純粋で最強な九尾ちゃんと怯える飼い主   作:臆病者の呪術師

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シュリの自室で巻き起こるちょっとした騒ぎ


狭い所で大怪獣バトルをすると被害が甚大

 

「さぁ、いつも通りやるわよ」

 

そう言ってシュリは構える。

 

シュリは呪術師でありながら、ゴリゴリのインファイターでもある。

曰く『弱い奴なら殴れば死ぬ』だそうだ。

 

対してクラマと言えば

 

「そのいつも通りで毎回怪我するんだけどなぁ…こっちは」

 

符を辺りへばら撒きながら、札を一枚自らの前に投げる。

その札が鈍く発光すれば辺りに散らばった符が集まり、杖の形になる。

 

これは呪術師にとっては何かあった時の為に使う『緊急用の杖』を作成する呪術であり、本来なら木や土、石などを纏わせて杖を作る。

 

しかし、クラマは『周りの物を取り込む』点に注目して大量の符を取り込ませる事を思い付いたのだ。

 

符や札は呪術師の中では最も使われる消耗品である。しかも符は一度きりしか使えないし、札も20回程使えばまた新しく作る必要がある為上位の呪術師は符や札を使うのをやめ、それぞれ自分の動きやすいスタイルの為に独自の呪術を開発する事が多い

 

クラマはまだそれが出来る技量にない為、戦闘スタイルが『大量の符や札を使って相手を削り、消耗して来たら呪術で拘束する』というものだ。

このスタイルはとても効率が悪い。

何せ、一回の戦闘での消耗が激し過ぎるからだ。

 

しかしクラマは札や符をコツコツ作る事に抵抗がなく、仕事が終われば消耗した符や札をチマチマと作っていた。

キンコとギンコが九尾になってからは、二人が片手間に量産するようになった為にやる事がなくなってしまったが

 

クラマはそんなお手製の杖を構える。

 

「やる気満々って事ね…いいわよ、今日もしごいて倒してあげるっ!」

 

即座にクラマとの距離を一瞬で詰めたシュリはクラマの腹へ掌底を叩き込む

 

反応出来ずに吹き飛んだクラマは襖へと激突する。

しかし、クラマが激突したにも関わらず、襖はびくともしなかった。

 

「ほら、アンタ防御姿勢は取ってたでしょ。さぁ立つ!」

 

クラマは痛いなぁ、と思いながら立ち上がる。

 

「シュリの初手の攻撃、何回やっても回避が出来ないんだけど…」

 

「当たり前よ、この最初の一撃で弱い妖怪なら木っ端微塵だもの。でもそれを耐えれるようになってるのはアンタが成長して来てる証拠よね」

 

「シュリ基準の弱い妖怪って大体中級じゃ…」

 

「はい、無駄口叩かない。次行くわよ」

 

そうして構え直すシュリを見て、クラマは苦笑いしながら立ち上がる。

 

「せめて一撃入れたいな…」

 

「アンタが一撃入れられたら快挙モノよ、まぁそうねぇ…一撃入れられたら、私がお願い一つ聞いてあげる」

 

「………」

 

その言葉に本当かよ、とジト目を向けるクラマ。

クラマは知っている、シュリは気に入らなければその強さで拒否する人物な事を

 

「何よその目!?私がせっかく特大のご褒美あげてるんだからやる気出しなさいよ!」

 

そんなクラマを見てうがー!と怒るシュリを見て、クラマは笑みをこぼす。

幾ら呪術師の中で他を圧倒する強さを持とうが、シュリも年相応の女の子なのだと

 

「今私の事笑ったわね?笑うだけ余裕があるなら、もう少し激しくしてやろうかしら…」

 

その笑顔が気に入らなかったのか、シュリは威圧感を増してクラマを見つめる。

それと同時にクラマは悟った。

 

これ、何も出来ずにやられるやつだ…と

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

キンコとギンコはクラマの匂いを辿って、シュリの自室へ辿り着く。

 

無言で襖に手をかけ無理やりこじ開ける。

 

「おおう、主の言っていた通り来たな」

 

「妖気と殺気が漏れてるなぁ…そんなにお前らは離れたくないのか?」

 

襖を開けた先には、二匹の鬼が居た。

 

その鬼は変わっていた。

片方はボサボサの髪をそのままに、着物を着崩して座り込み酒を飲み干す女の鬼

 

片方は髪を綺麗に纏めてポニーテールにし、着物をしっかりと着るボーイッシュな雰囲気の女の鬼。

 

彼女らがシュリの操る鬼、名を『シュラ』と『モミジ』と言う。キンコやギンコと同じ高位である鬼の妖だ。

 

「邪魔をするな…!」

 

「そこ、退け…!」

 

ゾワゾワと、並の呪術師や妖怪が浴びれば即座に気絶する程の妖気を漏らしたまま、キンコとギンコは睨む。

 

しかしそんな妖気を浴びても、二匹の鬼は笑うのみ。

 

「ははは!相変わらず凄まじい妖気よなぁ!」

 

「余り煽るな、シュラ。本気でやられたら結界が壊れるかもしれないんだぞ」

 

笑いながら酒を飲むシュラと、そんなシュラを宥めるモミジ。

 

「退く気はないという事ですね」

 

キンコの問いかけに、モミジは笑う。

 

「あいにくな、主はお前達の主を強くしようと躍起になっている。あんなに生き生きしている主を見るのは私達でも初めてでな。出来れば前のような邪魔はやめて貰いたい」

 

