純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主 作:臆病者の呪術師
グロい描写に注意。
それは、クラマとシュリが山に潜む鬼の討伐に行った時だった。
「はぁ、鬼が潜む山だから雑魚でもまぁまぁ面倒ねっ!」
そう言ってグーパンで虫の妖怪を粉砕するシュリと、式神の鬼の二人。
そんなシュリの後ろを付いて行くように、クラマとキンコとギンコは歩いていた。
「…あの、自分達も戦えるから少しは頼って欲しいな」
そう言えば、シュリは烈火の如く怒る
「何言ってんのよ!相手は鬼なのよ?片方に余力がなきゃ、万が一私達で対処出来ない脅威だった場合に、伝達する人が居なくなるでしょ!」
シュリはそう怒りながらもテキパキと雑魚妖怪達を拳で破壊していた。
雑魚妖怪を蹴散らしながら進んだシュリとクラマ達は、山の開いた場所で一休みを取る。
「ふー…雑魚は蹴散らしてあるけど警戒はしなさいよ。何処から鬼が来るか分からないんだから」
「分かってるって…あ、ごめん…厠…」
申し訳なさそうな顔でクラマはシュリに謝る
「…あんまり遠くには行かないでよ、それとアンタは弱いんだから式神もちゃんと連れて行きなさい」
「分かってるってば…」
そう言ってクラマはキンコとギンコを連れて草むらを分けて進み始める。
草むらを抜けた少し開けた所でクラマは用を済ませる。
「キンコもギンコもごめんね」
「いえいえ、私達は貴方の『式神』ですから」
「そう、何処でも一緒、ずっとずっと一緒」
そう言って笑う二人を見て、クラマも少しだけ微笑んだ。
「おぉ〜?こんな所に人間が居るなんて珍しいな」
クラマはシュリでもない誰かの声に振り返ろうとする。
しかし、振り返ろうとしたクラマの視界はクルクルと回り始めた。
「は…ぇ…?」
クルクルと回る視界の中で、クラマが最後に見たのは
ニヤニヤと笑う鬼と
呆然とクラマを見つめる、キンコとギンコの姿だった。
◆
グチャリ
そんな音と共に、二人の愛する男の首は地面に落ちる。
「ハハハハ!警戒心無さすぎるだろ!この人間よぉ!」
そして、そんなクラマの首をその鬼は踏み付けた。
硬い物が割れる音と共に弾け、辺りに血が飛び散る。
キンコとギンコは、そんな様をただ茫然と見ていた。
「あぁ?お前ら式神になった妖かぁ?よかったなぁ!これでお前らは自由の身!好き放題やろうぜぇ!」
ゲラゲラと、鬼は二人へ笑いかける。
そして、首を無くしたクラマの身体が地面に倒れた時。
二人はその事実を理解する。
「あ、あ…あるじさま…」
「あ、ある…あるじ…」
絶望して膝をつき、飛び散った血や骨等を服が汚れても構わないと必死に集めようとするキンコと
首を無くした身体を必死に揺らす、ギンコ。
しかし、そんな光景を見た鬼は不思議そうに二人へ問いかける
「お前ら、そんな人間なんて何処にでも居るだろう?代わりなんて人里降りれば幾らでも居るんだ…し…?」
鬼はぞわりと身体を震わせる。
「お前が…お前がぁぁ…」
「ころす…ころす…殺す殺す殺す殺すぅ…」
ギラギラと金と銀の目が殺意を持って鬼を見つめる。
しかしその鬼は殺意を向けられようと平然と笑う
「なんだなんだ、お前ら、その人間に絆されてたのかぁ?クハハハ!……五尾程度がいきがるんじゃねぇよ…」
笑い声を上げたと思えば、ジワリと妖気を漏らし二人を威圧する。
「だが俺にそんな殺気向けるやつなんて160年ぶりだなぁ!楽しもうぜぇ…殺し合いってのをよぉ!」
そうして三つの巨大な妖気は衝突した。
◆
「…っ!?」
巨大な妖気を察知したシュリは即座に立ち上がる。
自分の近く…しかもクラマの向かった先に巨大な妖気が三つもある。
「ちっ、アイツ…!」
シュリは草むらを飛び越え、真っ直ぐにクラマの向かった方向へ突き進む。
(無事でいなさいよ…クラマ…アンタがここで死ぬなんて私が許さないんだから…!)
