交わした約束と、抱いた疑問と。
どちらもない交ぜにして、時間は過ぎていく。
裏も表もあるけれど、でも。
気持ちの芯は、変わらない。

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今回は菖蒲ちゃんにしようかとも思ったんですけどね。


第1話

 ちょっと無神経だったかな、と枕に顔を埋めながら私は思う。こっちの意思を示すのは良いけど、行きたいカフェがあるとかそんなのわざわざ事前に言うことか。そうなると大喜くんはそっちに合わせてくれるだろうから、ジャージ買いにいくのに余計な寄り道をさせてしまうんじゃないか。目的があって出掛けるのに、それを同行者の都合で変えさせるのも忍びない。

 遡ること数時間、合宿帰りの玄関前で大喜くんは不意に言ってきたのだ。今度の休み出掛けませんか、と。

 まあ、それは構わないし――嬉しいと言えば嬉しい。とは言えほんの少しだけ、疑問はあった。話が突然な事、そして()()()()()()という事。

 でもそこに触れる事はなく話は終わって、恙無く時間は過ぎて。

 今更ながら私はこうやって、色々考えてしまっている……というわけ。

 どうせ大した頭でも無いくせに、一回考え出すと止まらないから始末に悪い。

 

 それにしても、大喜くんから誘ってくるなんてどういう風の吹き回しだろうか。これじゃまるで、所謂一つの――デートではあるまいか。つまり大喜くんは私を、()()()()()で見ている……とか?

「あー……いや、いやいや。いやいやいやいや。まさか……うん」

 大喜くんは単に買い物がしたいだけ、私を誘ったのはただの気紛れ。そう思わなければ、あれこれと宜しくない事を考えてしまいそう。そもそもが自意識過剰過ぎる、こんなワンパクで逞しい子相手に()()()()()を考える男子なんか、いるわけないじゃないか。

 でももしかしたら、もしかしたら。

「蝶野さんと、何かあった……のかな……」

 大喜くんと蝶野さんは、()()付き合っているとかではない。でも蝶野さんは大喜くんに告白し、その返事を待ちながら距離を詰めつつある。合宿最終日の夜も二人で一緒だったみたいだけど、そこでトラブルでも有ったんだろうか。だから気持ちを整理したくて、敢えて私と出掛けてみるとか。……無いかな、それは流石に。いくらなんでも話が飛びすぎる。

 それに本当なら私は、それを邪魔しないように身を引かなければならない筈だ。私は大喜くんを「気になっている」、蝶野さんは大喜くんを「好き」。その差は歴然だ、そんなのは分かりきっている。二人の事を思うなら、用事があるとか言って断るべきだ。

 だけど、……それでも。

 私は少しずつ大喜くんを好きになりつつあるし、近付きたいとも思っている。その気持ちを嘘にしたくはない。

 まったく、酷い女だな私は。後輩から好きな人を奪おうとしているみたいじゃないか、これじゃあ。

 難しいな、まったく霊長は。

 どうしたものか、と寝返りを打つと隣室からも何やら物音が聞こえてきた。 

 ひょっとして大喜くんも、色々考えているんだろうかな。

 ……なんて、柄じゃないな。こういうのは、さ。

 

「千夏、こっち! パス!」

「っぃ、…遅いって! 」

 渚の進行方向目掛けて打ち出した筈のボールは、何もない空間を通り抜けてコートの外へ。あぁ、もうちょっと進んでてくれれば通ったのに。どうも渚は足が止まる癖があるんだよね、ディフェンス向きだし仕方ないんだろうけど。

 いつものように練習中の私たちは、これまでと何も変わっていない。合宿を経ても、やるべき事は変わらないから。

 ただ前を見て挑んでいく、それだけだ。

 それだけなんだけど、でも。

 今はほんの僅か、心に引っ掛かるものがある。

 同じ体育館に大喜くんと蝶野さんがいる、それが何処か気まずい。だからって練習の手を緩めたりはしないけど、どうも胸の奥に異物感がして仕方ない。

 この微かな息苦しさは、なんなのだろう。

 その正体が分かれば、楽になれるのだろうか。

 まあ――今は堪えよう、考え事をする暇なんか無い。

 今日も今日とて、頑張らなければ。私は部活で手一杯なんだから、集中しよう。

 大丈夫、きっと問題ない。

 差し込む秋の陽射しを受けて、私は気合いを入れ直す。さあ続きだ、行こうじゃないか。

 頑張れ私、進め私。


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