この間最就活で東京に行ったりしていて忙しかった事もあり、一気に書き上げる事が出来ない状態でした。それで書いていくと30000文字以上も書いており……
私が1週間でおよそ10000文字ぐらい書くので、まぁ平均としては労力は合っていると感じています。
ただ今回は1話で詰め込み過ぎてしまったので……読みづらかったら申し訳ありません……
それと同時に他作品からの踏み台キャラなども出しておりますので……途中から訳が分からなくなりましたらこちらも申し訳なく思います……
また今回までにまた新しくご評価を付けてくださったり、お気に入りに登録して下さった読者の方々には大変励まされ、それが活力となっております! 本当にありがとうございます‼︎
それでは、早速本編をご覧下さい!
アルファと別れてシャドウである兄さんの元に向かった。兄さんは王都の地下にある事が魔力探知で分かっていた。それに兄さんの近くには後2人……それも見知った魔力の痕跡があるし。
(片方は拐われたアレクシアさんで、もう片方が今回の首謀者……か)
まぁ首謀者に関しては……俺の予想通りだなとしか思わなかったな。それでそこに行ってみれば……
「えっ……あ、アルジくん⁉︎ どうしてここへ⁉︎」
「あなた……」
そこには兄さんと、それに対して息が乱れながら剣を向けているゼノン先生。そして水路に座り込んで2人の戦いを見ていたであろうアレクシアさんがいた。
「……1人この闇に迷い込んだか」
兄さんが中二病の発言をした。うん……いつもの兄さんだな。
「な、何で君がここにいるか分からないけど良いところに来た! アレクシア王女を拐ったのはそこの黒ずくめの男だ! アレクシアさんを見つけるまでは良かったが途中でこの男に見つかってしまって、しかも手強い。隙をついてアレクシアさんを逃がそうとしているんだが、全然その隙がない! だからアルジくん、私がこの男を抑えている間にアレクシアさんを逃してくれ‼︎」
ゼノン先生はまるでアレクシアさんを拐ったのは兄さんである様に話す。そして自分がアレクシアさんを救おうとしたところに兄さんと鉢合わせして戦闘になり、そんな時に丁度俺が来たから、ゼノン先生が戦っている隙に俺がアレクシアさんを逃す様にと……
(まぁこの人が首謀者だという事は容易に予測出来ていた事だしなぁ〜)
ただ証拠がない事にはどうしようもない。他者から見て善人に見える人を悪い者呼ばわりするというのは、基本的にその人に対して気に入らなかったり妬みを持っていたりと、逆恨みとして第三者から処理されてしまうだろう。
(まぁその証拠も俺が囚われてからの5日間で集まったし……)
俺が尋問されているのにも関わらずどうやって情報を集めたかというと、まぁ他から見たら気持ち悪いやり方かもしれないが自分の流した血を利用させてもらった。そこに自分の魔力を流し込み、スライムの様な軟体生物みたくどの場所でも潜り込める様に操作した。勿論360°の範囲映像と音声を記録できる様にな。
その情報はこの5日の間で既にアルファ達『七陰』やコトハさん達に送っている。そして彼女達の持っていた情報も擦り合わせて今回の作戦を立てたという訳だ。
「(まぁその最後の仕上げと行くか……)へぇ〜、先生程の腕前でも勝てない相手ですか」
「そ、そうなんだ! だから君がアレクシアさんをここから連れ出してくれ‼︎」
「分かりました。では僭越ながら隙を見て俺がアレクシアさんをここから連れ出しましょう」
俺はそう言いながらアレクシアさんに近付いていく。
「ちょ、ちょっと待って! 私を拐った犯人は‼︎」
「あぁ、その事は分かっているよアレクシアさん」
そう言いながらアルジはアレクシアの目の前からゼノンの後ろに移っていた。ゼノンとアレクシアとの距離は数歩程だが、それでも一般男性の一歩で行ける歩数ではない。
「全く……嘘は良くないですねゼノン先生?」
「なっ⁉︎ さっきまでアレクシアさんの所に行って……というかいつの間に⁉︎」
「そんな分かりきった事を……普通に数歩歩いてゼノン先生の後ろに立つだけじゃあないですか?」
(そんな……そんな事ありえないと思うんだけど⁉︎ だってさっきまで私と真正面で会話してたじゃない⁉︎ それを1秒にも満たない速さどうやってアイツの後ろに立つ事が出来るのよ⁉︎)
アレクシアは見ていたから分かる。アルジのあの説明だけでは目の前の現象は起こらない事を。
「……なるほど。この場にいる者達の認識を一瞬ずらしたのか」
「おっ! 流石は謎の黒衣を纏った男中二病! それが正解‼︎(まぁ兄さんから分かるだろこれくらい?)」
「フンッ……みれば分かる事だ(いや、あれ普通に初見殺しだから! アルジに何回もやられてなかったら全然分からなかったよ……にしてもさっき中二病って言われた?)」
2人は自然な様子で受け答えをしていた。と言っても2人は『シャドウガーデン』のNo.1とNo.2の実力を持っている者同士だ。これぐらいは序の口だ……とアルジさんは普通に思っていますが、シドさんの方は先程の現象を看破した達成感とともに、間違っていたら危なかったと、内心冷や汗を掻いていたそうです。
「これぐらいの内容であれば……勿論ゼノン先生でも分かりましたよね?」
「いや……普通に分からなかったんだが⁉︎ ってこんな事している場合ではないだろう! 早くアレクシアさんのことw「こんな事を招いたのはあなたでしょう先生?」っ⁉︎ いや、本当に何の話をっ⁉︎」
「まぁ惚けなくても良いですよ。『次期ラウンズの12席』様?」
「っ⁉︎ い、一体何の話をs「でしたらその証拠をお見せしましょうか」っ! こ、これは……」
ゼノン先生が白を切るので……手っ取り早く証拠を見せつけた。それは先程この場所でアレクシアとゼノンがやっていたであろうやり取りがアルジの持つ物から壁に投影された。そこで出るわ出るわゼノンの裏の顔が……
因みにアルジがどうやってこの記録を撮ったかというと、アルジが尋問という名の拷問を受けている時に流した血が『ディアボロス教団』に関連ある施設に隅々まで潜り込んでいたからである。そしてその血は先に述べた通りで……
それを実際に見せつけられたゼノンは次第に顔を俯かせて……そして乾いた笑い声を上げていた。
「はは……はははっ……ハッハッハッハッハッハッハッ……‼︎ いやぁ〜……まさかこんな事も出来るなんて思わなかったよ。“アルジ・カゲノー”くん? やはり君は詰所から出さずに早々に始末すべき人間だったかな」
「へぇ〜……本来のあなたの性格はそんなにドス黒かったんですねぇ〜? まぁ大体そんな感じの人間なんだなと最初から思ってましたけど」
「……少し調子に乗りすぎじゃ無いかな?」
「俺が? 逆ですよ逆。先生が調子に乗りすぎたんですよ。だから俺がここにいる」
「なに? 何を言っているんだ君は?」
「だってそうでしょ? 先生が最後までこんな所に出ず、魔剣士学園の教師として普通に過ごしていれば、今日という日にどさくさに紛れて殉職扱いになって雲隠れする。そして怪人の暴走と同時に自由の身になって逃げ出したアレクシアさんを自分の部下に命じて数の暴力で取り押さえ、誰にもバレない様に教団に差し出していれば……もう少し変わった未来があったかもしれませんよ? まぁ……
アンタは俺の友人に手を出したんだ……その友人が負った傷の倍は復讐してやるよ」
side アレクシア
誘拐されて5日……牢屋に閉じ込められて魔力封じの器具を両手両足に付けられて、身動きを封じられた。そして変な科学者に英雄の子孫の血と言われながら血を抜かれて、ご飯といえるかも分からない残飯並みの物を口に突っ込まれて……今まで生きてきた中でとても惨めだったと思うわ。
私が閉じ込められていた牢の隣には、何か得体の知れない怪物がいた。浅黒いを通り越した肌に白い長髪……瞳は赤に染まって、白目の所は逆に黒い。そして傷だらけで腕は片腕だけの歪な存在。けど多分その存在もあの科学者の仲間に捕まって、それで何か想像もできない様な実験を繰り返された挙句……あんな姿にされたんでしょう。だから私はその存在に対しても普通の人と同じ様に接した。
それが功を奏したんだと思う。科学者がまた何か喚きながら、私から抜き取った血を隣にいる子に注射した。その瞬間、その子の身体は大きく膨れ上がり、その光景を見て科学者は実験が成功したと歓喜していた。でも結局はその子に潰されちゃったけど……。
そして次に私と目が合って、次は私が殺されるのねとボンヤリと考えていたら、その子が私の四肢に繋がれていた間封じの器具を壊してくれた。その後そのままその子は天井を破壊してこの場から去っていった。それに少し巻き込まれたけど、でも自由な身になれたから感謝しているわ。
牢のある部屋から出ると、そこにはさっきの衝撃の余波なのか分からないけど、騎士団の服を着た人達が倒れていた。でも多分この人達も、ここにいるという事はあの科学者の仲間か何かなんでしょう。
(でも今はそんな事を考えるよりここから外に出ないと……)
そんな時にゼノンと鉢合わせしたわ。そこで聞かされたのは……聞き慣れない組織の名前と、私はその組織の手土産という事。それと引き換えに自分はその組織の偉い立場になるという事と……私が落ちこぼれだという事。それも姉さんの事を引き合いに出して……
それにとてもイラついて……衝動のまま拾った剣でゼノンに攻撃していた。でも全てお遊び程度にいなされて……最後には自分の手から剣が弾かれてしまっていた。
(……悔しい)
そんな時に黒い衣を纏った人が来た。声音からして男で、何が目的でここに来たかは分からなかったけど、でもその人は強かった。私では手も足も出なかったあのゼノンと互角に渡り合うどころか、逆にゼノンを手玉に取っている様に見えた。
でもそれだけでは終わらなかったわ。これもなんでか分からないけど……アイツが現れたの。
(アルジ・カゲノー……なんでこんな所に⁉︎)
話を聞くと、彼も私を誘拐した罪で5日間騎士団に尋問を受けていたみたいで、でもアイツはそんな事をしていない。そもそも最後に会話をした日……恨みの籠った視線と罵詈雑言を浴びせていた私を、毛嫌いするどころか逆に謝ってきた。それだけじゃない……アイツは私の剣が綺麗で逞しいと大真面目に言ってくれた。
