転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
一応、エピソードヒロインはクリスティアーナの筈ですが……
「大公様! 行きましょう”私達の戦場”へっ!!」
婚約者たる自分のお披露目も兼ねた新型機完成おめでとうパーティーへ意気揚々と乗り込もうとするクリスティアーナだったが……
「ううむ。正直、兵器産業特化型に順調になってゆくサンクトペテルブルグに俺は改めて忸怩たる思いを感じてやまない」
「えっ? この大公、今更何を言ってるんだろ?」
「いやさ、ふと思い出しちまったんだよ。今生じゃ日本は昭和19年じゃなくて第一次世界大戦中の1917年にコシヒカリを生み出し、亜熱帯原産のコメを寒冷地でもそれなりに栽培できるようになった。そして、まるでそれに合わせるように農具の機械化が始まった。『日本のモータリゼーションは農機から始まった』、そんな事さえも言われてるんだ。おかげでコメ生産量は右肩上がりで大幅に上昇し、日本は飢饉の恐怖からほぼ解放されている……」
「ふえっ!? 日本ってもうお米作ってるのっ!?」
「ああ。そのうち大量輸入するつもりだから待ってろ。俺も久しぶりにパンじゃなくてコメ食イてー……いや、そうじゃなくてだな。出来れば、俺としてもこう、サンクトペテルブルグの生産力をもっと生産的な方向に回してーなーと。ぶっちゃけ重砲牽引用より農業用トラクターとか作りたいぜ」
「いや、それ少なくとも戦時中は絶対無理じゃない? 多分、このままだと戦後も……だって、ドイツや周辺国の工業力だけじゃ、米ソと冷戦やるのちょっと厳しいだろうし」
わりとシビアなクリスティアーナであった。
「いや、わかっちゃいるんだがな……まあいい。今はとりあえず、”戦後”とやらを目指して邁進するとするか」
現在、サンクトペテルブルグの稼働中の工場は残念ながら大半が軍需工場、一日三交代制の絶賛24時間操業中だ。
現代日本なら街ごとブラック疑惑がかかりそうだが、8時間勤務中に1時間の休憩が義務化され、1食分の食事が「賄い」として労働者に無料配布され、しかも週1日は戦時下なのに休日があるというのは、「労働こそ美徳。ノルマこそ至上」であり、ノルマを達成できなければサボタージュが疑われるソ連時代を経験した国民なら、思い切りホワイトな労働環境であった。
無論、これには「疲労を蓄積すればかえって作業効率は下がる」、「工場の製造機械にもメンテ時間がが必要」という当り前なことなのだが、その当り前がノルマの前では破綻するのがソ連という国だ。
労働者の国なのに、労働者が最も酷使されるというのが中々笑えない。
☆☆☆
さて、肝心のパーティーなのだが……
在りし日には、ロマノフ王朝の栄華を物語るように着飾った紳士淑女が華やかな時を過ごしていただろう”冬宮殿”のパーティーホールで開かれた今宵の宴は、集った面々こそかつての招待客とは毛色が違うが、別の方向性で”凄い”顔ぶれだ。
例えば、ドイツ海軍からはレーダー元帥自ら、空軍からは負けじとヴェーファー元帥に技術総監のミルヒ、戦闘機隊総監の”ヘルマン・ヴィック”までが参加していた。
実はメルダースにガーランド、マルセイユやクルピンスキーなどの名だたるスモレンスク組もサンクトペテルブルグに乗り込もうとしたが、ただいち早く新型機で飛びたいだけなのは見え見えだった為、真面目型のバルクホルンとシュタインホフに鎮あ……制止されたらしい。
何気にスモレンスク、あるいは”統合航空戦闘団(Kombiniertes Luftfahrt Kampfgruppen:KLK)”の現状というか力関係が見えてくる話だ。
それはさておき……
「皆様、お越しいただきありがとうございます♡」
煌びやかなパーティーホールの中でも、クリスティアーナはまさにヒロイン、咲き誇る大輪の華だった。
超名門令嬢の面目躍如というべきか、いつものアホの娘っぷりは影を潜め、そつの無い貴族令嬢然とした優雅ささえ感じる立ち振る舞いである。
なんのかんの言っても、パーティーの場数が違うのかもしれない。
実際、相手がレーダー元帥だろうとルフトバッフェのお歴々だろうと、物怖じした様子もなく「クルスのうら若き婚約者」として実に堂々としていた。
実は、紹介されたのが「ドイツ国防軍のトップクラスの重鎮」だということをイマイチ理解できていない可能性も微レ存だが……気のせいに違いない。多分、きっとそうだ。
とはいえ、戦時下にしては中々に豊富な食材と潤沢な酒類が揃ったパーティーだったが、軍人や軍属、軍関係者の出席率が高いパーティーだけあり、一風変わったイベントも用意されていた。
そう、クルスの念願だった”日本皇国製の現行缶詰型
また、クルス自身も元とはいえ日本人なだけはあり民族アイデンティティである”食に対する執念”は相応にあり、サンクトペテルブルグでも”軍用携行糧食”という名目で、缶詰レーションの試験製造を始めていた。
