陰の復讐者となりて   作:橆諳髃

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またお気に入りとして登録して頂いている件数もお陰様で500件を超えており、こちらとしても大変嬉しく思います‼︎

さて、前回はこのアレクシア王女誘拐編についてをこの回を含めて2話程で収める予定で書くと案内をさせて頂いておりましたが……書いていたらもう1話分追加になりそうです。

そして今回の話については、サブタイトルにもあります様にR-15の表記を付けさせて頂いております。一応私としては付けなくても良いかなと感じていたのですが、表現的には付けておいた方が無難だろうかと思い付けております。

想像している様な過激的な描写は無いと思ってはいますが、何卒ご了承の程を頂ければと思います。

それでは8話をご覧下さい。


8話 復讐者、前奏曲(プレリュード)を務める

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルファになすがままにされて数分……漸く彼女の口から今回の作戦概要が説明された。といっても今回どういった拠点を襲撃するかと場所を説明されただけだが。そして誘拐されたアレクシア王女も同時に救出する算段で、それで俺と兄さんは平常運転でいいと言う事だった。

 

「(まぁ今回は『シャドウガーデン』が初めて表に出て大規模に行動するって事で、現状の戦力でどの程度対応出来るかも兼ねてだろうな。あぁ、それとアルファにも共有しとかないとな)ところでだが、さっき寮に帰ってくる途中でコトハさんと念話してたんだ」

 

「そう……彼女とも今回の襲撃について?」

 

「あぁ。俺達『シャドウガーデン』と連携して各所の拠点を叩くと言っていた」

 

 因みにだが……この2年もの潜伏期間『シャドウガーデン』が何をやっていたかについては、大まかに言って戦力の増強、資金調達、拠点を充実させる事による自給自足の生産性と……コトハさんが所属している組織間との親交だ。そして全て可笑しなほど順調に事が進んで行った。

 

 そんな訳で『シャドウガーデン』とコトハさんが所属する組織は、今回の拠点襲撃作戦において連携して動ける程綿密に作戦が練られているって事だ。こちらとしても動き易くなるからありがたいところでもある。

 

「それと……これは俺も感じた事ではあるんだが、王都近郊……正確にいえば西側の森の方で魔力による大きな揺らぎを感じた。コトハさんもそう言っていたから多分間違いないだろう」

 

「……招かれざる客が来るかもしれない、という事ね?」

 

「杞憂に終わって欲しいところなんだが……あの感覚はどこかで感じた事のあるものだった。揺らぎ方の大きさからして、全長は最大にして15m以上あると予測しておくに越した事はない」

 

「それはまた途轍もない大きさだわ。現状の戦力で何とかなるかしら?」

 

「まぁそこの所は俺に任せて欲しい。アルファ達は当初の予定どおりにしていれば問題ないから」

 

「もぅ……またアルジは……」

 

「ははっ、すまんすまん。でも……これが俺の性分だからさ」

 

「全く……でも良いわ。私達は私達の出来る事をする。貴方がやり遂げる事を、私が全力でサポートするから」

 

「あぁ、任せておいて欲しい」

 

「えぇ。それと……んっ」

 

 アルファが俺に口付けをしてくる。さっきあれ程やったばかりだというのに……

 

(とても気持ちが良いものだな。これは……)

 

 今までの世界線で告白を断ってきた子達には……本当に申し訳ない事をしたと思う。あの時……その世界線で消える定めだったとしても、俺の事を包み隠さず話すべきだったと今では本当に感じる。まぁ後から思うたらればなんて何もならないが……

 

(でも今度こそ……俺は間違えない)

 

 

 

 

 

 

 

「それで、アルジはシャドウの所に行くのでしょう?」

 

「あぁ。なんか呼び出しを受けているからな。変な手紙が届いたとかで……」

 

「そう……ベータが彼の元にそろそろ向かっている頃だし、一応あの子からの報告も聞いておいて。それとデルタも来ているわ。あの子……シャドウはそうだけど、貴方にもとても会いたそうにしていたわよ」

