ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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 性の6時間、はーじまーるよー(棒)



閑話 陰陽師の男はキリスト教徒の夢を見るか?

 

 The year's at the spring,

 The day's at the morn;

 Morning's at seven;

 The hillside's dew pearled;

 The lark's on the wing;

 The snail's on the thorn;

 God's in His heaven,

 All's right with the world!

 

 

 Robert Browning:『Pippa Passes』

 

 

 

------------------------------------------------------

 

 

 

 世界的にクリスマスと言えば、一般的には家族と過ごす日とされているものの日本においては(やや)(おもむき)が異なる。ターキーでは無くチキンを食すこともそうだが、我が国では家族に加え、恋人と愛を確かめ合いつつ過ごす日ともされているのだ。そんな中、オレは『綾小路グループ』の長谷部波瑠加により『クリぼっちを防ぐ会(仮称)』――(仮称)までが正式名称だ――というものに引っ張り出されることになった。

 

 そもそもクリスマスというのは言うまでもなくキリストの生誕祭であり、主な宗教を仏教とする我が国でそれを()も当たり前かのように有り難がることが国民の宗教観の希薄さを表していると言えるだろう。

 もっとも、宗教観が希薄であることは決して悪いことではない。宗教とは即ち生きる指針であり、来世での救いが無ければ生きづらいなどという世の中では無いことを表しているからだ。

 

 さて、『クリぼっちを防ぐ会(仮称)』の開催場所は晴明稲荷神社―――オレの()()たる中禅寺夏目が宮司を務める其処(そこ)である。神社でクリスマスパーティーをしようとするあたり、やはりオレの友人たちも宗教観は薄いようだ。

 なお、夏目は最後まで場所を貸し出すことに抵抗していたことは申し添えておこう。長谷部波瑠加と佐倉愛理の重量級(比喩)二人に左右から迫られ首を縦に振ることになったアイツは、きっとDクラスの皆にバレたら締め上げられることになるだろう。明人は「やれやれ」と言いながら苦笑いしていたが。

 

 今回の『クリぼっちを防ぐ会(仮称)』の目玉イベントは『プレゼント交換会』だ。今までの人生でオレには全く縁が無いイベントだったので想像もつかないものだったが、波瑠加曰く「定番」とのことだったので、世の中ではそうなのだろうと納得することにした。

 

 とは言いながらも、何を買えばいいのか皆目見当がつかず、明人にどういった物が定番なのかと聞いてみたところ、「日用品でいいんじゃねえの?」とアドバイスをもらったので、オレは先日の休みに【けやきモール】で3,000PP程度の猫の柄をしたマグカップとシリコン製の蓋を購入し、プレゼント用に包装してもらった。

 カップの色も悩んだが、オレを除いて女子と男子が半分ずつのため、安直ではあるがどちらに転んでも良い白地の物にした。

 

 なぜ猫の柄かと言うと、夏休み以降、あの神社に三毛猫『五徳』が棲み付くようになったからだ。夏目によってその名を名付けられた五徳は意外と人懐こい性格をしており、時折Bクラスの一之瀬帆波が癒しを求めてやってくるなど、この神社の看板猫として本殿の軒先で日向ぼっこに勤しんでいる。そういう意味では社務所で本を読んでばかりの宮司より働いているかもしれない。

 

 集合時間は土曜日の15:00。ちなみにその翌日、オレは佐藤と平田、軽井沢とダブルデートをすることになっている。しかしながらそうして考えてみると、オレの交友関係も広くなったものだ。

 

 遅くなることに関してはホワイトルームで鍛えられているので、1日や2日くらいの徹夜なら大丈夫だし、Cクラスの脅威も恐らく当面は去った筈なので、イレギュラーさえなければ問題無いだろう。

 

 全て世は事も無し。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 さて、当日を迎えた。簡単に昼食を済ませ、少し早いがプレゼントを鞄に入れ自室を出る。ジュースとお菓子は各自持ち込みということなので、買いに行かなくてはならないからだ。スーパーで2Lのジュースといくつかの個包装になった菓子類を1,000PP分ほど購入し外に出ると、ちょうど佐倉愛理が荷物を持って神社へ向かう所だった。

 彼女は茶色のニット帽を頭に載せ、黒いセーターの上から帽子と同色のコートを羽織り、いかにも年頃の女の子といった装いをしている。少しばかり大きなトートバッグには、きっとジュースやお菓子が入っているのだろう。

 

