純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主 作:臆病者の呪術師
怨霊を倒したその翌日、クラマは日の眩しさで目を覚ます。
「ん…朝か」
目を開けて起きあがろうとすれば、両腕に柔らかな感触を感じたクラマは体の動きを止める。
少しだけ体を起こした状態のまま両側を見れば、キンコとギンコがそれぞれ腕をガッチリと掴み、足もそれぞれ片足に絡ませてホールドしていた。
これでは起きようがない。
「んん…あるじ様…もっとお側に…」
「あるじ…遠い…こっち来る…」
そんな可愛らしい寝言とは裏腹に
ギチリ
クラマの体は人ならざる妖の力をモロに受け、両側から引っ張られる。
「アガッ!?」
少し起き上がっていた体は再び敷布団に戻り、そのまま両側の力によって引っ張られる。
「んんぅ…遠慮なさらずにもっと来て下さい…」
ギチィ…
「…遠い…もっとこっち…」
ギチィ…
このままでは、クラマの体は裂けてしまう。
クラマは痛みを耐えながら、キンコとギンコのたわわに実ったモノに手を向ける
「さっさと夢から醒めろ、お前らっ!」
むにゅり
そんな音が似合う程、キンコとギンコの実ったそれは大きかった。
「んひゃっ!?」
「ひぅっ…」
ビクリと身体を震わせてキンコとギンコは目を覚ます。
頬を朱に染めながら、二人はクラマを見つめる。
「あ、あるじ様…まだ日が高いですよ…こういうのは…夜に…」
「…あるじに求められた…やるっ」
恥じらうキンコとふんす、と気合いを入れて近寄るギンコにクラマは告げた。
「君ら布団に入るの、暫く禁止」
ピシリ…と空気が凍る。
「あるじ様、今なんと言いましたか…?」
キンコは光のない目でクラマを見つめながらそう問いかけ
「………」
ギンコはキンコと同じように、光のない目で黙ってクラマを見つめる。
そんな二人を見たクラマは眠気が吹き飛び、サッと血の気が引く。
(ま、まずいっ!?このままではキンコとギンコに叛逆される…!)
光のない目で、キンコとギンコはクラマへ手を伸ばし始めた。
クラマは腰が抜けて立たず、腕はガタガタと震えて後ろへ下がる事も出来ない
そして、二人の手がクラマの服に触れるその刹那。
「クラマぁ!朝から篭ってるばっかりじゃ身体も術も鈍るわよぉ!」
中の空気などなんのその、襖を勢いよくスパァン!と開け放ちそう言った少女はクラマ達の割とヤバい光景を見ても
「クラマ、ほら朝のトレーニングよ!さっさと行く!」
そのままクラマの服をむんずと掴み、引きずって部屋を出る。
嵐のように現れ、そのままクラマを有無も言わずに連れ去った事に、キンコとギンコは数秒放心するも、即座に状況を理解する。
「あの女ぁ…よくもあるじ様を…」
「殺すぅ…」
殺気と妖気を漏らしながら、キンコとギンコはクラマの臭いを辿って疾走を始めた。
◆
少女に引きずられながら、クラマは廊下から広大な庭をを見つめる。
庭では新米の呪術師が先輩呪術師の式神相手に四苦八苦しながら戦闘をこなしていたり、別の場所では小さな子供が先生をしている呪術師から呪術の基礎を習っていたりと賑わっていた。
この光景がクラマにとって当たり前…という訳でもない。
呪術師というのは基本的には根無し草である。しかし根無草の中でも強い呪術師や家系が元々呪術師であった場合、それぞれの地にある大屋敷という拠点に住む大頭という呪術師達を束ねる長に呼ばれる事になる。
クラマの自室があるのも、そんな各地に点々と存在している大屋敷の一つだ。
しかし、何故大屋敷などという拠点が存在しているのか?
