ヘタレ霊夢   作:ブナハブ

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収拾のつかない現場、役に立たないヘタレ、頭痛がしてきた賢者

 妖怪とは、人の恐怖心が生んだ化け物だ。人の恐怖を糧に生きる彼らは、人から恐れられないと存在を保つ事が出来ない。

 そんな妖怪達は基本的に生きた年月が長いほど強い。それだけ人から恐れられてきた歴史を持っているからだ。

 

 ではレミリアとフランはどうか? 彼女達の生きた年月はおよそ五百年程度。これは吸血鬼としても、妖怪としても幼く、歴史が浅い。

 

 そういう意味なら彼女達は弱いのだろうが……果たして、この光景を見て誰が弱いと断じれるだろうか?

 

「アハハハ!!」

 

 フランが笑いながら、曲がりくねった奇妙な形状の槍を薙ぎ払う。

 

「───ッ!」

 

 それはレミリアの脇腹に当たり、そのまま上下真っ二つにする。

 

「フッ!」

 

 しかしレミリアはそれを気にした様子もなく、手に持つ真紅の槍でフランの心臓をぶち抜く。

 

「カッ……アハ」

 

 苦悶の表情を浮かべるのも一瞬、フランの顔は再び狂気に染まる。

 

「その程度ナノ? お姉サマ?」

「あら、焦っちゃダメよフラン」

 

 ニヤニヤと笑うフランの顔にレミリアは手のひらを向けて、

 

「ちゃんと満足させてあげるから」

 

 その顔面へと無数の弾幕を放った。

 

「〜ッ!?」

 

 絶え間なく撃ち込まれる弾幕。体に槍が突き刺さってる為、回避する事もままならない。

 

「アハハ! ちょっとさあ」

 

 しかしフランは変わらず笑う。弾幕に被弾しても動じずに手を伸ばし、

 

「鬱陶しいよー!」

 

 弾幕を放つレミリアの腕を掴んで握り潰す。

 

「くっ!」

 

 弾幕の嵐は止み、その隙にフランは後ろへ飛んで槍から抜け出した。

 

「アハハハハ!」

「……仕切り直しね」

 

 ケタケタと笑うフランに、レミリアは槍を構え直して睨み付ける。切断された筈の下半身はいつの間にか繋がっており、潰れた腕もみるみると健康な状態へと再生された。

 

……吸血鬼、それは夜を統べる王そのもの。月の光で力を増し、反して日の光には身を焼かれる。その姿は正しく月夜の怪物。

 圧倒的な身体能力、埒外の不死性、太陽に拒まれてもなお、吸血鬼の強大さは翳る事を知らない。

 

 言ってしまえば土台が違うのだ。強さとしての格が、存在そのものが、そこらの妖怪とは訳が違う。

 

「す、すげえ」

 

 妖怪の中でも上位の力を持つ吸血鬼同士の戦いに、魔理沙は思わず戦慄してしまう。それでも怯えて縮こまる事が無いのだから流石と言えよう。

 

(……久しぶりにレミィの全力を見たけど、やっぱり凄まじいわね)

 

 パチュリーは観戦する傍ら、魔法を使って図書館内に結界を張っていた。

 

(こんな物かしら)

 

 内側からの攻撃に対する強度を限界まで高める。これでもレミリアとフランが全力で攻撃すれば破壊されてしまうだろうが、無いよりはマシだろう。

 

(さて、レミィに発破をかけた博麗の巫女だけど)

 

 結界を張った後、パチュリーは霊夢の方を見る。

 

「……」

 

 腕を組み、冷たい表情を浮かばせたまま彼女は戦いを眺めていた。

 

(……完全に静観するつもりのようね)

 

 この戦いを、その無機質な瞳を通して何を思っているのか、何を考えているのか、パチュリーには理解出来ない。

 

(このまま決着がつくまで見守るつもり?)

