美竹蘭がオリキャラと駄弁っているだけの話。

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冬晴

 容赦なく頬を突き刺す寒さが痛みとして認識できる朝方、黒髪のボブカットに一筋の赤いメッシュを入れた少女――美竹蘭は街中をあてもなく歩いていた。ここ数日、満足に眠れない日々が続いてしまい、(まぶた)も心も重く感じる。寒くなってきたことが原因なのか、他のことで引っかかっているのか分からないが、身体を動かせば多少は軽くなるだろうと歩き続けていく。

 

 ぼんやりと見つめていた先、ジャージ姿で元気に走る人影が目に入った。「おー、蘭じゃねえかー」自分の名前を呼んだ影が走り寄り、「随分と早いな? 買い物か何かか?」適当な距離に辿り着つくと足踏み。黒い髪と赤い瞳、自分と似たような色素を持っているが、短くツンツンとした髪型に中性的な顔立ちと骨太かつ筋肉質でしっかりとした体格から全くの別人だと認識できる。

 

「まぁ、そんなところ」特に否定する理由がないため首肯した。「秀は……ランニング?」改めて相手の様相を認める。きっと同学年の同性だと初見で見極められる人はいないのではと顔を合わせる度に思う。

 

「ああ、いつもこの時間に走ってる」彼女は快活に応える。「この後、暇なら缶コーヒー奢るぜ」少年のような笑い方から容姿など何から何まで同級生の女子とは思えない。

 

「いや、いい」蘭は首を横に振った「ランニング中は流石に……」相手の邪魔になることはしたくないし、ましてや貴重なトレーニング時間だと思えば、誘いに乗るのは気が引ける。

 

「別にいいって」相変わらず秀は元気に笑う。「トレーニングとかそんなもんじゃねえから」

「……じゃあ、何のために走ってるの?」理由が分からず、眉をひそめながら蘭は問いかける。

「気分転換」彼女はあっさりと答えた。

 

 

 

 

「今日はえらくさみぃーよなー」自動販売機の前、呟く秀の息は白い。「あ、ブラックで大丈夫か?」

「平気」隣で蘭はぶっきらぼうに返す。「何で急に缶コーヒーを?」見上げる先の横顔、鼻先や耳が赤く染まっている。

 

「何か眠たそうだったから」取り出し口に落ちた二缶を取り出すために、彼女は屈んでいく。「これから何かあるってなら、目覚まさなきゃいけねえだろ?」二つとも手に取ると、背筋を伸ばして一つを蘭に手渡す。

 

「うん、まぁ……ありがとう」受け取れば、手が冷えていることを嫌でも知覚させるが如く、缶の熱が伝わる。何気なくプルタブを引いて(ふた)を開け、慎重にコーヒーを口に含む。落ち着いた熱い苦味が味覚を刺激して、喉元を通り過ぎていく。

 

「何か悩みごとでもあんのか?」一口飲んでから秀は話題を切り出す。「俺で良けりゃ聞くぞ」鋭い目つきや荒々しい口調で隠れてしまいがちな面倒見の良さに、少しだけ安心感を覚える。

 

「大丈夫、大した悩みじゃないから」ただ数日眠れないだけで、何か不安に思うことはない――瞼と心が重く感じること以外は。「秀の方こそ、何かあったの?」はっきりとしない自分の悩みよりも、明確化していそうな彼女の方が深刻なのではと思って訊き返す。

 

「んいや、何も」空振りだったようで、手に持っている缶を落としそうになる。「何で?」秀はきょとんした表情で蘭の顔を見つめていた。

 

「気分転換で走っているって言ってたから……」気恥ずかしくなって蘭は視線を地面に逸らして、弱々しい語勢で理由を言う。

 

「ああ、眠気飛ばすためだよ」質問された意図を知ると秀は、溌溂に笑い立てる。「走ってりゃ、朝眠いのも消えるからな」鋭い双眸(そうぼう)を細め、屈託なく笑う姿はまさしく少年そのもの。

 

「そっか……」普段なら何かしら一つ反論を挟むところだが、妙に納得してしまう。「何と言うか、単純だね」あまりにも簡潔な返答に、蘭は初めて笑みを(こぼ)した――苦笑いだったが。

 

「よく言われる」口の端を吊り上げたまま秀は認める。「走るのは好きだし、好きなことしてたら眠気なんて吹っ飛ぶだろ?」明朗快活な相好で彼女は、あっけらかんと言い放つ。

 

「そうだね」

 

 彼女の単純明快な言葉に、小難しく考えようとした頭がゆっくりと思考速度を緩める。「そろそろ行こうかな」結局何が原因だったのか分からないが、今夜は何となく寝れそうな気がした。「缶コーヒー、ごちそうさま」飲み干して空になった缶をゴミ箱に捨て、秀と向き合う。「今度、つぐみの店のコーヒー(おご)るよ」今まで固くなっていたのが嘘のように柔らかい微笑みを(たた)えた。

 

「おう、楽しみにしているぜ」言葉通りの表情を浮かべる彼女を見て、蘭は満足げに頷いた後、別れを告げて(きびす)を返して歩き始める。足取りは先程よりも軽かった。


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