転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
前回に続いてドイツの極秘計画とエヴァンジェリンが中心のエピソードとなります。
さて、史実の話を少ししよう。
・カール・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカー:ドイツの物理学者にして哲学者。原子核質量公式(ベーテ・ヴァイツゼッカーの公式)を提唱し、核融合に関する基礎理論を提唱する。
・ヴェルナー・ハイゼンベルク:ドイツの理論物理学者。場の量子論や原子核の理論の研究を行い、行列力学と不確定性原理によって量子力学に絶大な貢献を遺す。1932年に弱冠31歳の若さでノーベル物理学賞を受賞した真性の天才。
・ヴァルター・ボーテ:ドイツの物理学者、数学者、化学者。コインシデンス法(同時計数法)による原子核反応とガンマ線に関する研究によってノーベル物理学賞を受賞。
・ロベルト・ドペル:ドイツの物理学者。ハイゼンベルクと共同で行った原子力研究で有名だが、むしろもう一つの功績とも言える産業エネルギー生産に起因する地球温暖化と、その成長限界に関する彼の提唱したモデルが将来にわたって重要な意義を持ち続ける。
・ハンス・ガイガー:ドイツの物理学者。放射線量を測定するガイガー=ミュラー計数管(放射線量計”ガイガーカウンター”の由来)の発明や、原子核の発見につながったガイガー=マースデンの実験、α線の飛程と半減期との関係を示したガイガー・ヌッタルの法則の提唱した核物理学の巨人。
・クラウス・クルシウス:ドイツの物理化学者にして低温物理学者。同位体分離技術(”クルシウス=ディッケル分離管”の開発)と重水製造の研究を行い、核開発に大きな足跡を遺す。
実は上記の6人は、史実でドイツに存在したとある秘密開発組織に名を連ねていた。
その名は、”
・ジョン・フォン・ノイマン:言わずと知れた「ノイマン型コンピューター」の生みの親だが、実は原子力爆弾、厳密には「インプロージョン(爆縮)型核分裂弾」にとっての心臓部である”爆縮レンズ”の開発をほぼ独力で開発する。 ドイツからアメリカに移住。冷戦期、水素爆弾の開発にも深く関与してソ連への先制核攻撃も視野に入れた戦略を支持した。天才というかリアル
そう、この七名は『史実でドイツと原爆に深く関わり合い』があるのだ。
しかし、史実のドイツの原爆開発は基礎理論時点ではアメリカの”マンハッタン計画”と比べて先行していたにも関わらず、「濃縮ウランの製造が困難だった為に濃度の低い天然ウラン」を用いる事を前提としていた為に、「原子炉の製造は可能でも、(当時のドイツが運用できる標準的な大きさの)爆撃機に搭載できるような小型軽量な原子爆弾の開発は不可能」だと見ていた。
しかし、ここでノイマン以上に史実では有り得ない”可能性”がドイツで合流したのだ。
「皆様、お出迎えありがとうございます」
そう”ノヴァヤ・ゼムリャ島”に秘密裏に構築された”この世界線”におけるドイツの”核分裂反応弾”開発機関『
彼女がこの椅子に座る理由は、大きく二つある。
一つは”この世界線”におけるドイツの原爆開発計画”Unternehmen Neue Nuklearen(新核計画)”、通称”
ちなみにキール家がここまで大資本になった理由は「ロマノフ朝の消えた金塊」、ロマノフ王朝が保有していた1400tの金塊のうち、約500トンがシベリアへ輸送される途中で行方不明になり歴史から消えた……とされている中で、「消えた全てでは無いがかなりの部分」がキール家に様々なルートから集まった事が理由だと思われる。
ちなみに仮にキール家が金塊500tのうち300tを入手していたと仮定すると、2026年5月現在の金額に換算すると約7兆8,000億円となる。
無論、ロマノフから流れ込んだのは金塊だけでは無いだろう。
そして、これらを原資として世界恐慌前のアメリカを中心に世界各国の成長分野に投資し、世界恐慌直前に市場を崩壊させ自らが恐慌の引き金にならぬように偽装し分散させて資金を引き上げて、溜め込みんだ資金を今度はエヴァンジェリンの嫁ぎ先であるヒトラーと彼の帝国のあちこちに挙って投資していた。
ちなみに”NN計画”に参加前から上記の七人に研究資金の提供を行い、実質
そして、もう一つの理由は……
エヴァンジェリンが”ドイツ国立先端技術研究所”、特殊核物理学研究局の局長としての”表の当たり障りのない研究成果”とは別の、決して表で公表されない『真の研究成果』だろう。
そう、ボトルネックとなっていた”ウラン濃縮”方法……それも現代の技術でもギリギリ可能な”
いや、それだけでなくその前段階(基本的に核兵器ではなく原子力発電所向きの技術だが)である、いわゆる”イエローケーキ(ウラン鉱石を化学処理して粉末状にしたウラン精鉱)”の効率的な精製法も提言していた。
正確には「イエローケーキの効率的精製法」に関しては前述の”表の研究成果”としても発表(当然、すぐさま国家機密に指定された)しており、それが局長としての地位を確固とした物としていた。
表の実績でイエローケーキの精製法を提示し、裏で遠心圧縮法によるウラン濃度圧縮を提案するなど、何だか酷いマッチポンプを見ている気がしないでもない。
そう、つまりは大きな意味でエヴァンジェリンは「原爆の素材提供者」なのだった。
更には、アメリカの”マンハッタン計画”に参加しているシーボーグ以前に、プルトニウム-ウラン溶媒抽出法=Plutonium Uranium Redox EXtraction:”PUREX法”までも提案し、実用化している。
まあ、彼女だけが異常なのかと言えば、どうも日英でも同様の動きがあるっぽいのだが……ただし、それらは高確率で”転生者”の暗躍があるからだろう。
実際、日本皇国で(公表はしていないが)原子力発電、取り分け船舶用核動力の開発が明らかに他国より一歩以上先んじているのは”転生者”しかも皇族が絡んでいるからだろう。
噂ではもう実験炉が稼働を始め、特に開発リソースを「空母・潜水艦」に絞り、尚且つ開発順序をまだ通常動力でも改善の余地がある空母よりも「無酸素航行の夢」を叶えるために潜水艦を優先させているらしい。
正直、エヴァンジェリンが”転生者”なのかはグレーゾーン、黒と白の間を反復横跳びしてる感じだ。
いや、どちらかと言えば黒寄りのグレーか?
