に確信を得ながら確認に向かうべきか否か、逡巡する。

 

「いや、でもなぁ……」

 

 その霊力反応がある方向には現在進行形で二人の選手が衝突している場所が近い。下手に接近してしまうと戦いの余波を浴びてしまう可能性が……。

 

「いや、ここで弱気になるな、俺!」

 

 頬を叩き自分に喝を入れる。

 不本意ながらもユートレア学院の代表選手の一人なのだ、依代が無いからとこのままビビッて逃げ続ける訳にはいかない。

 

「……よし、行…………あっ」

 

 覚悟を決めた俺は未だに戦闘音が響き渡り続ける戦場へと向かおうとして背後に迫ってきていた霊力反応に遅れて気付く。

 

 咄嗟に振り返るとバキバキと音を鳴らしながら地面から牙の付いた植物と爬虫類が混ぜ合わさったかのような精霊が姿を現す。

 

 

『…………』

 

 

 高位木精霊ヘルプラント。

 どうやらこの迷宮に住んでいたらしく、その単眼でジロリと俺のことを睨み付けてきた。

 

 

『…………』

 

「…………」

 

 重苦しい沈黙が場を包み込む。

 けれど出会い頭に襲ってこなかった以上、まだ交戦を避ける余地があるかも知れない。故に俺はヘルプラントを刺激しないようにゆっくりと一歩、視線を外すことなく後退る。

 

 

『…………』

 

 そのまま何とか数歩分の距離が開けることに成功した俺はその凶悪極まりない容姿とは裏腹に意外と穏やかな精霊なのかもしれないと淡い期待を抱くが—————。

 

『グォオオオオオッ!!』

 

「だよねぇぇぇぇえええ!!」

 

 十歩ほど歩いた辺りで堪忍袋の緒が切れたらしいヘルプラントが雄叫びを上げると同時に俺は全力で走り出した。

 

******

 

「大きな霊力を感じ取って来てみれば、まさか君達とはね」

 

「……ガレス先輩」

 

 衝撃と光が収まり、目を開いた燈の視界に入ったのは土煙と氷片が舞う中で魔剣を構えたガレスとその側に控えるベオウルフの姿だった。

 

「やるじゃない」

 

「結構危なかったけどね」

 

 オロチの一撃を防いだことに暗が称賛の声を漏らすと魔剣で周囲の土煙を払ながらガレスは苦笑気味に返す。ベオウルフの氷壁と合わせて二重の防御を敷いたにも関わらず衝撃を受けた両腕に痺れが残っている。直撃していたらひとたまりも無かっただろう。

 

「月影さん、怪我は?」

 

「無い、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 素直に燈が感謝の言葉を口にしたことにガレスは少しだけ驚きながら改めて視線を暗とオロチへと向ける。ギロリとこちらを睨み付ける十個にも及び蛇眼と禍々しい霊圧を前にしてガレスは冷や汗を流しながら笑う。

 

 どう考えても格上の相手。

 

 少なくとも精霊の格だけで言えばあちらの方が圧倒的に上だろう。最上位どころか神霊にすら至っているのではないかと思わずにはいられないほどの霊圧にガレスは暗と相対して早々に逃走を視野に入れる。

 

 燈を助ける為に割って入ったが、前提としてこの競技において暗を倒すことは必須事項では無い。寧ろ戦闘を避けることこそ、この競技の勝利に繋がることだろう。

 

「月影さん」

 

「ガレス先輩は行って」

 

 故にガレスはこの場からの撤退を口にしようとするが、そんな彼の思考を読み取ったのか先んじて燈はそう言って会話を終わらせようとする。

 

「しかし……」

 

「私はここであの女を斬らなくちゃだから」

 

「…………」

 

 彼女達の間に何があったかは分からないが、それ相応因縁があるのだろう。言葉の節々から絶対に引かないという意志が感じられ、ガレスは思わず言葉を噤む。  

 

「……勝算はあるのかい?」

 

「少なくとも負けるつもりは無い」

 

