前半は前回の流れが一部残っている様な具合で書いておりました、後半パートは戦闘という風に書いています。戦闘パートの部分は若干物足りないと感じるかもしれませんが……
ともかくとして、第9話の開幕です。
「それじゃあこの阿呆どもの事、頼んでも良いかな?」
「ハッ! 私達にお任せ下さい‼︎」
指定された場所に行ったら通路から急に片足だけのブーツが飛んできた。それをノールックでキャッチする。それは学園側で支給されているもので、しかも女物だった。
(まぁ普通にこの展開は読めてたな……)
それで俺にブーツを投げてきた奴らは……まぁこれも予想通り俺を尋問してきた2人組で、何故俺がここにいるのかが理解できていなかった様だ。まぁ相手からしたら兄さんを呼び出した筈が、俺が来たもんだから呆気に取られるのも無理はない。
で、見張りはどうしたとか変な事を聞いてくるもんだがら、俺はその結果を淡々と告げた。簡単に言ってしまうと……兄さんの部屋に行く途中2人邪魔な奴がいたから気絶させた。それを奴らの目の前で“取り出して”放った。
それを見た時の奴らの顔と言ったら……いやぁ〜少し愉快だった。本当にモブっぽい様に驚く顔をするから、こんなシリアスな場面でそれは反則だろう? と思いながら出てきそうな笑いを堪えていたさ。
そんな訳で……そいつらにも慈悲が無いほどの痛みを味合わせた。どうやってかって? まぁ簡単に言えば……1人1秒にも満たない時間の中で身体全体をタコ殴りにした。殺めるのは簡単だけど……それだと当人達は一瞬だけしか苦しみを感じないだろ? それに下っ端とはいえ王都にいる連中だから何か『ディアボロス教団』の事を拷問なりなんなりしたら喋ってくれるだろうし……用済みとなれば後は奴隷などさせれば良い。それでアイツらも少しは人の痛みが分かれば良いんだが……まっ、痛みが分かったからと言って今のところ処遇を変える事は考えていないな。
それで丁度この様子を見てくれていた『シャドーガーデン』の子達に引き渡したというところだ。
そんな時に丁度爆発音が聞こえた。火薬が爆発したというよりも、建物が何かの衝撃で壊れた若しくは倒壊した様な音で……
「(デルタが仕掛けた様だな……)さて、それじゃあ俺は一度アルファ達と合流するけど、兄さんはどうする?」
「あぁ〜……僕はいつも通りにするかな〜」
「分かった。ベータはアルファ達とこれから合流するんだろ? なら行く所は同じだし、一緒に行こうか?」
「っ‼︎ はい‼︎ お供します♡」
「(あれっ? なんかアルファと同じ様な感じがするが……いや、気のせいか)それじゃあ兄さん、先に行っとくぜ?」
そこで俺は兄さんと別れる。まぁ兄さんは自由に行動しているところを他から勘違いされて意味のある行動に捉えられがちだから、そこは兄さんの自由にさせている。今までの統計から見るに……最終的に結果オーライか予想よりも良い結果で返ってきているし……
(普段の言動が中二病じみてなければなぁ〜……)
今更ながらそんな事を考えながらアルファの下に向かった。
side 三人称視点
「デルタが仕掛けたわね」
王都全体が見渡せる様な高い建物の屋上に彼女達はいた。彼女達は全員黒衣を纏っており、皆似た様な出立ちのデザインではあるが、その中でも2人だけ装飾が違う者達がいた。
1人はアルファで、自分の腰の位置よりも長く綺麗な金髪を夜風に他靡たなびかせながら冷静に状況把握をする。
「はい。デルタの先陣を皮切りに各拠点への制圧も滞りなく進行しています。それにしても手筈通り行き過ぎて、相手側が何か罠でも仕掛けているのではと思うぐらい順調の様ですね」
アルファの右後方に控えるのは、『七陰』の中でも特に頭がキレるガンマだ。彼女は最初の段階で順調に事が運び過ぎて裏があるのではと勘繰る。まぁ結論として相手側は特に罠などの類を仕掛けていないのだが……
「それで……アルファ様はそろそろ現場指揮に向かわれるのですか?」
「えぇ、私もそろそろ行こうと思っていたところよ」
「分かりました。では全体指揮は取り決め通り私、ガンマが執ります。アルファ様に限って問題はないかと思いますが、お気を付けて」
「分かっているわ。じゃあ行くわね」
そう言ってアルファが建物から飛び降りようとしていた時だ。
「なら俺も一緒に着いて行っても良いかな?」