「あるじ様を鍛える必要はありません、私達が守り続けますし、強くなりたいなら私達で教えます」

 

「あるじは私達が守る、ずっとずっと守る……あるじが強くなる必要はない」

 

「そうやって甘やかしてたら、いつかお前らの主はいつか呆気なく死ぬ事になる。主も私達もそれは望んでいない」

 

話し合いでの解決は無理だとでも言うようにキンコとギンコは妖気をより強める

 

「あるじ様の事を知らない癖にほざくな、鬼が」

 

「あるじは私達が弱い頃から守ってくれた、だからこれから先は全部私達が守る…!」

 

そう言って構える二人に、モミジは苦笑して拳を構えた。

 

「やれやれ…とんだ過保護が居たものだな」

 

「そりゃあ、俺らが式神に成りたてな頃からべったりだったんだからこうなるだろ」

 

酒を飲むのをやめて、シュラは立ち上がった。

 

「ま、妖怪がいがみ合いすればやる事は一つだろ。さっさとやろうぜ」

 

そう言ってポイっと酒甕を投げたシュラを合図に

 

四つの強大な妖気が衝突した。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

その妖気は、訓練をするシュリとクラマでも感じる事が出来た。

 

「シュリ、いいのか?」

 

「全然平気…って訳でもないのよね」

 

チラリとシュリは戦いの余波で揺れる襖を見る。

 

襖越しでも分かる程の轟音が、化け物じみた妖怪達の戦いの凄まじさを二人へと伝える。

 

「…そろそろ止めた方がいいか?」

 

「…そうね、ちょっと私の結界が軋んで来てるし…止めに行きましょうか」

 

シュリは溜息を吐きながら、襖へ手をかけようと近寄る。

 

しかし、何かに気付くとクラマへ飛びかかって、そのまま襖から離れる。

 

それと同時に襖を突き破ってもみくちゃになった四人が飛んできた。

 

「んの、やろう!噛みつくなコラぁ!」

 

「ガルルルッ!」

 

「おいおい片方野生に帰っちまってるぞ」

 

「キンコ、昂ったら野生に帰る。仕方ない事」

 

「お前は冷静な事を言いながら刀で首飛ばそうとして来るなっ!」

 

腕に噛み付くキンコと、そのキンコの尻尾に拘束されるシュラ

 

首を執拗に狙って刀を振るうギンコと、必死に弾くモミジ

 

そして、そんな光景をポカンと見るクラマと

襖の奥の惨状を見て頭を抱えるシュリ

 

この場は、混沌と化していた。

 

「あ、あるじ」

 

「はっ!?あるじさま!」

 

しかし、キンコとギンコがクラマに気付くと鬼二人を踏み越えて飛びつく

 

「ぐはっ!?」

 

「あるじ、あるじあるじあるじあるじ…」

 

「ふー…やっぱりあるじ様の下が落ち着きます」

 

二人してその身体を遠慮なく押し付けて抱きしめる光景を見て、鬼二人は苦笑する。

 

「さっきまでこの世の終わりかってくらいに激しい戦いしてた奴らか、これが」

 

「全くだな…あれ、酒は何処だ?」

 

「んなもん割れたぞ」

 

「…嘘だろぉ…!」

 

苦笑しながら二人にもみくちゃにされるクラマを見つめるモミジと、酒がない事に絶望して静かに泣くシュラ

 

しかし、二人はそんな事をしている場合ではなかった。

 

「貴方達、あの部屋の惨事の弁明を聞きたいんだけど?」

 

二人はサッと正座する。

 

「本当に申し訳ない主、久々に熱い戦いだから昂ってしまってな」

 

「何せあの二人がまた強くなってなぁ!」

 

「言い訳無用」

 

「「はい、すいませんでした」」

 

二人は綺麗な土下座をした。

 

キンコとギンコの二人にもみくちゃにされたクラマは、二人に抱えられて自室へと戻って行く。

 

部屋をボロボロにしたシュラとモミジは、朝から部屋の修繕の為に妖術を使うのであった。

 





シュラとモミジ

シュリの持つ二体の式神、鬼の中でも相当強い部類で九尾の状態のキンコとギンコを相手取り軽症で済む程に強い

シュラは力任せのパワープレイを基本としているが、だからと言って妖術が使えない訳ではない。むしろ妖術の方が得意な部類

モミジも力任せのパワープレイを基本としているが、妖術を使う事も出来る。しかしシュラには劣っている…それでも大量の妖を殲滅出来る程度には強いのだが…

二人は主であるシュリが毎回クラマを攫っては、怒れるキンコとギンコによって殺されないように自主的に待ち構えている。

勿論四人全員、全力は出していない。

何故なら全力を出してしまえば、余波だけで大屋敷が消し飛ぶからだ。

その為、戦いとなってもじゃれ合い(妖怪基準)で済ませている。

二人とも、クラマを認めている。

自分達以外に、仲間と呼べる者が居なかったシュリが初めて作った仲間なのだ。

それはそれとして、鬼としてはクラマは結構好みなので『摘み食いしたいな』と時折狙っている。

勿論、そんな視線に気付いたキンコとギンコに襲われて戦いに発展するのだが

大屋敷ではある意味風物詩になっており、『まーたじゃれ合いしてるよ』と微笑ましく見ている人(ただし、熟練の呪術師のみ)が多い。

最近はどっちが勝ち越すか賭けにまで発展しており、大屋敷の長にとっては地味な悩みの種になっている。
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