【霊山同盟支部 第一研究室】
「ある意味予想通りで、ある意味予想以上で、ある意味予想外だな。
いやあここまでくると楽しくなってくる。人生やっぱりエンジョイしないと」
「どうしよう、あっくんがノリノリの時点で嫌な予感しかしない」
終末後も技術研究部は大忙し、寧ろ終末前に広げまくった販路のせいでマイナーチェンジや新商品開発と案件が舞い込みまくる事態となっている。
幸いなことに、現地人のオカルト技術者が所属する第三研究室がそれなりの規模になって来た事や、量産品については各地の工場で賄えるようになったことが追い風となっている。
第一研究室でしか作れない品となると、それこそ黒札案件のオーダーメイド・一品モノばかり。
20000体を目標に生産されている『オートバジン』*1ですら、低レベルかつノーオプションでいいなら工場の生産ラインに乗せられるほどに簡略化が進んでいた。
「というか20000体全部シノさんがハンドメイドとか死ぬからね!
もう何度か過労死でコンティニューしてるけど残機99じゃ足りなくなる!」
「土管用意しないとな」*2
「いやそういう問題じゃなく!」
パソコンと向き合ってオカルト対応3DCAD*3で製図を行いながらも、それらと全く関係ない会話も問題なく行う。
並列思考『程度』はこの二人にとってお手の物であり、なんならこの手の作業をするのに足りないのは『脳みそじゃなくて手の方』と言い切るのが阿部とシノだ。
マシン系の設計をシノが担当し、出来上がったハードに式神を応用したブラックボックス・コアというCPUを阿部が設計・最適化して搭載する。
この二人の共同作業となれば、それは概ね高レベル御用達の装備や霊的加工を施された戦略兵器だ。
なお、後者に該当する超巨大シキオウジをポコポコ量産してるのがショタオジとする。
「とりあえず、多脚戦車*4に搭載できるレベルでいいなら『結界装置』は完成したね。
出力・稼働時間が低下する前提なら、ギリッギリオートバジンにも詰める、かなぁ。
一応デモニカスーツのMAGバッテリーとも接続できるけど、G3Xぐらいの容量は欲しい。
理想を言えばパワーダイザー*5レベルを推奨!」
「『時間稼ぎ』さえできれば避難も救援もだいぶ違うからな」
今回設計しているのは、シェルター等を覆うガイア連合基準の結界を『持ち運び』できるように改造した『結界装置』*6である。
大きさは大型ブラウン管テレビ程度、機動に必要なMAGは相応の量になるので、多脚戦車等に搭載されている『MAGバッテリー』前提の機械だ。
悪魔の侵入を物理的に遮断するバリア効果と、結界内部の悪魔発生を抑える抑制効果を両立した。
本来のガイア連合結界に付随する様々な細かい効果をオミットしているが、一時的に悪魔を押しとどめるには十分だ。
「シェルターや霊道を保護する結界が破壊された時点でオートバジンとデモニカ部隊が急行。
可能なら多脚戦車やパワーダイザーも絡めて、結界装置の一斉起動で結界の穴を塞ぐ!」
「結界の基点そのものが壊されてて結界が消失してる場合は、そのままバリケード役だな。
といっても、多脚戦車どころかパワーダイザーが来てる時点で大体なんとかなるが」
「これ以上の戦力ってシキオウジライン越えちゃうもんねぇ」
シキオウジはショタオジが『大天使が日本に上陸してきた場合の戦力』として数えられる基準で作られている。
スペックは全体的に『格下絶対殺すマン』*7なのだが、
サイズと基礎ステータスの暴力で大抵の大天使*8程度はどうとでもなってしまう。
そして、パワーダイザーも霊山同盟支部に襲来した『黙示録の決戦』において『魔獣 マスターテリオン LV54』を援護ありきで撃退するのに成功しているので、少なくともLV50代の悪魔ならばギリギリ対処できる。
つまり、現在霊山同盟支部における兵器のヒエラルキーは……。
デモニカ部隊(LV30以下)=オートバジン(LV1~30)≦多脚戦車(LV20~30)<パワーダイザー(LV40~50)<超巨大シキオウジ(LV60~)
おおよそこんな状態である。パワーダイザーで対処できない時点で黒札でも危険な異常事態なのだ。*9
「とりあえずこれが正式版の設計図だねー。試作機で運用データは溜まってるし、実機を組んでみて実験に回してみよっか」
「ふぅー、ようやく生産性上げるための簡略化の日々が終わりそうだ……部品点数1個減らすために徹夜するとかさぁ」
「その違いを軽視したせいでセガはゲームハード戦争に負けたんだよ、あっくん」
「セガサターンとプレイステーションの部品点数の違いなんてマニアックすぎるネタ誰が分かるんだよ」*10
なにはともあれ、この結界装置についてはしばらくは研究室でのハンドメイド製造、もしくは技術系黒札への委託生産で少数配備。
その後、工場等でのパーツ生産ラインを少しずつ増やしていき、最終的にはG3系やアガシオンと同じく量産体制を確立する計画を練る事になった。
「まあその計画作るのは俺達じゃなくてハルカとか巫女長だけどな」
「最近体三つでも足りなくなって体五つに増やした*11らしいけど本当に大丈夫なの……?」
「へーきへーき、式神ボディかつ肉体的にはだいぶ人間辞めてるから」
「巫女長さんもまたぶっ倒れかねないからほどほどにね!?