 

「デルタが? まぁ俺に会いたいと思ってくれているのは嬉しいが……特別あの子に何かした記憶ないんだけどな。も、もしかしてデルタも俺の事が?」

 

「ふふっ、さぁ? それはどうかしら?」

 

「意地悪だな……(なんか姉さんに方向性が似てる気がするのは気のせいか?)」

 

「あら、貴方から私と貴方のお姉さんが似ていると思われているのはとても嬉しいことだわ♡」

 

「(えっ? 声に出していないはずなのに言い当てられたんだが……なんで?)ま、まぁともかく……ベータからも話はちゃんと聞いておくよ。それと……俺の話は七陰の皆に早めにしておいた方が良いよな?」

 

「いいえ、その必要は無いわ。貴方が自分の過去について話したいと思った時に話せば良いの。それに……貴方が例え過去にどんな事をしてきたにせよ、あの子達は受け入れてくれるわ。それ程にまでアルジ、貴方の事を慕っているのだから」

 

「そう……か。分かった。俺のペースでやってみるよ」

 

「えぇ。それと……この作戦が終わったら『まぐろなるど』に一緒に行ってくれないかしら? 貴方と久々にゆっくり食事がしたいわ」

 

「あ、あぁ///……一緒に行こう」

 

 アルファが不意打ち気味に綺麗な笑みで誘ってきたものだから、俺はそれが可愛いと思いつつも、俺に向けられているその笑みに未だ恥ずかしさを覚えながら了承した。

 

「ふふっ……楽しみにしているわね。それと……貴方のその赤面している顔、とても可愛いわ。どれだけ見続けても飽きないくらいに♡」

 

「か、揶揄うのは良いから‼︎ そ、それともうそろそろアルファは行く時間だろ?」

 

「……そうね。もう少し貴方とこうしてお話ししたかったのだけど」

 

「まぁ……うん、俺もどことなくそう思っているさ。でも今は先にやるべき事があるから……俺はそれが終わるまで我慢するさ」

 

「っ‼︎ 貴方が我慢するというのなら、私も我慢するしかないわね」

 

「あぁ。それと……」

 

「何かしら? っ⁉︎ んっ……」

 

 俺はアルファに軽くキスをする。さっき急にやられた仕返しもあるが、アルファに我慢させていることに対しての謝罪と、そして本当に俺を想っている事に対しての感謝を込めて……

 

「んはっ……さ、さっき我慢すると言っていたのに急になんて、酷い事をする子ね」

 

「ははっ……ごめんな? まぁさっき急にされた仕返しもあるんだけど……アルファが俺の事を想ってくれていると思うと嬉しくなってつい……な」

 

「ばか……そんな事を真正面から言われたら……私も照れるじゃない///」

 

「おっ、なんか初めてアルファから悪態をつかれた気がするな! なんだか凄く新鮮な気持ちだよ」

 

「もぅ……はぁ。ともかく、そろそろ私も向かうわ。それと……貴方を傷付けた者達はこちらで処分しても良いかしら?」

 

「いや、それは俺がやっとくよ。そいつらが過去にどんな事をしてきたかを鑑みてそこから最終的にどう処分するかを決めるつもりだからな。とりあえずはその事も俺に任せてもらおうか」

 

「……分かったわ。じゃあ、先に行っているわね」

 

 そう言ってアルファはベランダから去って行った。

 

「さて……そろそろ俺も準備しますかね」

 

 兄さんと合流すべく俺も準備をして、夜が濃くなりつつある王都へと身をまかせる様に寮の部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side シド

 

 

 

 

「これをここに配置して、この絵画はここにかけて、後はこのフレンチ産で一本90万ゼニーするワインと、これもフレンチ製のグラス45万ゼニー! そしてさっき届いていた手紙をここに〜……SET(セェッッッツ)

 

 僕がこの寮に戻ってきた時、誰が書いたかは分からないけどこの時間帯この場所に来る様にと書かれた一通の手紙が届いていた。

 

(あぁ、これこそ僕が追い求めてきたモブ道の一つだよ!)