「っ⁉︎ も、もぅ……貴方はまた急に現れるんだから。びっくりしてしまうでしょ?」
「それだったらアルファもさっき似た様な事をしていたと感じたんだが?」
「それはっ……はぁ……そうね。これでおあいこって事にしましょう」
私アルファがそろそろ現場指揮を執り行おうとした矢先、後ろから声をかけられる。声をかけてきたのがアルジであり、アルジだったから良かったものの、これが敵だったならば、アルファ達は何も出来ずにその地に伏してしまうところだっただろう。
「あ、アスタロト様っ⁉︎」
そこで漸くガンマもアルジが来た事に気付く。アルファとガンマですら声をかけられるまでアルジが来ていた事を気付かなかった様子で、その場にいた他の子達は一瞬戸惑いを見せるも、直ぐに片膝を着いて頭を下げる。それに対してアルジは苦笑していた。
「そんなに畏まらなくても大丈夫だから、楽な姿勢になって欲しいな。それと、ガンマは久しぶりだね。 結構忙しそうにしてたから、邪魔するのは悪いと思って会わないでいたんだけど……」
「そんなっ! アスタロト様であればお気軽にお越し下さっても良かったですのに……寧ろ私としてはいつでも来て欲しかったです‼︎」
「えっ⁉︎ そ、そっか〜……なら今度はガンマの所に何かお土産を持って会いに行くよ」
「っ⁉︎ そ、そんな恐れ多いです! 寧ろこちらでお土産をご用意させて下さい‼︎」
「(あっ、これ堂々巡りするパターンだよな?)そ、そうか? まぁでも、俺がそうしたいからするんだし、受け取ってくれると嬉しいな。その時はガンマからのお土産も楽しみにしているから」
「っ! はいっ‼︎ いつでもお待ちしてますね‼︎」
「2人とも、久しぶりに会って嬉しいのは分かるけど、そろそろ作戦行動に戻って欲しいわ」
「はっ⁉︎ そうでした! 申し訳ありませんアルファ様」
「そうだな……悪い。それで、そろそろ現場に行くんだったよな? 改めてだが、俺も一緒に行っても良いかな?」
「えぇ勿論よ。ふふっ♡ 貴方が一緒に着いてきてくれるとなると、とても頼もしいわね」
「そう言ってくれると……俺も嬉しいよ。じゃあ行こうか。途中でやる事があるからまた別行動になるけど、そこまではエスコートさせて貰えませんか? お嬢様」
「(も、もぅ……皆の前だと言うのに‼︎ でも)お、お願いできるかしら? 私の……な、ナイト様……///」
アルジがふざける様にアルファに片膝を着いて右手を差し伸べる。その行為にアルファは恥ずかしさを覚え顔を赤くしながらも、優しい笑みを浮かべてアルジの手を取った。
(えっ? この雰囲気……何ですか?)
その一幕にはガンマだけでなく、他に控えている子達にも疑問が浮かんだ。目の前で起こっている現象は何なのかと……
そしてアルジは、アルファが自分の手を取ってくれた手を優しく握る。そして自然な動作で彼女をお姫様抱っこしていた。
「っ⁉︎ あ、アスタロト様⁉︎ い、一体何をして……」
「あ、アルジっ⁉︎ こ、これは流石にやり過ぎだと思うのだけどっ⁉︎」
「えっ……? あ、あぁ……その何と言うか……つい勢いでやってしまったというか……ごめん」
「もぅ……/// はぁ〜……でもやってしまったものは仕方ないわね。このまま現場までお願いできるかしら? それと……これが終わったら、今日は最後まで一緒にいたいわ♡」
「っ‼︎ 貴女様のお気に召すままに。じゃあ俺達はこのまま現場に向かうから、後の事はガンマ。君に任せる」
「えっ……は、はっ! お任せ下さいアスタロト様‼︎」
そしてアルジはアルファをお姫様抱っこしながら、王都の夜空に飛び出した。
「ガンマ、今戻りました……って、あれ? アルファ様は? それにアスタロト様もどこに?」
そこにベータが合流した。ここにはシャドウの下を離れる際にアルジと同じタイミングで来ていた筈なのだが……アルジの移動が早過ぎた為に着くのは時間差があった。
「アスタロト様達なら既に現場へと向かいました。それもアスタロト様がアルファ様をお姫様抱っこしながら……」
「えっ⁉︎ アルファ様がお姫様抱っこされながらっ⁉︎ う、羨まs……い、いえ! なんて素敵なシチュエーションですかそれっ⁉︎ あぁ……もう少し早く辿り着いていれば生で見れて小説の参考になったのに‼︎」
side out
side ガンマ
(えっ? さっきベータは何と? 羨ましい……と言いかけたの?)
