花も嵐も踏み越えて、歩んだ跡は交わって。
それでも道は、終わらない。
どこまでも、どこまでも。
まったく、変わらないな。
目の前でグラスを傾けるかつてのチームメイトを見て、素直にそう感じた。お互い色々あったし長い付き合いではあるけれど、どうもこいつはあの頃から歳を取ってないんじゃないかと思ってしまう。一緒にバカやってたあの時代から、良くも悪くもあんまり変わっていない。向こうもそう思っているんじゃないだろうか、お互いちょっと皺は寄ったけど。
変わったところと言えば、名字くらいか。私は猪股になって、春架は鹿野。昔から下の名前で呼びあってたから、別にどうという事でもないか。
こうして二人で酒を酌み交わすのは一応初めてではあるけれど、まるで高校時代の放課後、喫茶店でダベってた時と変わらない空気になっている。
こういうのを、親友って言うんだろうか。言うんだろうな、多分。
そんな事を考えて知らず知らずの内に顔が緩んでいたのか、ちょいちょいとほっぺをつつかれてしまう私。
「何ニヤけてんのよ由紀子ー、少しくらい真面目な顔しなさいよ」
さっきからカパカパ呑みまくってる癖に何を言うのやら、にしてもホント変わってないな。あの頃もやっぱり、自分を棚に上げてこんなことばかり言っていた。誰よりヌケてるのに、人の事はあれこれ指摘するんだから。
ああでも確かに、あんまりヘラヘラしてもいられないか。
だって私たちはこれから、友達ではなくなるんだから。
私たちの出会いは栄明中等部に入って、女子バスケ部に入部届けを出したあの時だった。大勢いた新入部員の中でお互い特に輝いているわけでもなかったけれど、でもなんとなく気はあっていた。……温度差は大分あったけどね、遮二無二頑張り続ける春架と要領良く立ち回りたい私とでは。それでも嫌いになるほどではないし、練習以外でも一緒にいる時間が長くなっていった。
そして当時はまだ、昭和生まれの顧問たちが精神論を振りかざしていた時代。どんどん同期が辞めていくなか、お互いの存在は部に残る大きな理由になっていた筈だ。多分、きっと……うん。
とは言え私たちには才能と呼べるものが多少はあったらしく、高等部に上がる頃には女バスのエースコンビなんて扱いを受けるようになっていた。
そんな時だったな、……初めて誰かを好きになったのは。
胸の高鳴りも部活以外に気を向ける背徳感も、全部全部覚えてる。彼をめぐって、春架と初めて大喧嘩した事も。
ただ、なあ。顔や名前は全然覚えてないんだよね、これが。何て言うか、フォルダごと上書きしてしまったような感じ。そうでなければ、きっとこいつと友達ではいられなくなっているんだろうけど。
そして卒業して、色んな恋をして。春架は大学時代の後輩との間に子供……千夏ちゃんが出来て結婚し、その一年くらい後に私も大喜を授かった。付き合いも長くなったしそろそろ結婚しようかなーとは思ってたけど、まさか春架の後を追うような形になるとは思っても見なかったな。ふしだらな母と笑うがいいわ。
早いものであれからもう、18年。
大喜も千夏ちゃんも気が付けば大人になっていて、そして。そして――。
「まさか大喜が春架の事、お義母さんって呼ぶ日が来るなんてねぇ」
「あんたが千夏の姑になるってのも、ちょっと信じられないけどね」
同じ家に思春期の男女を住まわせるわけだから、
とは言え、だ。こればっかりは、本人たちの心一つ。私らがどうこう言うべきじゃない、股を痛めて産んだ我が子たちの幸福が最優先だ。
「ま、絶対うまくいくわよあの二人。あたしらの子供だもん」
「ウィーアー栄明、ってね」
笑いあって、そしてグラスを向けあって。私たちは本日何回目かの乾杯をした。
これから私たちは、家族になるんだ。その想いを込めて。
ちなみに先輩ママの名前は、前と同じく公式ではありません。
何回か使ってますけどね。