真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第83話

 ローク達がユーマと激戦を繰り広げている頃、レイア達も封霊石を破壊するべく迫ってきたリベル学院の選手達と戦闘を繰り広げていた。

 

 赤色の翼を広げて低空を飛行する赤色の竜、サラマンダー。

 

 その足には鉤爪でがっしりと掴まれた封霊石を、背には二人の精霊師と腰から羽を生やしたドレス姿の少女の精霊、そしてフワフワとその周囲を舞う小人の姿があった。

 

 そんな赤竜の一団を追うのはリベル学院所属の三人の精霊師とその契約精霊達だった。

 

 上空からは迫ってくるのは獅子の身体と鷲の頭と翼を持つ高位精霊グリフォン、背に黒い翼を広げ、長い鼻が特徴的な半人半鳥の精霊である天狗。そして地上からは灰色の獣毛に覆われた双頭の獣の精霊オルトロスが迫ってきた。

 

「掛かれ」

 

 充分に距離を詰められたと判断したリベル学院攻撃チームのリーダーを任されたヴァン・ランドルフはグリフォンの背から全体に攻撃指示を出す。

 

 岩をも容易に斬り裂く風撃、轟音を響かせながら迫ってくる蒼雷、そして辺り一帯を赤く染め上げながら灼熱の炎。どれか一つ喰らうだけでも戦闘不能になるであろう精霊達の放った大火力を目にしてレイアが思わず額から冷や汗を流す。

 

「景気が良いね」

 

 そんなレイアとは対照的に迫ってくる多種多様な攻撃を涼しげな表情で見つめていたケイ・トラルウスは手甲を纏った手で指揮棒を無造作に振るう。

 

 途端に美しい歌声と共に霊力を帯びた無数の音符がまるで壁のようにケイとレイアの周囲に展開され、迫ってきた風や蒼雷、そして炎の全てを受け止める。

 

 そのあまりの防御能力に背後でレイアが目を見開くのを気にすることなく、ケイはお返しだと反撃の霊術を発動させる。

 

「荒ぶる豪風の鏃」

 

 響き渡っていた歌が転調し、同時にケイ達の周囲に渦を巻く風の矢が現れる。 

 

 ケイが指揮棒を振り下ろすと共に風の矢は上空を飛ぶグリフォンと天狗、地上を駆けるオルトロスに向かってそれぞれ三発ずつ放たれる。

 

「……ッ!?」

 

 三人掛かりで攻撃をしたにも関わらず防御どころか反撃までしてくるケイに驚いたのか、地上を駆ける双頭の獣が放たれた風の矢を受けて体勢を崩す。

 

「レイアさん、狙い目だよ」

 

「あ、は、はいッ!」

 

 ケイの霊術に目を奪われていたレイアはその言葉で我に返るとサラマンダーを素早く反転させ、オルトロスに向かって攻撃指示を出す。

 

「サラマンダー 熾火ッ!」

 

『ガァッ!』

 

 口腔に溜めた炎の塊を勢いよくオルトロスに向かって放つ。赤竜の口より放たれた炎塊は流星のように勢いよくオルトロスへと向かっていくと直撃と共に火柱が上がる。

 

『グルルッ!』

 

『ガウッ!』

 

「くっ」

 

 思わずやったかと叫びたくなる衝動を堪えながら攻撃の着弾地点に視線を向ければ燃え盛る炎の中からオルトロスが飛び出す。

 

 その獣毛の一部は焦げ、乗っている女子選手も少なからずダメージは負っているようだが、まだまだ戦えると言わんばかりに吠えながら大地を駆けている。

 

「仕留め損ないましたか……」

 

「けれど削れている。充分だよ」

 

 悔しげに呟くレイアにケイは淡々と答えながら指揮棒を振るう。

 

「さぁ、歌え!」

 

『————ッ!』

 

 ケイの指示と共に今まで聞こえていたセイレーンの歌声が悍ましいものへと変化すると同時に茶色に輝く音符が地面へと落下する。

 

「あれは———」

 

 オルトロスの背に乗ったリベル学院の女子選手はそのまま落下した音符が地面に溶けるのを確認すると足を止めて警戒に入る。

 

「……何も起こらない?」

 

 が、少し待っても特に何も起こることは無く霊力も特に感じない。

 

「まさか、ブラフ?」

 

 女子選手がこうして動きを止めている間にもサラマンダーは飛行を続けている為、詰めた距離を再び広げられている。

 

 敢えて大袈裟な動作で警戒させ、その間に距離を稼ごうと言うことか!?