 燈はそう言っているが果たして彼女たちの一人で戦ったとして勝つことができるか。

 

 確かに燈の実力は把握していないが、それでも目の前のオロチを使役する暗が相手となると望みは限りになく薄いように思える。

 

「……アイツめ」

 

 加えてガレスはもう一つ、ここにはいないもう一人のユートレア学院選手であるローク・アレアスについて懸念していることがあった。

 

 契約精霊を持たない特異な精霊師。けれどもその実力は学院トップレベルである彼は、あろうことかこの競技において簡易契約用の精霊を入れた依代を忘れるという信じられないチョンボをしている。

 

 ———無事だろうな?

 

 身体能力が高い為、逃げに徹すれば倒されているということは無いと思うがそれでも不安が拭い切れない。何なら依代を持たない自分には無理だと勝手に競技を諦めて棄権している可能性もある。というより、その可能性の方が高い。

 

 仮にロークが既に退場しているとなると残りは自分と燈の二人。となれば燈の言う通り、この場は彼女に任せて自分はこの場を離れて王冠の捜索を行った方懸命に思えるが———。

 

「……先輩?」

 

 ゆっくりと魔剣を構えると燈が声を掛けてきた為、ガレスは笑みを浮かべながら答える。

 

「悪いがオーロット家の男として女の子を置いて退く訳にはいかないな」

 

「危ないよ」

 

「言ってくれるね。君こそ足を引っ張るなよ」

 

 軽口を叩き合いながら戦闘態勢に入る二人の姿に暫くジッと成り行き見守っていた暗も一歩、前に出る。

 

「どうやら方針を決めたみたいね」

 

 そう呟く暗の側にオロチの首の一つが近寄り、その口から一本の刀を吐き出す。

 

「いいわ、一緒に掛かってきなさい」

 

 暗はオロチが吐き出した刀の柄を躊躇いもなく手に取るとその切っ先を二人へと突き付けながら挑発気味に言う。

 

「「「…………」」」

 

 暗の言葉を最後に重苦しい静寂がその場を包み込む。まるでコップ一杯に溜まった水が溢れるか否かの瀬戸際の如き静寂の中、遂にその瞬間が訪れる。

 

 コツンと積み重なっていた瓦礫の一部か地面に落ちたのが合図となり、三人の精霊師の姿がその場から消える。迷宮内に打楽器のような音が何度も鳴り響かせながら精霊師の中でも高い身体能力の持ち主である三人が高速で斬り結ぶ。

 

『シャァアアアッ!』

 

『グォオオオッ!』

 

『…………』

 

 一拍遅れて彼らの契約精霊達も主人に続いてそれぞれ動き出す。

 

 生み出した氷剣を口に咥えたベオウルフは壁や天井を蹴りながら迷宮内を縦横無尽に動き回りながらオロチに向かって斬り掛かる。その後を燈と瓜二つの精霊がその手に持つ刃に蒼炎を纏わせて続いていく。

 

 そんな二体に対してオロチは四つの首で対応し、残る一つの首は後方へと下がり全体を俯瞰するようにして観察に徹する。

 

『シャァアッ!』

 

『ッ!……グガッ!』

 

 オロチの口腔から放たれた高圧縮水流を素早い身のこなしで回避したベオウルフは直後、横っ腹にオロチの頭突きを浴びて突き飛ばされる。

 

『シャァッ!』

 

 オロチの五つの首はそれぞれが思考能力を持つ上にその思考を共有することができる。故に全体を観察している首の指示の下、戦闘に参加している四つの首はそれぞれが攻撃、防御、回避、そして主人のサポートを含めてその全ての行動を的確にこなすことができた。

 

「アハハッ! なかなか良いじゃないッ!」

 

 暗は自分に向かって次々に放たれる斬撃を捌きながら楽しくて仕方ないと言わんばかりの表情で笑う。

 

「はッ!」

 

 横合いから迫ってくる燈の刀に対して冷静に自身の刀を盾にした暗は次いで頭上から振り下ろされる魔剣に視線を向ける。

 

