そんなこんなで、どうにも好きになれない。
霊長は複雑だから、こういう事は仕方ない。
裏から見でもしない限り、その本質は見えないから。
ええ、見たいですハイ。
生意気な下級生だな、とは思う。
ナツの前であんまり力尽くに出たくない、だからこそ「帰れよ」と口でいうだけにしてやったのに。
寄りによって「それはこっちの台詞です」だもんな、仮にも年上相手に。何様のつもりだよ、
いや――そうでもない、のかな。まさか本気でナツを狙ってる、とかなのか。
だとすると厄介だな、こういうの。別に俺と付き合ってるわけでなし、ナツが誰とくっつこうが構わない。でも俺の足元にも及ばなそうなじゃがいも野郎に持っていかれるのは、どうにも気に入らない。なんだか虫が好かないと言うか、正直こいつ嫌い。
一度分からせてやる必要があるかな、身の程とか色々と。
――っと。
足音でナツの帰還を察し、俺は表情を入れ換える。女子受け重視のにこやか好青年モード、これが俺の人気の秘訣でもある。
まあ、とは言えだ。
「また胡散臭い顔してる」
……どういう訳か、ナツや渚にはこの通りなんだよな。日頃の行いのせいだろうか、どうなんだろう。他所の子たちには効果覿面だし実際今日もお姉さんがたを引っ掻けた訳なんだけど、どうもクラスメイト相手だと上手くいかない。まあ、良いんだけどな。別に今ここで口説こうって訳でなし。
今日はこのファンくんへ、嫌がらせするだけにしとこう。
と言っても表だって何かする訳じゃなく、俺たちの間でしか通じない話を振るってだけ。教室での話とか昔の事なんて、完全に蚊帳の外だろ。せいぜい疎外感を味わえば良い。
ファンくんに気を遣ったのかナツが要所要所で話を軌道修正してくれたお陰で、思ったほどの成果は上がらないまま店を出ることとなった俺たち。
結局ナツは勇政大の先輩方との練習話にも乗ってくれなかったし、なんだかなあ。
まあ、収穫はあったな。部活と恋愛を両立できるか、と言われるのはやっぱり辛いようだ。俺みたいななんでもできる天才じゃないだろうし、そこから突いていけば崩せるかもしれない。
大体のやつは、そこが弱味ではあるんだけど。どこまでいっても、恋愛だけしているわけにはいかないから。部活なり勉強なり、大事にしなければいけない事はいくらでもある。その辺をネタにして揺さぶってやれば、ナツに手出し出来なくなるだろ。
にしても、だ。
「あー……久し振りに思い出しちまった……」
まさかあそこで、ユメカの名前を出させてしまうなんて。ナツは気にしていない様子だったし、多分渚の奴も同じような反応をするだろう。他の連中なんてもう、忘れているかもしれない。
だけど俺は、そうもいかない。さっきのカフェでナツが「それ、ユメカだよ」と言った時には、血が凍り付くかと思ったくらいだ。俺としたことがあんな、自分から不意打ちを食らいにいってどうする。むしろ自爆だな、今日の俺は。
留学を口実に栄明を逃げ出して、一年も向こうで過ごしたのに。それでもまだ、足りないのか。俺はまだ、アイツの手の中か。
まったく、全部あのファンくんのせいだ。そもそもあれがナツに付いてこなければ、あんな話にならなかったんだ。今度ナツと一緒にいるところを見つけたら、遠慮なく邪魔してやる。確か針生くんの後輩だし、その繋がりであれこれちょっかい出しても良いな。手は幾らでもある。
夕暮れが迫る町を一人、俺は歩き出す。風はもう晩秋を過ぎて冬の気配も漂う、今年ももう残り少ない。そして年が明けて春が来れば三年生、栄明で過ごす最後の一年が始まる。
それが終わる頃には、アイツを振りきれるんだろうか。俺は自由になれるんだろうか。
そんな事を思いながら進む足取りは、何処か重い。俺らしくない、な。
まあ、考えまい。考えても仕方がない、それで良い。
さてと、行こうじゃないか。
ユメカさんはどんな人なのやら……。