純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主 作:臆病者の呪術師
救いはない。
「ちっ、数が多過ぎる!」
「式神もやられちゃったし…抑えきれない…!」
二人の呪術師は、とある洞窟にて妖怪と戦っていた。
しかし、数が異常な程多く苦戦し式神を使うも無惨に食い殺され、退路は崩落によって塞がれた。
「ちっ、ここは俺がコイツら諸共自爆する!お前はあの崩れた隙間から逃げろ!」
そう叫びながら呪術師の男は襲いかかる獣の妖怪を刀で斬り捨て、死角から襲いかかる妖怪は札で爆散させる。
「で、でも!」
「でもじゃねぇ!こんなに異常な数なんだ、どっちか大屋敷に行って伝えれば増援は来る!そもそも俺もここで死ぬつもりはねぇ!」
「…っ、分かった!」
「なら行け!」
女の呪術師は退路を塞ぐ妖怪達を札で吹き飛ばし、瓦礫の隙間から抜け出す。
それを見送った男の呪術師は、覚悟を決めて赤黒い札を構えた。
「妖怪ども!お前らはここで命に換えても殲滅する!」
そうして札に込められた力を解放しようとしたその時
ぐちゃぁ
そんな音と共に、男は浮遊感を覚えた。
「な、にが…?」
体が前に傾き、視界がゆっくりと下へ向く
男が見たのは
自分の下半身を咀嚼する、巨大な狼の首だった。
「…っ!」
それを見た時、男は理解する。
自分はまだ生きている、ならば後続の為にも少しでも妖怪の数を減らすべきだと
「札よ、その力を解放せy…」
ベキョッ
男の言葉は続かなかった。
口を開き、
狼の前足によって洞窟の岩壁に叩き付けられ、岩壁のシミになった。
男を殺した狼は誇る訳でもなく、退屈だと言うように欠伸をする。
あれ程群れて襲いかかっていた妖怪達も、狼が現れると共に洞窟の奥へと引っ込んでいた。
そのまま狼は口からペッ、と異物を吐き出す。
それは鋼鉄製の足だった。
狼はそれを忌々しそうに踏み潰し、洞窟の奥へと戻る。
そして洞窟の中は静寂に満たされた。
◆
「はぁ、はぁ、生き延びなきゃ、生き延びて助けを…!」
瓦礫の隙間から抜け出した女呪術師は、森の中をひたすら走る。
獣妖怪が襲いかかるも、その全てを蹴散らしてただ大屋敷に向けてひた走る。
「おお、そんなに急いで何処へ行く?」
しかし、そんな彼女を透き通るような声で呼び止める者が居た。
足を止める事が出来ないはずなのに、女呪術師の足は止まってしまった。
それと共に女呪術師は察する、自分はここで終わってしまうと
女呪術師は、一枚の札を袖の中に忍ばせる。
この札は伝令用の鳥の式神であり、その呪術師の記憶を写し取り、他の呪術師へ伝える為の式神だ。
女呪術師はここで死ぬとしても自分の持つ記憶だけでも送れば良いと考え、相手の出方を伺う。
「なんじゃ、黙りか?つまらぬのぅ…」
そう言って声の主は森の奥から現れる。
「っ…!?白面金毛九尾!?」
そう呼ばれた女は、コロコロと笑って告げる。
「その通りその通り、妾こそ白面金毛九尾…お主らに言わせれば『玉藻前』よ…殺生石からこうして蘇ったという訳じゃ…」
女呪術師は、即座に袖から札を森へ向けて投げる。
「むぅ?ヤケになったかのぅ?まぁ良い…お主は妾の依代にしてやろう…光栄に思うが良い…」
そう言うと、玉藻前は目を金色に輝かせる
「っ…あ…ぁ"ぁ"ぁ"…!?」
「何、すぐには乗っ取らぬ…じわじわと苦しめながら少しづつお主を妾に染めてやろう…クク…クフフフ…!」
女呪術師は叫び声を上げながらのたうち回る。
しかし、どれだけ叫び声を上げようと、女呪術師と玉藻前以外の存在がその場に現れる事はなかった…
玉藻前
殺生石の状態から少しづつ周りの生物の魂を奪い、復活の機会を狙っていた。
とある存在の手により、数百年早く復活する。
その存在へ反抗しようとするものの、徹底的に叩き潰され心が折れる。
表面上は従順にするものの、力を全て取り戻した時には喰らい尽くして己の糧にしようとしている。
現在は力を取り戻すべく、とある場所にて霊力の高い人を攫い喰らっている。