北おろし   作:謝罪土下座丸


原作:BanG Dream!
タグ:オリ主 冬のバンドリ祭 美竹蘭 オリキャラ
美竹さんにバイクは似合う。

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北おろし

 風が(かたわ)らを通り過ぎて、冷気がいとも簡単に衣服の生地を無視したかのように身体の芯まで冷やそうとする。(あご)の辺りから滑り込んだ威勢のいい寒気による目の乾燥を防ぐために細くなっていく双眸(そうぼう)、寒さに(こら)えようとして強張(こわば)る頬、冬という存在を否が応でも知覚しなければならない。

 

 ただ今は情け容赦ない寒冷が混乱する脳内に正確な現実を突きつけていることを、美竹蘭は運転手の身体に必死にしがみつきながら認識していた。いや現実に呼び戻す手がかりと言うべきか。とにかく現在の彼女は、自分が目にしているものに対して正しく受け入れられない。

 

 どうして冬風を切っているのか、学校の帰り道にバイクに乗った青年にナンパされたのが発端だったはずと記憶を辿る。バンド練習もない放課後、他のメンバーは部活や委員会、バイトなどで予定が埋まっていて一人だけの帰路。厚手の上着を羽織(はお)ってなければ身震(みぶる)いしてしまう季節になってしまったなとしみじみ思っていたところ、いつからかバイクが自分の歩調に合わせて並走しているのを視界の端に認め、何事だと思って横を向いたのが運の尽きだった。

 

 ヘルメットのバイザーを上げた青年が「ねえ今から乗っていかない?」という直球すぎる口説き文句を口にし、即座に断るもしつこく迫られたのだ。もちろん根負けすることなく拒み続け、結果的には彼の意気を折ることに成功する。しかし、青年を避けようとしたあまりに普段とは違う道を通ったからか、何かに導かれたかの如く心霊スポットである廃墟前へと辿り着く。

 

 方向音痴による迷子ということでもなく、幼い頃からそれなりに通った道ではあるものの、心霊スポットの周辺に相応しいほど人気がない。日があっという間に沈む時季と相まって薄暗く何が出てきてもおかしくはない雰囲気からあまり通りたくないと思っていたが、背に腹は代えられない――家がある方向へと足を踏み出した瞬間、廃墟の中から物騒な物音が聞こえた。一瞬固まった後、恐る恐る建物の方に顔を向けた直後、血で上塗りされたバットを手にした大柄な男の姿が寸秒だけ目に映る。

 

 当然、命の危機だと頭のてっぺんから爪先まで共通の伝令を下し、速やかに走り出す。まさか心霊現象ではなく、物理的に危ないものが見えるとは思わないだろう。

 幸いにも、向こうは彼女の存在を気づくことなかったため、息を切らした頃に蘭は安心して足を止める。周囲を見渡せば、見知らぬ住宅が建ち並ぶ住宅街というのを認め、頭を抱えた。どうやら家の方向に逃げていたつもりが、気が動転して違う道を通ってきたらしい。

 

 だが彼女はすぐにスマートフォンを取り出し、地図アプリを起動する。見慣れない道だとしても家路に繋がっていないわけではないため、合流地点さえ分かれば問題ない。

 現在地と家の方角を確かめながら地図と(にら)み合いをすること、数分。道のりを理解したところで歩き出そうとした刹那、背後から誰かが呼び止める声がして、反射的に振り向く。先程、自分をナンパしてきたバイクの青年が大きく手を振っていた。

 

 何故、彼がいるのか――詳しく自問する余裕もなく、蘭はまた走る羽目に。けれどバイクと人間の速力では勝負になるはずもなく、瞬く間に青年が隣に並ぶ。諦観(ていかん)のため息を吐いてから立ち止まって(にら)みつければ、バイザーを上げた先に見えるにこやかな目元がやんわりと受け流す。悪い人間ではないだろうが、ナンパしてきたことを差し引いたとしても無警戒に信用できる相手でもない――ただ彼が帰路を知っているような気がしているのは確か。

 

「道迷ったでしょ?」蘭の状況を言い当てる青年は、路肩にバイクを止めて降りるとリュックからヘルメットを出して彼女に投げ渡す。図星を悟られまいと仏頂面(ぶっちょうづら)を浮かべていたものの、蘭は反射的に受け取ってしまう。彼は手慣れた様子でリアキャリアにリュックを括りつけると、にこにこと楽しそうに目を細めてバイクに乗る。

 断ろうとしたが、もう断れる状況ではないと諦めるしかなく、蘭は彼の後ろに座ってしがみつくことに。家の近くにあるコンビニまでを教えて、今に至る――。

 

 正直、ヘルメットを投げ返せば良かったのではと今になって後悔するばかり。確かに逃げれる状況ではなかったし、他人の物を投げ捨てるほどの勇気もない。けれど見ず知らずの人間のバイクに乗るのはあまりにも馬鹿らしいの一言に尽きる。

 

 心霊スポットで目撃した一幕による気の動転や逃走による疲労が原因でまともな判断ができなくなっていたのだと決めつけ、もう原因を突き詰めることを止めた。代わりに少しだけ周りへ()を走らせてみる――通り過ぎていく景色はどれも見たことがある色合いをしており、本当に家路についているらしい。

 

 程なくしてコンビニに到着し、蘭は降りてヘルメットを突き返す。青年は嬉しそうに受け取って、彼女に礼を言って爽やかに走り去る。彼の後ろ姿を見て、蘭は「本当になんだったの……?」と眉をひそめて困惑するだけだった。


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