 

 素性が知れない誰かから届いた手紙、その中身を見て律儀に従うモブっぽい人が、指示された場所で無惨に死体となって見つかる……

 

(うんうん! こういう事がやりたかったんだよ僕は!)

 

 そしてアルジは……本当に主人公の王道と言うべきか、その立ち位置にいるなって感じる。騎士団の詰所から出てきて、そこで偶々偶然来ていた姉さんと支え合いながら寮へと帰っていった時も、後ろから見ていて本当にそう感じた。

 

(それに一緒にシャワーを浴びる、みたいな事も言ってたもんね……)

 

 まぁアルジはあの程度の怪我、魔力を流せば簡単に治せるけど……衆人環視、ましてや姉さんが来ている中でそんな事したら怪しまれる事間違いなしだ。正直怪我をしていてその上からシャワーを浴びるとか普通に考えたら凄く痛い事なんだけど……

 

(あの時姉さんが詰所の方を見ていた時の顔……本当に怖かったな〜……)

 

 今にでも人を殺そうかという目だったし、実際殺すって口からも出ていたし……それを止める為にアルジは一緒にシャワーを浴びようって言ったんだろうな〜。

 

(う〜ん……正直その後のアルジの様子が知りたいね! なんだか面白そうだし‼︎)

 

「兄さん……なんか悪い顔になっているぞ」

 

「おっ、アルジ。いつの間に来てたの?」

 

「今来たところだが……気付いてなかったのか?」

 

「いや、だってアルジって昔から気配を消すのとか、周囲に溶け込むのとか上手いじゃん? それを見破るなんて難しいし、なんならさっきまで凄く気が緩んでたから全然分からなかったよ。その辺りはまだまだアルジの方が上手じゃない?」

 

「いや……俺も昔から寝ててもすぐ何事にも対応できる様に気配察知とかかけてるんだけどなぁ……ほら、姉さんがいつの間にか添い寝とかしてたりな?」

 

「あぁ〜……姉さんは別枠じゃないかな? 上手く理由は言えないんだけど……」

 

「それにさっきアルファも部屋に来てくれていたんだが……俺がベットの上に横になって彼女が来るのを待っていたら、いつの間にか俺の上に覆い被さる様にして俺の顔を覗き込んでいたんだ。寝ている時ならまだしも全然意識が覚醒している時にだ。こんなのじゃあ俺も自信を無くすというか……まだまだだなってそう感じざるを得ないよ」

 

(えっ? いや……それって……)

 

 僕は結構前から分かっていた……アルファの事は今初めて聞いたけれど、どうしてアルジが気配察知を常に展開しているにも関わらず姉さんから添い寝をされているのか。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(だって姉さん……絶対アルジの事が好きだもん)

 

 そう、姉さんはある一件からアルジに対してのスキンシップが見るからに増えていった。確かに僕に対しても世話を焼く事はあるよ? でもアルジのを見たらそれどころじゃない。外から見たら明らかに……姉さんはアルジに惚れている。

 

 こっちの世界観ではどうなのかは分からないけど、僕が生きていた現代では二次創作でも姉弟(兄妹)同士の恋愛を題材に書かれているものもあって、一定層の人達には人気だったりする。僕も書籍関連は広く浅く嗜んでいたから、そういった関係もありなんだなぁ〜と思っていた。

 

(でも……まさか僕が関係者みたいな立ち位置になるなんて思わなかったなぁ)

 

 しかも姉さんと僕とアルジは兄弟関係とはいえ、アルジは養子という形だ。だから現代だと本人達が相思相愛で、倫理観とかも全く気にしないのであれば付き合うって人達はいると思う。まぁそこまで多いとは思わないけど……

 