そして目の前のゼノンは私を拐ったのが目の前にいる黒い男だから、私を連れ出して欲しいとアイツに言っていたけど……どうやらアイツもゼノンが最初から怪しいと感じて行動をしていた。それからさっきの私とゼノンのやり取りを見た事ない物で壁に映し出して、ゼノンが決して言い逃れできない状況を作り出した。
これが決め手で完全にゼノンの化けの皮が剥がれたわ。普段はしない様な笑い声を上げながら奴は……アイツを尋問している時に殺せばよかったとか、そんな事を言っていた。
でもアイツがゼノンに対して逆に挑発で返していたのは笑えたわね。少し笑いが漏れ出そうだった。これでさっきまでのイラつきが少し無くなったわ。
(にしても……友人、か)
私はアイツに対してそんな感情は一切持った事がなくて、逆に嫌な奴としか思って来なかった。だから罵詈雑言とかも浴びせてた訳だし、アイツの剣も妬んでいたんだけど……
でもアイツはそんな事はお構いなしで、私の事を友人だと言ってくれた。それに頼んでもないのにこんな所まで助けに来てくれて……
(ホント……ズレていると言えば良いのか馬鹿真面目と言えば良いのか分からないわね。まぁ……ここから無事に出られたら感謝ぐらい言ってあげよう)
side out
side ゼノン
(一体……何なんだコイツは⁉︎)
目の前にいる人物、アルジ・カゲノーから発せられる殺気に驚きを隠さないでいた。学園内で普段は温厚な人間として振る舞っている姿はいつもの事で、限りなく誰かが誰かが悪い事をしたらその誰かの事を思って説教をしていたり……ここまで来れば完全なる善人にしか見えない。
しかも奴はいつも私が授業を担当していて、最初の剣術の授業で見た限りでは、確かに特待生と言われる程の実力は持っているなと感じた。だが私からしてみればまだまだ全然の実力で、私と比べたとしても本気の自分には届かないだろうと……そう感じていた。
(だが目の前の奴から放たれるこの殺気は何だ⁉︎ これが普段温厚な奴が出せる殺気だというのか⁉︎)
正直言ってしまえば……目の前の奴がこれまでに何人も人を殺していると言われても納得出来る程だ。それ程の凶悪な奴と何度も対峙してきたから分かる。そいつら特有の雰囲気が奴から感じる。
(……いや、今まで対峙してきた奴らとは何か違う)
その違和感が何かまでは分からないが……
「おや先生、呑気に考え事をしていても良いんですか? 先生はどちらかと言えば早くアレクシアさんを連れてこの現場を立ち去りたい筈……そして今の俺は無防備ときた。正直壁に先生の悪事を映し出している時点で斬りかかってくるだろうと思ってたんですが……そこにいる黒衣を纏った人はこの場合どうする?」
「……相手が何かする前に斬る」
「そう! それがこの場合では1番の最適解‼︎ なんですけどねぇ〜……先生ときたらいつまで経っても斬りかかってこないし、挙げ句の果てにこんな安い挑発にのる始末……
アンタはそれでも剣術師範代か?」
ブチッ‼︎
アルジからの侮蔑の様な言葉を真正面から言われたゼノンは……今まで自分でも出せなかった速度でアルジの方へと距離を詰め、剣を振るっていた。
しかしそれはアルジが一歩右足を引き、状態を少しのけ反らせて躱した。
「シェアァッ」
それに対して今度は一歩踏み込んで左から右にかけての横薙ぎを繰り出す。その横薙ぎも先程よりも早く振るわれる。それに対してアルジは右足から左足へと順番に、大きな物を跨ぐ様に足を上げて躱す。それは見る人にからすれば、一瞬だけアルジがその場で飛んだ様に見えるだろう。
それからもゼノンはさっきの一振りよりも数段早い速度で剣を振るう。それは先程シャドウと剣を交えた時と同じか、それよりも少し早い。
だがアルジはそれを避ける。避ける! 避ける‼︎ それも紙一重で‼︎
(何故だ……何故当たらない⁉︎)
あのシャドウとかいう奴と斬り合った時以上に一振りが早いはず!
(なのになんで奴はそれを避け続ける事が出来る⁉︎ しかも奴は腰に下げている剣に手さえ触れてない、謂わば丸腰の状態で⁉︎ それも紙一重で当たりそうに当たらない‼︎ 何なんだコイツは⁉︎)
その焦りがゼノンの剣を鈍らせる。今まで精錬さが見えていた剣が、最早素人が剣を振り回しているだけに見えてくる。
「はぁ〜……その程度か……」
その呟きがゼノンの耳に届いたと瞬間……ゼノンの視界は通路の天井が間近にあるかの様に映し出していた。それが離れていくと今度は背中を何かで強打する衝撃がゼノンを襲う。
「ガハッ⁉︎ ゴホッ、ゴホッ……‼︎ (い、一体何が……っ⁉︎)」
そう考えようとした瞬間……視界がグニャりと歪む。同時に背中と顎に痛みが生じた。それで何とか立ちあがろうと両手を突いて上体を起こそうとする。そして視界は未だな歪むものの、天井の風景からこちらを向いて笑っている顔をしたアルジの姿を捉える。
「き、貴様っ……一体何を……」
「何をしたか? そんなの簡単ですよ。アンタが一振りする前に俺がアンタの顎にアッパーを喰らわせただけですよ。まさか先生ともあろう者が見えなかった……なんて事ないですよね?」
「き、キッサッマァァァッーーー‼︎」
「おう? もう立てるんですか? そのタフさは褒めてあげても良いですねぇ〜」
「ぐ、うぅ〜……こ、これを見ても、そう言えるかぁーっ⁉︎」
そしてゼノンが取り出したのは、アルジもいつか見た赤い錠剤が入った小瓶だった。
「こ、これさえ飲めば……いくら余裕の貴様であろうとぉ〜……」ガリッ‼︎
ゼノンが数粒錠剤を口に含んだ瞬間、彼の身体から赤黒い稲妻の様な魔力が迸る。そして彼の身体付きを次第に変化させていった。細マッチョの様な肉体がゴリマッチョ並みに膨れ上がり、それに伴って着ていた衣服は肉体が傍聴する事に耐え切れずボロボロになる。
整えられた金髪は魔力の迸りによって総立ちになり、目は他の様に赤い瞳と黒目になっていた。
「ハハッ、ハハハハハハッ……! これが私の本気を更に超えた力だ! これこそが最強だっ‼︎ 貴様らにだって感じるだろう! この私から溢れ出す魔力を! その禍々しさを‼︎」
ゼノンは先程のダメージから回復し、先程よりも大きな力を手にした事で気分が高揚していた。そんな自分を見ろと言わんばかりにアルジ達に誇示した。それで帰って来た反応は……
「へぇ〜……」←アルジ
「……ハァ」←シャドウ
「(なっ⁉︎ 反応が薄いだと⁉︎ 何故だ⁉︎)ど、どうした⁉︎ この強大な力を前にして言葉も出ないか⁉︎」
そう言葉にするものの、帰ってくるのは先程と同じ反応で……ゼノンはそれにイラつきを覚える。
「こんのっ……ならば早々に散れ‼︎」
ゼノンはヤケになってアルジに剣を振るった。そんな時にもよそ見をしていたアルジは、ゼノンの剣が振るわれるであろう軌道上に右手小指の爪が丁度当たる様に動かした。
(はっ? コイツは一体何を?)
ゼノンの頭にそんな疑問が過るが、相手は油断し切っている。その小指ごと頭を刎ねてやろうと更に力を込めて振るった。
ガンッ‼︎
「……はっ?」
ゼノンは……目の前の光景が信じられないでいた。何故なら、自分の剣が相手の小指を斬り飛ばすどころか、小指の爪で止められていたからだ。それも相手の爪にはヒビどころか傷一つついていない様子で……
(な、何なんだこれは⁉︎ 私は夢でも見ているのか⁉︎)
「次……来ないんですか?」
「っ⁉︎ な、舐めるなぁーっ‼︎」
ゼノンの繰り出す剣には……最早精錬さなど欠片も残っていなかった。
side out
(はぁ〜……弱い)
数年前にも赤い錠剤を口に含んで力を底上げする奴と戦ったけど……あまり変化は見られない。
俺は目の前のゼノン先生……いや、もう呼び捨てでいっか。とにかくそいつの斬撃を右手小指の爪だけで弾く。まぁ爪には魔力を纏わせているから、爪が傷つく事はない。と言っても俺からしたら本当にごく少量の魔力を纏わせているだけなんだが……これさえ突破出来ないのなら、相手がどれだけ力を底上げしても全く意味がない。
(そもそも……扱い方が全然なってないんだよなぁ〜)
錠剤を飲む前はまだ技にキレがあった。でも今はどうだ? ただ力の限り振り回しているだけだ。
(そろそろ相手の力量を見るのも飽きてきたし……終わらせるか)
俺がそう思った時、ズボンの左ポケットから軽快なメロディーが流れる。その音を聞いてゼノンも動きを止めた。別にそのまま攻めて来ても結果は変わらないのになぁと思いながら、俺は左ポケットからそれを取り出す。
アルジが取り出したもの……それは現代で言うところのケータイ電話だった。画面には電話をかけてきた相手の名前が表示される。それを確認してアルジは通話ボタンを押した。
「はいもしもし……えぇ、動きがあった? どんな奴か分かるか? ……なるほどなるほど」
「っ⁉︎ よ、よそ見をするなぁーっ‼︎」
そのやり取りを見て我に返ったゼノンが再びアルジに斬りかかる。だがアルジは防ぐ事は最早せず、普通に躱していた。
「なっ⁉︎ またこちらを見ずに回避を……こっちを見ロォォォッ「少し黙れ」ガッ⁉︎」
流石に電話をしている最中にうるさ過ぎたゼノンは、アルジのアイアンクローを喰らっていた。先程の錠剤でガタイも良くなり、力を増している筈のゼノン。それに伴って体重も先程より重くなっている筈ではあるが、アルジからすれば子供を片手で持つ事に等しい様で……
「数は……増えるかもしれない。最初に出現した規模は……大隊と同じ程。なら俺もそっちに……はい。じゃあ今から向かうから。《ピッ……》ふぅ……んで、アンタの本気の実力とやらはこの程度だと?」
ケータイ電話を切ったと同時にゼノンを壁に叩きつける様に放った。
「グアッ⁉︎ な、なんでだ……なんで攻撃が当たらない⁉︎」
「そんなの簡単な答えだろ? 魔力がダダ漏れで次どの軌道で振るわれるか分かるからに決まってるだろ? 後アンタの視線」
「なっ……そ、そんなあるわけ……」
「だが実際に俺はそれで避けてる。それにそこの黒衣を纏った人でも可能だろうさ」
(えぇ……なんでここで振ってくるの? 確かにやろうと思えば出来るかもしれないけど、アルジの様に精密に出来るわけじゃないし……)
(とか急に無茶振りをされて内心困ってんだろうなぁ〜……まぁいつも唐突に変な事する仕返しだ)
「う、嘘だ! だ、だってこれは……私の最強の力d「そんな仮初を最強と語るな馬鹿者が‼︎」っ⁉︎」
