真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第77話

『ガァアアッ!』

 

 迫り来る光弾の群れを前にして燈の後ろに控えていたコンが吠える。

 コンはその五つの尾に蒼炎を灯すとそのまま円状に炎を繋げ、フリスビーよろしく、オロチの放った光弾に向けて放り投げる。

 

 果たして衝突した蒼炎と光の砲弾はその場を覆うほどの爆炎を残して互いに消滅する。

 

「……ッ!」

 

「おっと、やらせないよ」

 

 爆煙の中、間近から響き渡る金属音に燈が目を凝らすと暗の刀を受け止めるガレスの後ろ姿を確認する。

 

「退きなさい」

 

「君がな」

 

「ッ!」

 

 足元に冷気を感じた暗は反射的にその場から跳躍する。視線を向ければ今さっきまで自分がいた地面から伸びた氷柱を駆け上ってベオウルフが追撃を仕掛けてきていた。

 

「オロチ」

 

『シャァア!』

 

 煙の中でも正確に暗の位置を把握しているオロチはその頭部を彼女の足場として差し出しつつ、向かってくるベオウルフに向かって紫色の液体を吐き出す。

 

『グルッ!』

 

 その液体が決して触れてはいけない類のものだと本能的に察したベオウルフは素早く氷柱を蹴ってその場から退避する。

 

「毒かッ!」

 

 ジュッという何かが解けるような音と共に降り注いできた液体を見て、それが毒液だと気付いたガレスは動けなそうな燈を抱き抱えながら逃走を図る。

 

「ゔ……ガレス先輩、今あんまり揺らさないで」

 

「言ってる場合か!?」

 

 口元を抑え、顔を青くしながらそんな要望を口にしてくる燈。気持ち悪いのは分かるが、あまりに危機感の無い発言にガレスは思わず叫びながら毒液から逃げ回る。 

 

『グオオオッ!』

 

 しかし、そこで突撃してきたコンに対応するべくオロチはガレス達への追撃を中断、全ての首で迎撃態勢を取る。

 

 オロチから次々に放たれる光弾、毒液、そして尾による薙ぎ払い。それらをコンは蒼炎で焼きながら迎撃し、迫ってくる尾を軽快な身のこなしで回避すると逆に五つの尾を思いっきり叩き付ける。

 

「ここを破壊し尽くす気か?」

 

 二体の精霊による戦闘の余波により、辺り一帯の天井や壁が音を立てて崩れ落ちていく様子を眺めながらガレスは思わず呟く。

 

 このまま戦闘を続けられると本当に迷宮自体が崩壊するのでは言わんばかりの勢いで高火力を躊躇いもなく放ち続ける精霊達をどうするべきかとガレスが悩んでいるとその真横を何かが勢いよく通り過ぎていく。

 

「ベオウルフッ!」

 

『ヴォンッ!』

 

 その正体が自身の契約精霊だと気付いたガレスが声を掛けるとベオウルフは素早く立ち上がり、問題無いと言うように吠える。

 

「ふぅ…」

 

 コンとオロチの激闘により激しい揺れが続き、瓦礫が崩れる中で暗は白い息を吐きながら薄氷に覆われた腕を振るう。氷片が宙を舞い、儚く散っていく中で暗は微笑む。

 

「次は逃がさないわよ」

 

「次もやらせないよ」

 

 燈を背負いながら魔剣を構えるガレスは隣で唸り声を上げるベオウルフに一度、目を向けながら刀を片手にゆっくりと近付いてくる暗を視界に入れる。

 

「ガレス先輩、私も」

 

「まだ休んでおけ」

 

 そう言えるほどには回復したらしい燈にガレスはそう返事をしながら勢いよく迫ってくる暗をベオウルフと共に迎え撃とうした瞬間だった。

 

 咆哮と共にガレスの背の壁が音を立て崩れ落ち、瓦礫の中から植物の蔦を彷彿とさせる触手の群れが現れる 

 

「「「ッ!?」」」

 

 あまりに想定外の出来事に全員が驚愕して一瞬、動きを止めるが次の瞬間にはその場から退避して乱入者に視線を向ける。

 

『ガァアアアアアアッ!?』

 

