リィエル・レプリカと転生日誌 作:氷月ユキナ
それから少し経った後の、とある夜。
ミラーノ郊外にある森林に、楽しげな少女の声が響いていた。
「ごっみそうじ〜♪ ごっみそうじ〜っ♪ 〜っと」
すたすたと、軽い足取りで目的地へと歩いていく少女。
場所が違えば散歩している子供のように見える彼女の名前は、イリア=イルージュ。
かつてグレンの前で帝国宮廷魔導師団特務分室所属、執行官ナンバー18《月》を騙っていた少女だ。
「まったくもぉ〜、アーチボルト枢機卿一派も人が悪いなぁ〜、ファイス司教枢機卿とフューネラル教皇の暗殺実行犯たちを、こんな辺鄙な場所に隠しておくなんてねぇ」
子供のようにはしゃぎながらも、イリアの目は笑っていない。
高位結界を戯れるように軽々と躱しながら、奥へと進んでいく。
「ありゃりゃ……これは、天の智慧研究会の系統術式ですね〜? ぷっ、アーチボルトさん、真っ黒だぁ♪」
そうして歩いていくと……やがて、一見の屋敷がイリアの目に入った。
「さって、お掃除を開始し──」
そこで、イリアは言葉を切った。
「……え?」
……
「…………」
道化た態度を辞め、無表情のまま慎重にゆっくりと扉を開いていく。
そして、イリアの目に映った
「ん…………待ってたよ。あなたがイリア?」
血と死体でいっぱいの地面の奥に佇んでいるメイド少女が、そこに居た。
「貴女は……ジャティスの犬、ティア=レイフォード?」
「ん……? 酷い認識……不愉快」
イリアの覚え方に、ティアは若干キレた。
だが、それに気づかないようにイリアはため息を吐いた。
「はぁ〜〜……面倒くさ……」
「ん……こっちも」
イリアの失礼極まりない態度に、ティアはこみ上げてくる怒りを必死に抑えていた。
耐えろ。ここでイリアを殺したら原作ブレイクして詰む。
そんなことを自分に言い聞かせながら、
「……我が主の敵は、私の敵でーす。と、いうわけで、ちょっと予定変更ですけど、暗殺者さんたちの代わりに、貴女をお掃除しちゃいますね? ティアさん」
「……はっ」
余裕綽々な態度のイリアに対し、ティアは鼻で笑った。
■□■
「ジャティス、どういうつもり?」
そこから少し離れた場所で、ジャティスはルナに胸ぐらを掴まれていた。
ルナの目つきは鋭く、どんな言い逃れも許さないという意志が感じられる。
「どういうつもりとは、どういうことかな……?」
そんな意志を飄々とそよ風のように軽く受け流しながら、ジャティスは戯けてみせる。
「決まってるでしょ!? どうしてティアをイリア=イルージュの元へ一人で向かわせたのよッ!」
イリア=イルージュの魔術師としての技量は凄まじい。
帝国宮廷魔導師、それも特務分室所属を騙っていた実力は伊達じゃない。
それも、得意としているのは幻惑系統の魔術。
炎を操りながら剣を振るうティアとは相性が最悪だ。なにせ、幻術を発動されたら、それだけでチェックメイトだ。
「ああ、なんだ……そのことだったのかい? 急にどうしたのかと心配したじゃないか」
「はぐらかさないで! あの子が一人で勝てる相手じゃない!」
「おいおい、彼女は僕たちの仲間だろう? こういう時は、仲間の勝利を信じてあげるべきじゃないか」
「それはただの思考放棄よ!」
ジャティスの戯言に、ルナは突っかかる。
「……安心しなよ。流石に、危なくなったら僕も介入するさ……まあ、必要ないだろうけど」
「必要ないって……あの子の、
「惜しいけど、ハズレだ。それが僕の
ルナに掴まれていた手を離させて、ジャティスはくしゃくしゃになった己の服を整える。
「ティアの
「それなら、どこにティアに勝ち筋があるっていうの……?」
ジャティスが何を考えているのか、ルナには分からなかった。
ただ一つ分かったことは……ジャティスが、ティアの勝利を確信しているということ。
「大丈夫だよ……ティアには、とっておきを教えているからね……くっくっくっ……」
不気味に笑うジャティスに、ルナは『何なんこいつ』と思うしかなかった。
「ああ……それとルナ、君の魔力で白魔儀【リヴァイヴァー】を使うから、準備しておいてくれ」
「……は?」
■□■
「はーい、【
イリアの指先に白い光が灯る。
それだけで、イリアの勝利は確定した。
「……………………」
幻術に呑まれて倒れ込み、虚ろな目をしたティア=レイフォードにイリアはステップを踏みながら近づいていく。
今頃、目の前にいる余裕ぶっこいていた少女は、どんな幻を見ているのだろうか。
イリアを打ち倒し、喜びに浸っている幻だとしたら、イリアからすれば滑稽で仕方がない。
「うっふっふっー、バカみたいですねー」
あのジャティスの使いだというから警戒していたというのに、拍子抜けだ。
まあ、つまりはヤバい関わるなと噂されていたジャティスとやらも大したことないというだけで。
「……じゃあねー? ティアさん」
至近距離まで来たイリアは、短剣を振る。
──ぱっ!
血煙があがった。
「……え?」
ふと、見れば。
イリアの胸から、剣の先のようなものが飛び出ていた。
「あ、あれ……? なん、で……」
「……あれ、上手くいった?」
そこで幻術が解けたのか、ぱちぱちと瞬きをしながらティアがイリアを見ていた。
「……ん、せっかくだし解説。あなたの胸を刺したのは、“黄金の剣を握る左手”である
「……たとえ、
「ん、そう。本来は、だけど。だから、
「……は……?」
そこはティア本人ですら認識できない深層意識野。
そこでは、魔導演算器から送られてきた未来予測の結果を表す数字が踊っていた。
「
「う、ぁ……ぁ……」
【
それと同時に支えを失ったイリアの体は、あっけなく地に倒れた。
……死ぬ。イリアは、そう悟る。
「……ぃや、だ……こんな、ところで……こんなぁ……」
絶望が溢れだし、涙が溢れだす。
「やだ……やだぁ……ッ! 死にたく、な……」
血を口から吐き出して、恐怖のままにイリアは喚く。
そんなところに、一人の男がやってきた。
「おやおや……助けてほしいかい? イリア=イルージュ……」
ジャティスだ。
「…………ぁ……たす、けて……ッ」
「任せてくれ。……ルナ、準備はいいかい? 略式の仮サーヴァント契約で
「仕方ないわね……本当は嫌だけど、今回だけよ。私も見殺しはしたくない」
「礼を言うよ……まぁ、そう言ってくれると“読んでいた”んだけど。《原初の力よ・我が血潮に通いて・道を為せ》」
ジャティスは黒魔【ブラッド・キャタライズ】によって方陣を書き始める。
「待ちなさい。白魔儀【リヴァイヴァー】でしょう? 私だって手伝えないこともないわ」
そう言って、ルナも自傷して血を流し、空白の場所に儀式方陣を構築していく。
「おや、手伝ってくれるのかい? 嬉しいなぁ」
「バカなことを言ってないで集中しなさい」
そうして、ジャティスとルナの二人によるイリア救出作戦が開始された。
「……やりすぎた」
……思っていたよりもイリアを重症にしてしまったと顔を青ざめているティアをよそに。
受験勉強が忙しいので、これからも更新が遅くなると思います。
ですから、気長に待ってくれると嬉しいです。頑張るので。