真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第82話

「……まさか、アンタ一人なのか?」

 

 ミーシャと違ってユーマがいること自体には驚かなかったが、ユーマ以外の選手の気配がないことに関して流石に予想していなかった。

 

 故に気付けば俺はユーマにそう尋ねていた。

 

「ええ、誰にも邪魔されずに一人で戦いたかったので、僕一人で待たせて貰いました」

 

「マジかよ……」

 

「…………」

 

 自信に満ち溢れたユーマの発言に思わず絶句する中、ミーシャの纏う気配が鋭くなる。

 

「ローク・アレアス。このまま降ろしますが、よろしいですね?」

 

「あ、ああ……」

 

 有無を言わさぬミーシャの言葉に反射的に頷いた俺は天使の手の中から離れ、広げた依代の中から風の微精霊を呼び出して契約を結ぶ。

 

 そのまま霊術により風を纏いながら勢いよく地上に向かって降下していくが———。

 

「ッ!」

 

 直後、上空で極光と共に大量の霊力が溢れ出す。

 その霊力量にロークが思わず落下しながら顔を上げれば光によって形成された巨大な剣が浮かんでいた。

 

「おやおや、最初から飛ばしますね」

 

「天剣《ヴォーパルソード》」

 

 巨大な光剣を見上げながら余裕の笑みを浮かべながら眼鏡の位置を直すユーマに向かってミーシャは何の躊躇いもなく剣を振り下ろす。

 

「すげ……」

 

 地上に向かって振り下ろされる刀身は明らかにユーマ達の背後に存在する封霊石をも両断する勢いであり、思わずこの一撃で終わってしまうのではと錯覚を抱くが……。

 

「クロム」

 

 ユーマのその一言を聞き、バサリと翼を広げて舞い上がった白竜はそのまま迫ってくる光剣に対してその巨翼を交差させると空中で受け止める。

 

『グォオオッ!』

 

 光剣と翼の接触部分から火の粉の如く周囲に光の粒子が散っていたが、やがてクロムの雄叫びと共に翼を薙ぎ、ミーシャの放った光剣を文字通り砕いた。

 

「ッ!」

 

 上空のミーシャから動揺を感じながらも俺は視線を向けることなく、剣精霊を顕現させると封霊石を目掛けて一気に駆け出す。

 

 周囲の土砂を巻き上げながら封霊石を真っ二つに斬り裂くべく、大きく足を踏み込んで逆袈裟に刃を振り上げようとするが………。

 

「まだ始まったばかりですよ? そう焦らずに」

 

「チィッ!」

 

 剣精霊と霊術で作られた光剣の衝突によって生み出された打楽器のような甲高い衝突音に俺は思わず顔を顰める。

 

 ミーシャの霊術に合わせ封霊石を破壊しようと駆けたが、進路に割って入ってきたユーマによって妨害されてしまった。

 

 ———だがッ!

 

「このまま押し切るッ!」

 

 咄嗟の防御だった為にユーマはまだ微精霊を呼び出していない。お得意の微精霊による弾幕を展開される前に速攻で決着を付ける。

 

「甘い」

 

 が、そんな俺の思惑を嘲笑うようにユーマは俺の放つ刃を難なく光剣で受け止める。

 

「チッ!」

 

 想定以上のユーマの剣技に俺は思わず舌打ちを漏らしながら次々に斬撃を放つもその悉くが受け止め、弾かれ、或いはいなされてしまう。

 

「こう見えて剣も得意なんです……よッ!」

 

 まるで演奏の如く響き渡っていた金属音が一際大きくなる。

 ユーマが斬撃を弾かれたことで体勢を崩した俺に向かって霊力を込めた重い一撃を放ってきたのだ。

 

「ぐッ!?」

 

 剣を盾にして受け止めることには成功したもの、そのあまりの威力に大きく後方に弾き飛ばされてしまう。

 

「これで貴方の目的もご破算ですね」

 

「ッ!」

 

 開かれた依代から溢れ出す微精霊の群れ。回避しようとしていた最悪のケースを前にしながらも微精霊達を咄嗟に術式の構築を行うが——————。

 

「放てッ!」

 

「うおッ!」

 

 術式が完成する直前で微精霊達から光弾の乱射を浴び、たまらずその場から後退するも逃さないと言わんばかり弾幕はこちらを追跡してくる。

 

「あぶッ!」

 

 逃げ回る俺を正確に追尾しながら光弾を放ってくる微精霊達に思わず舌を巻きながら視界の先にあった岩の裏へと勢いよく転がり込む。

 

 その直後、ガガガッ! と掘削音のような音を響かせながら背を預ける岩が激しく振動した。

 

 危なかったぁ……。

 

「ミーシャ達は………上か」

 

 視線を上げると上空では遠距離から霊術を放つミーシャ達に対してクロムがその機動能力と耐久性を生かしながら肉薄しては近接戦を仕掛け、逃げられるという戦闘を繰り返していた。

 

 どうやらどちらも相手を詰めるのに一手足りない状況のようだ。

 

「……となると援護は期待できないか」

 

 とはいえ、様子からしてクロムがユーマの助けに入る可能性も薄いだろう。

 

 何とかしてユーマを突破し、封霊石を破壊したいが……。

 

「まずはこの状況から脱出しないとか」

 

