転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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本日はお休みなので午前アップ。

まあ、クルスが色々と「やらかす」模様ですよ?







第421話 香港租借権の売却提言 ~やっぱりクルスの感覚は外交官に向いていない件について~

 

 

 

「今のところ言えるのは、”大英連邦(コモンウェルス)”というリチャード王を頂点とする同君連合を、きちんとした”完成されたサプライチェーンとマーケットを持つ独立した経済圏”として成熟させ、『内需循環(・・・・)』によって運営ができるようにする事だな。ドイツが計画している”マルク経済圏(レーヴェンスラウム)”もそうだが、”大英連邦(コモンウェルス)”も資源の採掘などの一次産業から製造加工の二次産業、金融取引を含む商業の三次産業まで全て揃っている上に消費人口も十分だ」

 

 クルスは一度言葉を切り、

 

 

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「であるならば『英国とその経済圏の居住者全員を十分に食わせられるエリア』まで成長させる事が出来れば、大英帝国に衰退は無いと思うぞ?」

 

 

 

 

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「アハハハっ♪ 大公、貴方ってやっぱりサイコーよ♡」

 

 そう上機嫌に笑うのはドロシーで、

 

「まさか私と同じ様な”ビジョン”をもっているのが、”サンクトペテルブルグのアカ狩り王(・・・・・)”だとは思わなかったわよ♪」

 

 なんかクルスにまた妙な仇名が付いた気がするが……

 とりあえず、ドロシーが「北部アイルランドをさっさと米国に売り払って、北海油田を手早く採掘しよう」とか考えている女だというのは忘れてはならない。

 

「他になんか面白いアイデアとかってある? せっかくだから聞かせてよっ♪」

 

「大したもんはないぞ? 強いて言うなら、英国のアイスランド駐留を行ったら、対米緊張度は一気に跳ね上がるだろうから……緊張緩和(デタント)の名目で、『英国側(・・・)からの”香港の租借権”の売却』でも言いだせばどうだ? 正確には香港島、九龍、新界を含めた英領香港の全てだな。如何にも釣れそうだろ?」

 

 少し補足すると、香港島は阿片戦争での1842年の南京条約で、九龍半島は1860年の北京条約、新界は1898年の展拓香港界址専条によりそれぞれ英国の租借地となっていた。

 

 

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「デタント? それはどういう意図だ?」

 

「表向きは『英国が米国との直接対立を回避する』と米国側に誤認させる”撒き餌”。本当の目的は香港(ソコ)を起点とした”米国勢力の広東省・福建省・浙江省への誘引(・・)”だな」

 

 現在、米国が押さえている中国領域は”渤海海峡通商条約”で入手した米領遼東半島(リャオトン)、米領山東半島(サントン)

 そして、米国がバックに付いている中国国民党(自称”中華民主共和国”。通称”民主中国”)の支配地域は、史実の満州+華北5省(山東省、山西省、斉斉哈爾省、河北省、綏遠省)+河南省&安徽省、江蘇省(ただし、前述の理由で遼東半島と山東半島は除く)となっていた。

 

 中国の地図を見てもらえると分かるが、香港と接する広東省を南・東シナ海沿いに北上すると福建省、そのさらに北が浙江省で、その北にあるのが民主中国の勢力圏がある江蘇省だ。

 

「まず、中国の沿岸部を香港を起点に、共産中国に先んじて全て支配権を確立できるのが旨味としてある」

 

 ※共産中国:中国共産党支配地域。自称”中華人民共和国”。現在、確定的な実効支配地域とされているのは暫定首都のある延安市を含む陝西省、甘粛省、青海省、四川省などであり、それ以外の地域が支配権が未確定とされていた。

 

 つまり、上記の広東省、福建省、浙江省はまだ民主中国、共産中国共に支配権が確立できていない地域だった。

 これにはいくつか理由がある。

 日本皇国が、上記の”渤海海峡通商条約”以降、本当に中華大陸より軍官民問わずに全面撤退してしまった為に、20年代から30年代の”(第一次)国共合作”の破綻によって勃発した”(第一次)国共内戦”を史実のような”抗日戦争”で止める理由がなく激化。