そうして突き進んだ先でシュリが見たのは
「あ…あ"ぁ"ぁ"…!」
「ふ"ー…ふー…!」
ズタボロになって地に伏せるキンコとギンコに、首のないクラマの死体。
「まぁまぁ楽しめたぜぇ…五尾にしてはよくやった方だろ」
そんなクラマの死体を踏んづけて笑う鬼の姿だった。
「…ちっ、キンコ!ギンコ!引きなさい!クラマの遺体は私が何とか回収する!貴方達は大屋敷に戻って…」
増援を呼んで、とは言葉が続かなかった。
ゾクリ、とシュリの身体の芯から恐怖が湧き上がる
「なっ…にが……っ!?」
振り返ったシュリが見たのは
ドロドロと
「な、貴方達…何その姿…!?」
「はぁぁ!?狐が溶けて混ざるなんて知らねぇぞ!?おい!」
驚くシュリと絶叫する鬼を無視して、キンコとギンコは原型を無くして混ざり合う
そして、黒い一つの球体へと変貌する。
警戒するシュリと鬼は、バキリという音ともに即座に距離を取った。
球体の中からまず出たのは腕だ。
腕はバキバキと球体を壊して行く。
次に出たのは尾だ、金と銀の六対の尾がぶわりと球体から飛び出してうねうねと悍ましく動く
最後に出たのは女だった。
金と銀がまだらに混ざった髪に、金と銀のオッドアイの瞳がジッと鬼を見つめる。
その身体は、こんな状況にも関わらずシュリと鬼が息を吐く程に美しかった。
そうして、女の目線は鬼ではなく踏み付けられたクラマの死体へと向けられる。
それと共に、鬼の身体は消し飛んだ。
「ガポァッ!?」
首だけとなった鬼は驚愕の表情を浮かべて宙を舞う
しかし、それも一瞬
鬼の首は即座に爆ぜて、辺りへと血を撒き散らせる。
しかし、クラマの死体には血肉のひとつも付かなかった。
そうして、女はゆっくりとクラマの死体の元へ向かう。
その死体を慈しむように抱き上げた女は、優しく抱きしめる。
「…っ…く…貴方…何者…!?」
恐怖を押し殺して、そう問いかけたシュリを女はチラリと見て答えた。
「私か?私はこの方に永遠の忠誠を誓う者だ……ココでは死んでしまったが…世界を超えれば良いだけの事だ…」
そう言って、女は腕をあげる。
たったそれだけの動作でシュリは空間が軋むのを感じた。
虚空にヒビが入り、砕け散る。
そうして空いた穴へ女は死体を抱えて歩き出す。
「……ああ、今私が参ります…あるじサマ…」
そう呟くと、穴は閉じた。
「……っ…はぁ…!」
緊張の糸が解けたように、シュリは地面に倒れ込む。
「…はぁ…はぁ…あんな妖怪…知らない…!伝承で語られた訳でもない、完全に未知の存在…!あんなの……ただの…
バケモノじゃない…!
◆
暗闇の中を、女は歩く
「ああ…あるじサマ…あるじサマ……貴方が何処へ行こうと、どの時代に居ようと…私が必ず馳せ参じます…ですから…どうか…どうか…出会った時には…
優しく私を受け入れて下さいね…?」
女は暗闇の中を歩く、しっかりと。まるで行き先は既に決まっているとでもいうように
女の歩む先は…誰にも分からない
謎の狐
キンコとギンコが『この鬼を殺したいけど力が足りない…そうだ!私達が合体すればコイツなんて瞬殺じゃないか!』という超理論の元に生まれた正真正銘の化け物。
妖というのは存在する事において、肉体ではなく精神に依存している。
キンコとギンコは常に一緒で、想う相手も同じで、その為なら何でもするというゲキオモな感情を持っていた。
そんな二人が奇跡な確率で混ざり合い、この化け物は産まれた。
目的はただ一つ
あるじサマに会う事、そして自分を受け入れて愛して貰う事。
その為ならば、この化け物は世界も何もかもを混沌に陥れるだろう。