「さっきからテメェの口から最強って単語が聞こえてくるがなぁ……そんなの一時凌ぎのドーピングだろうが!」
「ど、どーぴ……?」
「そもそもその組織のラウンズとやらに入った後……お前は何がしたいんだよ?」
「そ、そんな事決まっているだろう⁉︎ 更なる地位と名声w「じゃあ聞くが……」っ⁉︎」
「もしもテメェがその地位を得て名声を我が物にしたとしよう。それで更にそれらを高めれたとしよう……だがテメェをそんな事関係無く潰そうとする奴に対してはどう対処する気だ?」
「そんな事は簡単だ! こちらが相手の欲望を聞き入れて懐柔して引き込めb「相手が望んでいる物がテメェの命でもか?」な……んだと?」
「相手の希望が金や女……人間に纏わり付くただの欲求ではなく、ただテメェの命を滅する事だけだとしたら……今の答えだと全然解決なんてしねぇだろ?」
「な、なら私が力尽くで「テメェの様な実力を超える奴が相手に決まっているだろうが? どんだけ甘ったれな思考力してんだよ?」な、なに……?」
「なんでって顔するところかそこ? そもそもさっきの俺の質問にまともに納得できる様な答えが返ってこない時点でそうだろうが。それと正直な……テメェはその錠剤を飲まなかった時の方が強いと感じたが?」
「は……はっ? な、何を馬鹿な事を⁉︎」
「それは俺の台詞だ。そもそも気付いてねぇのかよ? 今のお前が魔力をただ溢れさせて振るっているだけだと言う事にさ? そこに技術も精錬さも……テメェがしてきたであろう努力も何も感じない。錠剤を飲む前のテメェの攻撃を避けていたのは何でだと思う? 錠剤を飲んだ後俺が態々指の爪に魔力を纏わせて防いでいたのはなんでだと思う?」
「な、何が言いたい⁉︎ 何を言っているんだ貴様は⁉︎」
「まだ分からねぇのか? はぁ……なら答えを言ってやるよ。テメェは錠剤を飲んだ後よりも前の方が強さを感じたと言っている」
「な……そ、そんな……そんな事があるわけ……」
「あるから言っているんだろうが? テメェがどこで道を踏み外したかは分からねぇが……そのまま慢心なく行けば今のテメェよりもすっと遥かに高みに登れただろうよ」
アルジは目の前のゼノンが明確な敵であるにも関わらずそんな事を言う。何故そんな事を口にしたかは本人にしか分からない事だろうが、アルジからすればそれで最強を語るゼノンが哀れに感じたのだろう。
現にそう言われたゼノンは先ほどまでの強気な態度が最早どこにも感じられない。
「さて、言いたい事はさっき言ったし……俺も行かなくちゃあならないところがある。だから、今から見せるものはさっき俺が言った『アンタの実力を超えた敵』としての振る舞いだ。それを実際に受けて……これから自分が何をしたいのか、もう一度考えて来い‼︎」
「っ⁉︎ ガァァァッッッ⁉︎」
アルジは先程と同じく右手小指に魔力を纏わせてゼノンに接敵。そして魔力を纏わせた小指でゼノンの四肢と胴体の中心を一突きずつ放った。それをゼノンは防御することも出来ずもろに喰らい、両膝を付いた。
「今度もし“会えた”なら……俺が出した問いについての明確な答えを聞かせてもらおう」
「っ⁉︎ ぐっ……うぅっ……」
ゼノンでも分かっていないが……何故か涙が出ていた。自分で出そうと思って出している訳でなく、自分の内にあった……力や地位、名誉欲以外の……人間として最も純粋な感情、自分が既に捨て去ったと思っていた部分が反応している様だった。
「という事で……アレクシアさん」
「っ⁉︎ な、何かしらっ⁉︎」
先ほどまでアルジとゼノンのやり取りに見入っていたアレクシアは、アルジから唐突に呼ばれていつまでは出ない声を発していた。
「本当は君を救いにここまで来たんだけど……どうやら外の状況も芳しくない様で、今から行かなくちゃいけなくなった」
「えっ……そ、外も大変な事になっているの⁉︎ お、お姉様は大丈夫かしら……」
「そう言えばさっき君のお姉さんにも会ったよ。君のお姉さんは王国最強の魔剣士として、騎士団の勤めを果たす存在として、そして君のお姉さんとしての役割を一生懸命こなしていた様に見えたよ。だからそこまで心配になる事もないと思う」
「そ、そう……」
アルジからの言葉を聞いて、自分が完全に危機的状況を脱していないにも関わらず安堵の表情を浮かべていた。
「あぁ。そして君は必ず助かる。俺が近くにいなくても……この力が、どんな事があっても君を守るから」
アルジはアレクシアに自分の着ていた魔剣士学園の上着を羽織らせる。
「っ⁉︎ な、なにをっ⁉︎」
「いや、全身が水で濡れて寒そうだからとも思ったからさ。まぁその上着は予備があるから返さなくても良いし、汚いと思ったらそのまま捨ててくれても構わない。それと……
また学園で会ったら、俺の友人として接してくれると嬉しいな」
「……っ⁉︎///」
5日前別れ際に見せた笑みを浮かべながらその言葉を残し、アルジは立ち去った。
side シド
(アルジぃ〜……この雰囲気を僕にどうやって納めろって言うのさ⁉︎)
一方アルジが立ち去った後のシドは、表情としては出していないものの内心アルジに対しての愚痴を溢していた。自分の視界に映るのは、アルジに上着を羽織らされてキョトンとしているアレクシアと、自分とアルジの力の差を嫌と言うほど味わって崩れ落ちているゼノンがいた。よく見ればアレクシアの顔は少し赤い。
「(はぁ〜……もう何でもいいから終わらせるか)……この世から去る前に、何か言い残す事はないか?」
それはゼノンに対して言われた言葉で、それを問われたゼノンはゆっくりと顔を上げ、シドの顔を見ながら言う。
「……俺は、何も分かっていなかった。地位と名誉、そして力……それさえあれば何者も俺に歯向かう者はいなくなると。剣術指南役という地位が霞む程に……魅力的に思えた。だが……そんなもの絶対的な力を持つ存在の前では無力だと……今更知ったところで引き返せない……な。だから……一思いにやってくれ」
ゼノンの顔は……泣きながらも何か憑き物が取れた様な顔をしていた。今からでもやり直せる……他者が見ればそう感じる者もいるだろうが、シドからすれば相手の懇願を無為に断ることもないだろうと考えた。
「……分かった。なら、僕の最強でこの世を去るが良い」
シドの身体の中で練り込まれた青紫色の魔力が、彼を中心として駆け巡る。それはまるで円を描いているかの様で、そこに魔力の綻びは一切なく逆に精錬されていく。
(これが人の扱える魔力量だと言うの⁉︎ しかもこんな莫大な量を精密に操作しているなんて……)
自分の目前にまで迫り、自分の一歩手前で魔力の壁みたく展開されたシャドウの魔力を見てこう感じていた。一方、余裕でその魔力が瞬間する空間の範囲にいるゼノンは……
(……ハハッ。俺は……本当に何も知らなかった……)
確かにゼノンは、剣術の実力は勿論のこと魔力操作も上級者の中で抜きん出ている。そんな実力があれば、誰だって驕る気持ちの一つや二つ持っておかしくはない。
だがゼノンは先程、アルジという絶対的な強者になす術なくやられた。そしてそんな強者からドーピングする前の方が強いとさえ言われ、その言葉はゼノンが前面に張り出していたプライドという殻を悉く粉砕していった。今では全てに対して諦めの表情を浮かべながら、シャドウから溢れる出る魔力を見て自分の未熟さに気付く。
(確か……また会える機会があれば俺の答えを聞かせてもらうと言っていたが……結局はここで果てる運命だったか)
「I……am……」
そう考えている内にシャドウから流れ出る魔力は最高潮に達していき、そして……
「
消え入る様な声でシャドウがそう呟くと、青紫色の魔力はゼノンを巻き込み核爆発並みの威力を発揮した。爆発によってシャドウを中心に放たれた魔力は、地下迷宮の一部を完全消滅させ、放たれた青紫色の魔力は王都に大きな穴を開けながら空へと昇っていく。その光景を見た王都に住む住民は何事かと怯え、逆に『シャドウガーデン』に属する者達は、シャドウの魔力によって染め上げられる王都の空を見て、心の中で歓喜した。
因みにこれを後で知ったアルジは……
「……またかよ」
その言葉を発して崩れ落ちたのはまた別の話である……。
side out
(全く……俺に嫌がらせをする神様は余程暇な様だな)
一方アルジは、地下迷宮から王都西にある森へと移動していた。ゼノンと戦っていた際、コトハから念話を受け取っていたのだ。ただあの場で何事もなく受け答えしていると、ブツブツ独り言を言っている感じに見えなくもない……否! 見えてしまうのだ。だから態々アルジはケータイ電話を創造して念話の受信先をそちらに移したのだ。尚、これが後にガンマが『シャドウガーデン』の財源確保の為に運営している『ミツゴシ商会』の商品として世に出てしまうことは……この時アルジは全く考えていなかった。
そして今アルジの目の前には……数千を超える機械甲冑姿の兵達の姿があった。
(数としては……1万ぐらいか。まぁこの装いを見てこの世界に来た邪魔者が誰なのかは分かった。が……)
奴にしては小出しだな。いつもなら全兵力を集中させていてもおかしくない筈……
(なら考えられる事は……囮ということか)
この規模で囮と言ってしまうとそんな事はないだろうと思ってしまいがちだが……これまでの経験則上そう見える。そうなるという事は……だ。
(本命は王都の中心を何らかの形で攻略する事か。となれば……空から侵攻してくるかもな)
だがこちらも放っておけない。まぁ俺1人でも何とかなるが……
「アスタロト殿!」
「ん? あぁ、オルバさん。それにミリアさんまで」
「コトハ殿から連絡を受けてこちらに来た次第。して相手の戦力は数千を超えるとの事ですが……」
「その通りです。ですがこれは陽動と見て間違いないと思います」
「揺動? つまり本命は別にあると?」
「えぇ。王都の空から奇襲する……この線が1番大きいでしょう。ですから俺がこちらにばかりかまけていては空からの対応が遅れる場合があるからどうしたものかと考えていまして」
「なるほど……であれば、この場は我らにお任せしては貰えませんでしょうか?」
「えっ? でもこの場にはオルバさんとミリアさんしか……いや、既にこの場に数百名は待機しているんですね」
「流石ですねアスタロト様。今回連れてきた彼らは、実力もそうですが隠密も折り紙付きなのに」
