SASUKE逆行伝   作:koko22

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シカマル視点


99.任務

 

 

(ハァ……めんどくせぇ事になったぜ……)

 

 

 朝日と共に青さを取り戻していく空を見上げながら、シカマルは深いため息を吐き出した。

 その日は、いつもの様に母ちゃんの怒声で目が覚め、いつもの様に新聞を広げる親父を横目に飯を食って、いつもの様に寝ぼけ眼に任務へと出た───そう言えたなら、どんなに良かったか。

 

 現実は、そんな平凡な理想一つ叶っちゃいない。

 本戦の折にナルトを追いかけ、挙げ句に正体不明の忍達との交戦してからも、そんなままならない状況が続いている。

 

 

『まさかこいつらを全員倒しちまうとはな……二人共、よくやった』

『戦争は仕舞いだ。お前達は自宅で待機、追って指示を出す』

 

 

 俺達を追いかけてきたアスマはそう言いおいて、縛り上げた敵を連れて姿を消した。

 

 サクラやあの忍犬は、ナルトはどうなった?

 砂の下忍たちは、あの砂の化け物は?

 この戦争は、本当に終わったのか?

 

 聞きたい事は山程あったものの、その険しい表情に引き止められる雰囲気ではなく、残された俺とチョウジは顔を見合わせるばかりで。

 聞く宛もないまま、俺達はアスマの指示通りに帰るしかなかった。

 

 中忍試験からの敵との交戦に身体は疲弊していたはずだが、そんなモヤモヤとした心境で眠れるはずもなく、ただ時間とともに夜は更けていく。

 ぼんやりと天井を見つめながら昇る朝日を待ちぼうけていた……そんな折に、アスマから連絡がきた。

 敵との交戦状況、そして彼らについて何か知っていることがあればチョウジと二人で報告を、とのことだった。

 

 

『我らは国や里などという小さな枠組みの中になどいない』

『こんな古ぼけた里など興味はない。だが、ここには我らの欲するものがある』

 

 

 交戦中の奴らの言葉を思い出す。

 そこにどんな意味がある?

 奴らの組織や指示者の正体は?

 欲するものとは、何だ?

 

 

 湧いてくる疑問にも蓋をして、関係ねぇと二度寝を決める……俺はそんなキャラだった筈なんだけどよ。

 良くも悪くも、あの中忍試験は俺を少しばかり変えちまったらしい。

 

 飯もそこそこに家を出た俺は、チョウジを連れて朝早くから火影邸へ向かった。

 そして、曲がり角から飛び出してきたナルトにぶつかって、こうして空を眺めるに至っている。

 

 

「サスケが……サスケが、やべぇんだってばよ!」

 

 

 明らかに面倒事だ。巻き込まれるのは御免だと、見て見ぬふりで全力で逃げたい。

 そんな警鐘を聞きながらも、見上げる潤んだ蒼眼にもう手遅れだと悟っていた。

 だから俺は、再度ため息を吐き出し思うのである。

 

 

 

───あばよ、俺の平凡な一日。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「タイミングがいいな。奈良家のガキ……シカマルだったか。ちょうどお前を呼ぼうと思っていた所でね」

 

 

 ナルトに引っ張られるようにして赴いた火影邸。

 報告は僕がしておくから行っておいでよ、とさり気なく湿っぽいナルトを押し付けたチョウジと別れて執務室までやってきた。

 そこで待っていたのは、鴨が葱を背負ってやってきたと言わんばかりの目つきをした見知らぬ女だった。

 

 

『新しい火影だってばよ。ああ見えて、ホントは50代なんだぞ』

 

 

 こっそりと耳打ちするナルトの言葉にマジか、と顔を引き攣らせる。

 伝説の三忍の一人であり、初代火影の孫娘というスーパーサラブレッド。更には三代目と大大名様からの推薦を携えているらしい。

 本来ならそれに加えて上忍からの信任投票があるわけだが、結果は目に見えている。この状況で火影の座を空けてはおけないと、先ほど急遽着任が決定したそうだ。

 

 

(そんな五代目火影が、どうして俺を?)

 

 

 そう疑問の声を上げようと口を開きかけるが、それより先にズカズカと執務室へ入っていったナルトが五代目へと詰め寄った。

 

 

「つうか、ばあちゃん!どういうことなんだってばよ!?サスケが里抜けなんてあり得ねェ!だってサスケは、子供が人質に取られたって……!」

「人質か……なるほどな」

「───我々も、サスケが里抜けしたとは考えていない。だが、君との接触を最後に、その消息が不明となっているのも事実だ」

「イタチの兄ちゃん!」

 

 

 音も気配もなく、スッとどこからともなく現れた男が宥めるようにナルトの肩に手を置く。イタチと呼ばれたその男は、次いで扉の前で立ち竦んだままの俺へと視線を流した。

 まだ俺達とそう年は離れていなさそうだが、睨まれている訳でもないのに感じる圧力と存在感にゴクリと息を呑む。

 その視線の促しに抗えず、俺はノロノロと部屋へと入った。パタンと閉じられる扉の音に、退路を断たれたような気さえした。

 

 

「はじめまして、シカマル君。俺はうちはイタチ……君は俺が推薦した。サスケの探索任務、その隊を率いる小隊長としてな」

「は……?小隊長って……ちょっ、待ってくださいよ!」

「本戦を見せてもらったが、冷静な状況判断能力と緻密な戦略は見事だった。何より、犠牲やリスクと任務を天秤にかけ、隊が生き残る事を第一に考えて動ける……君は、リーダーとしての資質を十分に有している」

「……ッ!」

 

 

 小隊長、それは中忍以上の忍に与えられる役目だ。その言葉は暗に中忍昇格を指し示していた。

 だが、心の準備も何もないのに、急にそう伝えられてもハイそうですかと受け入れられるもんじゃねぇ。

 

