真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第84話

 気付けば日は落ち始め、辺りが暗闇に包まれていく。

 

 まるで大精霊演武祭の終わりを告げるかのように暗くなっていく世界でその一帯だけは昼間と変わらぬ、或いはそれ以上の輝きに満ち溢れていた。

 

 幾つもの光線と光弾が空を駆け巡り、光で構成された剣や槍といった武装を纏った目麗しい天使が大地に向かってその輝きを躊躇い無く振るう。

 

 幾度となく放たれる霊力を帯びた輝きに照らされ、神秘的な輝きを放つ白竜は宙を舞い、その強靭な翼を剣の如く振るって次々に光の武装を砕いていく。

 

 破壊された光の武装は粒子となって周囲を舞い、どこか幻想的とも思える景色の戦場をロークは駆け抜け、手にした剣を振るう。

 

「はぁああッ!」

 

「光壁!」

 

 ユーマを狙って放たれた斬撃は展開された光の壁によって防がれるが、その表面に大きな亀裂を刻む込むことには成功する。

 

 故にロークは流れるような動作で二撃目を放った。

 

 剣先を亀裂へと向けるとそのまま勢いよく剣を突き出し、脆くなった眼前の光壁を粉々に砕く。

 

「っと」

 

 既に壁が破壊されることを悟っていたユーマはその場から飛んで後退するが—————。

 

「《ホーリーレイ⦆」

 

 翼を広げる天使の手から放たれる眩い破壊の輝き。自身の霊術では防ぎ切れないなと素早く判断したユーマは依代を広げ、中に封じていた何体もの精霊を呼び出す。

 

 直後、衝撃と共に肉盾となった精霊達は送還されたことで一時的に塞がっていた視界が明瞭になる。

 

「おや」

 

 そんなユーマの視界に映ったのは彼を目掛けてミーシャが放った光槍だった。ユーマの視界が遮られた一瞬のタイミングを突いて放たれた光槍は、けれどもその間を遮るようにして現れた巨翼に直撃してしまい、本来の目的を果たすことなく霧散してしまう。

 

「ハハッ。今のは危なかったですね」

 

 クロムがゆっくりと翼を退けると一連の戦闘を無傷で終えたユーマはカチャリと眼鏡の位置を調整しながらそう呟いた。

 

「余裕の癖によく言うわ」

 

 口にした内容とは裏腹に碌に汗すら流していないユーマはまるで余裕綽々と言わんばかりの態度であり、気付けばロークはそう毒づいていた。

 

 手玉に取られているとまでは言わないが、一連の戦闘の流れはユーマの方にある。

 

 どうにかしてこの嫌な流れを変えたいところだが…………。

 

「崩し切れませんね」

 

 こちらに歩いて来たミーシャがその美貌を僅かに歪ませながら呟く。恐らく同じようにこの状況を苦々しく思っているのだろう。

 

「ああ、後ろの封霊石を狙おうにも結界を張られているし、どうしたもんかね」

 

 ユーマの契約精霊である白竜クロム、封霊石を守る結界、それに依代から出てくる精霊達と対処するべき問題は多い。

 

「この一筋縄ではいかない感じ……何だか貴方との学位戦を思い出しますね」

 

 ユーマに勝つべく思考を巡らしているとミーシャがロークの顔を見ながら、ふとそんなことを呟いた。

 

「……確かに」

 

 何だか褒められているのか、貶されているのか微妙な発言だなと思いながらも、ミーシャの言葉をロークは同意する。確かに最初に戦った時から何となく思ってはいたが、今ミーシャに指摘されたことでロークは改めて実感させられる。

 

「そうだな……」

 

 低位精霊やら微精霊を利用して戦うユーマの戦闘スタイルは自分の戦い方と非常に似通っている。

 

 尤もロークがわざわざ低位精霊やら微精霊と簡易契約を結んでいるのは契約精霊がいない為、他に戦いようが無いだけだ。もしユーマの立場なら絶対に簡易契約を主体に戦うという発想など湧かない。

 

 絶対に竜の力を存分に利用したゴリ押しの戦闘スタイルになっていたことだろう。

 

 そう考えると契約精霊と簡易契約を織り交ぜたユーマの戦い方は自分の上位互換と言えるかも知れない。

 

「———あ」

 

 そこまで考えたところでロークはユーマの弱点に気付く。それこそ当たり前過ぎて逆に気付くことができなかった自明の弱点を。

 

「何か思い付きましたか?」

 

「……ああ、とは言っても策ってほどのものでは無いが」

 

 尋ねてくるミーシャにロークはそう前置きした上で自分の考えを口にする。ユーマを攻略する上で重要なもの、狙うべきポイントを。

 

 静かに話を聞いた彼女は一瞬、驚いた様子で目を見開くと「なるほど」と口元を緩めた。

 

「確かに単純ですが、効果的でしょうね」

 

「だろ? そうと決まれば———」

 

「作戦会議は終了したようですが…………」

 

 ロークの言葉を遮るようにしてユーマがそう呟いた。

 