「ヘルプラントッ!?」

 

 現れた単眼の異形の姿をした高位精霊、ヘルプラントにガレスの視線が吸い寄せられる中、更なる驚愕がガレスを襲う。

 

「ふぁぁあああああああああッ!」

 

『グォオオオオオ!?』

 

「ロークッ!?」

 

 ヘルプラントの乱入の際に弾き飛んだ無数の瓦礫の中に何故かロックドレイクと共に宙を舞うロークの姿があった。

 

******

 

 かつて数多くの精霊と片っ端から契約を結ぼうとした経験から得たことがある。

 

 それは野良精霊と簡易契約に必要なものは何か? ということだ。

 

 多くの精霊師は信頼と言うかも知れないが答えは違う。

 

 当然、大切なことではあるが精霊からの信頼はそう簡単に得られるものじゃない。低位の精霊ならばそもそも自我が薄い為、信頼などなくても何とかなるし、逆に高位精霊が相手の場合はよほど相性が良くなければ契約は結べない。

 

 つまり信頼は大切ではあるが、簡易契約を結ぶ上で必須かと言われればノーである。

 

 

 では、それ以上に大切なことは何か?

 

 

 答えは利害の一致。精霊が一時的に人の支配下に置かれようとも簡易契約を結びたいとそう思わせることが大切なのだ。

 

「もっと速く走れぇえええッ! 死にたいのかぁッ!?」

 

『グォォオオオッ!?』

 

 背後から迫ってくる異形の精霊を見ながら俺は簡易契約を結んだロックドレイクに向けて叫び続ける。

 

 中位精霊の中では比較的高い知能を持つロックドレイクと簡易契約を結ぶのを試みたのはある種の賭けだった。

 

 迫ってくるヘルプラントから生き残る為には自力での逃走は不可能だと大量の霊力を流し込んで無理矢理簡易契約を結ぼうと試みた結果、俺の思いに反してすんなりと契約を結ぶことに成功した。

 

『ゴォオオオオオ!!』

 

 簡易契約がこれほどすんなり成功した理由は俺を追うヘルプラントの存在だ。

 

 俺が指示を出すまでもなく俺と自分自身の霊力を喰らって全力疾走する辺り、よっぽど背後から迫ってくるヘルプラントが恐ろしかったらしい。

 

 どうやら精霊も人もヘルプラントを恐ろしいと思うのは同じなんだなとロックドレイクに妙な親近感を覚えていた俺はそこで叫ぶ。

 

「待て! ダメだッ! この先は行き止まりだッ!!」

 

 霊力強化した瞳で遠くを見ていた俺はこの道の先が完全な行き止まりだということに気付くが、伝えるのが遅すぎた。

 

『グゴッ!?』

 

 マジで!? という雰囲気で叫ぶロックドレイクだが既に一本道に差し掛かってしまい、すぐ後ろにはヘルプラントが迫ってきている。

 

 最早、引き返すことはできない。ならば—————。

 

「……行けッ! そのまま突っ込めッ!!」

 

 俺は叫ぶ。もう前に進む以外の選択肢は無かった。ロックドレイクから動揺の色が見えるが知ったことでは無い。我々に後退の二文字は無いのだ。

 

 そして指示に従って全速力で迷宮を走り抜けるロックドレイクの背で俺は遂に眼前に迫ってくる壁を視認する。

 

「今だ、壁に貼り付けッ!!」

 

『グオッ!』

 

 指示に従って跳躍、ロックドレイクが眼前の壁に張り付く中、俺は後方から迫ってくるヘルプラントを視認する。

 

「土盾(ロックシールド)ッ!」

 

 簡易契約を結んだことで土の霊術を行使できるようになった俺はロックドレイクごと覆うように土の防壁を展開、衝撃に備える。

 

 そして—————。

 

 

『ガァアアアアアアッ!!』

 

「ふぁぁあああああああああッ!」

 

『グォオオオオオ!?』

 

 突っ込んできたヘルプラントに壁ごと防壁を破られた俺はその突進の衝撃で壁の向こう側へと吹っ飛ばされる。

 

「ロークッ!?」

 

 耳に入ってくる心強い友の声に俺は反射的にその名を呼ぼうとして、その直後に二体の暴れている巨獣が視界に入る。

 