 

 だとしたら気長に待つ必要があるなと、パチュリーはこっそりとため息を吐く。

 

 吸血鬼同士の戦い、それはあまりにも熾烈で不毛な物だ。高い不死性で殺す事は困難だし、弱点が同じだから有効打を用いる事も出来ない。

 弾幕ごっこなら話は別だが、今やっているのは完全な殺し合い。泥試合になること間違いなしだろう。

 

(……本が全滅しない事を祈るわ)

 

 今も本に被害が及びそうなら全力で防御しているが、それでも一部の本は燃えたり細切れにされたりと哀れな運命を辿っている。本が一冊また一冊と消えるたび、パチュリーはやるせない気持ちになるのだった。

 

「……」(あのー)

 

 ちなみに霊夢が静観していると思っているパチュリーだが、事実はほんの少しだけ違う。

 

(私、今すぐ逃げ出したいけど駄目かな?)

 

 彼女はただ、動く機会を見失っただけである。

 

 ヘタレ的にはさっさとこの大妖怪決戦から逃げ出したい。けどここから一人立ち去るのは非常に悪目立ちする。それもヘタレ的にはNGだった。

 

(ねえ、これ別に身内が争ってるだけだから私いらないよね? いなくても大丈夫だよね? ……え、駄目?)

 

 意を決して逃げようにも、頼りになる勘にさえ『逃げないのが吉』と有り難い言葉を言われる始末。

 

(うぅぅぅ、私はどうすれば……)

 

 戦いに介入して仲裁しようなんて考えがヘタレに思い浮かぶ筈もなく(思い付いてもやらないが)、結果として霊夢は戦いを静観するしか選択肢が無かった。

 

……レミリアとフランの殺し合い、それを静かに眺める霊夢達。

 

「……はぁ〜」

 

 そんな彼女達を見る者が一人居た。

 

「どうしてこうなるのよ……!」

 

 頭を抱えた妖怪賢者、八雲紫である。

 

(ちょっと様子を見に来たら、なんであの子は吸血鬼同士の争いを眺めているの?)

 

 弾幕ごっこを取り入れた初めての異変解決。なにかと不安要素の多いヘタレが上手くやっているのか、心配だった紫はちょくちょく霊夢の様子をスキマを通じてこっそり覗いていた。

 

 少し前に見た時はレミリアと戦っていたし、もうすぐ異変解決かと思っていたのだが、一向に空を覆う霧は晴れず、まさか負けたのかと思い再びスキマを覗けば……これだ。

 

(それに貴女も貴女よレミリア・スカーレット。恐らくだけど霊夢に負けたのでしょ? だったら早く異変を終わらせなさいよ! なんで姉妹喧嘩なんてしてるのよ! しかもなに本気で殺し合っちゃってるの!?)

 

 言いたい事は山ほどあるが、博麗の巫女が異変の首謀者を退治した今、一刻も早く異変を終わらせなければならない。帰るまでが遠足と同じように、異変を終わらせるまでが異変解決なのだ。

 

(どうする? どう動けば穏便に事を収められる?)

 

 紫は思考を巡らせる。彼女の頭脳を持ってすれば、そう時間を掛けずに最善の選択を導き出せる。

 

「……良し、これでいきましょう」

 

 今回も僅か数分で答えは出た。その内容は誰にも敵意を持たれる事なく、そして当然のように彼女にとって利のある物であった。

 

「全く、なんで私が出しゃばらなきゃいけないのよ」

 

 紫はブツブツと愚痴りながら、スキマを広げて向こう側へと移動するのだった。

 

「───そこまでになさい」(この鬱憤は霊夢で解消しましょう)

 

 この時、霊夢の背筋は震えていたと言う。




あと少し……あと少しで紅魔郷編が終わる……。

紅魔郷編で終わらせるかどうかで悩んでいます。良ければ。

  • 紅魔郷編で完結させる。
  • 続きを書く。※エタる可能性有り
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