転生メジロと新人沖野Tによる楽しいトレセン協奏曲☆(なお第3者視点) 作:はめるん用
先日投稿を間違えたのはナイショの話。
「……さて、面倒なことにらならなきゃいいがなぁ。まぁ、ムリだろうが」
中央トレセン学園、いや日本国内でも屈指のベテラントレーナーとして認められている六平銀次郎は何度目かも忘れたURAからのオーダーが記された書類を心底面白くなさそうに確認してた。
ウマ娘の価値、トゥインクル・シリーズの価値、URAの価値。そうしたモノを守りたいという気持ちは腹立たしいが理解できるし、メジロの名を持つウマ娘がトラブルを起こせば不愉快なマスコミ関係者が無責任に騒ぎ立てるのも簡単に想像できる。
だが、それを素直に許容できるかどうかは別の話だ。メジロルイヴュールの監視と、必要ならば矯正のための手段の多くを黙認するという指示は銀次郎の逆鱗に触れるギリギリの
「お世辞にも態度が良いとは言えないが、だからって礼儀作法がなってねぇワケでもない。教員や教官から大きな不満の声は聞こえてこねぇし、中等部の娘っ子たちからはアイドル扱いされちゃあいる。が……」
強者の傲慢。
上級生たちの中にはルイヴュールの普段の態度をそう受け取る者が少しずつ増えてきているし、時間が経てば同期のウマ娘たちからも同じような視線を向けられることは容易に想像できた。
強すぎるのだ、ルイヴュールは。逃げで全てを置き去りにする姿はもちろんだが、追い込みで大外から一気にまくるときなどはまるで他のウマ娘たちのことなど眼中に無いと言わんばかりに斬り捨てる。
それは例えるなら……愛の反対は憎しみではなく無関心という言葉の意味を考えさせられる、あるいは突き付けられる走りとでも言えばいいのか。
(パッと見た限りでは本人からそういう気配は感じなかったが……ヴェンデッタ、メジロヴェンデッタか。メジロの復讐者、ね。主に一族による血の復讐を意味する言葉……だったか? あーイヤだイヤだ、何も知らずにイキがってた頃に戻りてぇな俺もな〜)
簡単に『信じる』という言葉をウマ娘に贈ることができた世間知らずな若造のトレーナーであれば薄汚い大人の事情も簡単に笑い飛ばせたのかもしれない。
だが残念ながら六平銀次郎というトレーナーには酸いも甘いも噛み分けてきた経験がある。ウマ娘側にも、トレーナー側にも、決して愉快ではない歴史があることを知っている。それはもちろん、全てを聞かされたワケではないが名門たるメジロ家についても……だ。
「一度、レース以外でじっくり走りを見てみるか? 全部スカウトを断ってるって話だが、まぁちっと走りを見せてくれって頼むだけならなんとかなるだろ。たぶん」
◯□◯ー
ルイヴュールが人の集まる場所を好まない、という話は聞いている。発見できれば儲け物、そうでなくとも気分転換ぐらいにはなるだろうとフラフラ歩いていた銀次郎の視界にひとりの若い男性トレーナーの姿が入ってきた。
(うん? ありゃ沖野か。ほぅ、さっそくウマ娘をスカウトしてトレーニングしてるみたいだな。新人にとっての最初の壁を無事乗り越えやがったか。どれ、お手並み拝見と────ッ!?)
ふたりいるバカ弟子のうち、中央に合格してみせたほうのバカである沖野がウマ娘を指導している。さて、どんなものか少し冷やかしてやるかとターフに視線を動かした銀次郎の動きが止まった。
目的のウマ娘、メジロルイヴュールが走っている。
わざわざ外ラチに沿うように走らせている意味はわからない。だがそんなことよりもルイヴュールの表情だ。伊達や酔狂で中央のトレーナーを続けてきたワケではない、この程度の距離であればウマ娘の表情などハッキリと認識できる。
まるで彫刻。感情どころか生命力の温度すら感じない、本当にターフの上を走っているのは生きているウマ娘なのかと考えてしまうほどにルイヴュールの表情は凍てついていた。
信じられない。銀次郎は沖野という男のことを知っている、少なくともウマ娘にあんな表情をさせることを許容するような男ではないことを知っているのだ。
信じられない。ウマ娘が走っている最中にあれほどまでに感情が欠落することなどあるものなのか。圧勝し、どこか退屈そうにしていた模擬レースのときでさえあそこまで酷くはなかったというのに。
声を。
URAからの注文など関係ない、なにはともあれ沖野に、ひと言、声をかけなければ。そう想いながらも足が動かない。それほどまでにメジロルイヴュールの走りはどこまでも無機質で、どこまでも────美しかった。
「……まさか、この俺が。雰囲気に飲み込まれて声も出ねぇとはな」
気が付けば沖野もルイヴュールもトレーニングを終えて立ち去っていた。まさか自分が新人トレーナーと新入生ウマ娘のコンビに気圧されるなどと想像すらしなかった銀次郎が何気なくコースに近付くと、そこには1枚の紙切れが落ちている。
どうやらそれは沖野がルイヴュールのタイムを記録したものらしく、やはりあの外ラチ沿いの走りにはなにかしらの意味があったのだろう。タイムのブレが大きいのは走り始めで沖野からの指示を意識して脚が乱れたのかもしれない、そして途中からは徐々に数値の示す誤差が小さくなり、後半部分ではせいぜい測定誤差としか思えないほど正確なタイムが刻まれている。
(やはり実力は本物か。だが、これは……あのペースで、延々と走り続けて、こんな機械みてぇに正確になんざ……機械?)