「でも巧妙に隠れ潜んでいたので……気付くのに遅れたけどな? そういえば今回は『シャドウガーデン』と共同で作戦を行っていたと思いますが……そちらの方は?」
「こちらの方は全て上手く行った次第。潜んでいた『ディアボロス教団』の残党も粗方片付き、被害があった王都の方にも数百人規模残して住民の避難や被害状況を調べさせている所です」
「分かりました。ただ今の人数でも一万の軍勢は流石に骨が折れると思うので……俺が先陣を切って敵の数を可能な限り減らします。そして王都周辺にまた動きがあればそちらの方へ行きますが……コトハさんもそれで良いな?」
『承りました。監視の方はこちらに任せて下さい!』
「という事で……『中・至近距離砲撃バレット』、『遠距離砲撃バレット』複数同時展開!」
アルジは機械甲冑姿の兵達の方向へと向きながら言葉を発すると、アルジを中心にして周りに銀色の波紋が10出て来る。そこから覗くのは鋭い銃口で、至近距離で喰らえば風穴が開く事は容易い。そしてアルジから離れた所にも銀色の波紋が10現れ、そこからも銃口が覗けるが、アルジの周りに展開された物とは違い口が大きくなっていた。
「オルバさんとミリアさんは少しの間見物していて下さい。じゃ、行ってきます」
そしてアルジは機械甲冑達の方に突き進んで攻撃を加えた。
「魔力弾随時装填、セーフティ解除……乱れ撃つ‼︎」
唱えた瞬間、アルジの周りに浮かぶ銃口とオルバ達の所へ置いてきた銃口から同時に発砲音が鳴り響く。それは一寸違わず機械甲冑どもの胴体や頭を貫いていった。
それで漸くアルジを敵だと判断した機械甲冑どもはアルジに殺到して行く。が……
「遅ぇんだよ‼︎」
アルジも両手に武器を構えて近くの甲冑から破壊して行く。右手にはアイリス王女の攻撃を受け止めた時に使った全体鉄色のナイフを握り、左手には銀の波紋から覗いている銃口とはまた違うライフルを装備していた。
右手の方では近付く敵を突き、切り裂く事で甲冑どもの動きを停止させ、左手のライフルは1発毎に射線上の敵を纏めて撃ち抜く。それとは別でアルジの周りに展開した銃と後方に設置してきた銃からの砲撃によって一気に数を減らしていく。今はアルジが機械甲冑と相手をして1分だった所だが、既に10分の1を削り取る。
そこで甲冑どもに変化が起きた。なんとアルジに近い甲冑どもが15体ほど1箇所に集まり、集まったかと思えばその全てが一瞬にして鉄屑となる。だがそこからプラモデルを作るかの様にパーツがくっ付いて行き、最終的には機械甲冑が巨大化した。大きさは15m程で、先程の15倍の大きさとなっていた。
「(なるほど……俺が感じた大きさはこれの事か。だが他にもありそうな気がする。用心に越した事はないが……)いくらお前達が数揃えて大きくなっても俺を倒せる訳じゃあねぇだろうが‼︎」
そう言いながらアルジは15m級の甲冑へと走り出す。それを認識した15m甲冑はアルジを叩き潰さんと踏みつけ様と右足で大地を踏みつけた。だがアルジはそれを難なく躱し、右手に持っていたナイフを逆手に取って甲冑の装甲に突き刺す。そして姿勢を低くしながら甲冑の頭部を目指して駆け登る。
そんなアルジを振り払おうと、今度は右手で払う動作をした。正直当たっただけでも常人は身体ごと粉砕されて命を落とすだろう一撃。だがアルジはそんな事はお構いなしに駆け登り、迫り来る右手を左手に持ったライフルで複数箇所に発砲。撃ち出された弾丸は甲冑の装甲をまるで紙切れか何かの様に貫き、甲冑の右手は完全に破壊された。
そうする事で障害物を壊したアルジは、ものの数秒で甲冑の頭部へと辿り着いた。その時にも逆手に持ったナイフで装甲を削り取る事を忘れない。その為甲冑の右足から頭部にかけて一筋の線が出来る。
その駆け登った勢いのままアルジは甲冑の頭を踏み台にして、真っ直ぐ跳躍した。跳躍した後甲冑の方へと身を翻し、左手のライフルで甲冑の頭頂部へと狙いを定めると……
「穿て!」
その言葉と同時に放たれた弾丸は甲冑の頭から股にかけて一直線に貫通し、そして機能を停止した。機能が停止した甲冑どもは、アルジの魔力と同じ赤い色となって散っていく。
本来機械は壊れてしまえばそのまま粗大ゴミとなって放置されるか、爆発して鉄屑に変わるか……どちらにせよ環境問題に発展するだろう。それをアルジは自分の魔力が伴った攻撃で破壊する事で、機能が停止した甲冑どもを魔力に変換しているのだ。
ただし、襲いかかってくる甲冑どもから有益な情報や素材が得られるだろうと感じている為、機能が停止して魔力に変換された甲冑の一部はアルジの無尽蔵に物が入る空間に貯蔵されていく。
そして機械甲冑どもは……アルジを自分達の脅威だとプログラムが判断したのか、或いはその甲冑どもに指示する存在がいるのか……今の所分からない状態であるが近くにいたもの同士で先の巨大化した個体と同じく一度鉄屑になり、結合して15m級の個体を創造していく。その数は500体……単純計算で7500体もの機械甲冑が結合したこととなる。
その光景は……常人が見れば戦意を喪失してしまう程のもので、木と同じ大きさくらいの生物、または人型兵器が自分の国に攻め入ると想像すれば誰もが悲嘆に暮れてしまうだろう。
そんな感想を目の前で同胞達を無惨に倒してきた人類も抱くに違いない。その思惑が機械甲冑どもにあるか分からないが、その500体は一斉に頭部に備え付けている赤いモノアイを妖しく光らせる。
一方それを見せつけられたアルジは……
「スゥー……はぁ〜……
テメェら舐めてんのか? あっ?」
『『『っ⁉︎⁉︎⁉︎』』』
その一瞬……まるで時が止まったかの様に機械甲冑達は感じた。例えるのなら……蛇に睨まれた蛙。正にその表現が1番正しいと感じる。
機械甲冑達は機械故に感情など持ち合わせてはいない。その為にどんな強大な敵にも立ち向かう。例え同じ形をした同胞達が隣で鉄屑に成り果てようとも……
だが現状はそうではない。今自分達がこれから快進撃を見せると言わんばかりのところで……自分達よりも小さな存在から放たれるプレッシャーが15m級の機械甲冑どもを一斉に襲う。
恐怖を持たないはずの
「(にしてもこんなに大きな的を一体ずつ丁寧に潰すのは流石に時間の無駄だし面倒だな。なら……)全ての穢れを呑み込み浄化しろ! 『タイダルウェィブ‼︎』」
詠唱されて起こった現象……それは15mの甲冑どもの四方から押し寄せる津波だった。ここは森の中で、ミドガル王国の王都は内陸部だ。海からは遠く離れているし、近くに川があったとしても目の前で起こる様な現象を起こす程の水量は無い。
だがそれを……アルジは魔力だけで引き起こした。そしてその津波は甲冑どもの全長を雄に超える。先程まで目の前のちっぽけな存在を絶望の淵に陥れようとしていた甲冑どもは……呆気なく四方から迫る大波に飲み込まれた。
その光景を確認したアルジが次にした事は、その津波ごと甲冑どもを魔力で作った檻で囲う事だった。その檻は何千㎥に及ぶだろうか……15mを超える甲冑どころか、自分で引き起こした津波すらも覆いきってしまうそれは、アルジが右手の甲を甲冑どもに向け、人差し指を上に指すと同時にゆっくりと宙へ浮かぶ。
そして魔力の檻の中で甲冑どもは足掻く事も出来ず、ただ波に呑まれるだけの哀れなものに成り果てた。波に揉まれる度に自らの装甲が剥がれ落ち、中には機能を停止した個体もいた。
「全てが止まった牢獄の中で凍てつき果てろ……『フローズドプリズン』」
瞬間、魔力結界の中で暴れ回っていた津波は一瞬にして凍りついた。それは波に揉まれていた甲冑どもも同じで、まるでその空間だけ時が止まってしまったかの様だった。
「砕けろ」ヒュンッ
その氷と化した牢獄に向けて右手に持っていたナイフを投擲。それが牢獄に突き刺さると、瞬く間にナイフが刺さった箇所からヒビが生じ、やがて全体にまで行き渡ると……大きな音を立てて粉々になった。勿論中に閉じ込められた甲冑諸共……
「さて……後残りw『アスタロト様……王都上空に動きが』……分かった。すぐに向かう」
残りを早々に片付けようと思った所にコトハからの念話があり、内容を聞いたアルジは踵を返して王都へと向かう。
side オルバ
(あぁ……なんと美しくも逞しい戦い方だ)
自分の組織の一部を率いて王都西側の森へと来ていたオルバは、アルジの戦いを見てそう感じていた。アルジの周りに浮かんでいる物や、自分達の目の前に浮かび上がる銀色の波紋から覗ける銃口……どんな原理でそうなっているか検討もつかないが、ただアスタロト殿だからという理由で考えるのはやめた。
「お父様……アスタロト様は凄いですね!」
隣でアスタロト殿の戦いぶりを見ていたミリアが私に興奮した様子で言ってくる。私はそれに相槌を打ちながら、目の前で繰り広げられるアスタロト殿の戦いぶりに目が離せないでいた。
そんな時、アスタロト殿と戦っていた存在達の一部が1箇所に集まり、巨大な怪物へと姿を変える。
「お、お父様! あれは……」
「むぅ……何か特別な物が加わった訳ではなかろうが、あの大きさを相手にするのは骨が折れるだろう」
「はい。それにあの大きさの分だけ面制圧と一撃一撃における威力が上がっていると思います……アスタロト様は大丈夫でしょうか?」
「それは愚問だな娘よ」
「えっ?」
「確かに我々からすれば、あの大きさの存在に真正面から立ち向かおうとすると入念な計画を練り、多くの人員を動員しなければならない。だがアスタロト殿ならば……」
「っ⁉︎ あ、アスタロト様が真正面から⁉︎」
その時は丁度アルジが15m級の甲冑からの攻撃を躱し、甲冑の右足から頭部へ直進している所だった。その光景はオルバとミリアだけでなく、オルバが率いてきた者達の目にも映る。そして見たのだ。アルジが自分達よりも遥かに大きな、化物といっても差し当たり無い存在を僅か数秒で魔力の塵に変えた瞬間を。
しかし甲冑どもは先程の大きさと同じ複数体想像した。その数なんと500体……これには流石に目の前で圧倒的な強さを見せたアスタロトでもどうにもならない。この場は撤退しか道はないだろうと、その場にいた誰もがそう予想していた時……その予想を裏切ったのはまたしても目の前に彼だ。
アスタロトは何かを詠唱すると、次の瞬間巨大甲冑どもはあれよあれよと四方から突然現れた津波という現象に巻き込まれ、更には透明に出来た檻で波ごと囲われた。
