純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主 作:臆病者の呪術師
「おお、クラマ様だ!」
「あれが、九尾を二体も従えたと言う呪術師か!」
人々はクラマと呼ばれたその男と…側に控える女二人を見てコソコソと話す。
クラマは所々白が混じった黒髪を風に靡かせて、澄まし顔で歩いている。
側で控える女二人は頭に狐の耳と腰に豊かな九本の尾を生やしており、それぞれ金髪と銀髪を風で揺らしながら男の半歩後ろを静かに歩む。
クラマを見れば、周りの人々は静かに道を開ける。
そうして出来上がった道を、クラマはスタスタと歩む。
そうしてモーセのように人が分かれて行った先にある己の自室へと辿り着くと自分をジロジロと見る者達へ告げる。
「これより、私は休む。何人たりとも、邪魔はするな」
そう言って自室の襖を開け、中に入る。
続いて女二人が入ると人々へ頭を下げて、襖を閉じた。
クラマが自室に籠ったのを確認した人々は、談笑や情報交換などを再開し始めた。
談笑が聞こえ始めた頃、自室に入ったクラマは
「はぁぁ…疲れたぁ…」
布団の上にダイブを決めて、溜息を吐いていた。
そんなクラマの元へすすす、と二人は近寄り甲斐甲斐しく手足を揉み始める。
「お疲れ様ですあるじ様」
「あるじは頑張った、いっぱい労う」
「ぁ…ああ…ありがとう、キンコ、ギンコ」
手足を触れられ、ビクリと震えたクラマは顔を見せないように伏せつつ、二人へ礼を述べる。
「いえいえ、『式神』として当然かと」
「そう、私達はあるじの『式神』これくらい当たり前」
それを聞いたクラマは内心で嘆く
(その式神の契約、破れてるんだけどねぇぇぇ…!)
クラマは心の中でそう呟くとそのまま天井を見上げる。
(なんでこんな事になったんだろうな…)
そう思いながら、クラマは過去を思い返した。
◆
そもそも『式神』というのは呪術師が自分の技量で制御出来る妖怪を弱らせるなり、説得するなりして作るモノなのだ。
クラマは呪術師になりたてだった頃、親から『式神』を二つ作ってくれればいいなと言われ親を喜ばせようと手頃な妖怪は居ないものかと辺りをふらついていた。
「ん?」
そんな時、ふと草むらの中で弱っている二匹の狐妖怪を見かけた。
二匹はどうやら『生まれたて』のようでこのまま放置すれば死ぬのは新米呪術師のクラマでもはっきりと分かった。
クラマはこれならちょうど良いか、と二匹へ二枚の札を向けた。
弱った二匹は抵抗すら出来ずに、札の中に吸い込まれる。
いい拾い物をした、とホクホク顔で帰路を行くクラマ。
しかし、クラマはこの時に致命的なミスをした。
そしてクラマはそのミスを知らずに、五年間を二匹の式神と共に駆け抜けた。
そして、二匹の式神はメキメキと成長した。
そして二匹が九尾になった日に、クラマは違和感を覚える。
ぷつり、と二匹との繋がりが切れたのだ。
その感覚に、クラマは血の気が引く。
そもそも、式神とは自分の技量で制御出来る強さの妖怪を式神にして制御する術なのだ。
本来なら、自分の技量を超える強さにならないように呪術師は式神に対して強さの上限を付ける。
しかし、クラマは新米だった頃にロクな教育を受けずに自分で勝手に式神を作ったのだ。上限を付けるなんて事を知らずにやった為に、こうなってしまった。
式神と契約が切れた以上、二匹はクラマの制御の外だ。
走馬灯のように、クラマの今までの人生が頭の中を駆け回る。
二匹を一生懸命に世話したり、強敵と対峙して倒したり、人型になれるようになった二匹へ人のルールを教えたりと色々あった。
そんな思い出が頭を駆け巡った後にクラマは現実に戻される。
注意深く二匹を見れば、手を握ったり開いたり身体を動かしたりと自分の身体の確認をしている。
もし叛逆された場合、妖怪の中でも高位である九尾を二匹も世に放つ事になってしまう。
しかも九尾はただでさえ強いと言うのに、個体によっては妖術や呪術以外に固有能力を保有していたりする。しかもその固有能力によってはそれ一つで天変地異を引き起こせる物もあるのだ。
身体の確認が終わった二人は、じっとクラマを見つめながら近寄って来る。
クラマはせめて最後まで足掻こうと札を構えた。
しかし、二匹から放たれた言葉は意外なものだった。
「あぁ、やっと私達を信頼して下さったのですね。あるじ様」
「妙な枷がやっと外れた、これで全力が出せるからもっとあるじを守れる」
「…へ?」
にこにこと笑いながら己へ腕を絡ませる二匹に挟まれたクラマは、ただ茫然としながら空を見上げた。
空はとても綺麗な夕焼けであった。
◆
そんな過去を思い返してクラマは手足をキンコとギンコに揉まれながら思う。
(コイツらに失望されたら終わりだ…何とか耐え続けないとな…)
そう決心するクラマを見るキンコとギンコはただマッサージをしながらニコニコと笑顔を向けていた。