 悠長に策を練る時間は無い。

 勢いからして一分後にはこの岩が消滅していると判断した俺は素早く方針を決め、依代から新たな微精霊を取り出して簡易契約を結ぶ。

 

「業火の剣」

 

 刀身が炎に包まれるのを確認した俺は一度、息を吐くとタイミングを見計らって岩から飛び出した。

 

『———ッ!』

 

「フッ!」

 

 直後、飛び出した俺を狙って微精霊達から放たれる光弾を避けながら横薙ぎに剣を振う。剣から放たれた三日月型の炎がこちらに光弾を放っていた微精霊達を焼き尽くすのを確認しながら駆け出し、その先で微精霊を指揮していたユーマに斬り掛かる。

 

「はぁあああッ!」

 

「っと」

 

 炎の勢いに押されたのか光剣で俺の斬撃を受け止めたユーマは大きく後方へと下がった為、逆に俺は前へと踏み出して斬撃を放とうとするが———。

 

「ルークスライム」

 

「なッ!?」

 

 振るわれた炎の斬撃は地面から出現した黄色の粘液状の精霊によって妨害され、粘液に包まれた剣はその炎を失ってしまう。

 

「驚いている場合ですか?」

 

 ユーマがそう呟くと共に炎を飲み込んだルークスライムはそのまま俺の身体を飲み込まんとその粘液状の身体を広げてくる。

 

「……くッ! 吹っ飛べッ!」

 

 迫ってくる粘液にして咄嗟に掌を突き出し、霊術で突風を生み出すと眼前のルークスライムを風で散らしていく。

 

「まだまだッ!」

 

「……しまっ」

 

 僅かに綻んだ集中。

 そんな俺を狙い撃つように粘液が飛び散る視界の先でユーマが手にした光剣の剣先をこちらに向けていることに遅れて気付く。

 

 その剣先が輝くと同時に纏う霊力が増す。マズいと反射的に足を動かして回避を試みようと思うも手遅れだった。

 

「《ルーメンの剣》」

 

「ぐあッ!?」

 

 一度、視界が明転したかと思うと次の瞬間には鋭い痛みが俺の左肩に走る。その直後にやってきた衝撃によってそのまま後方へと吹っ飛ばされる。

 

「ミカエルッ!」

 

『……!』

 

 揺らぐ意識の中でミーシャの声が耳に入る。同時に吹っ飛ばされていた俺の身体を誰かが優しく抱き留め、地面に降ろしてくれる。

 

「ありがとう、ミーシャ。それに、て……ミカエル」

 

「いえ」

 

『…………』

 

 俺を抱き留めてくれた天使とその指示を出してくれたミーシャに礼を述べるも普段の彼女とはかけ離れた余裕の無い声音で返事をされる。

 

『グルル』

 

「流石に君だけで彼女達を抑えるのは厳しかったようですね」

 

 バサリと翼を広げなら降りてきたクロムに対してユーマは予想通りだと言わんばかりの口調で呟く。

 

 対するクロムはどこか不愉快そうに唸り声を上げながら主人を睨み付けており、その視線からはどことなく『お前のせいだろ』と糾弾しているようにも見えた。

 

「さて、振り出しに戻ったって感じでしょうか?」

 

 そんな契約精霊の視線に気付いていないのかユーマはくるくると本型依代を弄びながら声を掛けてくる。

 

「ローク・アレアス。傷は大丈夫ですか?」

 

「……ああ、多少は痛むけど問題無い」

 

 左肩の傷を気にするミーシャに俺はそう返しながら立ち上がる。痛みはあるが利き腕でも無いし、この程度なら特に支障は無いだろう。

 

 それよりも問題なのは………。

 

「にしても貴方が突破できないとは………」

 

「申し訳ない。契約精霊を抑えてくれていたのに……」

 

「いえ、お互い様です」

 

 謝罪する俺にミーシャはそう言って首を横に振る。お互い様とは言うが、非の比重は間違いなく俺の方が大きい。

 

 ましてや、あちらも契約精霊のいない状態での戦闘でこの体たらくだ。言い訳のしようもない。

 

「切り替えましょう。この場に置いて数的優位はこちらにあります。冷静に一つ一つ対処していきましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

 確かにユーマは強い。

 しかしそれでも、あらちが一人に対してこちらが二人であることには変わりない。初手はユーマを侮ったが故に失敗したが、落ち着いて戦えば決して攻略できない相手では無い筈だ。

 

「おや、そんな悠長で良いんですか?」

 

 そんな俺達に依代から再び数体の精霊を取り出しながらユーマがどこか煽るような口調で声を掛けてくる。

 

「こっちで貴方達が数的優位であることは、もう一方の仲間が数的不利だということですよ。そんなに悠長で良いんですか?」

 

「…………」

 

 防御がユーマ一人である以上、攻撃には三人の選手が参加しているということだ。つまりレイアとトラルウスはヴァンを含めた三人の選手を相手に困難な防衛戦を強いられているだろう。

 

「あまり出し惜しみをして時間を掛けると取り返しのつかないことになりますよ」

 

 まるでさっさと隠している力を出せとそう言わんばかりの口調でユーマは俺に視線を向けるが、俺は鼻で笑い返す。

 

「アンタこそ、舐め過ぎだ」

 

 二人とかつて全力で戦い、その実力を身を持って理解している俺はハッキリと断言する。

 

「あの二人の防御は突破できないよ」

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