「おぉ! なんと……なんと摩訶不思議な光景だろうか‼︎ こんな術までお持ちだとは‼︎」
「アスタロト様……この様な複数の強大な敵にも顔色を変える事なく対処出来るなんて……私も教えを乞えばあの現象を引き起こせるでしょうか?」
「いや……あれはアスタロト殿の魔力量と精密な魔力操作があってこそのものだろう。まだこれほどの若者があの域に到達するまでに、一体どれ程の血反吐を吐きながら修練に臨んだのか……」
と、この様にオルバさん達は口々に言いますが、実際にアルジさんはこれまでに多くの世界を渡り歩いて得た技術なので、後でオルバさんからそんな質問をされたりミリアさんから教えを乞われた時はどう答えようかと数秒程悩んだそうです……
そして津波まで封じた魔力牢が宙にゆっくり登り、アルジがまた何か唱えると、一瞬にしてその牢獄は氷漬けとなり、アルジが投擲したナイフによって粉々に砕け散った。
「……っ! いかん、我々もそろそろ動かねば」
「そうですねお父様。私もお父様に続きます!」
そこに丁度コトハからの念話を受け取ったアルジが合流した。
「オルバさん、ミリアさん、今コトハさんから念話を受け取った。王都の上空で巨大な揺らぎを確認したらしい。多分ここに甲冑どもをけしかけた奴……本命が来ると思うから、おれはそっちに行く。だかr「皆までいう事はないぞアスタロト殿」オルバさん」
「確かにあの巨大なものがあれ程出てきた時は驚きましたが、アスタロト殿のあの術を見て、いくらゴーレムの様な存在でも戦意は喪失した事でしょう。またあの大きさのものが現れたのならすぐに退くこともいといませんが、場が乱れている今が好奇。大きくなる前にあのものどもを各個撃破していけば問題ないと感じる」
「それにアスタロト様の戦いを見た限りでは、あのゴーレムに似た何かも私達で十分対処出来そうだし、私達には気にせずアスタロト様は王都に行ってください!」
「……分かった。ではオルバさん、ここの指揮を任せます! くれぐれも、無理だと思ったらその時は命を優先して退いて下さい」
「うむ! アスタロト殿の命とあらば‼︎」
オルバからの返事を聞いたアルジは、直ぐに王都へと向かった。
「皆の者聞いたか‼︎ 残りの残党は我々が仕留める‼︎ だが分かっているな? 自分達の命を優先して行動する様に‼︎」
「「「はっ‼︎」」」
「よし! では各自……俺に続けぇぇぇーーーっ‼︎」
オルバの号令の下、そこで潜んでいた者達は一斉に残りの機械甲冑どもに襲い掛かる。そして次々に破壊されている同胞を見て、先程と同じく複数体で集まって巨大化をしようとするが、その際に抵抗できないという弱点を責められ、機械甲冑はなす術なく機能を停止させられてしまう。そして王都西側に配置された機械甲冑10000の軍勢は、アルジによっておよそ8割強壊され、残り1割弱はオルバ率いる組織によって壊滅した。
side out
side アイリス
アルジが地下迷宮から王都西側の森に行って数分後……地面から王都の空にかけて青紫色の魔力が太い柱となって昇っていく。それを見たアイリスはすぐさま現場へと急行した。そこで漸く……傷だらけではあるものの、元気に見えるアレクシアを発見した。
それを見てアイリスは、自分の仕事など関係なく駆け出し、アレクシアを抱き締めた。
「アレクシア! 無事で……無事で本当に良かった‼︎」
「お、お姉様⁉︎ ……申し訳ありません。心配をかけてしまって……」
「いいえ……あなたが無事ならそれで良いの! それと……あなたに寂しい思いをさせてごめんなさい……」
「そんな……私こそ、お姉様の事を避けてしまって……」
「それも……私が原因です。あのブシン祭以降……あなたにかけた言葉があなたの事を傷つけてしまったのだと気付いた時には遅かった。できる事ならあの時に戻ってもっと別の言葉をかければ良かったと……」
「……でも私は、そのおかげで漸く自分の原点を見直して、私の目指すべき剣を見つけれた様な気がします。だから謝らないで下さいお姉様」
「っ! アレクシア‼︎」
「も、もぅお姉様ったら……痛いです」
「ふふっ……ごめんなさい」
そんな微笑ましい光景があったのも束の間……次の瞬間王都全体が振動した。
「っ⁉︎ ゆ、揺れてる⁉︎」
「お姉様、これは……」
「わ、分からないわ。でも私から離れないで!」
その揺れは空さえも揺らしているのではないかと思うぐらい強く、その証拠に王都の空が歪に歪んでいた。そして……
「あ、あれは……」
誰もが見上げた先……そこには、巨大な岩が浮かんでいた。否、岩ではなく最早島と言ってもいい。
『我らが大義の為、滅びるがよい……』
王都全体に響き渡った声……それは皺がれた老人の声だったが、そこには悪意がふんだんに込められていた。
それと同時に島からこちらに向けて幾重にも放たれる何かだが……アイリスには自分達に害悪ある物だと直ぐに認識した。
ただ飛来してくる線状でドス黒いの何かは思ったよりも太く分厚く、ここから少し離れた程度では避けきれない。そう判断した為にアイリスはアレクシアの前に立ち、腰から下げていたミスリル製の剣でガードする様に構えながら魔力を最大限流していく。
「お、お姉様……何をして⁉︎」
「……あれは誰が見ても殺意が籠った攻撃です。しかも私達に差し迫るものは……ここからどう逃げたとしても無事では済まないと私の直感で分かります。だから……」
「……っ⁉︎ ま、まさかお姉様……あれを受け止めるつもりなの⁉︎ や、やめて下さい‼︎ そんな事をしたらいくらお姉様でも……」
「大丈夫ですよアレクシア。私はこの王都で最強の魔剣士です。あの程度の攻撃くらい防ぎきるわ! それに後ろには私の大切な貴女……アレクシアがいるのだから。どれだけあの攻撃が強力であっても貴女だけは守りきります‼︎」
そう言いながらアイリスは更に魔力を纏わせていく。それは今まででも1番多く流したのではなかろうかと言うほどで、それに比例してアイリスが握る剣は魔力によってより真っ赤に発光する。
(あぁ……このままではアイリス姉様が……ようやくお姉様と和解できたと思ったのに……)
『俺が近くにいなくても……この力が、どんな事があっても君を守るから』
(アイツなら……アルジくんなら、何とかしてくれる?)
ここで思い浮かべたのは、つい先程までゼノンと対峙していた自分と同年代の少年の事だった。いつもならばその者に対して悪口の一つ二つ以上思い浮かべるところだが、今は……
(どうかお願い! 今までの事謝るから……どの口がって思うかもしれないけど……でも助けて欲しい‼︎ 今まで散々あなたに対して吐いてきた陰口も、あなたに対してやった罵倒も……全部謝るから‼︎ なんなら私に対してこれから陰口を言っても良い! 目の前で罵倒してくれたって良い‼︎ だから……)
「だからお願い! アイリス姉様を助けて! アルジくん‼︎」
自分の口から自然とそう口に出ていた時には、涙が自分の頬を伝っていた。それがアルジに羽織らせてもらった上着に落ちる。
だが懇願しても目の前の状況は変わらない。それも浮かんでいる島から迫る攻撃は自分達だけでなく他の所にも落ちる。例えアルジという強大な力を持つ者でも、無慈悲に降り注ぐ複数の攻撃を同時に対処する事は出来ないだろう……
それも彼が
目の前でドス黒い光線が無惨する。目の前で光線が弾けた光量があまりにも強かった為に、アイリスとアレクシアは無意識に目を瞑った。
(なんとかあの攻撃を私の魔力で散らすことが出来た……? いえ、でも私の腕に何かを受け止めた衝撃はないし、しかも私の目の前というよりもずっと遠くであの攻撃が弾けた様な……)
そう考えながらアイリスが目を開くと……あまりにも見ない光景に驚愕の表情を浮かべて言葉も出ない。それは後ろにいたアレクシアも同じだったが……
「……綺麗」
アレクシアが数秒後にそう口にした。その視線の先にあったもの……それは淡い紅色をした6枚花弁の花を模した様な何かで、その花弁は王都全域を覆う様に空へと展開されていた。
その花弁が一瞬の内に無くなると、今度は飛翔体が光の筋を出しながら同じ方向へと飛んでいく。と言ってもアイリス達の位置からは3つの飛翔体しか見えていなかったが……
それを自然に目で追うと、その先には……
(人が……人が宙に浮いているっ⁉︎)
アイリスが驚きで言葉に出来ない場面が今日だけで何度目だろうか……『シャドウガーデン』との邂逅に始まり、今も目の前で浮かぶ浮遊島と、それと対峙する様に宙に浮かぶ人。そもそもこの2つがどういう原理で浮かんでいるのかが全く分からない。
そして宙に浮かぶ人の姿は、遠めからの為詳しい造形は分からないが、何かフルフェイスの兜を付けており、身体は紅く発光するマントの様なもので詳しくは分からない。分からないが……
(何故でしょう……あの全身紅ずくめの出立をした者が敵に見えないのは……)
それを考えたと同時に飛翔体が6方向から紅ずくめの存在目掛けて飛んでいき、そしてマントの中に収納された様に見えた。
浮遊島の方は、今度は紅ずくめを敵と認識した為か先程王都に向けて放った物よりも更に禍々しい色をした光線を幾重にも放つ。それに対して紅ずくめは何もせぬままそこに浮いたままである。
「危ない! 避けて‼︎」
反射的かアレクシアが宙に浮かぶ紅ずくめにそう叫ぶが、聞こえていないのか紅ずくめは身じろぎ一つしない。やがて複数の禍々しい光線は……紅ずくめに直撃した。
「あぁ……そんな……」
自分達を助けてくれたであろう紅ずくめが禍々しい光線の凶弾の餌食になる場面を、アイリスははっきり視界に捉えてしまった。その為か口から零れ落ちる落胆の声。今も禍々しい光線は紅ずくめに直撃し続けているのか、そこから先には貫通する事なく散って、宙に溶け込む粒子となる。
(……えっ? でも待って……あの攻撃が紅ずくめに当たって何秒経ったの?)
そんな疑問がアレクシアの頭に浮かび上がる。先程王都に放たれた物は、赤い花弁の様な物で防がれた。それも数秒程で光線による攻撃は止まり、それと比べて目の前の光線は何十秒と紅ずくめに攻撃を加えているままだ。そしてさっきと同じ原理で防がれ続けるという事は……
(あの紅いマントの様なのも……王都を覆ったあの花弁と同じ様な物ってこと?)
