転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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復帰2話目となります。
いよいよ、下拵えの段階は終わり、本格的に調理に入るみたいですよ?





第380話 ”国籍剝奪並びに破門通知。および指名手配書” ~近衛公麿という漢について~

 

 

 

 1943年10月下旬、”北イタリア社会主義共和国”を僭称するならず者達の支配地域上空に、日の丸を胴体と翼に描いた無数の四発大型爆撃機が翼を翻した。

 イタリア北部に展開できる全ての深山、連山を投じて行われたその作戦、各都市に一斉投下されたのは断じて爆弾ではなかった。

 爆弾層からキャニスターで落とされ、空中散布されたのは数え切れないほどの”辞書と見間違うほどの分厚い冊子(・・)”……

 その冊子の表紙に書かれた文字は、

 

”国籍剝奪並びに破門通知。および指名手配書(Avviso di privazione della cittadinanza e di scomunica e manifesto di ricercato)”

 

 という物だった。

 内容は至ってシンプルだ。

 

 イタリア新王アルヴァトーレ・アオスタならびにイタリア新王立議会の連名で、”北イタリア社会主義共和国”を僭称する叛乱勢力の首脳部を含めた幹部、準幹部、主要構成員と目される300有余名に対する『イタリア国籍の永久的剝奪』の宣告。

 続いて、ローマ教皇ならびに教皇庁から上記の300有余名に対する『破門宣告』が出されたことが記載されている。

 一度の同時破門人数としては史上最多かもしれない。

 無論、どちらも印刷物とはいえでかでかと新国王と現教皇の署名が記されていた。

 

 この二つがトップであり、続いてのページには北部赤化勢力に対する”立場”の明確な説明があった。

 即ち、上記の300有余名に『イタリア北部を不法占拠する無国籍(非キリスト教徒の)テロリスト』として、懸賞(・・)がかけられた事が明示されていた。

 支払い条件は、生死は問わないが『本人確認ができる状態であること』。巧いのは被疑者が生存の場合は『追加ボーナス』が発生すると明記されてることだ。

 そう、「被疑者が死んでいたら減額」ではなく、「生存の場合は増額」と記せば、同じ事象であるのにモチベーションの上昇で『被疑者が生け捕りされる率が上昇する』ことを見越した上での書き方だろう。

 そして、よりえげつないのは……懸賞金は北部では紙屑同然に近い扱いのイタリアン・リラではなく、北部で最も欠乏している『食糧・酒・・医療品・衣料品・燃料・その他の生活必需品の現物で支払う』と記されていたのだ。

 おまけに総重量トン単位になるだろう物資の搬出の為に、『燃料満タンのトラック』まで付けるという至れり尽くせりっぷりだった。

 

 そして、最大のページ数を誇るのが、その後に続く『300名以上の名前だけでなく罪状やその他の詳細を記した、人物によっては顔写真まで記載された”賞金首”リスト』だ。

 情報は政府機関が独自に調べただけでなく、どうやら”カモッラ”などの北部にコネや傘下あるいは提携提携組織鵜のあるマフィアからも多くの提供があったようだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 だが、皆さんは不思議に思わないだろうか?

 300名以上の”賞金首”、無論、支払われる報酬はピンキリだが、リストの最後の方のキリでも最低限、現代日本で言うところの軽トラの一杯分の生活物資が、軽トラごと支払われるのだ。

 こんな大盤振る舞い、ようやく荒れ果てた国土復興に着手しはじめた新イタリア王国に可能だろうか?

 答えは当然のように不可能で、では誰かと言えば、日本皇国政府でしか有り得ない。

 

 いや、正直に言おう。

 そもそもこの筋書き自体を作成したのが日本政府。もっと言えば……

 

【挿絵表示】

「さて、どうすりゃ一番楽に”北伐”できるもんかねぇ……」

 

 この男、日本皇国首相近衛公麿こそが元凶だった。

 

(孔明の弐の轍なんざ踏んだら笑い話にもなりゃしねぇし)

 

「まあ、まともな戦争する必要はねぇって陛下のお墨付きは得られたはいいが、かといって手っ取り早く”駆逐”するに越したことはねぇな」

 

