朽木ルキアは十三番隊の職務に勤めながら独り言を呟いていた。
「今期十三番隊に入る新隊員への説明に新人研修の日程調整や支給品の手配。隊長代理の副隊長として隊首会への出席……えぇいっ! やることが山積みではないか!」
書類整理をしながら仕事の多さに文句を漏らす。
かつての隊長だった浮竹十四郎が滅却師との戦争で亡くなり、隊長としての業務は副隊長であるルキアに回っている。
尤も、病弱な浮竹が存命でも変わらなかったかも知れないが。
この忙しさに普段より苛立っている理由は、浦原経由で送られた報告の手紙にある。
「井上と一護の披露宴に間に合わぬではないか」
自分と阿散井恋次が籍を入れてしばらくし、友である二人の結婚。
しかし運の悪い事にその式の日程がルキアの忙しい時期と被ってしまった。
それを知った二人が式の先延ばしを提案してくれたが、そんな手間をかけさせる訳にはいかないと仕事に奮闘している。
式への出席はルキアと恋次。それに戸魂界から仲の良い面々も参加する。
山田花田郎や志波岩鷲。
松本乱菊や平子真子その他。
「……これだけ死神に祝われる人間など、あやつらくらいなモノだろうな」
友の結婚を我がことのように喜びながら茶を飲むルキア。
仕事に没頭していると隊長室に夫の恋次がやってくる。
「仕事、忙しそうじゃねぇか、ルキア」
「うるさい。冷やかしに来たのなら帰れ」
此方が忙しい時にやってきて、苛立ちから素っ気なく返す。
そんなルキアの様子に恋次が肩を竦める。
「キツイようなら、隊長が仕事を
「兄様が?」
それは魅力的な提案だが、ルキアはいずれ十三番隊を背負って立つ身だ。
今でも副隊長という事で他の隊より仕事を減らしてもらってるのに、こんなことで公私混同をする訳にはいかない。
「いや、これくらいどうにかして見せる。兄様に手を煩わせる訳にはぁあああああああああああああっ!?」
「うおっ!? どうした!!」
突然叫びだしたルキアに恋次が半歩身を引く。
兄、という単語に大事な事を思いだし、ルキアは頭に手を載せた。
井上織姫にはまだ、結婚報告をしなければいけない相手が居たのだ。
やることは増えるが、そんな事を言っている場合ではない。
「恋次! すまないが手伝ってくれ!」
不幸というのは突然やってくる事を青年は知っている。
例えば、最愛の妹と喧嘩した日に交通事故でアッサリと死んでしまった青年のように。
その後、幽霊となった青年は妹を見守っていたが、徐々に自分の写真に手を合わせる回数の減った妹に対しての寂しさから虚と呼ばれる悪霊へと変わり、妹を殺しそうになるが、それはある少年によって回避される。
成仏して流魂界に辿り着いた彼は、中心にある瀞霊挺に近い集落に案内されてそこで暮らしている。
元々人当たりの良い青年はすぐに住民に受け入れられ、たまに住民に同士の諍いも起こるが、概ね平穏で穏やかな生活を送っていた。
そんなある日────。
「お兄ちゃん……」
もう聞く事のないと思っていた人の声を聞き、振り返るとそこには最愛の妹が立っていた。
妹に会えた喜びよりも、妹が死んでしまった事への悲しみが襲ってきた。
「織姫……お前も、死んで……」
目頭が熱くなると、何かに気付いた様子の妹が慌てて首を左右に振る。
「ち、違うよ!? 死んでない! あたし、死んでないから!」
首を振り続ける織姫に後ろに立っていた死神の青年────黒崎一護が止める。
「落ち着けよ織姫」
「あ、うん。ありがとう……一護、くん……」
まだ呼び慣れてない様子で一護の名を呼ぶ織姫。
そこから数回深呼吸をして恥ずかしそうに話し始める。
「あ、あのね、お兄ちゃん……今日は報告があって来たの。お兄ちゃんにも言った方がいいって朽木さんが特別に気を利かせてくれて」
そこから間を置いて織姫が報告を口にする。
「あたしね、今度結婚するの。あ、相手はここにいる黒崎一護くん! あたしの旦那様だよ!」
バッと両手を広げて一護を指す織姫。
一護の方も恥ずかしそうに頭を掻いてから小さく下げた。
それから、織姫が自分の事を話し始めた。
高校でケーキ屋でアルバイトを始め、今はそこの正社員で働いていること。
有沢たつきとは今でも仲が良く、高校の頃から親しくなった友人達共々たまに集まっていること。
今は黒崎家で同棲していること。
「一護くんのお父さんや妹の遊子ちゃんや夏梨ちゃんもスゴくよくしてくれるんだよ」
一気に捲し立てられ、今度は嬉しさから目頭が熱くなった。
子供だった妹が結婚する。それだけの時間が流れた事実や、妹に家族が出来る嬉しさと淋しさ。
それらが混ざって。
だから青年は妹の夫となる一護に頭を下げた。
「黒崎くん。妹をよろしくお願いします」
「俺、翻訳家を始めたばかりで、まだ収入は安定してなくて、経済面で親父や織姫に助けられてばかりで。でも────」
彼も緊張した様子で、それでも誓うように告げた。
「俺が、織姫を幸せにします。必ず」
『兄貴が妹に殺してやるだなんて! 死んでも言うんじゃねぇよっ!!』
かつて、妹を護る為に自分にそう怒ってくれた彼の言葉だからこそ、青年は自然と信じることができた。
それから少し話してあっという間に再会の時間は過ぎていった。
「織姫……結婚おめでとう」
小さく拍手をすると妹は本当に心から幸せそうに。
「うん!」
花のような笑顔で応えた。