確かに先程のアスタロト様とアルファ様の様子は……見る限り恋愛小説でヒロインがされて嬉しい最たる事の5つには選ばれるでしょう。それが私の目の前で行われたのは……流石に私も予想していませんでした。そして作家としても活動しているベータからしてみれば、参考資料としてこの上ない程のものだったと思います。ですが……
(小説の参考になった、の部分は理解できますが……羨ましいと感じるという事は、まるで……)
そう、まるでベータもアスタロト様にそうされたいと言っている様なもの。
(ベータはどちらかと言えばシャドウ様に心酔している。だからこの場で、シャドウ様にお姫様抱っこをされたい、と口にするならまだ理解できる)
ですがさっきの言葉は……完全にアスタロト様に向けたもの。一体どういう心境の変化が……
(いえ! それよりもおかしな事があったでしょうガンマ‼︎)
それはアルファ様がアスタロト様にお姫様抱っこされていた事。比較的奥手なアスタロト様がそんな大胆な事を急にするなど……
(確かアルファ様はこちらに来る前にアスタロト様の下へ行くと……ま、まさかっ⁉︎)
ここでガンマの考えは纏まる。何故目の前であんなシーンが出来上がってしまったのかを。それを簡単に言い表すのであれば……
(まさか……まさかお2人が相思相愛の関係になったとでも言うのですかっ⁉︎)
そ、それならばあの行動も理解できます。理解できますけど……いつその関係に……
(って、絶対にアルファ様がアスタロト様の下に行った時じゃないですかっ⁉︎)
確かに昔からアルファ様はアスタロト様の事をとても気にかけておいででしたけど……まさかこのタイミングで……
「うぅ〜……私もアスタロト様の事を〜……」
「が、ガンマ? そんなに深刻そうな顔をしてどうしたんですか?」
「へっ? はっ……い、いいえいいえ! 何でもないですよ〜‼︎ さて、アスタロト様達も現場に向かわれたのですから、私達も滞りなく進めていきましょう‼︎」
「え、えぇ」
(私も……絶対にアスタロト様を……いえ、アルジ様を振り向かせて見せます‼︎)
ガンマは心の中でそう決意しながら、全体への指揮を執り行った。
side out
side アイリス
(これは一体どういう事なの⁉︎)
ミドガル王国の第一王女であるアイリスは『王都最強の魔剣士』の称号を持ち、そしてアレクシアを妹にもつ。妹が拐われて5日……彼女は最愛の妹が行方知れずで気が気では無かった。自分は大切な者を守る為に剣の才能を磨いた。そして騎士団の高い地位にも登り詰めた。これで自分の手の届く範囲ではあるが……大切な者を守れる。そう感じていた。
だが結果は違った。ある日を境に妹とはあまり接する機会が少なくなり、最終的にはその最愛の妹ですら誘拐されてしまう始末で……
そして目の前では騎士団の関連施設が襲撃を受けていた。その報告を受けて現場に向かい、その場にいた騎士団達にも指示を出しているが……
(どこ⁉︎ どこにいるのアレクシア⁉︎)
彼女の心は誘拐された妹のアレクシアの居場所がどこなのか。早く私も捜索に行かなければと焦っていた。
そんな時、近くで一際大きな爆発音が鳴った。そこから出てきたのは……体長5mはあるんじゃなかろうかと言うぐらいの強大な人型をした何か。浅黒い肌と異様に大きな右腕を持ち、その大きな指から尋常じゃない程伸びる黒い爪。怪物をと呼称されてもおかしくないそれは、近くにいた騎士団を襲っていた。
「くっ⁉︎ こんな時にっ‼︎」
そこへ急ぎ駆けつける。そして騎士団を襲おうとしていた怪物に対して、致命傷になる攻撃を加えた。
「アイリス様!」
「皆無事ですか⁉︎」
負傷者はいるものの命に別状はない様で、動ける者に負傷者の手当とこの場からの退避を命じる。
そんな時に怪物がまた動き出す。致命傷を負わせたはずの傷が回復したのだ。
「再生能力持ちですか……ですが‼︎」
彼女の導き出した結論は実にシンプルだった。再生しない程斬り刻めば良いと。持っているミスリル製の剣に大量の魔力を流し込み、常人では見えない速度で怪物を斬る。この攻撃を後最低でも数分続ければ目の前の存在も倒れるだろう。そう考えながら攻撃を加えている時だった。
