闇落ちぼっちちゃんを養う虹夏ちゃん概念 作:やみーさん
『──犯人は貴方だ!』
『な、なにぃ?! ど、どういうことだね毛無くん!』
『ふっ、簡単なことですよ警部……』
ひとりは部屋の隅でうずくまっていた。チカチカとした光りを放つのは、最近話題の推理アニメ。
元は漫画らしく、頭のかつらがとれると突然推理力がアップする、通称『髪無しの勝郎』が主人公として難事件を解決していく流れだ。
最近は映画化も決定しているほどの人気作らしい。
だからといってひとりがそれを『見たいから見ている』という訳ではない。ただ、考える時間を減らしたいから、五感を埋めているだけだ。
情報を他の物で埋めている間だけは、考えないで済む。
そして、アニメが決着を迎えようとするその瞬間──
「──え?」
音が鳴り響いた。部屋に広がるのは、スマホの着信音。
「あ、あっ……えっ、え……」
ポケットから慌てて取り出す。アニメの音声を聞いていたイヤホンを引き千切るように取る。最近はなかったが、虹夏は時たまこうやって電話をかけてくるのだ。なるべく早く出ないといけない。
名前も見ずに急いで通話のボタンを押した。
「で、電話は久し振り、ですね……ど、どうしたん──」
『──あ、ひとりちゃん? その、こっちこそ久し振り』
頭が真っ白になった。
声が違う。喋り方が違う。相手は虹夏じゃない。
じゃあ、誰だ?
『その……喜多、郁代です。久し振りに、会えたらな、って……ひとりちゃん、時間空いてたり、しない?』
鈍く動いていた思考が動きだす。喜多、郁代。
(……喜多、ちゃん…………私のこと、だって……虹夏ちゃんが……なんで、今更……)
トラウマが蘇る。ひとりがバンドを辞めたのは、完全に人間関係の崩壊だった。それに『逃げ』の一手で対応したひとりを見捨てず、ついてきてくれたのが虹夏だ。
いや、むしろ虹夏以外との人間関係は壊れていたから、虹夏以外ついてきてくれる可能性はなかったと言っても良い。
そしてだからこそ、
「……あ、え……と……その……ぇ……と」
言い淀む。どう答えるべきなのか。本音を言えば、会いたくない。そもそも名前を確認さえすれば電話に出ることさえなかった。
電話の向こうで大きく息を吸う音がした。
『──じゃあ! 東京都■■区■■駅のおりた先にあるセパレートっていうお店で明日の朝10時から待ってるわ! ロインにも住所送ってくわね!』
そして、ひとりからの返答がないことを確認すると、郁代ははぁ、息を吐ききる。そして、か細い声で呟いた。
『……待ってるわ、ひとりちゃん』
プチ、と通話が切れた。手元に残るのは喜多郁代と書かれた画面だけ。
「──え?」
ひとりの前に転がるパソコンは、既にチカチカと次の物語を映し出していた。