それは呪術師というのが出来てまだ間もない頃に、扱う呪術や使役する式神を悪用する者が現れたからだ。
人々は、そんな者達の対処に悩んでいた。
そんな時、とある呪術師が名乗りを上げた。
その者の名はセイメイ、一介の呪術師でありながら都にとって災厄となる妖から木っ葉の小さな妖怪まで、人が困ってるとなれば何処へでも行き人を助けた者だ。
そんなセイメイは悪行を成す呪術師達を快く思っておらず、己の強さのみで悪行を成す呪術師達を殲滅し、そのまま一つの組織を作った。
その名を『
高い技量を持つ呪術師やその子供を迎え入れ、都や町などに現れた妖や怨霊と言った人に害を成す存在を倒して報酬を得たり、素質ある子供に正しい力の使い方を教育したりする組織だ。
そうして出来上がった天照院は長く続き、今では各地にそれぞれ大屋敷という豪勢な拠点を持つレベルになった。
クラマは家系が呪術師だった為に連れて来られた方だ。
連れて来られた頃には既に式神…キンコとギンコを作った後の為、最初は神童と持て囃されていた。
しかし、蓋を開けてみれば
クラマの強さは中の下、良くて中の上というものであった。
呪術師というのは強さを半ば式神に依存している。
そもそも呪術というのが事前に準備したり、媒体に札や符や杖を使ったりと嵩張る上に一回の戦闘で消耗が酷ければ、別の妖が乱入した場合になす術なく殺される事になる。
つまり
呪術師本人の強さ<式神の強さ
というのがその呪術師を測る強さの目安であり
式神が弱い=その呪術師も弱い
という認識になってしまうのだ。
しかし、そんなクラマを鍛えようとする一人の変な同僚が居た。
現在、クラマを引きずっているシュリという名前の少女がその同僚だった。
シュリは式神の中でも最も制御が難しいとされる『鬼』を二体操る凄腕の呪術師であり、ちょうどクラマと同じ頃に大屋敷へと連れて来られていた。
最初は自分と同じように神童と持て囃されるクラマを目の敵にしていたのだが、一緒に仕事をしているうちにその強さを認め、気を許せる同僚や対等なライバルとして接し、気まぐれに鍛えるようになった。
しかし、キンコとギンコが九尾になった途端にクラマは変わってしまった。
仕事から帰って来れば後は自室へ篭り、食事もキンコかギンコに用意させてダラダラと過ごす。
シュリはそんなクラマを何とかしなければと隙を見てはクラマを攫い、訓練と称してクラマをしごくようになった。
そうした関係が半月も続いているんだよな、と思いながら引きずられたクラマはシュリの自室へと辿り着く。
「毎回毎回、庭でやり合うのも退屈でしょ?私の部屋でやろう?結界は強固にしてるし、貴方程度の呪術じゃ傷一つ付かないもの」
「いや、その前に首締まりかけてるから離して?」
「あら、ごめんなさいねっ!」
シュリは謝りつつもクラマをポイっと自分の部屋へ投げ込む。
そして自分も部屋へと入れば、ピシャリと勝手に部屋が閉じた。
…そんな部屋へ、怒れる九尾二匹が迫って来ている事などシュリは一ミリも考えては居なかった。
シュリ
クラマとは同僚の呪術師、強さとしては上の中。
本人の呪術の柔軟性と使役している二体の『鬼』の式神のパワープレイによって高位の妖だろうがなんだろうが平気でぶっ倒して帰って来る。
クラマの事は最初はよく思って居なかったが、初めての任務で小狐のキンコとギンコと協力して妖を倒したり、危ない時に自分を庇ったりした為に
『まぁ、悪い奴でも無さそうだし…少しは気を許してあげようかしら』
とちょっと心を開いた。
自分よりも弱いクラマを気まぐれに呼び出してしごきという名の訓練を付けていたのだが、即座に対応力を上げていくクラマに驚き、本格的に訓練を付けてやろうとした時に、キンコとギンコが九尾へ進化した。
何気にクラマの現状を『最もマシ』なレベルにした功労者、もしシュリにしごかれていなければ、クラマは六尾の時点でキンコとギンコの契約が切れ、繋がりが切れた事に動揺して暴走した二人に殺されていた。