「それが苦しめるだけだと……何故分からないの?」
その場に似合わない凛とした声が聞こえたかと思えば、自分の剣はいつの間にか止まっていた……
(なっ⁉︎ 私の剣が止められた⁉︎ しかも……なんであんな物で⁉︎)
アイリスの剣は、アイリスと怪物の間に入った何者かに止められていた。その存在は見慣れぬ衣を纏って、頭にもこれまた余り見ない被り物が被せられていた。その者は……辛うじて男だと分かる程度で、それ以外は何も分からない。
そして驚く事に目の前の存在はアイリスの剣を……何の変哲もない小さなナイフで止めていたのだ。
(えっ⁉︎ こ、これ以上動かせない……)
ナイフと剣の力比べでは一目瞭然で、質量の大きい方が勝つのが道理だ。後は相手の筋力の関係もあるだろうが、現在アイリスは剣だけでなく自らの身体にも魔力を纏わせている。だから目の前の存在が何を言ったとしても押し切れる……そう思っていた。
「そんな力技だけで俺をどかそうとか思っているのなら……見当違いも甚だしい」
「っ⁉︎ なんですって!」
「確かにアンタの魔力は一般的に比べると強いし、使い方も良い線行っていると思うが……ただそれだけだ。だから……」
ガギンッ‼︎
(なっ⁉︎ 逆に押し返された⁉︎)
「こんな変哲もないナイフでも、一工夫すれば逆に押し返す事が可能だ」
「ふふっ、流石だわ」
(っ⁉︎ この声は……)
自分の剣を弾き返した男の後方から、髪を腰よりも下に伸ばしている金髪の女性が現れる。その女性も見慣れない黒衣を纏っていた。そしてその声は先程目の前の男が介入する前に聞こえた声で……
「エルフ……あなた達は一体何者ですか? そこにいる怪物を庇ったという事は、この襲撃もあなた達が?」
「我らは『シャドウガーデン』。陰に潜み陰を刈る者。そしてこの襲撃は騎士団の中に紛れ込む不届者、『ディアボロス教団』に罰を与える為のものよ。安心して? それ以外の人達には出来る限り被害が出ない様にしているから」
「っ⁉︎ それをどの口でっ‼︎」
「それと……あなた達がいう怪物についてだけど、あれは『ディアボロス教団』が創り出した実験体よ。そしてその中身は……『悪魔憑き』として魔力暴走を起こした子。あなた達と同じ人間だという事よ」
「あ、あれが私達と同じ……人間……」
「そう、だから聞いたのよ。それが苦しめるだけだと何故分からないのかと」
「で、ですが実際に被害が出ている中でそんな悠長な事を言える訳ないでしょう! ならあなた達ならどうにか出来ると⁉︎」
「出来るからこそ私はここにいるわ」
「まぁ当たり前に出来る。朝飯前……って奴か」
「さぁ、そろそろあの子を救いましょうアスタロト」
「あぁ、一緒にやるかアルファ」
その会話が終わる丁度その時に、怪物がアルファ達を叩き潰さんと腕を振り下ろした。しかし怪物が手を退けるとそこには何もなく、ただ地面が少し陥没した程度だった。
(一体どこに……っ⁉︎ あれは⁉︎)
アイリスが空を見上げると、そこには剣を上段で構えている2人の姿がいた。
side out
俺とアルファは、実験体の攻撃を空高く飛んで躱した。まぁあの程度なら普通に受け止められるんだが、変に暴れられてこれ以上無関係な被害は出したくないし。
(どうせ後処理するの俺だしなぁ……)
そう……これまで『シャドウガーデン』が活動してきた中で"不必要な破壊工作"が確認されている。大体兄さんとデルタが原因だ。
デルタは戦闘をし出すと中々歯止めが効かない。だから俺かアルファが威圧しながら呼ばないと、自分が満足するまで延々と戦い続ける。
(まぁデルタの方は野生本能の所があるからなぁ〜……でも彼女については言ったら段々と治していってくれたし、今もド派手に壊しているけど、ちゃんと無関係な建物や人は気遣って行動しているからな。最初の頃に比べたら凄く成長した。後で何かご褒美を考えないと……)
だが問題は兄さんの方だ。兄さんは自分の興味がある物以外無自覚だからな。こっちが幾ら言っても後々頭から抜け落ちて毎回同じ事をする始末……
(これは一回本気で説教した方が良いよなぁ〜……)
普通に説教をすると本人は自分が今モブっぽいと勘違いするし……多分これまでの説教はそんな感じで流されていたのだろうか?