(まあ、”スナーク狩り”をアレンジ、いや手直ししてみるか……)

 

 近衛が脳裏に思い描いたのは、おそらく原典であるルイス・キャロル著の方ではない。

 それをモチーフにしたとある漫画に出てくる敵役、”レッドキャップス”が主人公チームに用いたそれだろう。

 具体的には、

 

 ・とある街を武力を用いて包囲・周辺との連絡を断ち切り孤立させる

 ・その街の住人に、『対象者(主人公達)を連行する』ように通達

 ・それが成されれば命は助ける。だが、もし断るのなら、対象者ごと住民を皆殺しにする

 

 簡単に言えば、そういう作戦だ。

 作中では「残酷な作戦」とされていたが、似たような事例は特に近代以前では歴史上、随所に登場する。

 ただ、この手の作戦は実際の戦では実はあまり成功率は高くはない。

 理由は、被包囲者の”確定死への恐怖”を担保とした脅迫である以上、『包囲する敵対者と包囲される側の市民との圧倒的な武力差と、市民側からの敵対者に対する”確約の信頼”』がなければ成立しないからだ。

 単純に『包囲者と被包囲者との間の戦力差が小さければ、抵抗する方が生存率が高く合理的』と判断されかねないし、『対象者を引き渡してもその後に皆殺しにされる』と思われれば、そもそも成立せずにそれこそ命がけで必死に抵抗するだろう。

 そして、これを”この世界線の現実”に照らし合わせると、確かに日本皇国軍は(北部赤色勢力に比べれば)圧倒的な軍事力も信頼も信用もあるが、その信頼の質が違うのだ。

 

”皇国軍は無抵抗の市民を、殺さない(・・・・)

 

 つまり、上記の”被包囲市民の死への恐怖”を担保とする脅迫には致命的に向いていないのだ。

 だから、近衛は……

 

(内部崩壊を起こさせ、内ゲバを惹起させて消耗を促すってのは変わらんが……)

 

「”死への恐怖”ではなく、”生存への渇望”を突っつくべきだろうな」

 

 旧イタリア軍が挙って降伏・投降してきた”日本皇国への信頼と信用(・・・・・)”を担保とすることにしたのだ。

 例えばである。これらの懸賞金ならぬ懸賞品をイタリア王国政府が支払うと言っても、北部赤色勢力は『イタリア王国にそんな余力はない』と事実を武器に捻じ伏せることもできるだろう。

 しかし、懸賞品提供者が”日本皇国”だと明記されていれば果たしてどうだろうか?

 そう、『地球の裏側からはるばる戦争を仕掛けてきて、同時に捕虜を飢えさせずついでにとばかりイタリアの復興支援まで行える』相手だ。

 北部に封じられたイタリアンにとり、「日本人ならその程度なら平然とできる。だから確実に支払われる」と思うのはなんらおかしなことではない。

 実際には、皇国もそこまで膨大な余力があるわけでは無いのだが……

 ついでに言えば、支払方法を「価値が急降下中のリラではなく現物支給」にしたのも近衛のアイデアだ。

 

(貴金属も宝石も、煮ても焼いても食えねぇからな。換金しようにもその銭金自体がほとんど紙屑に成り果ててる)

 

 だからこそ、「一番足りず、一番必要な物」を餌にしたのだ。

 今回の”賞金首の手配書”は、単純な通達やプロパガンダではなく、文字通りの”撒き餌”だった。

 いや、”和仁とマリアンナのラブネタ”もその他のあらゆる情報操作も、所詮は”北伐”を成功させるための呼び水や撒き餌に過ぎないのだ。

 

「これまで南部に比べれば贅沢三昧してきた北部の連中にとっちゃあ、食うのにさえ困る状況ってのは、さぞかし刺さるだろうな」

 

(貧困層出身なら質素な食事も、あるいは死なない程度に食えないことは耐えられるだろうが)

 

「北部の金持ちが、食い物すら満足に手に入らないって状態にどこまで耐えられるもんか……見物だぜ」

 

 クックックと喉の奥で笑う近衛である。

 

「近衛君、随分と悪い顔してるじゃないか?」

 

 そう声をかけてくるのは官房長官の広田剛毅で、

 

「広田サン、俺っちは元々性格悪いんだぜ?」

 

 あながち虚言とは言えない。

 皇国政界のマイルドヤンキーとはいえ、これまでの近衛は最低限の『戦時下の(・・・・)皇国首相』としての倫理観(モラル)は持っていたはずだ。

 だが、その政治家としてのモラルと”勅”を同じ天秤に乗せれば、その結果は自明の理だ。

 そもそも、「やんごとなき方直々に”戦争はもういいよ”」と言われたのだ。

 今更、何を躊躇する必要があるというのか?