連想する。
想像してしまう。
何故なら、銀次郎はルイヴュールという仮面に隠されたもうひとつの与えられた名を知っているから。一族へ、血の復讐を。
「お? ロッペイさんッ!」
「うぉッ!? あ、あぁ沖野か。お前、あのなぁ、ムサカだって言ってんだろうが。北原といいお前といい、いい加減にだな……それで? その、後ろにいるウマ娘はお前さんの?」
「まぁ、ちょっと縁がありまして。有名人だし、ロッペイさんも当然知ってますよね? ルイ、この人は六平銀次郎って言って、俺の師匠みたいな人だ。日本でも指折りのトレーナーでさぁ──」
ロッペイ呼びはともかく、純粋に敬意は抱いているのだろう。楽しそうに銀次郎のことを紹介する沖野。
その後ろで黙ったままのルイヴュールと視線が合えば、目を閉じて軽く頭を下げてきた。相手に合わせた態度を選ぶところからは、先ほどターフの上を走っていたときのような無機質さは感じない。
だが。
「そういやロッペイさん、この辺に紙切れが落ちてませんでしたか? さっきルイのトレーニングをしてて、タイムを記録してたんですけど」
「あぁ、それなら」
くしゃり、と。
「……いや、知らねぇな。どっか風で飛んでったんじゃねぇのか? 大事なモンなら見つけたら拾っておいてやるが」
「あー、別にそこまでしてもらうような物じゃなくてですね。単にトレーナーがコースの上にゴミを落としたまんまっていうのはホラ、仮にも指導者として問題あるっていうか」
「そうか。いい心掛けだ。まぁワザとポイ捨てしたってワケじゃねぇんだろ? ならそんな気にするこたぁねえ」
「そうですか? なら俺たちはこの辺で失礼します。ルイ」
「ん、わかった」
去り際にもう一度ペコリと頭を下げるルイヴュール。
コミュニケーションに問題があると言われていたが、沖野とは普通に並んで話している。会話の内容までは聞こえないものの、後ろから見ている限りでは雰囲気は悪くない。クールで大人びたウマ娘と思えばルイヴュール以外にも似たような学生はいくらでもいる。
それに沖野の態度も銀次郎を安心させるものであった。まさか才能に恵まれたウマ娘をスカウトした途端に功名心に駆られたのかと心配したが、名誉に目が眩んだトレーナーは指導者としてゴミのポイ捨ては良くないとわざわざ引き返してくるようなことはしないだろう。
当面は、心配は無用のはず。
(だったら、なんで俺は、タイムが書かれた紙を握り潰してんだ?)
長くトレーナーをしていれば苦虫を噛み潰したような顔になったことも一度や二度ではない。そうした経験がいまの六平銀次郎というトレーナーを形成していることは本人も理解しているし、それらの過去を忘れてはならないと強く心に刻み込んでいる。
だが、そうした様々な過去の経験を持つ銀次郎でもいま自分に纏わりついているこの感覚の正体がわからない。信じる、などという無責任な言葉で沖野とルイヴュールを放置するのは愚の骨頂であると理解していながらも、ふたりに対して自分がどう関わるのが正しいのかわからない。
ただ、つい先ほどターフの上を走るルイヴュールの姿を
ロッペイさんの雰囲気を匂わせつつ、しかしロッペイさんとも違う喋りの難しいことよ。そしておハナさんや北原さんの出番どうすっぺな?