純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主   作:臆病者の呪術師

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不穏な山 後半

山へと足を踏み入れたクラマが感じたのは、静けさだった。

 

虫の声や草の靡く音さえせず、あれ程に強かった妖気も入ってしまうと何故か感じなくなった。

 

しかし、妖は妖気を意図的に隠す事もできる。

その可能性がある以上は警戒しなくてはならない

 

その事を頭に入れたクラマは札を使って符の杖を精製する。

 

この杖があれば、様々な効果の符を使い分けながら戦闘中にさりげなく補充する事も出来る。

 

そうして生成した杖を持ちながら、クラマは少しずつ山を登り始めた。

 

「しかし、妖や野生動物の気配が無いな…」

 

本来の山なら、妖は居ないにしても野生動物や虫が居たりする。

しかし、その気配がひとつもない。

 

この事にクラマはひとつの出来事を思い出す。

 

それはクラマが生まれる前に起きたとされるとある山の神の『災厄化』だ。

 

そもそも山の神はその山を支配する者であると同時に、その山の力そのものなのだ。

そして、その山の神の力の根源は人の祈りだ。

つまり、祈る人が減る程に山の神はその山の気質に囚われやすくなる。

 

もし人々が山の神に祈る事を忘れ、妖が跋扈するような山へと変貌した場合

その山の神は妖へと身を堕とすだけではなく、その山の生命を食い尽くす。

そうして取り込んだ魂を咀嚼し、大体は獣の姿を取って『自分を忘れた』人々の所へ向かおうとする。

 

この行動が呪術師泣かせな程に早く、追いついて倒すとなっても元は山一つを治めていた神様だ。

そこに妖としての能力と更なるパワーアップがプラスされる

 

正しく『天災』の如き力を発揮して中級程度の呪術師などは攻撃する前に仲良く挽肉にされる。

 

じゃあこんな化け物にどう勝てというか話だが

手っ取り早いのはセイメイやドーマンなどの化け物クラスに対処して貰う事だ。

しかし現実的ではないので熟練の呪術師達をかき集め、その神の討伐を全力でやるしかない。

 

しかし、今回は戦える人員ががクラマのみだ。

そしてクラマ一人では到底勝ち目はない。

 

山の異様な雰囲気と、妖はおろか虫すら居ないという調査結果。

 

それだけで既に撤退しても良いのではないか?

 

クラマはそう考えた。

 

そうと決まれば撤退準備である。

 

即座にクラマは緊急用として支給された帰還の札を使用する。

 

しかし、その札は黒い炎に焼かれて燃え尽きた。

 

「っ!?」

 

その時、クラマは異様な気配が背後の方から迫るのを感じた。

 

急いでクラマは山を降りる。

 

おぉ…ヒトの子だ。しかも大層な霊力を備え、更に旨味のある匂いがするではないか…!

 

その声が山中に響く。

 

それと同時に、クラマの四肢を木の根が貫く。

 

「がっ!?」

 

急いで木の根から手足を抜くと、ズルズルと木の根は地面へ潜る。

 

あぁ…お前の血……甘露…甘露…!お前はどうやら私への供物のようだ…!

 

その言葉と共に、クラマの肉体を先程より多くの木の根が貫く。

 

「が…はっ…!?」

 

貫かれ、宙に浮くクラマの目の前に

 

怪しく目を光らせ、クツクツと笑う白狐が居た。

 

(…山の神じゃない…!宇迦之御魂神…その末端が管理する山だったのか…ここは…!)

 

「あぁ…その目…あの狐の神の御使と思っているな?…違う、私はこの山の神だっ!!」

 

轟、と妖気が勢いよく溢れ出しクラマに叩き付けられる。

 

「あの人間どもが…!あの人間どもがぁぁ…!我が社を守り続けてきた家臣と言えるあの子らを…犯して、殺して……許さぬ…許さぬ許さぬっ!許しておけぬっ!」

 

怒りのままに地面を踏み砕き、牙を見せながら吼える神だった者は、すっと目を細めた。

 

「お前、私が妖の身に堕ちた…と思っているだろう?違う、私は元々…妖から神になった者だ!……それ故に正気だ…安心しろ、お前を殺しはしない。血も十分に頂いた…解放してやろう」

 

木の根がズルリ…とクラマから抜かれる。

それと同時に倒れ込むクラマを、堕ち…いや、妖へと戻った神が投げかけた。

 

「お前、自分に術をかけたな?…忌々しいが、それがお前達の足掻き方でもある…だが私には効かぬよ」

 

自身の周りに現れた半透明の青い糸を、その妖はブチブチと引き千切る。

 

「どれ、少しは治してやる…しかし良かったな?遭遇したのが私で…もし、正当な山神であったら、お前は八つ裂きにされた後に喰らわれていただろうよ」

 

妖術によって傷を塞がれたクラマは、起き上がろうと腕を地につける

 

「無理をするな、お前は死にかけよ……故に気絶させる…そうすれはお前の術は起動するだろう?」

 

そう言って、妖はトンとクラマの額に指を置く

 

たったそれだけでクラマはぐったりとして動かなくなるも、宙に現れた糸が無理やり起き上がらせる。

 

「おお…しかし面妖な術だ…まるで…大昔にあった大戦の時と同じではないか」

 

妖の言葉には目もくれず、ひたすらに糸に操られたクラマは大屋敷に向けて走り出す。

 

それを妖は手を振って見送った。

 

そして、その日の夜。

 

とある捨てられた山に、無惨に殺された山賊どもの死体が転がっていた。

どれもこれも、獣に引き裂かれたような状態だったそうだ…

 

それと共に、クラマが調査に向かった山から山の神が消えた。

 

クラマの報告により、山の神を捜索する部隊が編成された。

 

しかし、その神は見つかっていない。

 





神となった妖

山で弱っていた時に、鷹狩りをしていた男に助けられる。

そのまま男の家で世話になった後、男が狩場にしている山の惨状を見て絶句。
怪我した身でありながら、山から妖を全て追い払い安全な狩場へと変えた。

その後は男とその嫁を見守り、二人仲良く死ぬ所まで見送った。

そのまま脈々と男の子孫達を見守り、男の子孫達は妖を神として祀るようになった。

そうして数百年が経ったある日、神となって久しい妖は子孫の様子を見に社を降りた。
しかし、家に着いて見たのは
盗賊に押し入られ、無惨に殺された子孫達だった。

半狂乱になって子孫達を起こそうと近寄った妖は、自分の住処である社に不埒者が入る気配を感知して飛んで戻った。

しかし、社は無惨に破壊され
妖を助けた男が使い、子孫達によって奉公された弓とその妻が妖の為にと作った羽織。
そして子孫達が代々収めてきた木彫りの妖、その全てが盗まれた。

妖の怒りは限界に到達し、手始めに山の全ての生命を喰らい尽くした。

しかし、怒りが限界になろうと、子孫達の遺体を弔わねばと正気がほぼなくなっているにも関わらず一週間かけて丁寧に弔い、男と嫁の墓へお参りをして盗賊どもに復讐してやる事を誓う。

そんな覚悟ガンマギリした時にクラマはやって来てしまった。
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