いやまあ案件上に投げてるのシノさんもそうなんだけど!
技術屋専門職だから管理職系のお仕事は苦手だしさぁー!」
良くも悪くも専業タイプの黒札の欠点がモロに出たタイプなのがシノだ。
職人気質で口数の多いコミュ障、専門用語を高速でブン回すような説明しかできないタイプなので管理職など夢のまた夢。
だからこそこうして専門の研究室を与え、技術開発や設計の見直しなどの『現場エンジニアの仕事』一本に絞っているのである。
「っていうか、今更だけどやっぱたっちゃん人間やめてるわけ?
アナライズだと今でも『超人』って表記のままだけど……いつのまにか『式神』消えてるし」*12
「ああ。一時期『魔人』や『ロウヒーロー』になりかけてたが、最終的に『超人』で安定したな」
「ちょっとぉ!?」
いや、前者は分かる。ガイア連合の黒札にも『魔人』化した者はいるし*13、電脳異界で『魔人アリス』も保護?している。
つまり式神移植や蘇生等で『魔人』化した前例はあるし、魔人というだけなら監視対象になっても即座に殺されないのがガイア連合だ。
が、後者はおかしい。『ロウヒーロー』はそもそも個人名や称号であって『種族』ではない。
いや、百歩譲って『超人 ロウヒーロー ギルス』のような名称になるにしても、この世界にはすでに『ロウヒーロー』が存在している。*14
「ロウヒーローにはいくつか種類と基準があるようでな、ハルカはその1つを満たしかけた」
「……その、『満たしかけた種類と基準』って?」
「『コイツが天下取る可能性があり、かつ天下取ったら法と秩序に満ちた世界になる人間』。
ものすごいざっくりとした説明ではあるが、その2つを満たしたタイプのロウヒーローだ」
「つまり……『ロウルート選んだ主人公』……!?」
「そういうことだ」
ものすごくか細い可能性ではあるが、運命力『だけ』はとんでもない数値を叩きだしているのが鷹村ハルカという人間だ。
彼の歩んできた道のりの中で、何かが違えば彼は『ロウルートの主人公』のように法と秩序を敷く側として君臨していただろう。
「あのさ、霊山同盟支部がこの規模で安定してるのって、そういう?」
「あー、まあ。そうだな。アイツの秘めてる『可能性』の発露と言えなくもない。
ちゃんとルールにのっとった『統治』に対する適性がとんでもなく高いんだよ、アイツ。
それが『秩序と法の神*15の性質』とも相性がいいってのが厄介なポイントだけど」
「……あの、もしかしてたっちゃんって最悪餃子*16ルートもあった?」
「いや、元々はガイア連合産の餃子にして大淫婦&サタンと対消滅させる計画だったし」*17
「うん、何度聞いても人の心とか戸棚の奥に仕舞ったような計画だよね!そんなあっくんも好きだけどさ!」
いやーんもうはずかしー!とくねくねしながら惚気ているシノ。
本人曰く『人でなしのイイ♂男が黒幕ぶってる裏で葛藤しながら超絶大局的な視点で生きてるのがたまんねー!』とのこと。
ホモ(バイ)でものすごい術者で人でなしで策謀家でそれでいて人の心を捨て切ってない、実質ダンブルドアな所が好みらしい。
シンプルに男の趣味が悪い。少なくとも作者はそう思う。
「あれ、じゃあもうたっちゃんがロウヒーローになる可能性って無いの?」
「そりゃあまあ、もうロウヒーローとよく似たモノに変質した後だからな」
「あ、そういえば肉体的には人間だいぶ辞めてるとかなんとか……あれ、今何に変質してるの?」
最近は肉体のメンテナンスも悪魔娼館の美波と阿部に任せていたシノが、ふと疑問に思って問いかけてみれば。
「一番近いのは小ヤハウェ」
「ホワッツ!!?」
帰って来たのはこの答え。今明かされる衝撃の真実ぅ!
