すれ違うのも仕方無いけど、まあそこはどうにかやっていこう。
価値観の違いって、そういうもの。
若いって、そういうもの。
チャラ男だのなんだのと言われはするけれど、俺からすれば逆だろと思う。
人生有限なんだから、可能な限りガンガン押していく方が良いに決まっている。そこを誤魔化して、良識だの節度だのを口実にしてウダウダやってる方がおかしいんだ。まあ、良いんだけどさ。人間色々だから。俺の邪魔さえしなければ、どうだって良い。
俺だって別に押し売りしようって訳じゃないし、視界の外にいるバカにわざわざ絡みに行きはしない。
そんな平和主義の俺だけど、どういう訳か今はクラスメイトの渚にスゴい勢いで睨まれている。と言うかそろそろ手が出てきそうで怖い、こいつ平気で人殴るからな。
さて、どうしたもんか。
切っ掛けは、たまたま行った喫茶店でナツ……鹿野千夏を見掛けた事。学校から遠くない女子受けする店を梯子しながらナンパしてれば、クラスの女子に会うのは珍しくない。こういう時には、やあ運命的だねーと声をかけるのが男子としての礼儀だ。こないだも逆ナンされてる時ナツに会ったけど、礼儀を優先したし。
「え"。あー……松岡くんかあ……」
今回も嫌そうな顔をしてくれたけど、これはこれで悪くない反応だ。意識してる、ってことだから。ナツはいつだってこんなだ、男子相手でこんな顔を見せるのは多分俺だけだな。
――と。
よく見れば、隣には見覚えのある男子の顔。ああ、そうだ。前もナツと一緒にいた、ファンの子だ。名前は知らないけど。
「やあ久し振り、ファンくん。あんまりナツを困らせるなよ、せっかくのオフをファンサービスに使わせちゃ可哀想だろ?」
とっとと帰らせようと俺はそう言うけれど、どうも上手く伝わらないらしい。前もそうだったな、帰れよって言ったのに聞かなかった。強情なのかそれとも勘違いが酷いのか、それとも両方かな。憧れの先輩と一緒にいれてさぞかしご満悦だろうけど、そんな自己満足でナツを振り回さないで欲しい。
これは一つ、分からせてやるべきだな。こう見えて修羅場で遅れを取ったことなんか無いのが俺だ、まあ基本的に暴力は嫌いだけど。でもこの子には身の程を知ってもらわないといけない、ナツの為にも鬼になるか。
そう思った、まさにその時。
「――いい加減にしなさい、ウザ絡みしてるとブン殴るよ」
俺の後頭部へ鈍い衝撃が走り、ドスの聞いた声が叩き付けられたのだ。
驚いて振り返るとそこには――。
「うわ、渚じゃねぇか……」
俺が多分一番苦手なクラスメイトが、怒りの顔で立っていた。
どうもノリがあわないというか、何と言うか。渚とは小学校からの付き合いだけど、そもそも女子だとすら思えない。俺のやる事なす事気に入らないのか、すぐ突っ掛かってくる。ナンパしてれば邪魔するし、もしかして俺の事好きなんじゃないのかと思ったこともあるけれど――無し寄りの無しだ。
そんでもってコイツはナツの親友どころか後方彼氏面してて、俺がナツに声かけただけで怒りやがる。全く面倒くさい奴だ、本当に。
しかも「この男といると損しかしないから、他所行きなよ」とナツたちを帰らせやがった。ああ、勿体無い。ファンくんはともかく、ナツは引き留めといてくれよ。
「あのさ、松岡。あいつらにちょっかい出すの、もう止めなって。そこまで野暮でもないでしょ、あんたは」
わざとらしく溜め息なんか吐く渚に、わずかな違和感はある。俺としてはファンくんにまとわりつかれて迷惑してるであろうナツを気遣いつつ、出来れば口説きたい気持ちで接している。対比で言うと9:1くらい。うん、マジで。
しかし渚の言い方だと、ナツは迷惑がっていないよう気がする。むしろ、……むしろまさか。
「……OK渚、起きたまま寝言言っちゃダメだぜ? それじゃナツが望んでファンくんと居るみたいじゃないか、そんなのはさぁ……」
「いやあのさ、
いや、いやいや。いやいやいやいや。そんな事が有り得るか。
片や栄明のスター、片や地味なじゃがいもくん。そんなの成立するわけがない、絶対にない。俺くらいでなければナツと釣り合わない、そう思っていたのに。
ただ、もし本当にそうなのだとしたら。そうなのだとしたら、俺は……。
「んー……本当にナツがそれで良いってんなら、別に構わないけどさ……」
世の中には人のモノになると俄然興味がわくってのもいるが、俺はそうじゃない。と言うか揉めたくないから彼氏持ちはスルーするのが俺の流儀だ、売約済みの物件相手に交渉するのは金と時間の無駄だし。まあ向こうから来たら別だけどさ、そこは礼儀ってやつ。
だけどなあ、あのファンくんにナツが御せるのか。俺でさえ手に余りかねないぞ、あの魔神。
「ま、なら俺も友達として――」
応援させてもらおうか、と言おうとした俺の声はそこで止まってしまう。渚が鬼の形相で、顎を掴んできやがったから。何しやがるこの蛮族、すぐ手を出すんだから。
「だーかーらぁ、余計なことすんなっての。どうせ両想いなんだからほっときゃ勝手にくっつくわよ、私はそれを傍から見ていたいの! せっかく目の前で甘酸っぱい青春垂れ流してくれてるんだから、邪魔せず黙って眺めてなさい!」
……ああ、そうだ。このバカ自分が色気の欠片も無いから、「青春」ってもんに物凄い執着があるんだよな。バレー部の誰それが付き合い出したとか、
男女テニス部の部長同士が付き合ってるとか教室で楽しそうに喋ってたし。つまりは後方彼氏面ならぬ後方保護者面したい、と。
それはそれで趣味悪い気もするんだが、言わない方がいいな。そもそも顎捕まれてて、なにも言えないけど。
やれやれ、ろくでもない幼馴染みを持ってしまったのが身の不幸。大人しくするしかない、か。
「良いこと、松岡。あんたがあの二人に余計な手出ししたら、過去の悪行を洗いざらいブチまけるからね」
去り際に酷いことを言って渚はようやく帰り、俺は一人コーヒー片手に項垂れる。
俺が何をしたって言うんだ、畜生。それに過去の悪行ってなんだよ、心当たりが多すぎて分からんよ。まあ確かに不味いけどさ。
にしても、だ。あのナツがなあ、あんなのとなあ。それこそ分かんないもんだなよ、人間って。
まあ――良いか。なんにせよ、ここから先は俺がどうこうする話じゃない。
女子は幾らでもいるんだ、立ち止まってちゃ勿体無い。世の女性たちの為にも、俺はキラキラ輝かないとな。
さて、じゃあ行こう。人生は有限だ、次へ次へと行きましょうかね。
チャラ男キャラ苦手なんですよ…。書きにくいったら。