 それに法律上も特に血縁関係ではないと思うから、結婚も本人や周りの人が承諾していれば特に問題はないと僕個人は考えている。考えているけど……

 

(でもそれが僕の周りで……しかも僕の姉さんとアルジがそういう関係に近しい状態になっているとは……)

 

 まぁ……一方的に姉さんがアルジの事を物凄く溺愛しているっていう事も考えられるから、一概にもそう言えない事ではあるんだけれど……

 

(だけどこれだけは言える……アルジの気配察知は、アルジの事を友愛以上に好きである且つアルジもその人を対象として大切に思っている人であればそれを通り抜ける可能性がある!)

 

 でも僕が近付いたらすぐに気がつくんだよなぁ〜。確かにアルジの事はどちらかといえば好き寄りになると思うし、アルジも僕の事は家族の1人として大切に思ってるぅ〜? と思うんだけど……

 

(あぁ……分かった! 多分アルジの気配察知を通り抜ける事が出来るのって女性限定なんだ‼︎)

 

 って結論じみた事を出せたのは良いけれど……それってよくよく考えたらなんか微妙だよね……。使い勝手が悪いというか……でもそれも本気の時じゃなくて、凄く気が緩んでいる状態の時だけだろうし。

 

(ん? 待てよ……確かさっきアルジはアルファにも気配察知を通り抜けられていつの間にか自分の上に覆い被さっていたって言ってたよね……)

 

「そう言えばアルジって、姉さんの事どう思ってるの?」

 

「はっ? 急になんだよ兄さん」

 

「いや、ただ単に聞いてみたくってさ」

 

「はぁ……そうだな。姉さんは、俺にとって大切な人の1人だ。こんな得体の知れない俺に対して昔から良くしてくれるし、スキンシップについては少し過激だなと思う時があるが……それも本音で言えば嬉しかったりするかな」

 

「なるほどねぇ〜……っで? アルファの事はどう思ってるの?」

 

「えっ⁉︎ あ、アルファについてか⁉︎」

 

「(あれっ? 姉さんの時より随分と反応が違うんだけど……)どうしたのそんなに焦った顔して? 別に僕は興味本位で聞いてみたかったからアルファの名前も出したんだけど……何かあった?」

 

「な、何かあったって……べ、べべべ別になんともないが……」

 

「いやなんかあったんでしょその反応? 普通に丸分かりだけど?」

 

「いや! これはっ‼︎ ……はぁ〜……兄さんが急に変な事を言い出すから取り乱しちまったんだよ」

 

「へぇ〜……でもさっきのは流石にアルファとの間に何かあったのが丸わかりな反応だったよ〜?」

 

 僕が揶揄う様に言うと、アルジは大きなため息を吐いていた。なんか僕が会う度にアルジがため息を吐いているんだけど……そんなにやってたら幸せが逃げちゃうよ?

 

 と、シドさんは自分が元凶にも関わらずそんな事を考えていました……

 

「……そうだな。彼女も……アルファも俺の中で、物凄く大切な人だって思ってる。それこそ……俺の命に変えても守りたいと思える様な、そんな存在かな」

 

「(……えっ? マジ? なんか姉さんの時と雰囲気が違うんだけど)じゃ、じゃあ例えばなんだけど……」

 

「例えば……なんだよ?」

 

「その……アルジが多分1番嫌いな質問の仕方になるんだけど……もし姉さんとアルファが離れた位置にいて、どちらとも危機的状況に陥っている。そしてアルジはその2人から見て丁度中間点にいて、それで……もし2人のうち1人しか助けらr「あぁっ? 今なんつった兄さん?」あっ……えぇっと……(うわぁ〜……やっぱりこうなっちゃったよ〜。さっきなんであんなへんてこりんな質問をしたんだ僕は⁉︎)」

 

 アルジは一瞬激昂した表情になったが、そのまま自分にとって変な問いかけをしたシドに感情をぶつける事はなく、一度冷静になるかの様に上を向いて深呼吸をした。そして再度シドの顔を見て言う。

