真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
この話にアンケートを付けようとしてやっぱり止めようと思ったら全て消えました。
何かを消す時に確認は大切ですね。
とりあえず前回、前書きにあった補足を入れるかは一度保留にしています。
これについてはアンケート機能を使って確認できればと思っています。
ルナの遺跡。
それは今よりも遥か昔、精歴一万年前以上も前の原初の精霊たちや神が存在していた時代に作られたと考えられている遺跡である。
神霊学の講義でも出てくるがルナの遺跡はその名前の通りかつて存在していたと言われている神々の一柱、月の女神ルナを信仰していた人々によって建築された建物で特徴として各場所にルナの女神像と彼女の象徴である月の刻印が刻まれている。
どこか塔のような形状をしているルナの遺跡は女神ルナへ祈りを捧げる為の祭壇とも灯台のような目的で建築されたなど研究家の間では様々な考察が為されているがまだ詳しいことは判明していない。
俺たちが誘われたのはそんな古代遺跡でも特に謎が多い遺跡の中の一つだった。
「で、参加するのかい?」
「する」
ガレスの言葉に秒で反応したのはモグモグとパンを齧っていたリリーだった。
時刻は12時を回り、腹を空かせた多くの学生たちで賑わっている中の一角で俺たち三人は他の学生たちと同じく昼食を取っていた。
「いや、リリーが参加するのは知ってるよ。僕はロークに尋ねたんだ」
「さてさて、どうすっかなぁ」
俺は注文した肉野菜炒め定食を口に含みながら考える。
「行かないの?」
「考え中」
「行こう。決定」
「勝手に決めないで」
不満げな表情を浮かべるリリーを宥めながら考える。確かにルナの遺跡の探索は魅力的だ。行けば単位にもなるし何か新しい発見をすれば報酬も出る。何なら遺跡の中に眠っているアーティファクトも発見すれば貰うことができる。少し考えただけでも様々なメリットが浮かんでくる。
しかし………。
「流石に大丈夫じゃないか?」
「………まぁ、だとは思うが」
俺の表情を見て察したらしいガレスがそう言葉を投げかけてくるが俺は曖昧に返すことしかできない。
俺が古代遺跡の探索をする上での一番の懸念は同行する仲間に契約精霊がいないことがバレることだ。ましてやルナの遺跡の探索となると何が起きるか分からない。行きたい気持ちはあるが、それで色々バレては元も子もない。
「ガレスは行くのか?」
「勿論。あのルナの遺跡に入れる機会は限られているからね。入れる時に入らないと」
「まぁ、だよな」
普通ならここは参加の一択なのだ。ましてやルナの遺跡は他の古代遺跡と比べても制限が厳しくなかなか入ることができない。ある程度の実力があれば参加するべきなのだ。
「ガレスもこう言ってるのにロークは行かないの?」
「うーん」
けどやっぱり「行こう?」集団行動は「行くでしょ?」リスクが大き「行くしかないでしょ?」………「行こっか」………。
「ちょっと思考が定まらないから静かにして」
「行くって言えば黙る」
「それじゃ考える意味無くなっちゃうでしょ」
どうやらリリーは何が何でも俺をルナの遺跡へ連れて行きたいらしい。先程からリリーの話す単語の九割くらいが行こうになっている。
「どうせ行くなら仲良い人が一緒にいた方がいいんだよ、なぁリリー?」
「寧ろここで行かないなんて選択肢を選ぶのはあり得ない」
「…………確かにそうだな」
ルナの遺跡に入れる機会など滅多に無い。そもそも次の機会が在学中にあるかも分からないのだ。行ける時に行っておくべきだろう。
「行くかぁ」
「そう来なくっちゃ!」
「言質取った」
俺が行くことを決めるとガレスは嬉しそうに笑い、リリーはモグモグとパンを食べながらどこか満足そうに頷いた。
「それじゃこの後、参加の旨をセリアに伝えに行こう」
「悪い、俺はこの後バイトがあるから二人で説明しに行って貰ってもいいか?」
「そう言えばそうだったね。それじゃリリー、食べ終わったら一緒に行こうか」
こくりと頷くリリーを確認しながら俺は遺跡探索に合わせて色々と用意しなければいけない物のリストとその費用を計算して小さく息を吐く。どうやら今月はより節制しないといけなそうだ。
*****
学院都市ガラデア。