「あっ。き、清隆君!」

「愛理、今から向かう所か? なら、一緒に行こう。荷物、持つから」

「えっ!? そんな、悪いよ……」

「気にするな、ほら」

「うん、ありがとう……!」

 

 重そうに抱えていた愛理の分のジュースとお菓子も持ってやる。バッグからはリボンが付いた包装紙が見え隠れしている。

 

「愛理は何をプレゼントするんだ?」

「え、えーっと……秘密です!」

「そうか」

「清隆君は……?」

「―――秘密だ」

 

 そう言うと愛理は何故か嬉しそうな顔をした。何か彼女の琴線に触れるものがあったのだろうか。

 

 冷たい海風が隣り合って歩くオレ達の間を通り抜ける。歩道の脇に立つ木々は既にその葉を散らし、ガサガサという枯葉が舞う音と、かつかつというオレ達の足音と、寒さに耐える愛理の「ふう」という息遣いだけが聞こえてくる。

 

「寒いな」

「そうだね」

 

 途切れがちな会話について、彼女はどう思っているのだろうか。

 愛理との出会いは説明する迄も無く、あのストーカー騒ぎだ。今から思い返すと少しばかり―――いや、かなり恥ずかしくなる大根演技だったが、オレの恥ずかしさと引き換えに彼女の安全が買えたのだから安いものだろう。

 その後は無人島で一緒に探索したこと、それからやはりペーパーシャッフルの勉強会であろうか。

 

「色々あった年だったな……」

「そうだね」

 

 思わず漏れてしまったオレの独り言に愛理が返答する。

 

「清隆君は、どうしてこの学校に来ようと思ったの?」

「―――一言で言うのは難しいな。強いて言えば『変わりたかった』からだ」

「変わりたかった?」

「オレはこの学校に入学する前、自由に憧れていた。親の監視が厳しくて遊ぶことすら無かったが、オレはその環境に疑問を持っていなかった。そういう自分を変えたかった―――こんなところだろうか」

「そうなんだね……嬉しい」

「嬉しい?」

「うん。前にも言ったかもしれないけど、私も『変わりたい』と思ってこの学校に入ったから」

「そうか。愛理は変われたか?」

「うん! 清隆君や、波瑠加ちゃん、明人君に夏目君―――みんなと出会って、変われた。清隆君は?」

「オレも同じだ。愛理やみんなと出会って、変わった。オレの場合は変えられた、かな」

「ふふっ。みんな個性的だもんね」

「愛理もな」

「……もう、そんなことないよ!」

「いや、グラビアアイドルは十分に個性的な部類だろう」

 

 彼女もまた春先の憑き物が落ちたことで変わった人間だ。前までのオレなら彼女に対してどのような使い(みち)―――いや、役割を見出したのだろうか。

 

 今のオレにとっては、共に穏やかな時を過ごす友人の一人である。

 

「あっ。あれ、波瑠加ちゃんと明人君じゃないかな」

 

 間もなく神社に着くという頃、前の方に男女の一組が見えた。男子の方はオレと同じように両手にビニール袋をさげ、女子の隣を歩いている。持たされたのか、自らの意思で持ったのか、確率は半々だな。

 

「波瑠加ちゃん!」

「あ、愛理ときよぽん」

「誰がきよぽんだ」

 

 慣れたら負けだと思う。だが不思議と嫌ではない。

 

「俺も居るんだけどな」

「あ、その、ごめんなさい!」

「なにーみやっち。私に妬いてるの? それとも、愛理に『明人君♡』って呼んで欲しかった?」

「うっせぇ」

「明人君……」

「……うっせぇ」

 

 ニヤニヤと笑う波瑠加に頬を膨らませる明人。これが正しく青春なんだろう。

 

 全て世は事も無し。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 晴明稲荷神社はこの人工島の外れにある。島の入口から反対側、けやきモール等の比較的人通りが多い場所からかなり外れた、風除けと思しき人工林の中にひっそりと佇んでいる。

 敷地面積はざっと2,500㎡程度だろうか。約50m四方の敷地の中に、本殿と社務所、鳥居が鎮座している。

 

 この場所で見かけたことがあるのはこのメンバーと、Dクラスでは堀北、櫛田、高円寺だけだ。だが恐らく龍園も知っているだろうし、坂柳も存在を知ってはいるだろう。上級生も含めれば、生徒会のメンバーも知っているだろう。

 ……ということはあの南雲雅生徒会長も此処を訪れたことがあるのだろうか。高円寺と同じくらい場違いな気がするが。

 