 

「兄さんが何を思ってそんな問いかけをしたかは知らねぇがよ……俺が大切だと思っている人達をそう易々と天秤にかける訳がねぇ! 俺は例え外野が100%無理だと言っても、自らの手で提示された2つ以外の選択肢を無理矢理作り出して2人とも助けるさ。とにかく……俺の目の前で2度とそんな質問しないでくれよ?」

 

「う、うん……ごめんねアルジ」

 

「分かってくれればそれで良い。それより……そろそろベータが来るな。兄さんは兄さんで、陰の実力者っぽく中二病モードに切り替えとけよ?」

 

「なんだよそれ? そんなモード初めて聞いたけど?」

 

「大体いつもそうだろ? モブ道何たらとかこの場面で陰の実力者っぽくかんとらとかさ」

 

「なんか適当に言ってるよね……」

 

「兄さんがいつも適当だから悪い」

 

「えぇ〜……なんか納得できないな〜……」

 

「俺を納得させたかったら、そんな中二病設定とかせずに普通に生活してみせろよ」

 

(それアルジにだけは言われたくないよ……)

 

 そんなこんなでセッティングは終了した。とにかく今は陰の実力者っぽく、強者の立場としてこの場を演じるとしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

side ベータ

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はシャドウ様に今回の作戦概要を伝えるべく、シャドウ様の仮住まいに来ていた。誰にも見つからない様に部屋へと向かい、音が立たない様に室内へと入る。

 

「わぁぁぁ……」

 

 室内はどれもが高価なもので、その中で一際高価だったものが、壁にかけられておりこの世に一つしか無いと言われていた『モンクの叫び』。でもそれすらもシャドウ様を飾り立てる装飾品の一つに過ぎない。

 

 そして同時に感じたのは……初夏に入ったばかりの頃に吹き付ける爽やかな風で、その風は目の前に座っているシャドウ様と、壁にもたれかかりながら右手の握り拳を右頬に当て、何か思案に耽っているアスタロト様を通り過ぎて私の元に届いてくる。

 

「……時は来た。今宵は陰の世界」

 

 シャドウ様はいつもの事ながら椅子に座っている為に今どんな表情を浮かべているのかが伺えない。逆にアスタロト様は、私がここに来る前から何かをずっと考えていた様子で、その眼差しはシャドウ様が座っている前に設置されているテーブルの上を射抜いていた。それにしても……

 

(アスタロト様の真剣な眼差し……とても凛々しい‼︎)

 

 昔から幼い顔立ちながらも凛々しさを兼ね備えていたアスタロト様。それが大人として成長されてからというもの更に拍車がかかった様に感じてしまう自分がいる。それに……

 

(アスタロト様のあのお姿を見ていると……と、とても魅力的に感じてしまって……んっ)

 

 シャドウ様とアスタロト様の目の前で粗相は出来るはずがないと思っていても……私の身体はとても正直で……

 

(胸がキュンキュン締め付けられるみたいで……それに伴って鼓動も早くなってきてる……。お腹の辺りが……ウズウズしてる?)

 

 気付かないうちに私は内股になっていた。なんでこんな姿勢になっているのか自分でも分からない……分からないけど!

 

(い、今は自分の役目を果たさないと‼︎)

 

 内から出るこの気持ちと欲望を押さえつける様に理性を総動員させて、本来の役目を遂行する為に一歩ずつシャドウ様達に近付いていく。急ぐべき所ではあるけれど、ゆっくりと丁寧に一歩ずつ踏み出す。

 

 そこで気付いたのが、アスタロト様が視界に入らない時少しだけ内から出る欲望が弱まる事で……

 

(そ、そうよ! 出来るだけアスタロト様を見なければ……)

 