ここは精霊師を育成する学院を中心に発展した街であり、西側には市街地、東側には食材から霊術書や封霊石まで何でも揃う大市場が広がっている。また教会や神殿から遊郭や劇場、それに図書館や闘技場に上下水道などまでしっかり完備されており、この学院都市はロムス王国でも首都である王都に継ぐ大都市であることは間違いない。
「はぁ」
そして俺は今、大市場のとある一角にある建物の一室でバイトをしていた。
思わず深いため息を吐きながら今日も今日とて足場も無いほどに地面に散らばっている本や何かの資料を拾い集めながら整理していく。
給料は結構いいので助かっているがそれはそれとして結構な頻度で来ているのに変わり映えしない景色は一体どういうことだろうか。
「いやぁ、今日も悪いねぇロークくん。なにぶん忙しくて時間が作れなくてね」
「そう思うなら普段からもう少し整理して下さいよ」
そう申し訳なさを感じさせない表情で謝罪するのは俺のバイト先の上司にして師匠であるオーウェン・リブリア。赤い眼鏡を掛けた顔は理知的に見える一方で胡散臭くも見える。どことなく怪しげな人物であるがれっきとした凄腕精霊師であり、かつては俺と同じくユートレア学院に通っていた先輩にあたる人物である。
「ははは、これが不思議なものでねぇ。何度も整理している筈なのに一向に綺麗にならないんだよねぇ」
「アンタが整理した側からすぐに汚していくからでしょ」
ニコニコと楽しそうに笑いながら話すオーウェンに俺が苛立ちながら事実を指摘すると「だよねぇ〜」とやはりにニコニコと楽しそうにオーウェンは笑う。
「研究だけじゃなくてもう少し自分の身の回りのことも気にして下さいよ」
「分かってるつもりなんだけど、やはり一度始めちゃうとずっと集中しちゃってね」
オーウェンは精霊師でありながら歴史研究家としての側面も持っており今、ゴミのように地面に散らばっているのは全て彼の研究資料である。もっと大事に扱えよ。
「それはそうとルナの遺跡に行くんだって?いいじゃないか、お土産期待しているよ」
「先生、ルナの遺跡ってどんな場所なんですか?」
「さて、何だろうね。祭壇とも灯台とも神と交信する為の建物とも様々な憶測が存在しているけど何一つ確信には至ってない」
オーウェンは本を一つ一つ棚へと戻しながら俺の疑問に答える。やはりオーウェンでも詳しいことは何も分からないらしい。
「まぁ、あの建物が他の遺跡と違って何か重要な役割のある建物であることは間違いないけどね」
「重要な建物ですか」
あのなんか歪な形の塔にそんな重要な役割などあるのだろうか?俺からすれば歴史的遺産という側面以外には何の価値も感じないが。
「君は何故あの遺跡が普段立ち入りを制限されているのか知っているかい?」
「……他の遺跡に比べて危険だからという認識くらいしかないです」
その最たる理由が守護霊(ガーディアン)の存在だ。昔の人々は自分たちの死後、神殿や墓などを荒らされることを危惧したのだろう。その守護をあろうことか精霊に任せたのだ。それも高位の精霊ばっかり。
お陰で予想通り墓荒らしや遺跡を調べようとしていた現代人たちはものの見事に精霊たちに迎撃され調査は遅々として進んでいない。
「その通り。ルナの遺跡はその防衛機能が少し大袈裟過ぎる」
「大袈裟?」
内容の意味が分からず首を傾げている俺を無視してオーウェンは話を続ける。
「ロークくんは金庫と筆箱、どちらか片方にガーディアンを付けられるとしたらどちらに付ける?」
「そりゃ、金庫ですけど」
「だろうね」
二つの価値を比較すれば当然の判断だ。
けれどこの質問に一体何の意味が—————ああ、そうか。
「重要な建物ほどセキュリティが強い筈ってことですか」
「まぁ、これも僕らの勝手な憶測に過ぎないけどね。人間の思考が今と昔で同じとは限らないし」
苦笑しながら話すオーウェンだが確かに言われてみればその通りだとは思う。大切な物ほどセキュリティを強くするのは人の心理の一つだ。
「だからと言う訳では無いけど注意することだ。本当にああいう場所は何が起こるか分からないからね。ましてや君は隠し事も多い訳だし」
「……分かってますよ」
最後は俺の事情を知っているオーウェンが揶揄うように警告してきた為、俺は頭を掻きながらため息混じりに呟いた。
余談だが後日の探索メンバー発表にて炎竜の巫女ことレイアがいることが判明、辞退しようとしてガレスとリリーに全力で止められるのだった。