 ……そう拒絶をしようとしたものの、続けられた手放しの称賛に思わず口籠る。

 そういう言い方はずりィだろ。

 

 

「買いかぶりすぎっスよ」

「そうか?だが、俺だけじゃない、イビキ先輩も君の事を大層褒めていたよ」

「試験官の……?」

「ああ。少なくとも、上忍二人の推薦があることは覚えておいてくれ」

 

 

 森野イビキ。あの中忍試験の一次試験の試験官であり、予選で大蛇丸のスパイを捕まえていった後ろ姿を思い出す。

 去り際に本戦を楽しみにしていると言っていたが、その言葉通り俺の試合を観ていたんだろうか。

 

 かけられる期待は重くはあった。分不相応に思える程に。だけどそれを断るには、上忍二人の実力は高すぎた。

 何より、その黒い瞳に宿る切実さに気がついてしまえば、それ以上は何も言えなかった。

 口を噤むとそれを了承と取ったのか、五代目はつらつらと任務の詳細を告げていく。

 

 

一つ。探索範囲は火の国国境まで。それ以上の追跡は諦めて帰還すること。

二つ。構成員は下忍のみとする。ただし、その人員は問わず隊長の判断に委ねる。

三つ。この探索任務はCランクと位置づけられる。だが、もしもサスケが拉致されていた場合、そのランクはB、場合によってはAへ跳ね上がる。

 

 

 警告のように付け加えられた、三つ目に眉根を寄せた。まるでそれを想定しているかのようだ。

 それに、ナルトの言葉通り、もしサスケが人質を取られていたとしたら最低でもBランク。だったら最初から中忍班、上忍班へと振るべきもんだろう。

 だが、まだ正式な中忍任命を受けた訳でもない俺に敢えて指名がされたのだ。

 その異例さ、異様さに拳を固く握りしめた。

 

 

(……人手不足ってだけじゃ理由がつかねぇ)

 

 

 サスケの噂といい、この任務といい、何か裏事情があるのは間違いない。

 そんな直感をひしひしと感じながらも、ここで断るという選択肢もなかった。

 

 サスケ───アカデミーではあのナルトを抑え、学年一の問題児と名高かった奴だ。

 その実力は同期の中でもずば抜けていて。その顔面と合わせてくノ一からの人気は高く、それに比例するように他の男共からの妬みは大きく、関わらないようにと最初は距離を置いていた。

 

 だが、滅多に教室に顔を出さないくせに、サスケが名前を呼ぶ奴らの中にはどうしてか俺も入っていた。それが何だか照れくさく、嬉しくなかったといえば嘘になる。

 いつしか小隊訓練では、ナルトやチョウジと共にフォーマンセルを組むことも珍しくなくなって。そうして、6年も経てばその人となり位は分かるようになる。

 サスケは里を裏切るような奴じゃない。

 

 

「めんどくせぇけど……知ってる奴の事だけに、ほっとけねーしな。ま、なるようになるッスよ」

「ちぇっ、お前がやらねーって言うなら俺がやるつもりだったのに……」

「お前が隊長なんてしたら迷子になるか、火の国踏み越えて敵陣真っ只中になるだけだろうよ。俺はそんな隊長は御免だぜ」

「ムッ……俺だって、すんげー術使えるようになったもんね!」

「ま、その術を使わない事を願ってるぜ」

「何だとォ!?」

「ったく……早合点すんな、交戦したくねぇっつうことだよ」

 

 

 きっとナルトは選ばなくたってついてくるだろうし、メンバーの一人は決定したようなもんだろう。

 それから俺との連携を考えればチョウジは必須。これで俺を含めて三人だ。

 

 ブーブーと文句を言うナルトをあしらいつつ思考を巡らせていると、そんな俺達を眺めていたイタチがふと眼差しを緩めた。

 

 

「……サスケは、良い仲間に恵まれたな」

 

 

 ありがとう。

 そうポツリと呟かれた言葉に、悪い気はしなかった。

 

 






「そんで、これからどうすんだってばよ?」
「まずはメンバーを集める。30分以内に見つけられなきゃ、そん時はこの面子で任務開始だ」


 報告を終えたチョウジと合流し、ナルトにそう返しながら大通りを駆け抜ける。

 基本小隊は四人だが、探索という点を考えれば人手がほしい。下忍の中では他に隊長を務められる奴がいないから、最大で一小隊の七人。ただし、纏めることを考えれば数が多すぎても扱いに困る。
 そう考えれば、ベストは五人程度だろう。

 しかし、既にサスケが消息を絶ってから半日が経過していた。痕跡というのは時間経過とともに薄れるもので、メンバー集めにそう時間をかけてもいられない。
 

「シカマル、誰を連れてくの?もう目星はつけてるんだろ」
「まあな。まずは任務の都合上、感知タイプが必須。シノか、キバ……もしくは両方を当たるつもりだ」
「───シノならいないぜ。親父さんと一緒に特別任務に行ってるからな」


 ふと会話に割り込んできた声に足を止め、ハッと頭上を振り仰ぐ。
 屋根から飛び降りてきたのは、先ほど候補に挙げていたキバと赤丸だった。


「なんか面白そうなことしてんじゃねぇの。早起きはするもんだな、赤丸!」
「キャン!」
「……はい、決定」


 不服なのか渋面を作るナルトはさて置き、これで最低限のメンバーは揃った。できればあと一人……そう候補を絞りながら、キバへ任務の詳細を伝えたのだが。

 俺の説明を聞いたキバと赤丸は、何故だか不思議そうに首を傾げた。


「サスケ?ああ、そういやさっき……木ノ葉病院でアイツの臭いがしたぜ?」
「キャウン?」

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