『小ヤハウェ』『天の宰相』『天の書記』。これらは全て大天使メタトロンを指す二つ名だ。
その中でも『小ヤハウェ』を選択したということは、即ち『四文字』に近しい存在へと変質していってるわけで……。
「……あ、そっか!メタトロンって元々人間なんだっけ」
「ああ。義人エノク*18が四文字*19によって昇天(アセンション)して、
天の国で『小ヤハウェ』こと大天使メタトロンになった、ってのが有名な話の1つだ。
まあ儀典と聖典の違いとか色々面倒なアレコレもあるがそれは置いておく」
ざっくりまとめると、小ヤハウェ=大天使メタトロンとは、四文字や大天使によって変容した事で生まれた『四文字に近しい大天使』ということになる。
そんなモンが現代日本でポンポン誕生するわけもない、ガイア連合だってそうそう生み出せるモノじゃない。
まあ黒札はおおむね四文字の影響を受けているといえばその通りなのだがそれはそれとして……。
「はい、ハルカに後天的にブチこまれた天使っぽい要素をドン!」
『エノク書にも記述のある天使/堕天使と人間のハーフであるネフィリムの肉体』
『並行世界の大天使である【光/プロメス】の力である【アギトの力】』
『並行世界の四文字ことオーバーロード・テオスによる認可』*20
『この世界の大天使メタトロンがハルカに授けたシナイの神火の加護』
『影から見守ったり手を貸したりしてるルシフェルとメタトロン』*21
「うっわ、こうしてみると頭のてっぺんから足の先まで四文字臭い!」
「四文字をエンガチョ扱いするのはやめてやれよ、いや気持ちは分かるが」
仮面ライダー要素で誤魔化しているが、実質力の源がだいぶ天使・堕天使・四文字に近いモノばかりなのである。
寧ろこれだけメシア大喜び要素がロイヤルストレートフラッシュしていれば、普通はロウヒーロー一直線に思えるのだが……。
「天界爆破した上でこれに加えて『サタナエルの加護』*22まで貰ってるからなアイツ。
オマケに大淫婦バビロンにめっちゃモーションかけられまくってる!」
「すごいよね!聖人ポイントと異端ポイントをハイスコア狙いなのかってぐらいに稼いでる!」
そりゃテンプルナイト・サチコが「ウチは公の声明出しませんからね!?」と泣きを入れるのも分かる。
ハルカ/ギルスを肯定しても否定しても穏健派が盛大に割れる。
なんなら過激派だって一刻も早く排除するかとっ捕まえて餃子に再加工するかで割れる。
確かに変質の前例として近いのは『エノク→メタトロンの昇天』だろうが、これをインド式カレーからカレーライスへの変化とするなら、ハルカの場合はネフィリムだのサタナエルだのブチこんだせいでカレー味のウンコなのかウンコ味のカレーなのか問題になってるぐらいに違いすぎる。カレーしか共通してない。
「……あー、もしかして山梨支部にたっちゃん容認派もそこそこいるのって……」
「ああ。いざって時ハルカはメシア教を四分五裂させるのに使えるからな」
「ホントにあの子全方位に切り札だよね!ブレイドなのかジョーカーなのか悩むレベルで!」*23
これ儀式とかしなくてもトラブル全部吸引するんじゃないかなぁ?と思うシノ。
なお、そんなトラブルの爆心地に全て承知で住んでいるあたり、彼女も人生エンジョイ勢であることに疑いはない。
『霊山同盟支部の黒札はイカれている』。比較的感性がマトモな黒札からの共通認識なのであった。
Q ちなみにハルカ君がロウヒーローとして天下取ったらどんな秩序・法を敷くの?
A とりあえずざっくりしたルールつくって不具合出たら都度修正。
本人が数百年でも数千年でも折れず曲がらず歪まず生きていける肉体&精神性なので、
最終的には古代ローマの元老院みたいな議会作ってトライ&エラーを繰り返す。
理想の千年王国とかムリだから千年間地道に頑張りましょう、みたいな。
霊山同盟支部はその縮小版である。