TS暗殺者、異世界で冒険する   作:布団から出られない

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最後の王命

 

和平は無事結ばれた。

それを聞いた時、安堵と同時に、とてつもない無力感に襲われた。

 

優斗は、和平が破られれば、人類を滅ぼすと、そう言ったらしい。

誰かを斬り殺すことを、誰よりも嫌っていたはずの優斗が、だ。

 

……俺には、できない。

俺じゃ優斗のようになれない。

 

……それに。

 

「クロエ? なんか、拗ねてる?」

 

ノエルに尋ねられるが、そんなことはない。

 

「ううん、別に。拗ねてはないかな」

 

ノエルのことは置いておくとして。

 

俺は何だか今、物凄く置いて行かれた気分なんだ。

優斗は、俺のために殺しは行いたくないって言ってた。けど、和平条約では、破られれば人類を滅ぼす、なんて、そんな出鱈目な条項を盛り込んでる。

 

……優斗は、俺に向かって誓った言葉を、覚えていないのだろうか。

別にいいんだ。俺がそうしろって言ったわけじゃないし。

 

優斗は、勇者だ。この世界の人類を代表する人間だ。

対して、俺はただの、元暗殺者だ。たまたま勇者パーティの一員になれただけで、何なら、たくさんの命を奪ってきた、犯罪者だ。

 

元々、釣り合ってなかったんだ。俺と優斗では。

そんなこと、分かりきっていたはずなのに。

 

……優斗は確かに、俺へ好意を伝えてきた。けれど、優斗は多分、俺との約束よりも、勇者としての務めを優先するんじゃないかって、そう思う。

 

当たり前といえば、当たり前の話。けれど、それが何だか、俺には寂しく感じられて…。

 

「そういえば、今日は東の国の王様と謁見の日だっけ? 時間的にそろそろな気がするけど、クロエ、準備はできてる?」

 

「……うん。できてるよ」

 

和平条約が結ばれたことで、勇者パーティは役目を終える。

今日の謁見で、王はおそらく、俺たち勇者パーティの解散を宣言するんだろう。

それも何だか、寂しくて。

 

でも、いつか終わりは来る。それは分かりきっていたことだから。

 

そう、無理矢理自分を納得させて、俺はノエルと共に、王城へと向かう。

 

「やっほ! 勇者様だよー」

 

「はっ! これは北の勇者様! 遠路はるばるご足労いただき、ありがとうございます! ドレスのコーデがありますので、あちらの控え室に入っていただけますと助かります。それと、武器はこちらで預からせていただきます。勇者様に限ってあり得ないとは重々承知しておりますが、念の為ということで……」

 

「了解でーす」

 

門番や城の警備隊には、ノエルの顔パスで、身分証明とかそういう工程をすっ飛ばせる。この世界は、それくらいに勇者の地位というものが確立されているものなのだ。

 

……そう、そんな大層な存在だから、優斗は…。

 

「にしても、ノエルって大分フランクに接するんだね」

 

「何々? 私が城の警備員さんと仲良さそうにしてるの見て妬けちゃった? んもークロエってば可愛いところあるんだから〜!」

 

「わー凄い。自分の都合の良いように解釈できるノエルの頭ってもはや羨ましく感じてくるよ」

 

俺とノエルは、警備の人に案内された通りに、城内にある控え室へと入っていく。

そこには、俺と同じ勇者パーティのセリカ、エレナさん、カカエねえさんがいた。

 

「あれ? アンジェとマコは?」

 

「アンジェは王族だから、先に行くって。マコも魔王の娘って肩書きがあるからね、アンジェと一緒に先に行ったわ。それと、アンジェがクロエのこと心配してたわよ、今日謁見だって知ってるのかなって不安がってたわ」

 

俺の問いかけに、セリカが答えてくれる。

そっか、アンジェが……。心配かけてしまったなら、申し訳ないな。

 

「アンジェは心配性だからね。ボクも約束の時間の30分前にはここに着いてたのに、皆より遅いからってアンジェが凄く心配してたみたいでね。参ったよ」

 

「とかいいつつ、カカエもクロエがちゃんと来るか心配してハラハラしてた癖に」

 

「んなっ、仕方ないだろう? ボクがいない間に、クロエがパーティ離脱したこともあったし、またあんな風になったらって心配で……」

 

「あ、その節はご迷惑をおかけしました」

 

「はわわっ! クロエちゃん、顔をあげてあげて! 結局今皆揃ってここにいるんだから、それで十分じゃないですか。ね?」

 

「勇者パーティじゃない私は蚊帳の外な気分なんですけど。ねえクロエ、私も仲間に入れて〜、おねが〜い」

 

そうだよな。

俺がパーティ離脱した時のことは、もう過去のことで。

俺はちゃんと、勇者パーティの元暗殺者って肩書きになったんだから。

 

過去のことも、優斗が一緒に背負うって、そう言って……くれて……。

 

「ちょっとちょっと、無視は酷くないかな、クローエ・メスオーチさん」

 

