真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第89話

「優勝、おめでとうございます」

 

 精霊院の大司教から手渡された優勝トロフィーをミーシャが受け取るとその瞬間、会場から拍手と歓声が響き渡る。

 

 特に今回の大精霊演舞祭の優勝校である我がユートレア学院からの歓声は凄まじく中には感極まって涙を流しそうになっている者までいるほどだ。

 

 この表彰式を前にして学院の誰もが今回の勝利に対して歓喜の声と笑みを溢す中でまるで俺だけが場違いに暗い表情を浮かべていた。

 

「ローク、どうかしたの?」

 

「……いや」

 

 そんな俺の様子を不審に思ったのだろう。

 不思議そうに俺の顔を見上げてくるリリーに俺は何でもないと首を横に振る

 

 様々なハプニングこそありながらも無事に大精霊演舞祭を終え、こうして表彰式も終えた今、各学院が集合してパーティが催される訳だが……正直言って素直に勝利を喜べる状況では無かった。

 

 それはユーマの別れ際の発言や自分ことついて色々と考えることがあるのは勿論だが、それ以上に————。

 

「アレアスくんってこの大精霊演舞祭の間に一回も契約精霊呼んでないよね? なんで?」

 

「噂には聞いてたけど、マジで呼ばないんだな!」

 

「なぁ、もう演武祭終わったんだし契約精霊見せてくれよ。凄く気になるんだけど」

 

「ケチケチするなよ、いいだろ!」

 

「なぁ、最後の競技の時、映像が切れたんだけど何があったんだ? なんかリベル学院の会長の姿もないし」

 

 これである。

 

「だぁああああああッ! いっぺんに来るなッ! 散れ散れッ!」

 

 俺は眼前の学生たちに全力で叫ぶ。

 立食形式ということもあり、俺の契約精霊の存在に興味を持った他校の学生たちがここぞとばかりに詰め寄ってくる。

 

 何だかある種のデジャヴを感じる光景ではあるが、今やそんなことを気にしている場合じゃない。

 

「君はどこに行っても人気だね〜」

 

「呑気に言ってないで助けてくれよッ!?」

 

 いつの間に取りに行ったのか、美味しそうなステーキの一切れを優雅さを感じる動作で口に運ぶガレスに俺は叫ぶ。

 

「無茶言わないでくれ、どう見ても僕一人で止められる程度の熱量じゃないよ。というか、これ僕も囲まれてない?」

 

 他人事全開で呟いていたガレスはそこでふと周囲に視線を向け、自分も囲まれていることに気付く。

 

「あの、オーロット様ッ! 良ければ私とお話しませんか!?」

 

「私も、一緒にお話しさせて下さいッ!!」

 

 ザマーミロと思うのも束の間、俺に対してとは別種の熱量を感じさせながらガレスに詰め寄る女子学生たちの姿に言い知れぬ怒りと悲しみ、嫉妬が湧き上がってくる。

 

「………」

 

 何だろう、状況的には同じ筈なのにどうしてこれほどまでに差があるのだろうか。

 

 いや、そんなことを気にしている場合じゃない。とにかく今は彼らから逃げる必要がある。

 

 ユーマのことは精霊院とリベル学院の両方に俺の邪霊のことを隠して報告した後、混乱を招かない為に内部に話すことは禁じられている。

 

 そして、俺の契約精霊に関しては言うまでもない……というか、そもそもいない。

 

 つまり、彼らに話せることは何一つない。何なら話している内にボロを出して話してはいけないことを口にしてしまいそうで怖い。

 

「アレアスくん、話を——————」

 

「申し訳ないけど、話せないッ!!」

 

 声を掛けてきた学生たちを振り切り、俺はそのまま駆け足気味にパーティの会場を後にして外へと脱出する。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 とりあえず彼らも外までは追ってくる気は無かったらしく、後ろを振り返っても人の姿は無い。

 

「……はぁぁ」

 

 安堵の息を漏らすと共に後悔の念が湧き上がってくる。

 

 折角、美味そうな料理が沢山あったのにまだ碌に食えていない。ほとぼりが冷めた頃に戻ろうとは思っているが、果たしてそれまで料理は残っているだろうか……。

 

 

「…………」

 

 そんなことを思いながら何気なく空を見上げると星と満月が輝く随分と美しい夜空が広がっていた。

 

「綺麗な夜空ですね」

 

 背後から聞こえてくる透き通った声に振り返ると夜風によって靡くブロンドの髪を手で抑えながらミーシャが近付いてきた。

 

「お前、会場にいなくて良いのか?」

 

「その言葉、そっくりそのまま貴方にお返ししますよ」

 

「あの状況じゃ逃げる以外に選択肢なんて無いだろ……」

 

「ふふっ、そうですね」

 

 俺の言葉にミーシャは微笑みながら隣に並ぶ。

 なんか流されたけど、仮にもユートレア学院の生徒会長がパーティを途中で抜けちゃって良いのだろうか?