 その声音は先程と比べるとどこか不気味な圧力あり、思わず視線を向けるとユーマの鋭い眼光とぶつかった。

 

「ッ!」

 

「今度こそ貴方達の本気が見れると思って良いのでしょうか?」

 

「貴方の言う本気が何かは分かりませんが………」

 

 ユーマの瞳から放たれる凄まじい眼力にロークが気圧されて後退する中、対照的にミーシャは前へと進み出る。

 

 その堂々たる姿に一国の王女として気高さと卓越した精霊師としての勇猛さをロークが感じているとミーシャは一瞬、後ろを振り返って目配せをすると透き通った声で言った。

 

 

 

「霊装は使わせて頂きます」

 

 

 

「ッ!!」

 

 バサリとミーシャの背に現れた天使がまるで加護を授けるかのようにその純白の翼で彼女の身体を包み込む。

 

 そして次の瞬間には彼女達の姿は爆発的に増した霊力と共に光に覆われて見えなくなった。

 

「くっ」

 

 咄嗟に顔を腕で覆ったロークは段々と収まっていく輝きの中でかつての学位戦にて彼女との試合を思い返していた。

 

「……ふぅ」

 

 小さな息を漏らしながら現れたミーシャの姿は大きく変化していた。

 

 彼女の精霊のように背中から生えた純白の翼。

 その装いは学院の制服から戦乙女を彷彿とさせる白銀の装甲を纏ったドレス姿へと変化しており、手には穂先が金色に染まった長槍を握っている。

 

 それはかつてロークが勝てないと諦めるに至った敗北の記憶の中に映る彼女の姿、そのものだった。

 

「これは……」

 

「それでは、参ります」

 

 息を呑むユーマに槍を構えたミーシャはそう宣言すると共に翼をバサリと羽ばたかせ———その身体が閃光となってその場から消える。

 

『ガァアアッ!』

 

 真っ先に反応したのは精霊であるクロムだった。竜精霊は不意を突かれて初動が遅れた主人を咄嗟にその両翼で覆うことで防御を試みる。

 

 その直後、一筋の光となったミーシャの一撃がクロムの翼に直撃すると激しい衝撃と共に光が迸った。

 

「これは———ッ」

 

『グルッ!?』

 

 契約精霊越しに伝わってくるミーシャの霊圧に遂にユーマの表情から余裕の色が消える。そしてそれはミーシャの突きを左翼で受け止めたクロムも同様だった。

 

「はぁああああッ!!」

 

 そんな彼に対してミーシャは気合いの声と共に腕に更に霊力を流し込み、その穂先が煌めく長槍を押し込む。

 

 その細腕からは想像も付かない剛力を前にしてクロムの四つの脚が少しずつ押され、最終的には耐え切れなくなったことでユーマごと後方へと突き飛ばされてしまう。

 

「すげぇ……」

 

 霊装を纏ったミーシャの実力に思わず苦笑を浮かべながら呟く。

 

 その力は一時的ながらも竜に正面から押し勝ち程だった。その槍はクロムの翼を貫くことこそ叶わなかったが、その表面を削り取り、今まで数一つ無かった鱗に明確に傷を刻み込んでいる。

 

 天使を霊装化し、纏ったことにより人間離れした膂力と霊力を得たミーシャは長槍を華麗に振り回しながらたった今、自分が吹き飛ばしたクロムに向かって突貫する。

 

 バサリと翼を羽ばたかせて体勢を立て直したクロムは迫ってくるミーシャに対して掛かって来いと言わんばかりの咆哮を上げる。

 

「忌々しい光め……」

 

 そして契約精霊の機転によりミーシャの一撃を凌いだユーマはボソリと小さな声音でそう呟きながらロークに向けていた鋭い視線を彼女に移す。

 

「まずは貴女から片付けるとしましょう」

 

 ユーマの宣言と共に幾つもの微精霊と低位精霊が依代から現れると仮初めの主人を守るように周囲に展開する。

 

「その程度の精霊では時間稼ぎにしかなりませんよ?」

 

「それはやってみないと分かりません。それに———」

 

 ミーシャは翼を羽ばたかせ、高速でユーマに槍を突き出そうとするが直後に頭上から振り下ろされた尻尾を見て瞬時にその場から飛び退く。

 

『ガァアアッ!』

 

「しつこいですねッ!」

 

 宙を舞いながら高速で衝突する人間と竜。

 少し遅れて竜の援護を命じられた精霊達がミーシャの動きを阻害するべく接近を試みるも次の瞬間にはその悉くが風穴を空けられて消滅していく。

 

 目の前の脅威を一時的に遠ざけたユーマは自身の契約精霊の援護に向かう必要性を感じつつも、次の脅威を察知してその動きを止めた。

 

「参りましたねぇ」

 

 ユーマはそう言いながら素早く術式を組むと指を封霊石の少し手前の空間を向けるとそのまま光弾を放つ。

 

「ちぃッ!?」

 

 すると何も無い筈の空間から舌打ちが漏れ、次の瞬間には剣で光弾を弾くロークの姿が露になった。

 

「何で分かるんだよ!?」

 