「っと」

 

「逃がさない」

 

 素早く後方へと跳躍しながら直後に振り下ろされた一撃を躱すが、ガレスも間を置かずに追撃を仕掛ける。魔剣の力を一部開放し、紫電を纏わせながら再び斬撃を放とうと試みるが———。

 

「ぐッ!?」

 

 ガレスが魔剣を振ろうとしたタイミングを狙ってオロチの尾が彼の死角から振るわれ、そのまま碌な回避行動も取れずに地面に叩き付けられてしまう。

 

「もう、過保護よ」

 

 暗からすればお節介とも言えるオロチの援護に思わず小言を漏らしながら彼女は背後に向かって刀を振るう。

 

「……ッ!」

 

 そこには背後から斬り掛かろうとしていた燈が暗の予想外の攻撃に動揺しながらも防いでいる姿があった。

 

「悪くない動きね。成長したじゃない、燈」

 

「黙れッ!」

 

 姉の言葉に燈は激昂しながら霊術を行使、その手から蒼炎を放つ。対する暗は眼前に迫って来る蒼炎を前にして焦ることなく一歩だけ後退する。

 

 その直後、暗と蒼炎を阻むように大量の水流がオロチから放たれ、蒼炎を鎮火させてそのまま燈へと迫っていく。

 

「この程度で!」

 

 再び生み出した蒼炎を燈はそのまま刃に纏わせると横一閃、迫ってくる大量の水を一種にして蒸発させる。

 

「隙あり」

 

「ッ!」

 

 蒸気によって視界が遮られる中、瞬間移動の如く目の前に現れた暗に燈は対応できず、そのまま袈裟斬りにされてしまう。

 

「……へぇ」

 

 容赦なく自分の妹を斬った暗はその軽すぎる感触に感心しながら死角から迫ってくる燈の斬撃を弾く。

 

「分け身も使えるのね」

 

「チィッ!」

 

 どこまでも余裕ぶる姉の姿に思わず舌打ちをしながら力任せに刀を振り抜こうとするが、直後に凄まじい悪寒が走り抜ける。

 

 他の四つの首よりも高い位置に控えていたオロチの首がその顎を目一杯開きながら口腔に溜めた高密度の霊力を解き放つ。

 

「躱せッ!!」

 

 ガレスの叫びを聞き終える前にその場から燈が退避すると同時にオロチはキィィンという高音を響かせながら光線を解き放つ。

 

「……ッ!」

 

 燈が地面を難なく穿つ光線の威力に恐怖を覚える間にも、オロチは光を吐き出しながら首を薙ぐように動かす。逃がした獲物を追跡せんと迫ってくる光の奔流に燈を始めとしてガレスと精霊達も攻撃の手を止め、回避に徹する。

 

 迷宮を破壊する勢いで光線を振り回すオロチだったが、結果としてユートレア学院のメンバーは精霊含めて全員が回避されてしまう。

 

「フフフ、残念だったわね?」

 

『シュ~』

 

『シュルル』

 

 クスクスと笑いながら暗が声を掛けると光線を放ったオロチの首は口から煙を漏らし、他の首はどこか苛立たしげに舌を鳴らす。

 

「あの女、余裕ぶって……」

 

「実際、その通りなんでしょ」

 

 苛立つ燈の隣でガレスが苦笑気味に答える。

 

 オロチは勿論のことながら暗からも全く疲労の色が見えない。まだまだ余力を残していると見て間違いないだろう。

 

「精霊達であの大蛇を抑えて僕ら二人でお姉さんを倒す予定だったけど、お姉さん自身が相当強い上に大蛇も抑えられる様子が無い」

 

 呟きながらガレスは八方塞がりだなと思う。

 

 前提としてベオウルフとオロチでは精霊としての格が違い過ぎる。案の定と言うべきか、ベオウルフに任せるのは流石に荷が重すぎたようだ。

 

『グルルッ!』

 

「拗ねるなよ、こればっかりは仕方ない」

 