 

 

「なぁ、やっぱり———」

 

「そう言えば、まだお礼を言っていませんでしたね」

 

 俺の言葉を遮り、ミーシャはそう言って顔をこちらに向ける。

 ミーシャの整った美貌が月明りに照らされてより神秘的な美しさを纏う中、彼女は口元に弧を描きながら俺に向かって感謝の言葉を口にする。

 

 

 

「最後の競技の時、私を守ってくれてありがとうございます」

 

 

「ッ………守るって、大したことはしてないぞ」

 

 

 ミーシャの浮かべた笑みの美しさに一瞬、言葉を詰まらせながら俺は何とかそう言葉を返す。

 

 完全に失念していた。何度か見ているから問題ないと思っていたが、流石に学院一の美人と言わているだけあり、笑顔の破壊力が凄まじい。

 

 

「朧気ではありますが、覚えていますよ。貴方が邪霊との戦闘中、ずっと私を庇いながら戦ってくれていたことを」

 

「えっ、意識あったの?」

 

「ええ、貴方が私をゴーレムで避難させたところで完全に意識を失いましたが」

 

 つまり、その言い方だと俺が腕で抱き抱えていた辺りの意識はあったらしい。

 

 あぶねぇ……あの時、クロムの攻撃からミーシャを助ける為とはいえ放り投げなくて良かった。下手したら不敬罪になっていたかも知れない。

 

「貴方がいなければ恐らく私はあの時、死んでいたでしょう」

 

「それは少し大袈裟な気が……」

 

 ユーマのことを思い返しながら俺は言う。

 苛烈な言動と思想を持つ男ではあったが、その根底には間違いなく優しさがあった。恐らくミーシャを殺す気は無かった筈だ。

 

 

「それでも、私は貴方に助けられました」

 

「……まぁ、そこまで言うなら感謝は有難く受け取るよ」

 

 胸元に手を当てながら幸せそうに話すミーシャに俺は気恥ずかしくなり、頭を掻きながら顔を背ける。

 

「ええ、そうして下さい」

 

 今日のミーシャは大精霊演武祭に優勝したと言うこともあり、機嫌が良いのだろうか。

 

「ふふっ……」

 

 普段よりも笑顔がやけに多い気がする。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 そして会話が無くなった。

 いや、別に気まずさは無いのだが変に居心地が悪い。

 

 ミーシャは何が嬉しいのかずっと微笑んでいるし、何だこの空気は。

 

 

「……そ、そろそろ会場に戻りましょうか?」

 

 このままこの場に留まると変な気分になりそうだと直感した俺は会場に戻ることを提案しようとするが、緊張で口調がおかしくなる。

 

 

「いえ、折角ですからもう少しだけここで夜風に当たっていきませんか?」

 

「いや、でも……」

 

 まさか拒否されるとは思わず困惑しながら口籠っていると突然、腕に温かさを感じる。視線を向けると遠慮がちにミーシャの華奢な手が腕を掴んでいた。

 

「……ダメですか?」

 

「……ダ、ダイジョブです」

 

 

 ダメと言えなかった。

 マズい。完全にミーシャのペースに乗せられている。

 

 どうにかこの流れを変えなければ……ッ!

 

 

「そう言えば、あの邪霊を倒した最後の一撃。貴方、あんな奥の手を隠していたのですね」

 

「あれは師匠から貰った精霊で大精霊演武祭用の奥の手だよ。いつも使える訳じゃない」

 

 するとこれ幸いとばかりにミーシャがミストルティンのことを言及してきたので話に乗っかりながらこの流れを変えようと試みる。

 

「そうなのですか?」

 

「ああ。もう何度も言っているけど、お前との学位戦は本当に全力で戦ったよ」

 

 疑いの目を向けてくるミーシャに俺はそう答える。

 まぁ、実際にはミストルティン以外にも謎の力があったぽいがそこはスルーする。俺自身もよく分かってないし。

 

「では、何で試合に負けた後、あんな発言をしたのですか?」

 

「え、あ~あれか……」

 

 俺は一年の頃を思い返し、顔を顰めながら呟く。

 ハッキリと覚えている訳では無いが、確か『今回は俺の負けだ。真の決着は次に預けておくぜ』とかぶん殴りたくなるような痛々しい捨て台詞を吐いた記憶がある。

 

