真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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タイトル詐欺感があったので微妙にタイトル変更してます。
ようやくアンケートの使い方理解できました。


第9話

 

 ルナの遺跡はロムス王国西部一帯に広がるジュデッカの森の中に隠れるように存在している。故にルナの遺跡に入るにはまずジュデッカの森へと行かねばならないのだが、周辺は交通網の整備等があまり行われておらず遺跡に向かうには馬車や徒歩などといった古典的手段が必要となる。

 

 ただ、それも一般人ではという話であり精霊師となれば別の手段がある。

 

 

「流石はヴァルハート家の精霊、速くて乗り心地も良いよ!」

 

 

「お褒めに預かり光栄です。セリア先輩」

 

 レイアとセリアの二人を背に乗せてバサリと大きな赤い巨翼をはためかせて空を駆けるのはレイアの契約精霊であるサラマンダーだった。

 

 更にその後方にはサラマンダーに劣らない、何なら一回りほど巨大な身体を持つ鷹のような姿をした風精霊シグルムが俺とガレス、リリーの三名を背に乗せて空を舞っていた。今回の為に予めオーウェンから封霊石に封じてコレクションしていた高位精霊の一体を借りて俺が簡易契約を結んで使役している。

 

「良い乗り心地だね」

 

「快適」

 

「まぁ、そりゃな。本来なら依代の中で大人しく眠ってるような精霊じゃないからな」

 

 心地良い微風を浴びるガレスとリリーの感想に俺は手にしているシグルムが封じられていたエメラルド色に輝く石、封霊石を眺めながらそう返す。

 

 封霊石は精霊の依代として一般的によく活用されるがこんな高位精霊を入れる用には作られてない。本来なら破壊して暴れるところを予めオーウェンが調教しているから大人しく入ってくれてるだけだ。

 

 何ならこのレベルの高位精霊が相手だと本来は簡易契約などできない。仮にできたとしても完全に従えることは不可能な筈だが、それすら可能にする辺り如何にオーウェンの調教技術が高いかが分かるだろう。

 

 

「君はこういう任務の時にやたらと高位精霊を連れてくるけど一体誰から借りているんだい?」

 

「残念だけど秘密だ」

 

「隠し事は良くない」

 

「師匠から秘密を条件に借りてるからな。無理だ」

 

「むぅ」

 

 俺の言葉に残念そうに息を吐くガレスの横でリリーは拗ねたような表情を浮かべながら俺の背をポコポコと叩いてくる。やめろ、落とすぞ。

 

「こらそこ〜、イチャつくのは結構だけどもうすぐ着くから降りる準備して!」

 

 リリーの頭を押さえて攻撃を防いでいると速度を落として横に並んだサラマンダーの背からセリアが大声で言ってくる。どうやら雑談している内に遺跡の近くまで来たようだ。

 

 俺は降下するサラマンダーに続くようにシグルムに降下を命じると応じたシグルムは大きく翼をはためかせながら高度を落としていく。

 

 そのまま地面へと降りると俺たちは精霊たちの顕現を解きつつ眼前に広がる歪な螺旋のような形状を描きながら天高く伸びている塔を見つめる。

 

「ようやく着いたね」

 

「これが……ルナの遺跡」

 

「歪な形」

 

「写真で見たことはあったけど間近で見るのは初めてだ」

 

 皆がルナの遺跡を見上げながらそれぞれの感想を述べる中で俺は無言で遺跡を見上げる。

 

「……………」

 

 何ともまぁ、不気味な形状の建物だ。オーウェンはこの建物の建造目的に祈祷の祭壇なんて言っていたがそんな神聖な行為をする為の建物には見えない。

 

「よしッ!行こう!!」

 

 このチームのリーダーであるセリアの号令の下、俺たちはルナの遺跡の入り口へと向かって歩き始める。

 正直、予想以上に不気味な雰囲気を放つ遺跡に入ることに躊躇いを覚えるが今更帰りたいなどと言う訳にもいかない。とりあえず何があってもすぐに迎撃できるように携帯している巻物状の依代から封じていた微精霊を呼び出して簡易契約を結ぶ。

 