……今日で、解散かぁ。

……勇者パーティは、もう必要なくて。

この世界で必要とされてるのは、勇者である優斗で。

 

俺は別に、いらなくて。だから…。

 

「おーいメスオーチ! 返事しないとメス堕ちしちゃうよ? いいの〜?」

 

「……ノエル、さっきから誰を呼んでるの? クロエ・メスオーチなんて人、俺は知らないしなぁ」

 

俺はノエルの軽口に返答しながら、王座へと向かった。

 

……。

 

 

 

 

 

◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●

 

 

 

 

 

 

勇者パーティとして、玉座の前に並んで立つ。

マコやアンジェは、勇者パーティとしてではなく、王族として、その場に立っている。

 

やがて、約束の時間が訪れる。

アンジェの兄でもある現王は、玉座に座りながら、言葉を紡ぐ。

 

「勇者一行殿、此度の魔王軍との交渉、ご苦労であった。勇者パーティの活躍は、時期国民も知ることになるだろう」

 

歳こそ若くあれど、現王にはしっかり威厳が備わっていて、そう変わらない年齢であるはずなのに、10や20も歳上なんじゃないかと、そう思わせるくらいには気品が備わっていた。

そんな王の言葉を、俺達は静かに聞く。

 

「できれば、宴会、パレードと行きたいところだが、勇者パーティにはまだやってもらいたいことがある」

 

「やってもらうこと、ですか?」

 

勇者パーティには、まだ役割が残っているというのか。

魔王との戦いが終われば、役目を終えるのではなかったのか。

 

同じ疑問を優斗も持っていたようで、現王の言葉を、反復して投げかけていた。

 

「うむ。最後の一仕事となるだろう。勇者一行に行ってもらいたいのは、ズバリ、大罪人の処刑だ」

 

「大罪人の処刑………勇者が、ですか…?」

 

「口を挟む愚行をお許しください。私は、騎士団団長、オゴエストと申します。……下手人は、数多の貴族を殺害し、国家転覆を図った大罪人であり、現在もこの国で滞在し続ける凶悪犯であります。即刻捕縛しなければ、魔族との構想がなくなったとはいえ、この東の国の存続が危ぶまれることは間違い無いかと」

 

確かに、国を揺るがすほどの大罪人なら、勇者パーティを動かすのも納得ではある。

あるのだけれど……。

数多の貴族を、殺害? 今もこの国にいる?

 

それって……。

 

「……下手人の名は……」

 

そっか……。それは、そうだよな。

 

あれだけ沢山の人を殺しておいて。

……きっとこれは、罰だ。

 

「……暗殺者、クロエ」

 

まるで死刑宣告でもするかのように、騎士団長は俺の名を告げる。

 

「……今、その大罪人は、王を暗殺せんと、勇者一行に紛れ、その首を虎視眈々と狙っています。即刻捕縛し、刑を執行するべきです。勇者御一行にも、協力願います」

 

騎士団長が告げた瞬間、周囲にいた騎士達が、一斉に腰に携えている剣を取り出す。

 

「……ま、待ってくれ! クロエは、大罪人なんかじゃ……」

 

優斗の言葉を聞き入れる騎士は、だれもいない。全員が、俺を処するべき悪としてしか、認識していない。

 

「……嘘でしょ……何でこんなことになってんのよ…!」

 

勇者パーティ一行は、現在武器を持ち合わせていない。控え室に入る前に、門番によって、武器は全て回収されてしまっているからだ。

 

「クロエの罪は、アンジェが何とかしてくれるはずじゃ……!」

 

セリカやカカエねえさんも、困惑しているみたいで。誰も、こんなことになるとは想像もしていなかったのだろう。

 

「言っておきますが、もし大罪人を庇うというのなら……。いくら勇者パーティ一行といえど、処刑せざるを得なくなりますよ」

 

「はわわっ! ちょっと待ってください! 私達にも、納得のいく説明を…!」

 

「そうよ! クロエは私達の仲間なのよ!? 急に過去の罪を引っ張り出されて、それで処刑だなんて、納得いかないわ!」

 

「……やはり従いませんか。仕方がありません。お前ら! 勇者御一行も捕縛しろ!!」

 

セリカやエレナさんが必死に抗弁をするも、騎士達は聞き入れず、それどころか、彼女達を拘束し出す。

 

もはや、俺の処刑は決定事項。揺るがない事実となっているみたいだった。

 

………これが、国が下した判断だというのなら。

 

俺は甘んじて、受け入れるしか無い。

 

だって、実際に俺は大罪人なのだから。

人の命を、奪ったんだから。

 

だからきっと、これで……。

 

「クロエ!!」

 

「……へ……?」

 

「逃げるよ! このままじゃ殺される!!」

 

俺が死を受け入れようとした、その時。

ノエルは俺の手を取って、駆け出す。

 

「の、ノエル…! そんなことしたら、ノエルが……」

 

「うるさい。いいから!」

 

俺はノエルに手を引かれて、王城から逃げ出した。

 

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