食文化的に”
それの食べ比べ試食会をしようという意図であった。
パーティーメニューとしてはどうかと思うが、これが思いの外に好評であり、お土産に持たされた”日本とサンクトペテルブルグの缶詰軍隊携行食”の大半は、参加者たちの酒の
というか、「ここでテロられると国家以前に戦争の趨勢が傾く」という理由で会場警備の陣頭指揮を取っていたハイドリヒにも、「総統閣下への賄賂(笑)」という名目でウォッカと缶詰セット五人前ほど持たされていたらしく……
その直後にサンクトペテルブルグに「軍用缶詰携行食工場」の増設と「糧食缶詰の大増産」命令書(いや、内容的には嘆願書か?)がヒトラー直筆の署名入りで届き、更にはドイツから正式に皇国に「軍用携行糧食の輸入」という名目で大量の缶詰輸入の依頼が届き、関係者の目を白黒させたという。
特に原型は19世紀からあり、第一次世界大戦中に軍隊携行食として採用された”牛肉の大和煮”缶詰が総統閣下のお気に入りだったらしく、輸入依頼量が最も大きかった上に、密かに「サンクトペテルブルグでも再現できないか?」と打診があったらしい。
ただ、醬油や味醂といった和の調味料が戦後にならないと手に入りにくいので、仕方なくデミグラスソースを利かせた”ビーフシチューの缶詰”と”煮込みハンバーグ風の肉缶”を代替品として製造し始めるが……
今度はどういう経緯か不明だが英国に流れ、それがまた……という展開になりそうだ。
ちなみにこれは結果としてドイツ国防軍全体に良好な影響を及ぼしたと歴史書に書かれる事になる。
曰く「これまでのそれとは比べ物にならない”美味いミリ飯”は、大いに士気向上の助けとなり、また”また飯を食べよう”という生存本能に直結する味が士気の崩壊を防いだ」とされるのだ。
このパーティーが”小さな起点”となり、サンクトペテルブルグ大公領、やがてサンクトペテルブルグ大公国は「兵器だけでなく糧食でも”
いや、フランスとかのコンバットレーションも十分に美味い筈なのだが……「フランスが”レーヴェンスラウム”の一角か?」と質問されると、「うん。間違いなく友好国ダヨ?」とちょっと微妙な表情になる戦後ドイツ人がいたりいなかったり。
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何やらクリスティアーナそっちのけでミリ飯や缶詰の話ばかりになってしまったが、雑過ぎるまとめをすれば「婚約者クリスティアーナ」に対する今回のパーティー参加者の反応は概ね好意的と言って良かった。
まあ結局、クルスは軍の上層部と、クリスティアーナはパイロットたちと盛り上がる一面もあったが、”新型機の完成祝い”にかこつけた”婚約者のお披露目と関係者への周知”は概ね成功したと言ってよいだろう。
”
”KSP-44/44戦車”を筆頭に用意せねばならない物はまだまだある。
まあ、今宵のパーティーが激務続きのクルスにとり息抜きや骨休めになったかと問われれば、政治色の強さから肯定はしにくい側面もあるのだが……
「うふふっ♡ 皆様が私と大公様の結婚を喜んでくださるようで何よりですわ♡」
今は、幸せそうな表情でパーティーの余韻に浸る”近い将来の妻”が幸せそうなので、「まあ、良いか」と結論付けるクルスであった。
という訳で、前半の主役はお米で後半の主役はミリ飯でした(挨拶
いや、実際に軍隊では糧食ってのは時には兵器すら上回る、「決定的な要素」になりますしね~。
「上手い飯は士気に強く作用する」ってのは、数々の歴史的事例が示す所です・
「腹が減っては戦はできぬ」は真理であり、過去、兵站線の崩壊や兵糧攻めでどれほどの敗北が積み上げられたことやら(汗
まあ、裏テーマとしては……
大公という重責を背負う故にここんとこ凄味というか”人外っぷり”ばかりが目立つようになってきたクルスの、「ただの人間」としての側面も今のうちに描いておきたいな~と。
でも、自分の前世知識や性質から軍事面特化の傾向があることを自覚してるクルスから、「本当は兵器よりももっと生産的な物をサンクトペテルブルグの工業力を活かして作りたい」って願望を無意識に引き釣り出したクリスティアーナって、アホの娘であるのは事実だけど、だからこそ”大物”なのかも?
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次回もどうかよろしくお願いいたします。
※とある感想を読んで、「小ネタに気づいてくれた方」がいたので追記
クリスティアーナ的には戦後高度成長期以降に物心がついた日本人らしく、
”お米=コシヒカリ”
あるいは、「「ササニシキ」ひとめぼれ」のような有名なブランド米のことのようです。
つまり、それ以前の米についての知識は皆無。
やっぱアホの娘やわw