まぁそれは後回しとして……今は目の前で苦しんでいるこの子を助けよう。
少し離れた位置で自由落下をしているアルファが、頭を地面側に向けている状態から身を捻らせて態勢を立て直すと同時に、スライムで一振りの剣を創造した。そこに自らの魔力を集中させる。
そして俺も右手に剣を呼び出した。それは一振りの全体が紅色の大剣で、アルファが創造した物よりも分厚くて大きい。その大剣に俺も魔力を纏わせていく。
(アルファと同じくらいの魔力量で良いかな)
全力でやってしまうと、この一帯を更地に変えてしまう程の威力になりかねない。その為アルジはアルファが込めている魔力量と同じくらいで調節する。
より精錬された魔力が2人の剣に流れ、纏われる魔力は膨大となっていくと、それは眩い光となって王都の一部を照らし出す。
アルファの剣はまるでサファイアの様な青い蒼い輝きを放ち、それは剣を向ける相手に対しての慈悲を表しているかの様だ。
そしてアルジの剣は……剣の色と同じ紅色の光を放ち、荒々しい色と一見感じてしまうものの、どこか他者に寄り添い全てを包み込む様な暖かさも感じられる。
「痛かったわよね……苦しかったわよね」
「君から感じる苦しみが……俺にも痛いほど伝わってきた。自分がそんな姿に変えられて、それで他の人達を傷付けてしまって、自分が望まない事をして……耐えられる訳ないよな?」
「でも、もう大丈夫よ。もうこれ以上あなたは苦しまなくても良い。悲しまなくても良いわ」
「だから俺が……俺達がその悲しみと苦しみから君を助け出す!
アルファとアルジの攻撃は同時だった。両者の一振りで放たれた魔力波は互いの魔力が絡みつく様に怪物を包み込みながら王都の空へと放たれる。本来であればアルファの一振りはそのまま王都の建物を損壊させ、それと引き換えに新しい一本道が出来る様な軌道に放たれていた。だがそこにアルジの一振りによる魔力波が、アルファの放つ魔力の範囲を力技で囲う事により軌道を直進から空の方向へと捻じ曲げたのだ。
怪物を包み込む魔力は、魔力暴走を引き起こした実験体の外皮を削ぎ落とし、本来あるべき形へと戻していく。
確かに建物は一部壊れてしまったものの、アルジからしてみれば許容範囲内だった。
「(さて……怪物にされた子の心拍数は……微かだが感じる。息もなんとかって所だが、直ぐに治療すれば問題は無さそうだ……)アルファ、この子はまだ生きている。騎士団に救出してもらうのも手だが……そうなると『ディアボロス教団』の手で秘密裏に回収されてまた実験体にされてしまうかもしれない」
「えぇ、この子は私達で保護しましょう」
アルファは倒れている実験台にされた子を横抱きにしてその場を去ろうとする。
「っ! ま、待ちなさい‼︎ あなた達は一体何が目的ですか⁉︎」
「聞いていなかったのかしら? 私達の目的はただ一つ……この世で暗躍する『ディアボロス教団』の壊滅。そして……観客は観客らしく私達の邪魔をしないで舞台を観るだけにしていなさい」
「なっ⁉︎ そ、それはどういうっ⁉︎」
アイリスが最後まで問う前にアルファは実験体にされてしまった子を横抱きにし、その場から霧に溶け込む様に去って行った。
「ま、待ちなさい! まだ私の話が‼︎」
「こちとらそんなに時間は取れないからな。だから彼女を先に行かせた。それと先に断っておくが……確かに襲撃を敢行したにせよ、さっき実験体にされた子は俺達が放ったものではない。そして俺達が出した武器が『アーティファクト』というものでない事も」
「っ⁉︎ な、何を言って⁉︎」
その場に残ったアルジがアイリスに近付いていく。
「あれほどの攻撃を間近で見たあなたはこう感じた筈だ……俺達が『アーティファクト』を持ち、それを悪用し、そしてさっき暴れていた怪物も俺達が解き放って暴れさせ、あまつさえそれを目の前で倒す事で危機を救ったと見せる。所謂“マッチポンプ”……ってやつに」