 そんなガレスの心の内を読み取ったベオウルフが唸り声を上げる。ガレスはそんな自身の契約精霊に対して苦笑を浮かべながらその頭を撫でて宥める。

 

「さて、いよいよ撤退かな?」

 

「絶対しない」

 

 冗談半分にガレスが尋ねると燈はムスッと苛立ったような表情を浮かべながら即座にそう言い返す。

 

 分かっていたことだが、退く気は無いらしい。となるといよいよ腹を括る必要が有りそうだなとガレスが魔剣の完全開放を視野に入れる中、燈は息を吐きながら刀を自身の手に当てる。

 

「コン」

 

『…………』

 

 燈が呼び掛けると彼女の契約精霊こと、コンはニヤリと口角を上げながら主人に近付く。

 

「待て、何をする気だ?」

 

「私の精霊でオロチを抑える」

 

 そう言うなり燈は何の躊躇いもなく自分の手に刃を強く押し当て、傷を付ける。

 

 いきなり何をと驚いて目を見開くガレスを他所に燈の真っ赤に染まった手を勢いよく地面に叩き付ける。

 

 

 

「……コン。顕現」

 

 

 燈の叫びと同時にコンの姿が金色の輝きに包まれる。

 

「これは……」

 

「あら」

 

 急激に膨れ上がる霊力にガレスと暗が声を漏らす中、輝きの中から五つの巨大な金色の尾が現れる。

 

「これは……ッ!?」

 

「……妖狐」

 

 ガレスが驚きの声を漏らす中、暗がその正体を看破すると共に金色の獣毛に覆われた巨大な狐の姿へと変貌したコンの姿が露になる。オロチに劣らない神々しさを放つコンは五つの尾をゆらゆらと揺らしながら眼前の竜蛇を睨み付ける。

 

『グォオオオッ!!』

 

『シャアアアッ!!』

 

 迷宮内に轟く二つの咆哮。

 

 オロチはコンを自身に比肩しうる相手だと認めたのか、その巨体に霊力を滾らせながら妖狐を睨み付ける。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「大丈夫か?」

 

「……ふふ、正直ちょっとキツい」

 

 脂汗を流しながら苦しげに膝を突く燈にガレスが声を掛けると苦笑気味にそんな弱気な言葉が返ってくる。

 

 そんな彼女の様子を珍しいと思うのも束の間、背後から暗の声が聞こえてくる。

 

「随分立派な精霊と契約したのね。尤も今の貴女にはまるで御せていないようだけれど」

 

「お前が言えたことじゃないでしょ」

 

 鋭い視線を交わせながら姉妹が放った言葉の意味をガレスは「どういうことだ?」と燈に説明を求める。

 

「オロチは本来、八つの首と尾を持つ精霊なんだよ。今はアイツの実力不足で首五つの状態だけど」

 

「なるほど。で、君の方は?」

 

「…………」

 

「おい」

 

「……私の力不足で本来、コンが持つ九つの尾の内、五つしか生やすことができてない」

 

「……なるほど」

 

 どっちもどっちだなと声に出したら二人に殺されそうなことを内心で呟きながらガレスは改めてオロチとコンに視線を向ける。

 

 これでどちらも完全体ではないと言うのだから恐ろしい。残念ながら精霊師の才能という点において自分はこの姉妹には及ばないだろう。

 

「言っておくけど、たとえその妖狐の力を開放しても状況は覆らないわよ」

 

 放たれた暗の言葉に同調するようにオロチの五つの首がその口腔に霊力を溜め始める。

 

 

 高圧水流か、光弾か、それとも光線か。どの攻撃を放つつもりかは不明ながら攻撃を仕掛けようとするオロチの姿にガレスとベオウルフは身構える。

 

「フッ」

 

 そんな中、燈は我慢できないという様子で嘲笑を漏らすと姉に向けて言い放つ。

 

「調子に乗るな、ババァ」

 

「生意気な愚妹が」

 

 その会話が合図となり、オロチは再びその全ての口から光弾を燈に向けて放った。

 

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