純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主 作:臆病者の呪術師
申し訳ないです…
そのバケモノは、何もない空間をひたすらに歩いていた。
途中、様々な世界をそのバケモノは見た。
筋肉で全てを解決する主を見た。
妖怪に襲われ、無惨に死ぬ主を見た。
自分達と出会う事なく、平凡な呪術師として生きる主を見た。
しかし、どの主もバケモノからすればただの『有り得たかもしれないif』の存在であり、自分の望んでいる主ではなかった。
バケモノは、自分が
『行くよ、キンコ、ギンコ』
自分の主よりも少し凛々しくなったその横顔と、
「あぁ…あるじサマ…あるじサマ…もうすぐです…もうすぐ、会えます…!」
そう言って、バケモノはその腕を虚空に叩きつける。
ピシリと、何もない虚空に亀裂が入った。
何度も何度も何度も、狂ったように腕を叩き続けるバケモノは…その腕を一度止めた。
「…おかしい、この程度すぐに叩き割れるはずだと言うのに…!何故、何故…何故何故何故何故……っ…あ"ぁ"ぁ"!」
腕を振りかぶって叩きつけられた拳が、虚空に大きな亀裂を入れた。
その亀裂を見たバケモノはそのままこじ開けるように両腕で亀裂に手をかけ、引き裂くように開いた。
開かれ、侵入した場所は深い森の中だった。
空は快晴で日差しも心地よい…がその全てはバケモノからすればどうでもよかった。
この世界に、自分の望んでいる主が居るという事実だけが、バケモノに取って重要だった。
「…はぁ…はぁ…やっと…やっと来れました…後はあるじサマを探すだけ…」
そのままズルズルと尾を引きずって歩き出したバケモノへ、獣妖怪が複数匹飛びかかる。
「邪魔だ…」
軽く腕を振るうだけで、獣妖怪達は破裂し辺りに血肉を撒き散らす。
「あるじサマはどこでしょうか…っ…!」
再び歩き出そうとしたバケモノは不意に辺りが変化した事に気付く。
足元から徐々に霧が発生し、辺りを包み込んだ。
「クフフ…そう警戒するでない…妾は味方じゃぞ?」
背後から聞こえた声に反応し、バケモノは尾を動かして背後の者を貫こうとする。
「手荒いものじゃのぅ…こちらは何もせぬというのに…」
そう言って、背後の霧の奥から着物を羽織り、鉄扇一つで全ての尾を抑え付けながら一人の女が歩いてきた。
「妾は玉藻前……お主の味方じゃ」
「誰であれどうでもいい…私の邪魔をするな…」
「まぁ待つがよい、お主にとっても都合が良い話じゃぞ」
そう言って玉藻前は尾を跳ね除けて言う。
「妾…いや、妾の同盟者からの言伝じゃ。『お前の欲する存在を手に入れる為に力を貸す、代わりにお前の力を貸せ』とな」
「力を借りなくとも、あるじサマを手に入れるのなら私一人で…!」
「ふん、妾に攻撃を防がれる程度の貴様が、晴明や道満、
そう言って玉藻前は笑う
「チッ…」
「大人しく妾と共に来るがよい、なに…貴様の望むモノには手を出さぬ…」
「……わかった」
「クフフフ…」
玉藻前とバケモノは…霧の奥へと姿を消した。
そして霧が晴れたその場所には、ただ枯れた草木が残るだけだった。