「ま、まっちぽ……?」
アイリスはアルジの告げる言葉がよく理解出来なかった。だがアルジはそれを無視してアイリスの間合に入る。
(っ⁉︎ さっきまでまだ距離があった筈⁉︎ 間合いに入られる時間が早過ぎる⁉︎)
アイリスは警戒を解いていなかった。アルジが怪しい動きを一つでもすれば斬れる準備はいつでも出来ていた。だが、そんなものはどこ吹く風と関係なくアルジは間合いに入っていた。それも両者手が届く範囲にまで……そしてアルジはアイリスの手を取った。
(はっ⁉︎ 私はいつの間に手を取られて……)
アイリスからすれば驚きの連続過ぎて何が何やら分からなくなっていた。
何故目の前の存在が自分の手を取っているのか? そこに害意があるのか? 最愛の妹であるアレクシアが拐われている事ご最初にあって、突如として現れた怪物と黒衣を纏った『シャドウガーデン』と、『ディアボロス教団』という聞いた事がない組織の存在。そしてアルファと呼ばれた少女と、アスタロトと呼ばれていた自分の手を何故か握っている謎の人物の実力を目の前で見せられ、アイリスの脳内キャパでは処理出来ない。
何から考えていけば良いのかその場で直ぐに答えが出せない時、ふとアスタロトなる人物に握られている手から何か温かいものが自分に流れ込んできた。
「(っ⁉︎ 何ですかこれはっ⁉︎ いや、これは魔力? しかもこれだけの莫大な量が私に……しかも)……温かい」
アイリスは昔こんな事を聞いた事がある。魔力には人それぞれで違う波長がある事を。それは扱う人間によって全く異なり、善なる者が扱えば優しく温かい波長が、悪なる者が使えば冷徹で冷たい波長がと言う様に教わった。
そしてアイリスが感じていたものは正に……善なる者が扱う魔力の特徴そのものだった。
「これだけは理解して欲しい。さっき放った一撃は……身の内で練り上げた魔力だという事を」
その事を伝えるとアルジはアイリスの手を離し、まるで最初からその場にいなかったかの様に立ち去った。
「(……正直何が起こっているか分かりません。分かりませんが……)あのアスタロトという人物だけは、信用しても良いのかもしれませんね」
そう呟き、アイリスは再び走り出した。まずはアレクシアを探し出し、この一連の事が終わった後でゆっくり考えようと。
解説
◼️紅色の大剣
『機動戦士ガンダムOO 2ndシーズン』にて登場する機体『アルケーガンダム』の主武装である『GNバスターソードⅡ』と呼称されるのが、今回アルジが呼び出した武装です。
このガンダム自体全体的に紅色……返り血を浴びた様な色をしており、普通に敵サイドとして物語上の主人公達を何度も苦しめてきました。
ですがそれは抜きにして作者は『アルケーガンダム』が好きですので、今回オリ主であるアルジに使って頂きました。
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イメージですと、テイルズシリーズで『テイルズ オブ ジ アビス』という作品で登場する主人公『ルーク・フォン・ファブレ』の技である『守護氷槍陣』です。
自分が指定した範囲内で相手を自身の魔力で包み込んで攻撃を与えるという効果で、今回はアルファと共同と一緒に技を放ちました。アニメ等ではアルファの放った一撃が建物をほぼ損壊させていたので、作者としてはアルジにその範囲をある程度までに抑える事も目的としてこの様な形で書きました。
さて次回はいよいよアレクシア王女救出と、他世界から現れるお邪魔虫(アルジにとっての踏み台)を退治する形で書いていく予定です。
では次回も楽しみにして頂いたら幸いです。