「無粋な真似は止めなさい」

 

 少なくとも視覚上は見えなくなる筈なのだが、一瞬で見破られたことにロークは思わず声を荒げる。

 ユーマは封霊石を破壊して競技を終わらせようとするロークをそう叱責しながら足止めの為に簡易契約を結んだ精霊達を嗾ける。

 

 これで多少は時間を稼げるだろうとユーマは背後から迫ってくる気配に振り返り様に生み出した光剣を薙ぐ。

 

 ギィンという甲高い音と共に光剣とミーシャの振り下ろした槍の穂が衝突する。

 

「私を前によそ見ですか?」

 

「当座の相手は用意してあげた筈なんだけどね」

 

 ミーシャにそう言い返すユーマは先程呼び出した精霊との繋がりの全てが消えていることに気付く。どうやら今のミーシャを相手に依代から呼び出した雑魚では足止めにもならないようだ。

 

「では…………ん?」

 

 ならばと自分の契約精霊による迎撃を試みるが、何故かクロムの霊力をやたらと遠くに感じる。どうやらロークに気を取られている間に距離が離れてしまったらしいが……。

 

「あの竜でしたら少々遠くに突き飛ばさせて頂きましたよ」

 

「やってくれますね」

 

 くるくると長槍を回しながらそう告げるミーシャに対してユーマはその表情を歪めながら呟く。

 

 どうやら口振りからして力技でクロムを一時的にこの戦場から遠ざけたようだが、ここまで来ると流石に笑うことはできない。

 

「フッ!」

 

「……ッ!」

 

 速くて重い。それが次々に放たれる槍撃を光剣で受け止めたユーマの感想だった。

 

 翼を得たことで圧倒的な機動力を得たミーシャは四方八方から刺突や打撃を放ってくる為、防御が難しい上に精霊の力を得た彼女の一撃は防ぐ度に腕に痺れを与える。

 

 恐らくこのまま打ち合い続ければ押し切られる。

 

「……ここは時間稼ぎに徹しましょう」

 

 一人では難しいがクロムと合流できればこの程度の危機どうとでもなる。加えて焦らずとも既にクロムはこちらに向かっており、あと数分程度で合流できる。

 

 故にここ時間を稼ごうと振り下ろした長槍の一撃を跳躍して躱したユーマは依代を構える。例え雑魚だろうと弾除けにはなる筈と依代に眠る無数の精霊を呼び出そうとして————。

 

「————なッ」

 

 その依代を飛来した雷閃が穿ち、ユーマの手元から弾き飛ばした。

 

「こっちへの警戒が薄れたな」

 

「……ッ!」

 

 振り返れば精霊に囲まれて攻撃を浴びる中、肩に雷獣を乗せたロークが指をこちらに向けている姿が目に入った。

 

「大事な物はもっとしっかり見とくんだな」

 

「ローク・アレアスッ!」

 

 ロークに足止め用の精霊を送っていたこと、加えてユーマが目の前のミーシャの対処で余裕が無くなったことでできた一瞬の隙を突かれたユーマが吠える。

 

「これでもう面倒な精霊達は呼べませんね」

 

「……なるほど、最初から僕の依代をッ!」

 

 突きと共に放たれたミーシャの言葉でユーマは確信する。一連の戦闘の目的が自分の依代にあったのだと。

 

「簡易契約の技術も契約できる精霊がいなきゃ、意味ないもんなぁッ!!」

 

 ロークはそう叫びながらユーマの言葉を肯定する。 

 

 たとえ上位互換だろうと自分と同じく簡易契約を利用する戦闘スタイルである以上、その要は精霊を封じている依代だ。ならばその依代を無力化してしまえばユーマは精霊を呼び出せず、その戦闘能力を大幅に削れる。

 

「ローク・アレアスッ!」

 

「分かってるッ!」

 

 ミーシャの叫びに応じてロークは眼前の精霊を斬り伏せて駆け出す。 

 

 狙うは封霊石ではなく、ユーマ本人。

 万が一を考慮して結界の破壊よりも依代を剥がし、契約精霊も側にいない今のユーマをミーシャと共に攻めることで確実に無力化させる為だった。

 

「はぁああッ!」

 

「ッ!」

 

 無防備なユーマの正面から光を纏った長槍を放つミーシャに合わせ、ロークはユーマの背中を目掛けて雷鳴を響かせながら雷を帯びた剣を振るう。

 

「…………」

 

 前後から放たれる必殺の一撃。

 無論、命を奪わないように最低限の手加減はしてあるが、それでも喰らえば意識を失うことは必須であろう刺突と斬撃が迫ってくる。

 

 観客達は誰もがユーマの敗北を悟り、精霊院もユーマの救助を監視役に命令する中、正面にいたミーシャだけが気付いた。

 

 静かに口角を上げるユーマの口元に。

 

「真名解放 《クロム・クルアハ》」

 

『ォォォオオオオオッ!!』 

 

 全身を芯から震わせる恐怖の咆哮が響き渡り、黒く禍々しい霊力が二人の視界を覆い尽くした。

 

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