 そう悟った瞬間から、近衛はあらゆる選択肢を取れる思考的フリーハンドを得たのだ。

 

「イタリアもバチカンもこっちの要請通りに動いてくれた。まあ、資金繰りから”手配書”のバラマキ、懸賞の準備まで皇国(こっち)で面倒見ンだから、それも当然かもしれねぇが……」

 

 倫理観を一時棚上げし手段を択ばばくなった……否、選ぶ必要の無くなった近衛公麿という男は、その本質において敵対者であるスターリンやルーズベルトとは異質の”恐ろしさ”があるのだ。

 べらんめぇ調で喧嘩上等の鉄火肌……確かにそれは近衛の一側面ではあるが、決して全体像ではない。

 本当にただの『皇国政界のマイルドヤンキー』で全てを表せる漢であるのなら、米ソを向こうに回す皇国首相の椅子など回って来なかっただろう。

 ”転生者特有の恐ろしさ”と言うのなら、ドイツのヒトラーに英国王のリチャード、サンクトペテルブルグ大公のクルスもそうだろうが……やはり件の二人と比べても、近衛のそれは方向性が違うというか、”異質”に思えてならない。

 

「既に”賽は投げられた”か。これで北部は血みどろ確定だが……どうする?」

 

 意見を聞くというより確認する広田の言葉に、

 

「どうもこうもねぇさ。北部の反共勢力やら地元民だけで殲滅できるほど、流石に反動勢力もヤワじゃねぇだろうさ。だが、分裂を誘発し分断できればそれで十分だ」

 

 懸賞狙いの北部人は捨て駒だと言い切るような口調だった。

 いや、それとも”必要な犠牲”だろうか?

 

「アカなんて素っ頓狂なモンに傾奇(かぶ)れたイタ公の血がどんだけ流れようが、皇国の知ったこっちゃねえよ。適度に”間引きあって”弱体化した頃合いを見計らい、”治安回復”名目で都市戦制圧部隊を投入。分断され”同志討ち”で消耗したアカ共の各個撃破狙いで、必要な場所に必要な時に必要なだけの戦力を放り込むだけだ」

 

 今更ながら普段の近衛は、相応に「モラルのある政治家」だったようだ。

 その仮面を脱いだ今だからこそ、それがはっきりと分かる。

 

「俺っちは”北伐”が達成できればそれで十分ってこったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




喧嘩上等の鉄火肌、政界のマイルドヤンキー……しかし、それは虚像ではないけど近衛の一面に過ぎず、一皮むけば顔を覗かせるのは『皇国以外は心底どうでもよい、怜悧冷徹冷厳なマキャベリスト』ってのが本質のような気がします。
むしろ、普段の『喧嘩屋近衛』としての姿は、『戦時政治家としてのモラル』が出ている状況で、それをかなぐり捨てれば『冷笑しながら悉く敵を嵌め殺す策略家』なのかも?
いずれにせよ、近衛の思考的リミッターを解除したどこぞの陛下が悪いというw

実際、新イタリア王国政府も教皇庁も、「書面を作成する」だけで他の面倒は全て皇国が請け負う美味しい作戦で在り、皇国としては作戦の結果として”この先、何が起きよう”が「皇国はスポンサーに過ぎない」と強弁できる政治的旨味があります。

まさに『(イタリア北部を除く)皆で幸せになろうよ(Win - Win)』って事でw

さて、次回は”国籍剝奪並びに破門通知。および指名手配書(Avviso di privazione della cittadinanza e di scomunica e manifesto di ricercato)”がばら撒かれた後の北部の様子などを……

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次回もどうかよろしくお願いいたします。








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