 社務所を見ると受付の窓口は半分閉まっているものの空調の室外機は動いているので、家主が居るであろうことはわかる。

 オレががちゃりと無造作にドアを開けると、果たして家主はそこに居た。

 

「扉を開けるときはノックをしろと何度言えばわかるのだね」

 

 手元の書籍から視線を動かさず、夏目が声を発した。

 

「一度聞いたことはだいたい覚えている」

「では数少ない例外ということだね。反省しなさい」

 

 無論、わざとやっている。

 今日も今日とて彼は和装である。制服以外だと和装しか見たことが無い。少し長めの髪を今日は下ろし、紺の着流しの上から少し厚手の羽織物を肩から掛けている。卓袱台(ちゃぶだい)には彼の湯吞が置かれ、濃い緑色の液体が半分程度残されている。

 

「やっほー♪」

「お邪魔します……」

「よう」

 

 他の皆も勝手口から次々と入り、室内へ侵入する。家主は侵入者を咎めるように声を発した。

 

「入るなら手を洗いなさい」

「はいはーい」

「お母さんかよ」

 

 この社務所はこの神社の倉庫を兼ねて作られたものだろうが、この人数くらいなら少々狭いものの入ることが出来る。なお、家主が持ち込んだであろう書籍を除けば余裕で入るだろう。

 ある程度は波瑠加が甲斐甲斐しく整理したものの、それでもなお圧倒的な量の書籍や図面などが部屋の片隅に(うずたか)く積み上げられている。

 コンロと流しがあり、流し台にはオレ達それぞれの専用コップが置かれている。

 

「そう言えば五徳の姿が見当たらないな」

「大方、その辺で日光浴でもしているのだろう。寒くなってきたらそこから帰ってくるよ」

 

 顎で半分閉まっている受付窓のほうをしゃくりながら夏目が答える。

 

「んじゃ、パーティーを始めましょっか♪」

 

 波瑠加の音頭で『クリぼっちを防ぐ会(仮称)』の開始が告げられた。

 明人と愛理は持参した菓子やジュースを卓袱台に広げている。

 

「あ、清隆とポッ●ーが被っちまったぜ」

「いやいや、みやっち、こんなんなんぼあってもいいですからね」

「波瑠加ちゃん、芸人さんみたい……」

 

 家主は世界の終わりが10回連続で訪れたかのような仏頂面をしている。まだ諦めてなかったのか?

 

 全て世は事も無し。

 

 

 

 ▼

 

 

 

「じゃあみんなお待ちかね、プレゼント交換をしましょう!」

 

 入学してからの話や入学する前の話――オレの場合、入学する前のことは愛理に話したようにかなりぼやかしたものになったが――に花を咲かせていたオレ達ではあるが、開始から1時間少々が経った頃、波瑠加が口火を切った。

 

「さーて、みんなのセンスと運が試されるわよ~?」

「そう言われると、緊張するな。清隆はどうだ?」

「明人と同じだ」

「き、緊張するよぅ……」

 

 波瑠加がそれぞれのプレゼントに紐をつけ、反対側の紐の端をどれに繋がっているか見えないようにしてオレ達に向けた。

 

「さあ、誰から行く? あ、自分のを引いちゃった場合は引き直しね。誰もいかないなら私から……」

「じゃあボクから引こう」

 

 意外なことに夏目が先陣を切った。悩むこと無く紐を引っ張り、花柄の小さな袋が手繰り寄せられると、波瑠加が「あ、私のだ」呟いた。

 

「ねえナッツ―、開けてみてよ!」

 

 器用に片眉を上げて怪訝な表情をした夏目がリボンで結ばれた袋を慎重に開けると、中には半透明の小さな瓶が収められていた。

 

「―――ハンドクリーム、か?」

「うん、容器も可愛いでしょう? 感想は?」

「思ったよりはまともだしセンスが良いな」

「『思ったよりは』は余計よ、もう」

「有難く使わせてもらうよ」

 

 夏目が二の句を継いだものの、波瑠加は演技混じりの口調で「つーん」とそっぽを向いた。夏目は心なしか困ったように後頭部を掻いている。

 

「じゃあ、次は俺が」

 

 明人が空気を変えるように一歩、歩みだした。波瑠加の持つ束から一つ紐を引くと、夏目が持ってきた小箱が合わせて引っ張られた。

 

「あぁ、ボクのだね」

「中身は何だ……?」

 

 明人は恐る恐る蓋を開けると中を認識した瞬間、深い溜め息をついた。

 

「みやっち、何だったの?」

「多分―――」

 

 

 