 中国共産党勢力が”長征”によって中国北西部に追いやられた事が大きな要因である。

 だが、国民党も国共内戦により疲弊しており、元より”上海共同租界”に代表されるような欧米勢力・資本が強い中国南東沿岸部に本格的に進出する余力は無かった。

 

「だが、今は第二次世界大戦の影響で特に欧州勢力の凋落が激しい。戦争に本格的に肩入れしてない余力のある米国をバックに付けた民主中国ならやりようはあるだろうさ。そして、日本に中国産の未加工レアアース鉱石を輸出して荒稼ぎしてる米国資本は決して反対しない。知ってるか? 広東省ってのは中国でも有数のタングステン鉱石の産地だ。他にもスズ、モリブデン、ビスマス、鉛、亜鉛、銅が産出した筈だ。福建省は鉄、銅、モリブデン、マンガン、鉛、亜鉛、金、銀の鉱脈が眠っている。他にも蛍石や黒鉛、ボーキサイトもあったはずだ。米国の直接の領土化はできなくとも、民主中国が押さえられれば万々歳だろ? 何しろ国民党と米国資本はズブズブだ。共産勢力と戦い続けるためには、軍資金がいくらあっても足りないし、地下資源を現金化するには米国資本の技術が必須だ。土に埋まってる間は1ペニーにもならないだろう?」

 

 ※ペニー、ペンス:英国の通貨でペンスはペニーの複数形。100ペンス(p)=1ポンド(£)。

 

 

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「ちょっと。それじゃあ、台湾島や海南島に陣取る日本を刺激し過ぎない?」

 

 前にも何度か述べたが、この時点で日本皇国は樺太島全域、海南島、台湾島を日清・日露戦争の戦利品として本国領土に組み込み、本気で国土開発を行っていた。

 当然、これら明治政府発足以降に組み込まれた”新領土”にも皇国軍の大規模基地が置かれている。

 

「いや、逆だと思うぞ? ”(すめらぎ)全否定の共産主義”に対岸取られるくらいなら、むしろまだ話が通じる……というか、背後の米国と交渉できる民主中国の方がマシだと考えるんじゃないか?」

 

 

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「そういうモン?」

 

「むしろ、せっかくの日英同盟なんだし、正規の外交ルートで確認すべき案件なんだろうが……多分、台湾島がこの先も日本のままだとするなら、前世みたいに半導体産業を根付かせる気は、少なくとも今のところは無いと思うぞ?」

 

 実は現在、台湾には農林水産業以外にこれといった産業、特に重工業はまだ根付いていない。

 まあ、”この世界線”の日清戦争は1870年ではあるが、それから70年ほども立っているが、その間は史実とは全く異なる”世代を跨ぐ緩やかな皇民化政策”を台湾島や他の新領土に行っていた事が大きい。

 最優先とされたのは、食糧自給率・食料供給率の改善だ。

 つまり、「新たに加わった皇国民がまず、腹を満たせて、明日の飯を心配しないようにする」事を最優先とする政策を討った。

 そもそも食糧事情が安定しなければ、他の産業を安定して育てる事など不可能と判断された。

 また、日本皇国の海外移民の実質的な禁止と人口爆発が大きな需要源となった事や、1930年代の農業の動力化、曰く”日本皇国のモータリゼーションは、自動車より先に農業分野において行われた”こと、また史実より四半世紀早い”コシヒカリ”の第一次世界大戦中の開発され急速に広がったというような事情も関係しているかもしれない。

 

 加えて電子産業自体が、世界最先端を突っ走る日英ですら、トランジスタの大量生産には(少なくとも表向きは)成功していない黎明期だ。

 時代の電子機材の主流はまだまだ真空管、日英そして独がようやく”パラメトロン”を用いた演算機の開発に成功してるって感じだ。

 まあ、日本皇国の場合。「トランジスタギターアンプの音を今生でも再現したい!」という熱意で民間技術者系転生者が開発を始め、30年代中盤には実験室レベルでの開発は成功されたとされるが……少なくとも、1944年1月時点で民生市場には出回ってる気配はない。

 

 蛇足ながら、史実でも実は1931年にジョージ・ビーチャムという米国の発明家が開発し、リッケンバッカー社が製造した”フライング・パン”が「最古のエレキギター」として歴史に登場している。