「気が早いね」

 

「念の為だ」

 

 ガレスにそう言いながら俺は警戒を強める。

 どうやらルナの遺跡の周辺には微精霊などの力の弱い精霊は寄り付かないらしい。そうなると俺の戦闘手段は予め依代に封じてきた精霊たちだけになる。あまり下手な動きをして精霊をやられるとマジで役立たずになるので注意しなければ。

 

 

「それじゃ開けるよ、準備は良い?」

 

 

 ルナの遺跡の入り口である扉の前まで来るとセリアが最後の確認を取ってくる。俺たちが頷くのを確認するとセリアは扉を開けると同時に全員で中へと入り込む。

 

「暗い」

 

「炎よ」

 

 中には日光が届かず証明も無く真っ暗闇だった為、俺が近くを浮遊している火の微精霊に霊力を流して周囲を照らさせると三日月と月を見上げる一人の女性が描かれた壁画が視界に入った。

 

「これは……」 

 

「恐らくは月の女神ルナでしょうね」

   

 火の霊術を使って炎を出して壁を照らすレイアが壁画を眺めながら呟いた。

 

「綺麗に描かれてるね」

 

「きっと名のある画家が描いたんだろうね」

 

 

 感心した様子で壁画を見つめるセリアにガレスが同意する。俺も芸術とやらよく分からないがそれでも女神の月に照らされて黄金に輝く髪や瞳など神秘さがよく表現された美しい絵だと素人なりに思う。

 

 とそんな風に俺たちが呑気に壁画に見惚れてる中で一人、目を離してはいけない奴が静かに周囲を探索していたことを俺は完全に失念していた。

 

 その結果—————-。

 

「あっ」

 

 リリーのどこか焦ってるんだか落ち着いてるんだか分からん声と共にガコンという何かが沈んだような音が響き渡る。やりおったな、コイツ。

 

 焦る間も無く先程まで暗闇に包まれていた神殿内が昼間のように明るくなり、地面と天井に描かれた無数の幾何学模様の魔法陣までハッキリと確認できるようになった。

 

 もしかしなくても嫌な予感がする。

 

 

「リリー、何を押した!?」

 

「よく分かんないけど壁を触ってたらいきなり壁が沈んだ」

 

「ただ明かりが点いただけじゃ……無いよねぇ」

 

 セリアの懸念を肯定するように地面に描かれた幾つもの魔法陣が霊力を帯びて光を放ち始めた。どう考えても召喚陣です、お疲れ様です。

 

 

「多いな、どう戦う?」

 

「いえ、逃げましょう。この数を相手に戦い続けるのは得策じゃないわ、奥にある階段から上がりましょう」

 

「了解、なら殿は俺が務めよう」

 

 ガレスの問いにセリアは瞬時に逃走を決めると俺は殿の役割を受け持とうとするがそれに待ったを掛ける声があった。

 

「待って下さい。殿なら一番下である私が………」

 

「お前のサラマンダーじゃこの密室で本気を出せないだろ?それにこの建物を下手に傷付ける訳にもいかないしな。俺が適任だ」

 

 サラマンダーは強力な精霊であると同時に使い辛い精霊でもある。高位精霊ほど良くあることだが手加減しても尚火力が高過ぎるが故にこういう遺跡などの貴重な建築物の中での戦闘には向いていない。間違っても壁画を黒炭にしようものならばどんなバッシングを受けるか分かったものでは無い。

 

 

「僕も残ろう。ベオなら戦える筈だ」

 

 

「……分かった、頼む」 

 

 ガレスの申し出に一瞬悩んだが確かにガレスの契約精霊ならばこの空間内でも問題無く実力を発揮することができるだろう。

 

「私も残———」

 

「お前はセリア達と行け」

 

 トラブルメーカーも残るとか言い出したので即刻却下すると不満そうにしながらセリアに腕を引かれて後方へと下げられる。

 

 とそんなやり取りをしている間に魔法陣から黒い鎧に身を包んだやけにふくよかな体型をした騎士らしき姿のガーディアン達が姿を表した。しかも全員なんか背中に黒い翼を生やしてるけど、コイツらもしかしなくても天使ですか?  