アレクシアがその考えに行きついたのと同じタイミングで、禍々しい光線による攻撃が収まる。光線が攻撃し続けていた紅ずくめは……先程と全く変わらない姿のまま宙に浮かび続ける。
「し、心臓に悪い光景でした……」
「そ、そうですねお姉様……」
そんな2人の呟きがあった事を知ってか知らずか、紅ずくめはその場から動き出す。対して浮遊島側も、島の中に潜んでいたであろうものを解き放ち、紅ずくめを数で滅ぼそうと動き出していた。
side out
(はぁ〜……西の森で見た時から普通に思っていたが、コイツら本当に暇人だよな)
俺は紅と白で彩られた全身装甲の鎧を見に纏って目の前に浮かぶ浮遊島を見据える。コイツらは俺が言った世界の道中で何回も邪魔してきたお邪魔虫……何故か切っても切っても切れない縁という奴で。
(その割には弱いんだよな……)
その世界の住人からすれば脅威になり得るものだし、戦闘職であったとしても強い個体には苦戦する程の強さではあるが……
(さっきの西の森で対峙した奴らは……今のオルバさん達の実力でどうとでもなるからなぁ……だか浮遊島を出してきたのは初めてのケースだ)
今回の奴らは今までより少し本気になったのだろうなと感じる。まぁ目の前に王都と同じくらいの大きさの浮遊島を持ち出して来た事を見るに、この地をアイツらの祈願成就の礎にする事を決めてこの地に来た様だが……
(ここには……こんな俺を大事にしてくれる人達がいる。優しく接してくれる人達がいる。何より……)
「俺にとって大切な人が住まう世界を……貴様らの好き勝手にさせる訳がねぇだろうがっ‼︎ 俺の大切な人達に手を出したんだ。その行為に対して……完膚なきまでに復讐してやるよ‼︎」
その啖呵が相手側に伝わったのかどうか分からないが、浮遊島からわんさかと敵が溢れ出てくる。その数は先程西の森で出会したのが遊戯に感じるほどであった。
「まぁ役立たずな奴らがどれだけ数を成そうが何の意味もねぇが……」
アルジも自らの武器を構えて数万を優に超える軍勢へと単身突っ込んでいく。接敵した敵から次々に右手に持った紅い光で出来た剣で斬り裂いていき、斬り裂かれた存在は西の森の時と同じ様に紅い魔力に変換されて塵となる。そして遠方にいる物達に対しては左手に持つライフルで的確に頭を撃ち抜いていく。
そのライフルから飛び出る弾は実弾でなく光線で、目の前の敵の頭を容赦なく撃ち抜く。そして光線は止まる事を知らず後ろにいた敵も貫通しながら進んでいく。この場にいる甲冑どもは西側の森で出会したもの達とは違い、装備も分厚く頑丈に出来ていることが外側から見ても分かる。
だがアルジが用いるライフルはそんな物は紙切れだという様に光線を放ち、一回撃つごとに数十体道連れにしていた。
開始数分……敵側の被害は凡そ5000以上に及ぶ。ライフルで4000、剣で1000の割合だ。そして今も群がる敵を魔力の塵に変えていく。
その光景を見ていた浮遊島の主人は……
side ???
(こ、こやつ……まさかこの世界にまで来ておったのか⁉︎)
儂は古き世の政……徳川様の再興を願う者。本来いた世界では生意気な若造共により滅ぼされた。だが……なんの因果か儂は今もこうして生きておる。そして儂が生きているという事は……儂を生かした存在は儂の考えに賛同したという事も同義! ならばこの命を燃やし続けて我が宿願を成し遂げなければ‼︎
と思ったのも束の間……儂を邪魔する存在がまた現れた。それも至る所に、儂がここだと決めて若侍達を送り込んだ場所に!
(そして今目の前にもあやつがおる! なんと忌々しい存在‼︎)
今も我が根城から多くの兵を差し向けてはおる……が
(これではジリ貧じゃの……ならば)
儂は自らが所有する兵だけでなく、儂に度々接触してくる者が与えた存在達も使わせてもらおう。
その老人がそう決断すると、浮遊島から脇侍とは違う個体が数万という単位で溢れ出ていた。
side out
side デルタ
さっきまで楽しい楽しい狩りの時間だったのです! 陰に潜む獲物共を標的として、1人ずつ確実に狩っていったのです‼︎
(で、でも裏ボスが暴れすぎて関係ないところまで壊しちゃダメだって言った事を思い出して、関係ない所にはあまり手を出さず丁寧に狩っていったのです)
デルタは戦っていると……よく周りの事が見えなくなる。その時は相手の肉や骨を引き裂く音が快感で、それでスイッチが入って暴れて……気が付けば全く関係ない所も傷付けていた。
それを裏ボスが見て……とても悲しそうな顔になって、デルタの事を注意するのです。でも注意と言っても怒る訳じゃなくて……デルタの事を考えながらしてくれた。
昔から裏ボスはデルタの事をもっと強くする為に考えてくれた。こっちがどれだけ嫌そうな顔をしても、いつも裏ボスは嫌な顔をせずに接してくれた。
元々はとある群れで生まれて、そして狩りの才能がある事から将来も有望視されていたのです。でもある時『悪魔憑き』にかかって群れから追い出されてしまい、途方に暮れていた所を救ってくれたのがボスであるシャドウ様と、裏ボスであるアスタロト様だった。
その後はデルタの事を貶めた奴らを狩る為にシャドウ様達から戦う術を学んだ。でもデルタには難しすぎて剣とかよく分からない……相手がそれで倒れれば別に良いのではないですか?
そんな考えを読み取ってかボスは『自分の思う通りに行動しなさい』と言ったのです。でも裏ボスは……
『そうやって自分の得意な事ばかり出来たとしても、それが通じない相手だった時デルタはどうするんだ?』
その問いにデルタは、そんな状態にはならないと答えたのです。それを聞いた裏ボスは、それならと言ってその状況を模擬戦方式でやってくれました。それで結果は……いつもデルタの負けなのです。
そして中々自分の思う様に戦いが出来ない事に腹を立ててしまったデルタは……裏ボスに本気で戦って欲しいと言ってしまったのです。
あの時の裏ボスの顔は……困っている様な顔と悲しそうな顔をしていました。
(今も時折思い出すのです。それで、あの時裏ボスにあんな顔をさせたデルタを殴ってやりたいのです‼︎)
結局のところ裏ボスは私の我儘を聞いて本気を出してくれた。と思うのですが……
(今なら分かるのです! 裏ボスがあの時出したのはほんの少しだけだと‼︎)
自分に並び立つ者がいない……まだ群れの中にいた頃のデルタは、自分よりも上の存在がいなくてもなんとも思わなかった。ただデルタが1番なんだと誇りさえ持っていた。
でもあの強さを見ると……分かってしまったのです。裏ボスには、強さにおいて自分に並び立つ存在がいないこと。これはあくまでデルタが思った事ですが……もしかしたら裏ボスはそんな存在がいなくて寂しいのかな?
そしてあの悲しそうな顔を見るたびに……群れの中で生活していたデルタには無かったものが自分の内に芽生えた気がする。
(裏ボスには……いつも笑っていて欲しい)
気付けばいつもそう思っていたのです。裏ボスは笑っている時が1番良いのです! そしていつか……
(デルタも裏ボスの隣に立って、もう裏ボスが……アルジ様が悲しい顔をしなくてもいいようにするのです‼︎)
でもその考えを持っているのはデルタだけではなく、アルファ様やあのメス猫だって同じ事を思っている筈……だからデルタも頑張らないと‼︎
そしてこの襲撃でのデルタの任務は完了したのです! それもアルジ様に言われた通り、関係ない所はあまり傷付けなかったのです‼︎
ですがまだ戦いは終わっていなかった。何か不穏な気配を感じて近くにあった1番高い建物の上に登ると、空に裂け目の様なものが出来て……大きな島が現れたのです。
そしてその島からは……とても嫌な気配を感じました。そして……
(アルジ様を悲しませる者の匂いがする……滅ぼしてやるのです‼︎)
ですがデルタは空を飛べません。力一杯ジャンプしても届かない……
どうやってあの島に乗り込もうかと考えていると、こちらに向けてドス黒い光が襲ってきたのです。デルタはそれに対して魔力で作った大きな大剣をを盾の様に構えて、更に大剣に大量の魔力を纏わせる。
あの程度の速度なら全然躱せる。躱せるけども……
(関係のない建物はあまり傷付けない!)