 ▼

 

 

 

「じゃ、最後は何となく嫌だし次は私が引こうかなー」

 

 賛否あった夏目のプレゼントの品評会を終え次は誰がと見回したところ、波瑠加が名乗りをあげた。夏目は未だ「値打ち物なのに……」と不貞腐れている。

 

 しかしこういうのは普通、紐を持った人間が最後だと思うのだが……波瑠加はそのあたり自由だ。

 ちなみに確率から言えば引く順番が違ってもそれぞれ引く確率は同じだ。だが『残り福』という言葉があるように、人間は選ぶ順番に価値を見出す習性がある。但し、波瑠加は一般的とは逆の方をいくようだ。

 左手に3つの紐を持ち、右手でそのうちの一つを「それっ」という掛け声とともに思い切り引っ張る。

 

「俺のが!」

 

 そう叫び声を上げたのは明人だった。波瑠加が勢いよく引っ張った紐にプレゼントが引き摺られ、リボンがぐちゃっとなってしまった。

 

「ごめーん、みやっち」

「……ったく」

 

 波瑠加が崩れてしまったリボンと包装紙を整えながら開封すると、中には小さな猫の置物が入っていた。

 

「これは……?」

「ちょっと分かりづらいかもしれないが、一応花瓶だ。使わないかもしれないが許してくれ」

「……ううん、大事に使う。ありがとう、みやっち」

「……どういたしまして」

 

 波瑠加が花瓶を抱えるようにしてお礼を言うと、明人は照れたように頬を掻きながら返答した。「猫っぽい波瑠加にはぴったりじゃないか」などと夏目が囃し立てており、愛理は羨ましそうにそれを眺めている。

 

 全て世は事も無し。

 

 

 ▼

 

 

「ということは―――消去法で愛理ときよぽんはプレゼント交換ということになるわね」

 

 そういうと波瑠加は持っていた紐を床に放り投げた。オレは(おもむ)ろに床に置かれたプレゼントを2つ拾い、オレが持ってきたものを愛理に渡した。

 大きさもそうだが、重さも大体一緒くらいだな……何となく嫌な予感がする。

 

「愛理」

「ひゃ、ひゃい!」

「メリー・クリスマスだ」

「……うん!」

「じゃあ、せーので開けてみましょ。せーの!」

 

 オレと愛理は似たような包を揃って開けた。

 

「これは……一緒?」

「色違い、だな……」 

 

 明人と波瑠加が呟いたように、プレゼントが被ってしまった。オレのは白地に猫の模様だが、愛理のは黒地に猫の模様……つまり同じ店で、色違いの同じ物を買ってしまったわけだ。

 

「愛理、すまんな」

「ううん! そんな事ないよ! ……ありがとう。嬉しい

 

 波瑠加と同じように、マグカップを抱えるようにしてお礼を言う愛理。

 

「オレの方こそ、大事に使わせてもらうよ」

「ペアルックだなんて、アツアツですなぁ~♪」

「は、波瑠加ちゃん! そんな、ペアルックだなんて……」

 

 波瑠加は「うりうり〜」などと言いながら愛理を猫可愛がりしている。

 

 その後、オレと愛理は元々この社務所に置いてあった自分たちのカップを引き上げ、揃ってこの社務所用に使うべく流し台の脇に置くことにした。

 家主(夏目)は諦めたような視線でそれを眺めている。

 

 

 

 

 全て世は事も無し。

 

 願わくば、来年こそ平凡な青春を送らんことを―――。

 

 





 果たして夏目くんは何を持ってきていたのでしょうか。皆様のご想像にお任せしますが、特に本編に関係するものではありませんし、下ネタでもないです。

 今年は皆さまにとってどのような年でしたでしょうか。
 お陰様で創作活動を始めさせて頂いてから1年が経過しました。お付き合い頂いて本当にありがとうございます。
 エタってる方をお待ちの方がいらっしゃれば、申し訳ありません。

 さて、まもなくアニメ3期が始まります。
 本編の方は2年生編が間もなく終わり、ハーメルンが切っ掛けで知ったこの『よう実』という作品も、いよいよクライマックスが近づいてきています。
 あの子が退学になってむせび泣いている人もいるでしょうし、あの子の豹変具合にドン引きしている人もいるでしょう。
 ですが、終わってしまえば全ての人にとってハッピーエンドだった、ということになることを願ってやみません。

 皆さまとそのご家族、ご友人に来年も幸多からんことを祈念し、年末のご挨拶と代えさせて頂きます。


P.S.
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