 

「ローク、これは……」

 

「男に二言は無しだ。やるぞ」

 

 どう考えても遺跡を守るどころか破壊しに来てるとしか思えないような防衛システムに冷や汗を流しながらも俺は依代から剣精霊を呼び出す。

 

「来い、ベオウルフ」

 

 ガレスが魔剣を鞘から抜くと同時に彼の契約精霊が隣に現れる。普通の虎や獅子よりも一回り以上大きい巨体、灰色の獣毛に身を包み全身から冷気を放つその姿は雄々しくどこか不気味な美しさがあった。

 

 氷狼ベオウルフ、それが彼の相棒である契約精霊の名だ。遠距離から近接戦闘まで不得意無く戦える上に派手な大技を扱わずに戦えるベオウルフはまさに今の状況では打ってつけの精霊と言えるだろう。

 

 

「最初にベオウルフの一撃で道を作るから階段までダッシュ、その後僕とロークで足止め。それで良いかい?」

 

「異議無し」

 

 俺が頷くとセリアたちもそれで良いと首を縦に振った。それを確認したガレスは剣を構えながらベオウルフに視線を向ける。主の視線に意図を理解したベオウルフの身体から霊力が溢れ始める。

 

「それじゃ、カウントダウンを始めるよ。3……2……1……やれッ!ベオウルフッ!」

 

「ガァァアアッ!!」

 

 ガレスの指示と同時にベオウルフが遺跡全体に響き渡るのでは無いかと思うほどの咆哮を上げ、同時に俺たちのいる地点から階段までの間200メートルちょい程であろう道に氷で作られたトンネルが形成される。

 

「全員走れッ!そこまで頑丈じゃ無いからすぐ壊される!」

 

 ガレスの叫びと共に全員がトンネル内を全速力で駆ける。同時にベオウルフは高く跳躍して侵入者を排除しようとハルバードのような武器を構えて迫ってくるガーディアンたちの足止めに入った。

 

「行け」

 

 俺も撹乱用に依代から召喚した小鳥の風精霊を呼び出して契約を結ぶとそのままガーディアンたちへと向けて飛ばし、僅かに遅れて走り出す。

 

 

「ッ!遅いッ!」

 

「えっ、きゃッ!?」

 

 走り出してすぐ決して遅い訳では無いがそれでも俺たちと比べて少しばかり遅れているレイアの元へと向かうと小さな身体をお姫様抱っこの形で抱えて再び全力で走る。突然の出来事に困惑した様子を見せるレイアだが今は構ってられない。

 

「ローク。私も」

 

「今そんなこと言ってる場合か!?お前速いんだから走れッ!」   

 

「扱いの雑さに異議を申し立てる」 

 

 

 霊力による身体能力の強化が周りと比べても抜きん出ている俺は前を走るリリーに合流すると今日何度目か分からない不満げな表情を浮かべる。同時に背後の氷が盛大に砕ける。どうやらベオウルフと風精霊で対応し切れなかったガーディアンたちが来たらしい。

 

 

「いいから走って!?何なら今度してやるからッ!」

 

「うん、約束」

 

 俺は背後の光景に悲鳴混じりに次にしてやると約束をするとリリーは満足そうに頷いた。マジでこの状況でこんな話ができるリリーの胆力は凄まじい。

 

「階段よ!そのまま登ってッ!」

 

「レイア、降ろすぞ!いけるなッ!?」

 

「は、はい!」

 

 セリアの叫びに俺が抱き抱えているレイアに確認を取るとかつて侮辱された男に抱っこされたせいか顔を真っ赤にしてレイアは怒ってるようだった。申し訳ないけど今は緊急時なので許してくれ、本当に。

 

 そのまま三人が階段へと消え去っていくのを確認すると同時に氷のトンネルは完全に崩壊し何体ものガーディアンたちがこちらへと向かってくる。

 

 

「いけるか、ガレス?」

 

「君に剣を教えたのは誰だと思ってる」

 

 迫ってくるガーディアンたちを前に俺とガレスは互いに笑みを浮かべると剣を構えて迎撃に入った。

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