ただ、この人妻、ハイゼンベルクやノイマン同様に”真性の天才”や”異能”の可能性も否定できない。
☆☆☆
さて、以上のような面子、”エヴァンジェリンと七人小人ならぬ七人の侍でもなく七人の博士”が揃えば、やることは一つしかない。
1944年4月1日……
「
そう伝えてくるNSR(国家保安情報部)から付けられた有能な専属秘書官の言葉に、エヴァンジェリンは微かに安堵しながら、
「そう。ノイマン博士の”爆縮レンズ”は濃縮ウランでも上手く作動したようね」
少しだけ補足すると。
史実の広島に投下された”リトルボーイ”型原爆の影響で、『ウラン=ガンバレル起爆型』と思われる事もあるが、実は爆縮レンズを用いたインプロ―ジョン型(長崎に投下された”ファットマン”がインプロ―ジョン方式。プルトニウムを核分裂反応物質として使用)は、濃縮ウランでも設計がまともならキチンと機能する。
現に現代の核兵器は濃縮ウランを用いたインプロ―ジョン型は多く存在する。
逆にプルトニウムは「超臨界状態」を用いるインプロ―ジョン方式以外では事実上不可能だ。プルトニウムは性質的に「自発核分裂」が起きやすく、構造が単純なガンバレル方式だと反応物質が合体する前に過早爆発して不発に終わってしまうからだ。
そして、今回の『人類史上初の地下核実験(核分裂による臨界突破と爆発)』で用いられた”爆発単位20”、つまり「20キロトン級試製核分裂弾」はエヴァンジェリンが用意した濃縮ウランとノイマンが設計した爆縮レンズを用いた『濃縮ウランを用いたインプロ―ジョン方式の原子力爆弾』だったのだ。
「計画統括主任、おめでとうございます」
ちなみに”ノヴァヤ・ゼムリャ島”は史実の冷戦期、分かっているだけで224回の実験が行われたソ連の核実験場であり、かの有名な史上最大の50メガトン級熱核反応弾(水爆)”ツァーリ・ボンバ”の実験が行われたのもここだ。
そう考えると、今回の実験は実に皮肉が効いていると言えた。
「ありがとう。これでようやく夫の”偉業”、それとも”覇業”かしら?の一助ができるわ」
そして、エヴァンジェリンは少し考えてから、
「ねえ、今年の半ばくらいまででどのくらい”現物”を製造できそう?」
「濃縮ウランの残量から考えて、今回の実験で使われた爆発単位と同等であれば、概算ですが最低でも3発は可能なはずです」
「そう。では壱号弾を”ロンギヌス”、弐号弾を”カッシウス”、参号弾を”ガイウス”と仮称するとしましょう」
「計画統括主任、”ロンギヌス”は救世主殺しから来ているんでしょうけど、”カッシウス”と”ガイウス”はどこから?」
「あら、違うわよ? ゴルゴダの丘じゃなくて
「アメリカは、むしろ中立法の孤立主義なのでは?」
「本当にアメリカが孤立主義ならソ連にレンドリースなんかしないわよ。アメリカの赤化汚染は酷いものだけど、それでも
「なるほど」
「それにね……」
エヴァンジェリンは一度言葉を切り、柔らかく微笑むと……
「初代ローマ帝国や神聖ローマ帝国の後継者を担えるとするのなら……”
「核分裂反応弾はそのための手段だと?」
「他に何か理由がある?」
秘書官はちょっとだけ呆れた様子で、
「……重いですな。こう、色々と」
「だってそれが私の愛し方だもの」
やっぱエヴァンジェリンって”
とりあえず、エヴァンジェリンの夫に対する愛は、『世界滅亡と天秤にかけても迷いなくヒトラーを取る』程度には重いですw
エヴァンジェリン的には、『核兵器開発=内助の功』という図式かも?
それにしても七人の
今更なんですが、『”ノヴァヤ・ゼムリャ島”でのドイツの地下核実験』は、連載開始前からずっと構想していた『物語のキーポイント』だったりします。
ようやく描けて良かった~。
何しろ、”終戦”に向けた秘密兵器にして”ドイツの切り札”になりうる『キーアイテム』でもありますから。
これが……ユリウス・カエサルの暗殺首謀者から名付けられた”ロンギヌス”、”カッシウス”、”ガイウス”が果たしてどのように使われるか……
ちなみにゴルゴダ・オブジェクトが登場するシン・エヴァの槍の名前も、元ネタはこれらしいです。
さて、次回は日本皇国の苦悩(?)でも書こうかな~と。
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次回もどうかよろしくお願いいたします。