 アスタロト様には本当に申し訳なく思います。幼少の頃、『悪魔憑き』を発症してしまった私は元住んでいた居場所を追い出され、後は腐って朽ち果てるしかなかった私を助けてくれたシャドウ様とアスタロト様。その後はあのお方達の力になる為に戦う術を学んだ。どうやら私は筋がいい様で、教えられた技術はどんどん吸収して自らのものにしてきた。

 

 でも実戦となれば話は別で、悪事を働いた盗賊でさえ、殺した日の夜はその時に伝わった感触と相手の顔が蘇って震えて眠れなかった。自分は……やはりこういうのに向いていないのかもしれない。シャドウ様やアスタロト様に話して後方でも出来る支援や雑務をしていこう……

 

 そう考えていた時に、シャドウ様とアスタロト様が私にまた救いの手を差し伸べてくれた。シャドウ様からは『陰の叡智』と称したお伽話を……アスタロト様からは心が安らかになる様な子守唄を……。特にアスタロト様は、私が盗賊を殺めて震えなくなってからも、しばらくの間私に色々な歌を教えてくれた。今までの様な心安らぐものから、寂しさの中にも懐かしい光景が垣間見えるものまで数多くの歌を……

 

(そんなにも優しくしてくれたアスタロト様を……私は邪険に扱っています……)

 

 そんな昔の事を思いながら歩いていた時だった。

 

「ベータ……どこか具合でも悪いのか?」

 

「っ⁉︎/// んっ……⁉︎

 

 目の前に音もなくアスタロト様がいつの間にかいて、至近距離で私の顔を覗き込んでいた。

 

(あっ……そんな……アスタロト様がこんなに近くに……んっ……)

 

「っ⁉︎ や、やっぱりどこか具合が悪いのかベータ?」

 

はぅっ……

 

 私の事をアスタロト様は心配そうな顔をしてそう問いかけてくる。

 

(うぅっ……もぅ……限界……)

 

 どうにか理性を振り絞って内にある欲望を抑えてきたけど……今私の目の前にアスタロト様がいて、そのアスタロト様を無性に抱き締めたくて仕方がない。そしてその後アスタロト様の事を……

 

「……っ! そ、そういう事か」

 

 アスタロト様が何かに気付いて呟くと……アスタロト様を抱き締めようと準備していた私の身体は急に落ち着きを取り戻していた。それと同時に……アスタロト様を抱きしめられなかった事を残念に思う自分もいた。

 

(っ⁉︎ わ、私は何を考えて⁉︎ わ、私にはシャドウ様が……っ⁉︎)

 

 さっきまで変に身体が反応していたからでしょう。再び歩こうとすると足がもつれて身体が前に倒れそうになってしまった。

 

(しゃ、シャドウ様やアスタロト様の目の前でなんて粗相をっ……)

 

 今まで生きてきた中で最大の汚点を作ってしまったと感じながら私は床に倒れて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ⁉︎ あ、アスタロト様……?」

 

 床に倒れてしまうよりも前に、アスタロト様が私の身体を抱き抱えて倒れない様に支えて下さっていた。

 

「ごめんな? 多分俺のせい……だよな? 久々にベータにも会えると思ったら少し嬉しくなって、気合いを入れ過ぎた様だ。今は問題……ないか?」

 

「は……はい」

 

「そうか。それなら良かった」

 

 どこか安心した様に私に微笑んでくれるアスタロト様。その微笑みを見た瞬間……

 

(あ、あれっ? さっきと同じ感覚……?)

