純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主 作:臆病者の呪術師
キンコとギンコのマッサージが手足から腰へ変更になった辺りに、不意に外へ繋がる襖の方から物音がした。
その物音にキンコとギンコは即座に反応し、妖気を漏らしながら襖の奥の存在へ威嚇する。
『ひぃっ、あ、あの…伝令です』
伝令という単語にクラマはだらけた頭を切り替え、いつものように声をあげた。
「そうか、ご苦労。して伝令とはなんだ?」
『はっ、それが都にある古屋敷に怨霊が出たようで…既に被害が…』
「ふむ…被害はどれ程だ?」
『それが…女性が二人ほど連れ去られております』
「…そうか」
考えられる中でも最悪に近いな、とクラマは思いながら相手の凡その強さを考える。
怨霊というのは妖の類の中では強さがピンキリなのだが、問題はその怨霊がどれほどの『者』なのかという点だ。
基本的に、人は死んだ後は魂が天に昇る。これは呪術師の中では当たり前の事であり、人々から信頼されている事実だ。
では、怨霊はなぜ生まれるのか?
基本的に怨霊というのは適切に弔われなかった人やこの世へ強い恨みや執着がある者が天に登ろうとせずに彷徨い、怨霊となる場合が多い。
しかも厄介な事に怨霊の強さ=執着や恨みの強さな為に、モノによっては九尾や鬼などに代表される高位クラスの強さになったりもするのだ。
なお、怨霊は者によっては少しの対話で成仏したりもするので『万全な準備をして臨んだら、開始3分で祓えてしまった』なんて話は良くある。
しかし、だからと言って舐めてはいけないのが怨霊なのだ。
しかも今回は人を攫っており、しかも女性を攫っている。
怨霊はその強さと意志の強さによっては、女性を捕らえ自分を『産ませる』事によって現世へと戻ろうとする者も居る。
勿論、ただの赤子で戻れる訳もなく、むしろ女性は強い呪詛に当てられて死んでしまう場合が多い。
そして産まれた怨霊は呪子という妖になり、時が経つにつれてより強大な妖へと進化するようになる。
クラマは今回の怨霊は鬼と同等の強さであると定義付けた。
「一刻も早く向かわないとな、場所は?」
『はっ、私が案内します』
「キンコ、ギンコ。行くぞ」
「はい、あるじ様」
「了解、あるじ」
襖を開けたクラマは、伝令に先導される形で古屋敷を目指した。
◆
『ククク…クハハハ!ハハ…ゲッホゲホ!?』
古屋敷の奥の部屋にて、その怨霊は笑い声を上げ…そのままむせた。
そんな怨霊を見て、二人の少女はガタガタと震える。
『ククク…しかし哀れよなぁ?この私を見た途端、お前達の家族はお前達を置いて逃げ出した…しかし助かったぞ、これで私は現世へ戻れるのだからなぁ!』
そう言って、グワッ!と少女二人へと襲いかかろうとした怨霊は、ピタリと止まる。
『ぬぅ…この気配と結界…呪術師か!忌々しい…!』
怨霊は苛立ちのままに拳を振り上げ、片方の少女へ振り下ろす。
しかし、バチッ!という音と共に弾かれる。
『ぬぅ…ぬぅぅぅぅ!!おのれおのれおのれぇぇぇ!我が悲願をぉ!』
苛立ちのままに怨霊は暴れる。
高そうな壺は割れ、襖や障子は吹き飛び、掛け軸は無惨にもビリビリに破られる。
そして、障子が吹き飛んだ先に、クラマは居た。
『ぬぅぅぅ!呪術師は貴様かぁぁ!おのれぇ……我が悲願を妨げた貴様には…死より恐ろしい目に遭わせて…!』
「『狐火』煉獄」
「妖剣術、地凪」
クラマへ飛びかからんとした怨霊は、ギンコに両腕を切り飛ばされ、キンコの煉獄に焼かれた。
『なっ!?ぐわぁぁぁぁぁ!!?』
なす術もなく、煉獄に包まれてゴロゴロと転げ回る怨霊。
本当ならさぞ強い怨霊だったのだろう。
本当なら、白熱したバトルもあっただろう。
しかし、悲しい事に相手が悪過ぎたのだ。
転げ回る怨霊を、ギンコが蹴り飛ばす。
『ゴハッァ!?』
「お前のせいで、あるじのマッサージが中断になった。どうしてくれる」
『それは逆恨みではないのか!?』
「怨霊の分際で喚くな、燃え尽きろ」
反論する怨霊をキンコが煉獄の火力を上げてチリ一つ残さずに燃やし尽くす。
こうして、怨霊は呆気なく祓われた。
褒めて褒めて、と近寄る二人を撫でながら、クラマは思う
(僕、結界張ったくらいで仕事してないじゃん…)
後の話になるがこの怨霊はそこそこヤバい方だったらしく、報酬は怨霊一体に対しては割高になったそうだ。
怨霊さん
クラマが行かなかったら確実に呪子となっていた。
もしなった場合、たったの数週間で急速に成長して都に甚大な被害を及ぼしていた。
しかし、そうなったとしてもクラマ(とキンコ&ギンコ)と対面する事になるし(主にキンコ&ギンコによって)瞬殺されるのは変わらない