「あれは、その……なんていうか格好を付けたかっただけだよ」

 

 俺はため息混じりに答える。

 誤魔化そうとしたが、変に嘘を付いて誤解を与えるのは懲り懲りなのでハッキリと事実を述べることにした。  

 

「格好付けですか。どうして?」

 

「あの時はお前に負けて格好悪いと思ってたんだよ。まぁ、そういうお年頃ってやつだな」

 

 胸を掻き毟りたい気持ちに駆られながら俺はあの頃の自分のことを説明する。

 

 

「ふふっ!」

 

「笑うわなでくれよ、今はともかくあの頃は特に格好を付けたいと思ってたんだよ」

 

「ふふっ、すみません。つい……」

 

 案の定と言うべきか、口元を抑えながらクスクスと笑い出すミーシャの姿に俺は頭を抱えたくなる。

 

 まぁ、けれどお陰で場の雰囲気は変わった気がする。

 少なくとも先程までの気まずさは消えているので黒歴史を晒した甲斐はあっただろう。

 

「けれど、それが理由なら随分と無駄なことをしましたね」

 

「無駄って何が?」

 

「分かりませんか?」

 

 だからこそ俺は油断していたのだろう。

 

 

 

「ローク、貴方はいつも格好良いですよ」

 

 

「………………へ?」

 

 

 不意打ちで放たれたその言葉を俺の脳は処理することができず、惚けた表情を浮かべたまた硬直してしまう。

 

 

 俺、今なんて言われた?

 格好良いって言われたか? あのミーシャに?

 

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いや、何でも……」

 

 ミーシャに声を掛けられたことで再起動には成功したが、絶賛混乱状態に陥っている。

 

「おや、ローク。少し顔が赤いですよ?」

 

「そんなことは無い。気のせいだろ」

 

 嘘である。

 普通に顔が熱いし、心臓は無駄に激しく脈打っている。努めて平静を装っているつもりだが、多分顔は普通に赤くなっているだろう。

 

「ふふっ、本当ですか? なら近くでよく見せて下さい」

 

「おい、ちょっと待てミーシャ。お前、仮にも一国の王女がこの距離感はヤバ———」

 

 普段のミーシャからではあり得ない距離の詰め方に動揺を激しくしていた俺はふと嫌な視線を感じて目を建物の入り口へと向ける。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 すると入り口からこちらをジッと伺う見慣れた人物たちが視界に入った。

 

 月明りに照らされて輝く銀色の髪と紅い瞳を持つ後輩はその顔を真っ赤に染めながらこちらを見つめており、普段から何考えているか分からん同級生は相変わらず思考の読めない表情でこちらを見つめていた。

 

「…………」

 

 そして彼女たちの一歩後ろで親友が申し訳無さげに片手で謝罪の意を示していた。

 

 

 

 ……それは一体、何に対する謝罪だ。

 

 

「……残念。どうやら戻る時間の様ですね」

 

「えっ、ちょっ」 

 

 

 ミーシャも三人に気付いたのだろう。

 言葉とは裏腹にどこか満足感のある声音でそう呟くとサッと身体を翻して会場へと戻っていく。

 

「ろ、ローク先輩ッ! ミーシャ様と何を話していたのですか!?」

 

「………」

 

「いや、何をって言われても……ちょ、やめろリリー。無言で脛を蹴らないで」

 

 ミーシャに頭を下げるやレイアとリリーは勢いよくこちらに迫ってくるや言葉と物理で俺を責めて立ててくる。

 

 勘弁してくれ。

 俺もまだ情報の処理が終わっていないのに……。

 

「邪———を——————か?」

 

「い———、そ———な——————んよ」

 

「そ———すか? い—————け———」

 

「………」

 

 二人の猛攻を受けている中、すれ違い様にミーシャとガレスが何か言葉を交わしているのを確認するが、何を言ってるかまでは聞き取ることまではできなかった。

 

 非常に気になる。

 

「聞いているんですか、ローク先輩ッ!?」

 

「あ、ごめん。ちょっと待っ———いったぁああッ!?」

 

「…………」

 

 リリーのクリティカルヒットを受けて蹲る俺に下にミーシャとの話を終えたガレスがやってくる。

 

「良いですか、ミーシャ様は仮にも王族なんですよ。同じ学生とはいえ距離感というものをですね———」

 

「…………」

 

 変わらず暴力を浴び続ける俺にガレスは一言。

 

「ローク、なんかごめん」

 

「だから何がッ!?」

 

 俺の切なる叫びが夜空に響き渡った。

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