 

 私がさっき抱いていた欲望と同じ感覚が、私の胸に灯った。でもこれはさっき感じた様な苛烈なものとは違う……

 

(私を助けてくださった時と同じ温もり……)

 

 身体の芯からポカポカする様な……そんな温もりが焦っていた私を優しく包み込んで、冷静さを取り戻させてくれた。

 

「もうそろそろ一人で立てそうか?」

 

「っ! は、はい……その、お手を煩わせてしまって……」

 

「なに、気にする事なんてない。じゃあ、気を取り直して今回の事を話してくれるかな?」

 

「……っ‼︎ はい! このベータにお任せあれ‼︎」

 

 私がいつもの調子を取り戻すと、アスタロト様は最後にまた優しい笑みを浮かべて先程の位置に戻られる。その笑みを見て私は……

 

(あぁ……私は……)

 

 確かに私はシャドウ様が好きです。『悪魔憑き』になった私を助けただけでなく、力ある存在に抗う術を教えてくれて、戦いに怯えていた私を『陰の叡智』からなるお伽話で戦いに関する不安を和らげてくれたから。だからシャドウ様の事を崇拝しています。

 

 でもそれとは別で私は……アスタロト様の事も大好きです。あの方はシャドウ様と同じく、助けてくれた時には私に寄り添う様に温もりを与えてくれて、怯えた私の心に安らぎと勇気をくれたお方! そして今も……私の事を心配してくれて、大丈夫だと分かれば優しい笑みを向けて安心感を与えて下さる。

 

 そして同時にこう気付いてしまった。私は……いえ、私もアスタロト様の事が……恋愛面で好きになってしまったと。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベータの様子がおかしくなったから慌てて駆け寄ったのだが……いつの日にか見た様な症状だった。どこかこう、興奮している様な……

 

(……あっ、もしかして)

 

 すぐに原因が分かった俺は、急いでアクセサリーを生成して身に付ける。生成したものはどこにでもある様なネクタイピンなんだが……どうやらベータの興奮も和らいだ様子で……だが興奮が一気に解けて安心したのか足がもたれてしまったみたいで、彼女が転けそうになったところを優しく抱きとめた。

 

(ごめんなベータ……)

 

 心の中で謝罪しながら様子を伺い、一人で立てそうな頃合いを見計らってベータから離れる。一瞬彼女の顔が寂しそうな表情になった様な気がしたが、彼女は俺よりも兄さんの方に好意を寄せていると昔から気付いていたから、見間違いだろうと思って定位置へと戻る。

 

「んんっ……準備が整いました。シャドウ様、アスタロト様」

 

「……そうか」

 

「色々と忙しそうなのにわざわざ報告に来てくれてありがとう。それで、今回の内容は?」

 

 俺はアルファから概要は聞いているけど、兄さんは初めて聞く事だろうから俺もその体でベータからの報告を聞いた。

 

「はい、アルファ様の指示により、動員可能なメンバーを王都に集結させました。その数──114人」

 

「……114人?」

 

「っ! も、申し訳ありません!」

 

(えっ? そこ謝る所なの?)

 

 多分兄さんは、そんなに多くの人が集まったの⁉︎ っていうニュアンスで聞き返したんだろうが、ベータからするとその数では少な過ぎたと思って頭を下げているんだろうな……

 

 そう考えていると、兄さんが丁度ベータが頭を下げてこちらを見ていないタイミングで手招きをする。

 

エキストラでも雇ったのかな?

 

 多分いつも通り変な質問が来ると思っていたが……その通りだった様だ。本当に……兄さんのアホさ加減には呆れてしまうよ。

 

はぁ……まぁそんなところじゃあないかな? ともかく兄さんは真面目な体でベータからの話を聞いておけばいいさ

 

 出来る限り丁寧な口調で兄さんの疑問に答えながら、これ以上話に突っ込まない様に釘を刺す。

 

(にしても兄さんが今のシャドウガーデンの規模を知ったらどんな顔をするかねぇ……)

 

 俺は定時連絡でシャドウガーデンが今どれ程の規模になっているのかを把握している。人員としては既に600人は超えていて、正直ここ2年でよくここまで集められたなと感心するぐらいだ。本当に……アルファの手腕には毎回驚かされたばかりだよ。

 

「(だから俺も……それに負けない様にしないとな)謝る必要はないさベータ。寧ろシャドウや俺は、こんな短期間でそこまでの人員を集めた君達を誇らしく思っているところだ。だから報告の続きをお願いできるか?」