 また1936年にギブソン社が”ES-150”を発表し、初めて商業的に成功したエレキギターとされる。

 ただし、”この世界線”では、日本皇国において史実の天才レオ・フェンダーに先駆け、1930年代に「ソリッドボディ構造のエレキギター」、言ってしまえば”テレキャスター(エスクワイヤー)”モドキが各社で開発・発表され、1944年現在、ある程度高価な価格帯ながら日英を中心に一定の市場を形成していた。

 ただし、組み合わされる(市販されている)のは、真空管アンプのみだが……ただ、手巻がメインとはいえ、ハムバッカー(ハムバッキング・ピックアップ)が市販されているのはある意味、反則なんじゃないだろうか?

 

 こんな状況であるので、日本皇国本土でも軍機が絡む公費全力投入の最先端開発分野が電子技術であり、台湾島に持ってくるのは少なくとも現状では現実的ではない。

 

「台湾島にも農林水産に向かない土地もごまんとあるからな。なら、電子産業ではなくレアアース精製を地場産業として定着させる可能性は十分にある。となれば、産出地に近い台湾島の立地条件は運用コストから考えて有利にしかならないし」

 

 現実世界で中国はレアメタルの産地としてだけでなく、精錬・精製ができるから強いのであるが、”この世界線”においてこれらの精製・精錬技術は皇国にとり国家機密で門外不出。

 しかし、中国産の鉱石はレアメタルとして精錬する段階で、種類によってはウランやトリウムなどの放射性物質が出る場合があるので、皇国本土だと精錬できる施設が限られるのが悩みの種だ。

 

「レアメタル・レアアース産業が根付けば、どう考えても1世紀は食いっぱぐれる心配が無いのは利点だな。環境汚染には注意を払わねばならないが」

 

「それって日本皇国が南鳥島の海底泥濘レアアースが商業ベースで採取できるようになるまで?」

 

 流石は北海油田の前倒し早期開発を狙ってる女、海底資源にはそれなりに詳しいらしい。

 

「そういうこった。レアアース・ビジネスが成り立つ以上、いや後年にその価値が理解されれば米国も簡単に国民党を手放すことも無いだろうし。それに香港返還は前世で1997年。多少は返還時期は前後するかもしれないが、その時代まで国民党が中華本土で頑張っていられたら、香港返還の戻り先も(史実と違って)民主中国だ。そうなれば、民主中国はそれこそ米国にとり”金の卵を産むガチョウ”になってる可能性がある」

 

 もしかしたらその時代は、自前でレアアースの自国精錬を始めているかもしれないが。

 

「……大公、もしやと思うが、香港を皮切りに民主中国の価値を引き上げる事で、米国資本の誘引だけでなく『より大きな米国戦力の中国への貼り付け』を狙っているのか?」

 

「流石は”獅子王(ライオン)”。嗅覚が鋭い」

 

 クルスは小さく笑い、

 

「対日貿易で今や取引額トップに躍り出ているレアアース鉱石の輸出。”ノルマンディー”は流石に既定路線だろうが、『いつまでも金にならない欧州戦線』と『金のなる木が樹海作ってる中国』、米国資本層はどっちを優先したい? 例え、米国の赤色感染がどれほど重篤だとしても、あの国で最後に物を言うのは経済学。つまり、”どれだけ儲けられるか?”だ。まさに資本主義万歳だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クルス:「どうせ20世紀中に返還するんだから、今のうちに金満ヤンキーへ香港売り払ったら?」

やっぱこの漢、トンデモネーなっとw
確かに第二次世界大戦に本格参戦してないから、米国の資本家にはまだ余裕が有りそう。
そして、スナック感覚で提言された香港租借権売却が実際に起こると、絶対に日本皇国へしわ寄せが行く方向なのが何とも……

今回で終わらす予定だった蟲毒……じゃなかった。英国王夫妻とクルスの会談は、もうちょっと(次回)だけ続くんじゃよ。

いえ、陰謀絡めた香港の話題が思いの外長くなってしまって(汗
という訳で、次回は〆に入れれば良いな~と。

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