 

「………ッ!」

 

 そのことに気付いた女子選手はこんな単純な罠に嵌ったことに憤りながら空いた距離を詰めようとオルトロスに全速力での追撃を命じる。

 

「よせッ! 退けッ!」

 

「え?」

 

 直後に響き渡るリーダーの叱責。

 その言葉の意味を理解する前に女子選手の視線はサラマンダーの背の上でまるでこちらを裁くかのように指揮棒を振り下ろすケイの姿を目にする。

 

「不浄の大地の嘆き」

 

 瞬間、地面に膨大な量の霊力が駆け巡ると共に文字通り爆発した。

 

「ッ!?」

 

『ゴァ!?』

 

『ガッ』

 

 まるで大地そのものがひっくり返ったのではないかというような衝撃の中で現界を保てなくなったオルトロスが消滅する。契約精霊と共に意識も失った女子選手は監視兼救護の役割を担う精霊によって保護され、戦場から離脱していく。

 

「まずは一人」

 

「凄い……」

 

 そう言って僅かに息を吐くケイの背を見つめながら気付けばレイアはそう呟いていた。

 

 かつてロークとの学位戦でその強さは理解していた筈だが、こうして側で見るとやはり自分の認識は甘かったのだと再確認させられる。

 

 高位精霊の攻撃すら容易に防ぐ強力な防御、そして最高位霊術による高火力とそれだけの大技を行使しながら特に疲労した様子を見せない圧倒的な霊力量。

 

 思わず封霊石を守るのに自分が必要なのだろうかという思考に囚われながらもレイアはケイに対して強い尊敬の念を抱く。

 

 そして同時にこの人に勝利したローク先輩もやはり凄いんだなと本人の預かり知らぬところで勝手にレイアの中の評価が爆上がりする。

 

「………レイアさん」

 

「は、はい」

 

 そんな彼女にケイはその表情を少しだけ楽しげなものへと変えながら声を掛ける。

 

「本命が来たよ、しっかり避けてね」

 

「へっ?」

 

 どういうことだと疑問を抱くのも束の間。視界を巨大な影が覆ったことでレイアは先輩が言わんとすることを察する。

 

『ゴォオオオオオッ!』

 

 ケイの霊術によって荒れ果てた大地を浮き破って地面からその長く巨大な胴体を岩石で覆った蛇とも竜とも言えるような精霊、サンドワームが姿を現した。

 

「サラマンダーッ! 避けてええぇぇぇッ!」

 

『ガァアアッ!』

 

 レイアの叫びに応じてこちらに向かって突進を仕掛けてくるサンドワームの巨大な頭をサラマンダーは思いっきり翼を羽ばたかせ、その硬い外殻ギリギリをすれ違っていく形で避けることに成功する。

 

「フフッ。スリルのある良い避けっぷりじゃないか」

 

「わ、笑いごとじゃないですよ」

 

 まるで遊園地のアトラクションでも楽しんでいるかのようなテンションで話すケイにレイアは封霊石が無事なのを確認して息を吐きながらそう言い返した。

 

 後ろを振り返れば突進を躱されたサンドワームはそのまま地面へと潜ることでその姿を一時的に地中の中に隠す。

 

「にしても予測以上にデカいな………」

 

 ヴァンはこの試合以外ではサンドワームを罠のようにしか利用しなかった為、頭部以外を見ることが無かったケイはその全容に思わず感嘆の声を漏らした。

 

「多分、あの規模の質量になると僕の結界じゃ防ぎ切れないな」

 

「えッ⁉」

 

 ケイの冷静な分析結果を聞いたレイアは思わず声を漏らす。

 

 それはつまり……。

 

「サンドワームの回避はレイアさん達に任せるよ。なに、さっきの調子で躱せば特に問題無いから」

 

「いや、ですが———ッ!?」

 

 ケイの言葉に待ったを掛けようとしたレイアはけれども直後に頭上から迫ってきたグリフォンの一撃によって言葉を中断させる。

 

「ふむ、やはり硬い」

 

「淑女を狙うとは感心しないね」

 

 グリフォンの背で結界の強度の確認を行うヴァンに向かってケイは嗜めるように告げる。

 

 振り下ろされたグリフォンの前脚はケイが展開した結界によって阻まれ、甲高い音を響かせるだけに終わった。

 

「はぁッ!」

 

『ギィッ!』

 

 すかさずレイアはグリフォンに向かって炎弾を放つ。けれど炎が着弾する前にグリフォンは翼を羽ばたかせるとあっという間に射程範囲から離脱してしまう。

 

「速い……ッ!」

 

「嵐の剣舞」

 

 驚くレイアの側でケイが指揮棒を振るい、周囲の音符を風刃に変換させて放つが、グリフォンは曲芸の如き美しい空中飛行で迫りくる風の刃の悉く回避していく。

 

「良い動きだね」

 

 敵ながら見事だとグリフォンに称賛の声を漏らすケイは直後に飛来してきた雷撃を再び結界で防御する。

 

「クソッ!」

 

 その防御の堅牢さに天狗を従える男性選手は苛立ちの声を漏らすが、そんな彼の側に移動したヴァンは冷静な声音で告げる。

 

「落ち着け、お前はそのまま遠距離から攻撃をし続けてくれればそれで良い」

 

「で、ですがいくら攻撃をしてもアイツの結界が……」

 

「問題無い」

 

 ヴァンは男性選手の不安の声にそう断言しながら腕を横に振るう。

 

『ゴォオオッ!』

 

「結界は俺の精霊で破れる」

 