アルジ様が言ってくれた様に、デルタが今立っている建物は作戦とは無関係の建物……だから躱してしまうとこの建物が壊れちゃう。だから防ぐの一点張りなのです! しかもあの程度ならこれでも防げるとデルタの勘は告げている‼︎
(確かに関係のない所に立ったのはデルタだけど……それでもアルジ様から言われた事は守るのです‼︎)
そしていよいよデルタにドス黒い光の魔の手が襲いかかる……そう思って大剣を構えていたのですが……それはいつの間にか出来た紅い光で出来た膜みたいなものに防がれていた。
それが消え去って、何かが早く空を駆けているのが見えたのでそれを目で追っていくと……
「あっ! アルジ様だ‼︎」
それは紛れもなくアルジ様でした! 全身紅い鎧の様なものを見に纏っていて完全に判別出来ないですが、あの宙に浮く全身が紅い鎧を纏う存在から感じる魔力は明らかにアルジ様なのです‼︎
(それにその姿……デルタ達に見せた事がない姿なのです)
デルタ達はまだアルジ様の本気がどれほどのものなのか分からない。でもあれが少し以上の本気を出している事は分かるのです。
(だって今アルジ様から伝わるこのプレッシャー……あの時よりも更に濃いのです‼︎)
昔のデルタが見たらあまりの重圧に支配されて卒倒していたのです。でも今は……
(とても……とても気持ちが良いのです‼︎)
アルジ様の事を想ってからの自分はどこか変なのです。小さかった頃はアルジ様の少しの本気ですら恐怖を覚えていたのに……今では寧ろ逆で、この重みをもっと感じていたいのです! だって……
(だってこれが……アルジ様が今まで積み重ねてきたものだから‼︎)
それをデルタももっと感じていたいのです! あぁ……そう思うと身体がウズウズしてきたのですぅ〜‼︎
「アォォォォォンッ‼︎
それでいつのまにかアルジ様に向かって雄叫びをあげていたのです。アルジ様の本気を見れる、その機会に感謝しながら……
side out
目の前の浮遊島から今戦っている奴とは違うもの共が出てくる。
(四角い円盤に……どことなく天使を模した様なロボット、それにf◯oに出きそうなワイバーンまで……)
全く本当に暇人だな……俺を邪魔する輩どもは。だから俺も……
「少し本気を出す……」
アルジがそう宣言したと同時に、アルジの後ろ側のマントが少し開き、背中にある装備が見える。そこにはさっき紅い6枚花弁を作り出した飛翔体が背中から伸びるユニットに折り畳まれた様に備え付けられており、それらはアルジの意に従うままユニットから離れる。そして背後をまるで円を描く様に回り出した。
飛翔体によって描かれる円は、やがて紅色に輝く五線譜を描いた。そして描かれたと同時に戦場にとある曲が流れた。それは……
『G線状の
その五線譜から流れる音色……それ自体に攻撃力が備わっているわけではない。備わっているわけではないが……
ザシュッザシュッズシャッ
自分達は目を離していなかった筈だ……なのに自分達は……紅い魔力に変換されて消えていた。
そう、相手からはアルジの速度が全く見えないていた。知覚した時には既に斬られ撃ち抜かれる。その動きは今奏でられている曲が苛烈さと壮大さを持っているが故か……アルジ本人の動きもスマートではあるが激しさを持っていた。
「行け! フィンファンネル‼︎」
そしてアルジの紅いマントを形成していた物は五線譜を描いている物と同じで、それらは一斉に敵に襲い掛かる。鋭いコの字方で、口から紅い光線を幾重にも放っていく。その事が僅か数秒前で、フィンファンネルによってこの戦場にいる敵の凡そ10分の1が倒され、紅い魔力に変換されていった。
次にアルジが取り出した物はこれまた全てが紅いハンマーで、イメージとしては陸上競技にあるハンマー投げのハンマー部分に棘が加わり、そのハンマー部分に長い鎖が繋がれてあった。それをアルジは近い敵に叩き込む。その威力は聞くまでもなく、敵は木っ端微塵となる。いつの間にか本当にハンマー投げの要領で敵に叩きつけているアルジ。
それで一定数屠ったところでハンマーから手を離す。離されたハンマーは遠心力のまま浮遊島へ一直線に向かい着弾。その威力は浮遊島全体を揺らし、その位置から少し後退させる程だ。
それを見届けるよりも前に今度は右手に大きな斧を持っていた。それは中世のハルバートの様な形をしていて、刃の部分はアルジの纏う同じ紅色だ。それを一閃すれば、有効範囲の敵だけでなくその射線上にいた敵も同じく一閃……簡単に言えば魔力の刃を飛ばしたのだ。それを左手にももう一つ同じ物を出した状態で……
それを何回も繰り返していけば、やがてアルジの周りから敵はすぐにいなくなる。そしてその光景を見たか敵は近付いてこなくなった。魔力を纏った刃の射程外を見定め、そこからアルジを攻撃する算段を付ける様だ。
だがそれで止まるアルジではない。両手に持つハルバートを連結させ、そして……
「ビームトマホークゥゥ……ブゥゥゥメランッ‼︎」
それを片手で軽々と投擲……回転しながら敵を次々と斬り裂いていく。それを見た敵はトマホークから逃げ出す様に行動するが……
「逃がす訳ねぇだろうが! ビームコンフューズ‼︎」
アルジがライフルでトマホークを撃つと、トマホークの刃に光線が当たり軌道を変える。それだけでなくトマホークの刃に弾かれた光線は散弾に変わり、トマホークの軌道から逃れたと思っていた敵に命中する。
それを見て散り散りでは勝てないと悟ったのか……西の森で見せた時の様に一定数が1箇所に集まり、そして大型のものに姿を変える。
(学習しない奴らだな……)
そう思っていた矢先、浮遊島からもドス黒い光線が放たれる。それは射線上にいる味方諸共巻き込みアルジや王都に向かう。アルジは自分に向かう光線を紅い剣で弾くが、その間にも王都には光線が差し迫る。
だが着弾するであろう射線上に3つのフィンファンネルが来たかと思えば、その3つはコの字の状態を少し広げ、その伸びた先がフィンファンネル同士を結ぶ様に位置取をした。そしてそれぞれが紅い膜を展開した。それは正三角形の形をしたもので、その紅い膜に光線が当たる。だが光線はその膜を貫く事なく簡単に弾かれてしまった。それが複数作られ、王都に向かう光線を弾いていく。
そしてアルジは自分を襲ってくる光線を弾きながら目の前に佇む巨大な敵に向かっていく。巨大化した敵は西洋のドラゴンをモチーフにした形であり、口元がドス黒く光っていた。
それを見て今度は六角形を縦長にした物を3つ呼び出す。同時にドラゴンの口から、浮遊島から放たれるものよりも凶悪な圧を伴った光線がアルジに向けて放たれる。
アルジは呼び出した3つの六角形を3枚羽根の風車の様に操作して目の前に置き、ゆっくりとした動きで半時計周りに回転させる。それと光線が激しくぶつかり合う。
しかしぶつかっているといっても光線と六角形がじかにぶつかっているという訳ではなく、何か薄い膜に遮られているかの様に光線は散らされているのだ。
だがドラゴンは光線を出し続ける。こちらは無尽蔵に光線を作り出す機構を内部に持っているのだ。出し続けていればいずれ相手がこの光線に巻き込まれるだろう……と。
そう思っていたのも束の間で、左頬に衝撃が走り、それに伴って光線を吐き出すのも止められてしまう。そして今度は右頬に衝撃を受けて左を向き、最後には顎の2箇所から同時にアッパーを喰らってしまうかの様に衝撃が走った。
その視界に映ったのは、さっき自分の光線を防いでいた物と同じ形をした物で、違いがあるとすればその六角形が進行している方とは逆側に、まるで尾っぽの様なものがたなびく様に付けられていた事ぐらいだ。
それに目を取られてしまい、アルジへの、注意が無くなる。その瞬間、3枚羽根の風車の様に回っていた六角形が人1人通れるぐらいの空間を開き……そこには先程の物とは違うタイプのライフルを持ったアルジがドラゴンに向けて銃口を両手で構えて向ける。
引き金を引くと、銃口から白と赤が互いに混じり合った様な弾が生成され、そしてドラゴンに向けて一直線に放たれた。その時には一筋の光線となりドラゴンへと襲い掛かる。それに気付いたドラゴンは左側に避けるが、右肩にその攻撃が掠ってしまう。掠ってしまうだけなら良かったが……そこから徐々に身体が崩されていく感覚を覚えた。
それに焦りを覚えたドラゴンは、その巨体からは考えられない程の速さでアルジへと突進して行く。だがそれをアルジも臨むところだとでもいう様に接敵した。そして接敵する前に、さっき自分の顔を攻撃した六角形が自分の腹を左右同時に殴りつけるかの如くぶつかってくる。
その想像もできない痛みがドラゴンを襲い行動をキャンセルされる……がアルジは止まらない。そのままドラゴンの胴体のとある部分を狙う様に進む。その狙っている箇所を外さない様に、広げた左手を前に突き出す。そして右腕の方はアルジの速度に引っ張られているかの様に後方に置かれていたが、右手首辺りから徐々に紅く輝く剣が創造される。
そして有効射程に入ったと同時に、左腕を後ろ側に引っ張る様に動かす。それを起点に胴体、右腕と動きを連結させていき、右手首から生えた紅い剣でドラゴンの腹を貫いた。
『ゴギャャャャッ⁉︎』
そのあまりの痛さにドラゴンは思わず悲鳴を上げた。それに構う事なくアルジはそのまま右腕を上に振るって一筋の傷を付けたのだ。といってもその傷跡は大きな物で、そこにダメ押しとばかりに左足で回し蹴りを放った。
そこからはドラゴンに何もさせまいという様にアルジは攻撃を加える。尾っぽを引いた六角形はドラゴンの身体を抉る様にぶつかり、そこにドラゴンのブレスを弾いていた六角形も加わる。ブレスを弾いていた物はその裏側に4つの銃口からなるガトリング砲を計2門備えられており、そこから紅い銃弾がドラゴンを狙い撃ちする。
そのリズムに合わせる様にアルジもドラゴンを殴ったり蹴ったり、そして左右の手首から紅い剣を生やして斬りつける。その勢いは未だに浮遊島から出て来る敵諸共巻き添えにしていき、その速度としては最早達人でも追う事が難しい。例え追えたとしてもそれは残像とアルジが通った後の魔力残滓のみで、その動きは王都の空を一筋の紅い流星が動き激しく踊っているかの様だった。
そして終わりは唐突に訪れる……ドラゴンの腹を貫きながら浮遊島へと一直線に突き進む。ドラゴンは成す術もなく浮遊島に叩き付けられる。その衝撃は浮遊島全域に及んだ。
だが浮遊島を操る者もただではすまさんと思ったのか、浮遊島を王都に落とし始めたのだ。この質量ならばいくらなんでも共に押し潰されるだろう……
「ってそう思ってんだろう? んな訳ねぇだろうが! Hi-νガンダムは伊達じゃあねぇんだよ‼︎」
そう叫びながらアルジはドラゴンごと浮遊島を力一杯右手からアッパーする様に繰り出す。すると浮遊島は下へと落ちていたのが後方斜め上に後退する。
それをしたすぐ後、アルジは浮遊島から素早く距離を置き、そしていつの間にか自身の身体よりも巨大な銃を手にしていた。だが最早砲台と言っても良いだろう。右手で引き金部分を持ち、左手は砲台から伸びるトリガーをもち、それを内側に引いた。すると銃口に紅い魔力が溜まっていき、それはどんどん大きくなっていった。
その現象を脅威と見た浮遊島はアルジに向けてドス黒い光線をがむしゃらに放っていく。だがそれもフィンファンネルや六角形の物が間に割り込んで弾いていき、どの光線もアルジまで届かない。
アルジがトリガーを引いて数十秒後……右手で構えていた引き金を引いた。引いたと同時に銃口に集っていた紅い魔力が光線に変わり、一気に浮遊島目掛けて伸びていく。伸びていく光線は浮遊島から放たれるドス黒い光線をも飲み込んで、そして……着弾した。着弾した光線は浮遊島を空へと押し出すが、破壊には至っていない。
そこにアルジがダメ出しに再度左手で砲台から伸びるトリガーを何回も引いていった。すると銃口部分の光線が更に膨れ上がり……そして爆発的な効果範囲と威力を伴って浮遊島に伸びていく。その効果範囲は浮遊島を1つ2つは余裕で飲み込める程で、その光線は王都の夜空へと一直線に伸びていく。
アルジが持つ砲台からの光線が途切れたと同時に戦場で奏でられていた音楽も止まる。その時には既に浮遊島は無かった。攻撃によって全て消え去ったのか、それともここではもう相手にならないと相手が諦めて浮遊島ごと時空間の歪みに逃げて行ったのかは分からないが……ともかくここでの脅威は去った様である。
そしてアルジは王都を見る。所々崩壊したところがあり、さっきの騒ぎで怪我人は出てしまった様子ではあるものの、無関係な人達においては『シャドウガーデン』やオルバ達が率いる組織が避難誘導はしていたみたいで……
(それでも傷を負った人達は多い……だからせめて)
そう思ったアルジは右手に最初に手にしていたライフルを呼び出し、それを頭上に向けると一回引き金を引いた。放たれた光線はとある高さまで上がると、まるで花火の様に散った。散った魔力の残滓は王都の全域に広がる様に散らばっていき、先程まで王都上空で繰り広げられていた戦闘がまるで嘘であったかの様に静かさをもたらす。
その静かな空間に……1つの音が響き渡る。その音源は、またしてもアルジからだ。鎧姿のままバイオリンを持ち、奏でる。楽曲は先程流れていた『G線上の
その独奏がおよそ2分30秒程続き、その頃にはアルジが放った魔力の残滓も空には残っていなかった。それを見届けたアルジは、そのまま王都の上空へと飛び立って消え去ったのである。
———数日後———
あの騒動があって数日後……アレクシアさんも無事に戻ってきて学園にも平穏が戻ってきた。
それでアルファ達は無事に今回の任務もやり切った事だし、襲撃した所からも幾らか有益な情報が出てきた様で……心配していたデルタのやり過ぎによる被害も、考えていたよりも最小限に留められていた。2年前に比べたらとても成長したと思っているし、口を酸っぱくして言ってきた甲斐があったな……
(ただ問題は兄さんの方だ……)
兄さんの部屋を出る前に忠告したはずなんだよ……やり過ぎるなって。ただその意味がよく伝わっていなかった様だ。ゼノンと俺が戦った後、間違いなく奴は消耗しきってて、兄さんとゼノンが戦う頃にはそこまで全力に近い力を出さなくても倒せた筈……
(なのに結果としては王都の真ん中にポッカリと空いた穴だろ? ほんと……あれを誰が元に戻すと思ってんだよ⁉︎ 基本的に王都の土木事業者の皆さんだぞ⁉︎)
確かに地下には遺跡もあるから、そこはどうするか分からない。分からないがそれでも治さないといけないし……最終的に俺が治さないといけないんだろうなぁ〜……
そして王都の真ん中に兄さんが大穴を開けたと知った時は……現実逃避したくなった。その勢いでアルファに甘えてしまった事は……本当に今思い返しても恥ずか死ぬ行いだったと反省している。
(でも甘えられた本人は物凄く嬉しそうにしていたなぁ〜……まぁ嬉しそうならいっか!)