「ぎゃぁぁぁああああッ!?」

 

 悲鳴を上げながら俺は瞬時に察する。コイツ等がさっきから迷宮内で暴れていたヤバい奴らだったのだと。

 

 マズい。とんでもない場所に乱入してしまった。

 

 焦りながら地面に着地した俺はすぐにこの場からの離脱を考えるが、視界に影が差したことで思考を中断する。

 

「やってくれるわね!」

 

「何が!?」

 

 突然そう言って頭上から刀を振り下ろしてくる暗に俺はそう叫びながらその場から退避して斬撃を躱す。

 

 俺が一体、何をしたと言うんだ!?

 

「フッ!」

 

「うおッ!」

 

 そんな思考をしている間にも次々に放たれる斬撃を俺は紙一重で躱し続ける。

 

 が、霊術を行使する間もなく高速で迫ってくる刀に焦りを覚えていると足元から突然、冷気が漂い始める。

 

 今度は何だ!?

 

「ローク使えッ!」

 

『ガウッ!』

 

 思わず警戒を抱くも次いで聞こえてきた声にそれが杞憂だったと悟る。

 

 地面から俺と暗を遮るように地面から生えた氷壁。そして自分の隣におあつらえ向きな氷剣が生成されているのを見て思わず笑みを浮かべる。

 

「ナイスッ!」

 

 俺はそう言ってガレス達に礼を述べながら氷剣の柄を握るとそのまま切先を、氷壁に阻まれ刀を構え直している暗に向ける。

 

 

「ぶっ飛べッ!!」

 

「ッ!!」

 

 霊力を込めながら氷壁越しに突きを放つ。

 

 氷刃は壁を貫通してそのまま向かい側の暗を襲う。まさか壁越しに攻撃を喰らうとは思って無かったらしい暗はその顔に動揺の色を見せながらも咄嗟に刀で氷刃を受け止める。

 

 けれども完全に受け切ることは叶わなかったらしく、そのまま後方に弾け飛んでいく。

 

「ふぅ……」

 

 一時的ではあるが危機を乗り切った俺は砕け散った氷剣を投げ捨てると息を吐き、そして吸い込む。

 

 脳に酸素を送り込み、クリアになった頭で状況を確認する。

 

 珍しく弱っている燈を背負い、魔剣を手にしているガレスとその側で主人を守るベオウルフ。

 

 そして現在進行形で暴れている多頭の大蛇と五つ尾の妖狐、増えた獲物を単眼で確認するヘルプラント、そしてひっくり返っているロックドレイク。

 

「……カオス過ぎる」

 

「ローク!」

 

 あまりにもゴチャゴチャしている状況に思わず顔を顰めるとガレスから声を掛けられる。

 

「なぁ、今どんな状況? というか、なんで燈はそんな弱ってるの?」  

 

「あの妖狐が月影さんの契約精霊のコン、蛇の方は相手の契約精霊のオロチだ」

 

「えッ!? お前あんな精霊と契約してたの!? ズルッ!」

 

「いぇい」

 

「そんなこと言っている場合じゃないだろ」

 

 妬む俺とドヤ後でⅤサインをする燈にガレスが突っ込む。実際その通りだ。

 

「とはいえ、今の俺じゃあんまり力になれないぞ」

 

 俺がそう言うと事情を察しているガレスは頷きながら視線をロックドレイクとヘルプラントに向ける。

 

「とりあえず、あの二体の精霊は?」

 

「ヘルプラントから逃げている途中でロックドレイクと契約したんだ。で、そのまま逃げ続けている内にここまで来た」

 

「……つまりアレは君の契約下にないのか」

 

『ゴァァアアアアアアッ!!』

 

 ガレスが納得した様子でそう呟くとヘルプラントが咆哮と共に周囲の敵に対して無差別に触手を振り回して攻撃を仕掛けてくる。

 

「とんでもない奴を連れてきたな!?」

 

「俺だってやりたくてやった訳じゃないッ!」

 

 回避しながら俺は叫ぶ。そもそもこの場に来る気すら無かったというのに…………どうしてこうなってしまったんだッ!?

 

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