 

「あ、ありがたき幸せです‼︎ そ、それでは報告の続きを……作戦は王都に点在する『ディアボロス教団・フェンリル派』アジトへの同時襲撃です。それと並行してアレクシア王女の魔力痕跡を探知、発見次第確保します。全体指揮をガンマが、現場指揮をアルファ様が取り、私はその補佐を。イプシロンは後方支援。デルタが先陣を切り、作戦開始の合図とします」

 

(ふ〜ん……そうなんだぁ〜)

 

(兄さん……これ絶対後から忘れて自分勝手に動く感じだよなぁ〜。まっ、いつもの事か。取り敢えず俺は皆が動きやすい様にサポートしつつ動くとしますか)

 

「そして部隊構成は」

 

「アスタロト」

 

 ここで兄さんがベータの言葉を遮り、今日届いた手紙を渡してくる。そして顔を少しこちらに向けてニヤけた表情をしながら俺を見てきた。

 

(……アレをやれってことか兄さん)

 

 全く……ここまで来ると最早呆れを通り越して称賛しちまうな……

 

(やらなかったらやらなかったで面倒だし……期待に応えてやるか)

 

 受け取った封筒を片手でシュッと開けて、中にある紙をベータに見せた。所謂、スタイリッシュ開封と呼ばれるものみたいで(そんな名称初めて聞いたんだが……)それを昔兄さんから嫌と言うほど練習させられた。まぁこんなところでしか披露する事ないから、偶にあの練習させられた時間って何だろうなと思う。

 

「……これは」

 

「処刑台への招待状だ」

 

 差出人は不明だが、明らかに罠ですよと告げている内容を兄さんはいつもの中二病じみた言い回しでベータに告げる。まぁ相手に伝わればそれで良いんだけどな……

 

「デルタには悪いが、前奏曲(プレリュード)は僕g「いや、俺に行かせてもらおうか」……えっ?」

 

 格好良く決めようとしたところ悪いな兄さん……確かにこれは兄さんに届いたものではあるが、先に喧嘩を売られたのは俺だ。だからこの落とし前はキッチリ俺の手で付けさせてもらうとしよう。それに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉さんがお前らを殺めない為に俺の羞恥心を犠牲にしたんだ……その分もキッチリ精算させてもらうぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あっ……この圧は本気の奴だ……)……良いだろう。開幕の前奏曲(プレリュード)はアスタロトに任せる」

 

 兄さんは少し残念そうにしていたが、俺が本気だと感じたんだろう。それ以外には口を挟まず俺に一任してくれた。それでベータの方は……

 

「(なんか顔を赤くしながら恍惚とした表情になっている……なんか良い事でもあっただろうか? それにメモを取るスピードがいつもより早いのも気のせいか?)まぁそういう事で……他に連絡する事はないか?」

 

「えっ? あ、あぁ、えぇっと……先程ので以上です」

 

「分かった。じゃあ作戦の合図はデルタに任せるから……一応前奏曲(プレリュード)って奴は見て行く?」

 

はいっ、是非お供させて下さい‼︎

 

「(あれっ? なんかいつもよりイキイキとした返事だった様な……まっ、いっか)うし、じゃあ行くとしようか」

 

 そして俺と兄さん、ベータは兄さんの部屋から出て行き、指定された場所まで行った。

 

 

 

 

 

 

 




また書いて継ぎ足してを繰り返していましたら2万字を超えていました。ですのでこの回ではキリのいいところで8話にします。そして残りを9話で投稿します。

8話部分については前回のイチャイチャが後を引いていますので、読んでいるうちに飽きてしまったり胃もたれ気味になってしまったら申し訳ございません。

それと前回は後1、2話ぐらいで終わると思って書いていたのですが、アレクシア王女誘拐編はもう1話追加で書いていきます。

という事で、8話はここまでと致します。引き続き9話を読んでいただけたら幸いです。
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