 サラマンダーの真下から現れたサンドワームはその巨大な口でサラマンダーごと封霊石を飲み込まんと迫ってくる。

 

「くッ!」

 

 まるで地獄の入口が迫ってくるかのような光景に恐怖を抱きながらもレイアは霊力を流し、サラマンダーの飛行速度を加速させることでサンドワームの攻撃を避けることに成功する。

 

「………ッ」

 

 が、代わりにケイが展開していた結界の一部が勢いよく食い千切られてしまい、その光景にレイアは思わずゾクリと背筋を震わせる。

 

 事前にケイ本人が話していた為、分かっていたことではあるが、それでも今まであらゆる攻撃を防いだ結界が呆気なく破られる光景はレイアにとって衝撃的だった。

 

「いいね、盛り上がってきた」

 

 しかし結界を展開した本人にとっては寧ろ高揚する出来事だったのか、ケイはいつかの学位戦の時のように口角を上げる。

 

「さて、そろそろ今回の劇のテーマを考えようか。何が良いと思う?」

 

「それ今、考えることですかッ!?」

 

 吞気なケイの質問にサラマンダーに指示を出しながらレイアは思わず荒い口調で尋ね返してしまう。

 

 空に向かって伸びたサンドワームは空中で大きく弧を描きながら身体を曲げると今度はその巨大な口を目一杯広げて思いっきり息を吸い込み始めた。

 

『ォォォオオオッ!』

 

 恐ろしい雄叫びと共に周囲の瓦礫が浮かび上がり、そのまま風の流れに従って勢いよく後方へと飛んでいく。

 

「くぅううッ!」

 

 レイアはまるで嵐の中にでもいるような感覚に陥りながら咄嗟に身体を屈めてサラマンダーの背中にしがみ付く。そうしなければ今にもレイアの小さな身体はサンドワームに吸い込まれてしまう程の凄まじい吸引力だった。

 

『グォオオッ!』

 

「サラマンダー、何とか耐えてッ!」

 

 サンドワームに飲み込まれてたまるものかと必死に耐えるサラマンダーにレイアは霊力を流し込みながら叫ぶ。

 

 サラマンダーもそんな主人の願いに答えるべく必死に前に進もうと試みるもあまりの吸引力に前に進めないどころか。少しずつサンドワームの方向へと引っ張られて始めていた。

 

「うーん……」

 

「先輩ッ! そんなこと悩んでいる場合じゃないですってッ!!」

 

 そしてこんな危機的状況に陥りながらもケイはまだ劇のテーマを考えており、レイアはそんな危機感の無い先輩に苛立ちながら叫んでしまう。

 

 それが過ちだった。

 

「……あっ」

 

 大声を出したことで手の力が緩んでしまったのか、レイアの身体がふわりと浮き上がり、サラマンダーの背から足が離れてしまう。

 

「きゃぁああああッ!?」

 

 身体が後方に向かって引っ張られる中、レイアは悲鳴を上げながら必死に宙で藻掻くもまるで意味は無く、そのままサンドワームの口腔へと吸い込まれかけるが…………。

 

「ふッ!」

 

「わっ⁉」

 

 そこでレイアを無数の音符が包み込んだかと思うとケイの指揮棒に合わせて彼女の身体は風の流れに逆らいながらサラマンダーの背へと戻って来た。

 

「おかえり」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 何てこと無いかのように言うケイにレイアは心臓をバクバクさせながら礼を述べる。

 

 いや、よく考えたら自分が食われそうになったのもこの先輩のせいなのだから礼を述べる必要は無かったか?

 

「にしても、この吸引はやはり煩わしいね」

 

 とそんなことを考えている内にサンドワームの吸引に煩わしさを覚えたケイが勢いよく指揮棒を振るいながら「耳を塞いで」と告げてくる。

 

 レイアはその意図を尋ねようとする前にセイレーンが大きく息を吸い込むのを見て、また吸い込まれることを覚悟しながら両耳を塞ぐ。

 

「フォルティシモッ!」

 

『—————ッ!!』

 

『ゴァアアアアッ!?』

 

 響き渡る轟音。文字通り大気を震わせるほどの大音量をセイレーンが発すると共にサンドワームが苦しげな鳴き声を上げながらその身体を大きくくねらせる。

 

 サンドワームは視力が極端に低い代わりにそれを補うように嗅覚と聴覚が発達している。

 

 故にセイレーンから放たれた爆音によって音響外傷を受けたサンドワームは一時的ながらも行動不能に陥っていた。

 

「レイアさん」

 

「は、はい……?」

 

 そんなサンドワームを尻目にケイは後輩に声を掛ける。

 後輩はキーンという耳鳴りによって若干聞こえづらくなっている耳で必死に先輩の言葉を聞き取ろうと試みるが………。

 

「何か良い劇のアイディアないかい?」

 

「…………ちょっと今、声が聞こえづらくて」

 

 ケイの質問を聞いたレイアはそう言って耳の調子が悪くなっていることを言い訳にして聞こえなかったフリをするのだった。

 

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