と、アルジさんは考えており……頭の具合が若干ポンコツとなってしまいました……
「あら、アルジくんじゃない」
「ん? あぁ、アレクシアさんか」
「あぁ、アレクシアさんか……って、反応が薄いわね。そもそも少し元気ない様に見えるのは気のせいかしら?」
「えっ? まぁあれからも色々とあってね……少し考え事をしていたんだ」
「ふ〜ん……優等生なあなたでも悩む事はあるのね」
「優等生かどうかは知らんが……まぁ人として生まれたからには悩み事の一つ二つあるだろう?」
「……そうね。私も……今少し悩んでる事があるわ」
「へぇ〜……って、よく見たらアレクシアさん血が付いているじゃあないか⁉︎ どこか怪我でもしたのか⁉︎」
「へっ⁉︎ あ、あぁこれ⁉︎ 全然大丈夫‼︎ 寧ろ返り血だし……」
「えっ? 後半何か言ってなかったか?」
「何も言ってないわ。だから気にしないでちょうだい?」
「そ、そうか……それならまぁ良いか」
「それで……私が今悩んでいる事なんだけど、聞いてくれるかしら?」
「あ、あぁ……俺で良ければ」
「ありがとう。じゃあそこに座って話しましょう?」
それで近くにあったベンチに2人並んで座る。それと同時にアレクシアさんが顔を向けて切り出してきた。
「私……あなたの……アルジくんの剣を学びたいの」
「……えっ? 俺の剣?」
「そう、あなたの剣よ。あなたはゼノンと戦った時、剣は一回も抜かなかった。でもゼノンあなたが対峙していた中で……見えたの。幻覚かもしれないけど……私にはゼノンとあなたが剣を交えている姿が見えた。そしてあなたが振るっていたその剣は……昔からずっと憧れていた剣そのものだったの」
「それで……俺に剣を教えて欲しい……と?」
「確かに私は……あなたの事を何も知らないで陰口言ったり罵倒したり嫌な態度を取ってきた。それが気に食わないと思うなら……私の事を好きにしても良いわ。だって私は……あなたに対してそれほどの事をしてきたんだもの。当然の事だわ。だから……どの口で言っているのかって思うかもしれないけど、私に……あなたの剣を教えて下さい」
アレクシアはアルジに頭を下げながら言った。それに対してアルジは……
「はぁ〜……女の子が自分の事を好きにして良いって軽々しく言うなよ」
「えっ?」
「えっ? じゃねぇよ。もし俺がそこら辺の節操なしだったらどうする気だ? 剣習うどころじゃあねぇだろうが?」
「で、でもあなたの事だし……そんな事はしないでしょ?」
「それはそうだが、それでもだ。女の子が軽々しくそんな事を言わないこと! 分かったか?」
「わ、分かったわよ! それで……あなたの剣は教えてくれるの?」
「それについては別に構わない。だが俺も四六時中見る事なんて出来ないからな……だからミリアさんに最初見てもらおうかと思っているんだが」
「ミリア? ミリアって……いつも剣術の授業で一緒の?」
「あぁ。俺の剣を教えたのは数ヶ月前からだがスジが良い。俺が教えた事もどんどん吸収していくし、何よりあの子も努力家だからな。話の旨も合うかと思って提案しているんだが……それでも良いって言うなら構わない。どうする?」
「そう……良いわ。それでお願いできるかしら?」
「分かった。じゃあ今度ミリアさんに会った時に伝えておく。それで俺も時間が空いていたら直接教えに行くから」
「ありがとう! それじゃあ……これからよろしくね、アルジくん‼︎」
「あぁ、よろしく頼む」
そして2人は握手を交わした。そこにアレクシアのアルジに対する嫉妬心はなく……ただただこれからも自分なりに強くなっていこうといった信念があった。
「あっ……そういえばこの前借りてた上着汚しちゃったから新しい物を用意するわね? (本当は汚れてないけど……あの上着を羽織っていると何故か安心しちゃうから返す気なんて起きないんだけど)」
「えっ? いや、別にそこまでしなくても良いんだが……」
「いいえ、そこはしっかりとさせて貰うわよ! 用意出来たらあなたの部屋に持っていくから、部屋の場所教えなさい?」
「は……はっ? えっ? いやいや! 本当に大丈夫だからな?」
「なに遠慮してるの? 私にあなたがあの時助けに来てくれたお礼を言う資格すら無いって言いたいの⁉︎」
「あの時助けた……あぁ、ゼノンの時か。別にあれは俺がしたくてやっただけだし、それに……友達を助ける事に何か意味なんて必要ないだろう? だからお礼はいらねぇよ」
「っ⁉︎/// はぁ〜……頑固ね」
「あぁ、よく言われる」
「褒めてないんだけど……(でも、この笑顔を見てるとなんだか落ち着く様な気がする)」
「んじゃ、俺この後姉さんに呼び出されてるから。またなアレクシアさん」
「え、えぇ……また」
そしてアルジはアレクシアの元を離れた。
そして数分後……
「あっ‼︎ 結局部屋の場所聞いてないじゃない‼︎」
それから急いでアルジを探すが、どこを探しても学園内にアルジの姿は無かった。
その間アルジさんはというと……先の5日間心配させてしまったお詫びとして姉であるクレアさんの買い物に付き合わされており、ランチタイムにとあるカフェで彼女からアーンされていたところを目撃されていたといいます……
解説
◾️機械甲冑姿の兵
『サクラ大戦』シリーズに出てくる敵。戦国時代の兵達が纏っていた鎧をそのままロボットが着込んだイメージ。刀を装備しているものもいれば、背中に筒を担いだり陰陽師風の姿をしたものもいる。基本的に『ディアボス教団』の一般兵でも倒せるが、一度に出現する数が多い為、最終的に物量差で押し切られる。
◾️アルジが呼び出した銀色の波紋
『Fateシリーズ』に登場するキャラクター『ギルガメッシュ』の宝具をそのままアルジ用にアレンジしたもの。
◾️銀色の波紋から覗けた銃口
中至近距離と遠距離の2つで、中至近距離の方は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』にて『ガンダムグシオンリベイク』が装備している滑空砲。遠距離の方は『機動戦士ガンダム 第08小隊』にて主人公達が搭乗する『陸戦型ガンダム』などが装備している180mmキャノン砲である。どちらともアルジのタイミングで打ち出す為、どの敵が狙われるか分からない最早初見殺し過ぎる攻撃方法。
◾️タイダルウェイブ
『テイルズシリーズ』における攻撃呪文の1つ。広範囲の敵に文字通り津波の如く襲いかかるもので、水属性に弱い敵に効果的。今回はアルジの魔力で全て再現しており、木々や動植物には一切影響を与えていない。
◾️フローズドプリズン
アルジがオリジナルで編み出した技。何かで囲った環境があればその範囲を指定して一気に凍漬けに出来る。
◾️浮遊島
『サクラ大戦 熱き血潮に』においてラスボスが使用していた島。とにかくでかい。光線が出る使用は作者が浮遊要塞みたいにしたいが為に勝手に付けた設定。
◾️浮遊島管理人
『サクラ大戦シリーズ』にて登場するボスキャラの1人。名前を天海といい、かつての徳川政権の再興を願う存在。原作において部下の1人に操り人形の如く掌で踊らされていた事を知らずにその世界を去るが、アルジの事を邪魔に思う神様に蘇らされ、こちらも掌で踊らされている体ではあるが、本人は全く気付いていない。アルジからすれば禿頭のジジイという……全くもって有り難くない渾名で呼ばれる。
◾️ワイバーン
『Fateシリーズ』より、西洋の龍が小さくなったイメージ。色合いは黒、赤、緑が今回出現している。
◾️Hi-νガンダム 紅帝
ベースは『スーパーロボット大戦30』で出てくるHi-νガンダムをベースにしており、カラーリングは紅に白のラインが所々入っている。緑色のツインアイで、装備されているフィンファンネルも紅色。そしてU.C.105年までに登場したガンダムタイプの装備を呼び出す事が可能。
今回出た主な装備
・ビームライフル×1
・ビームマグナム×1
・ビームサーベル(紅い剣)×1
・ビームトンファー(手首から生えた紅い剣)×2
・ガンダムハンマー×1
・ハイパー・ビーム・ジャベリン(紅色のハルバート)×2
・フィン・ファンネル×30
・シールド・ファンネル ユニコーンver(六角形)
・シールド・ファンネル フェネクスver(尾っぽがついた六角形)
・ビームガトリングガン(ユニコーンのシールド・ファンネルに銃口×4の計2門搭載)
・ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー(砲台)
今回はこの武装を用いて戦っており、これ以外にも多数武装あり。
◾️G線上の
現在作者は『終末のワルキューレ』にハマっており、また作中のBGMで流れたこの曲を通勤時などによく聞いている。ワルキューレにおいては神対人類の第2回戦でゼウスが選手として入場した時にヘルメスが奏でた楽曲。
◾️「Hi-νガンダムは伊達じゃあねぇんだよ‼︎」
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』において、主人公である『アムロ・レイ』がシャアに対して放った台詞を、アルジが少しアレンジしながら言った台詞。
という事で最初解説から入りました。けど……ちょっと書く気力がここで終わりそうです。
凄く文章が長くなり且つ読みにくくなってしまって申し訳ありません……
次回はアレクシア王女誘拐編の後日談を書こうと思っております。
その時までまた楽しみにしていただければ幸いです。