さて、この章も折り返しに入ったぐらいだと自分では感じております。後3〜5話程書き上げる予定ですが、いつもの事ながら途中で書く事が増えたりして話数が増えたりする事もあります。取り敢えずとしては最低限アニメ1期までは終わらせる予定でございます。
姉さん達にチョコレートを渡して3日ぐらい経った頃、偶々兄さんがカフェテリアの外に設置されてるテーブル席で誰かと座っているのを見かけた。相手は2人で、1人は俺達と同じ制服を身に付けているピンク色の髪をした女の子と、その女の子の父親らしき人だ。
(ん? あのピンク色をした女の子は確か……)
そこで俺は漸く気付いた。シェリー・バーネット……王国随一の頭脳と呼称されている才女で、副学園長の1人娘である事を。ならもう1人座っているのは……
アルジが1人でそう考えていると、シドと同じ席に着いているシェリーの父親がアルジに一瞬目配せしてくる。それに気付いたアルジは、それに対してアイコンタクトで返してその場を後にした。
side ルスラン
私は今1人娘のシェリーと一緒にとある男の子と会っていた。シド・カゲノーくんと言って、今年魔剣士学園に入ってきた子だ。確か上級生で同姓の子がいた筈だが、その子の弟だろうか。
ともかくシドくんはシェリーにチョコレートをプレゼントしたそうで、そのお礼として私もこの場に同席している。
ここのところシェリーは騎士団からの要請でとあるアーティファクトの解析を任されているのだが、最近は根を詰めすぎて作業が滞りがちだった。そんな所にシドくんからのプレゼントで、それを贈られたシェリーとしてはその男の子に興味津々だ。解析の傍ら贈られたチョコレートを眺めては物思いに耽っている様子で……
(その様子を見かねてこの場を設けたらどうかとシェリーに言ってみたら、なるほど好青年に見えるな)
どこにでもいるような学生の風貌に見えるのは確かだが、所々見える所作や言動は、私から見ても目の前にいるのは学生なのかと思ってしまうほどで……
(それに……魔力の流れが清らかだな。それにこの流れ……どことなくあの方に似ている)
数年前……私は間違いを犯しかけた。若い頃……私は『ディアボロス教団』に所属し、ラウンズというそれなりに高い地位にあった。そして武神祭でも優勝するなど、剣豪として名を馳せてもいたのだ。
だがその栄光ある所にも影が差し迫る。とある病に陥ってしまい、その道を引退せざるを得なくなってしまったのだ。
しかしラウンズの座だけは諦めたくない思いから、最初はシェリーの母親、ルクレイアを利用してアーティファクトによる治癒を試みた。そして彼女は……見事その術を見つけてくれたのだ。
だがルクレイアは、その技術が危険な物だとして封印しようと言い出した。その言葉に私は我を忘れ……彼女を亡き者にしようと剣を振るったのだ。
そんな時だ。あの方に出会ったのは……
————回想————
「き、貴様……何者だ⁉︎」
「何者……か? そんなの決まっているだろう? 目の前の悪行を正しに来た。ただそれだけだ」
その者は、ルクレイアの目の前に忽然と姿を現したのだ。これでも私は過去剣豪と言われ、ラウンズにも所属した程の実力だ。あの時に比べてしまうと確かに腕が落ちていると言われても仕方ないかもしれないのだが……
(全く……見えなかった……)
これまでの経験上あり得ない現象……瞬間移動、の類であろうか。だがそれも過去にそんなアーティファクトがあるという記述を見たのみ。またそれ程強大な力を有する物はそれなりのデメリットがあるとも伝え聞く。例えば使用時に多くの魔力を喰らってしまうのだとか……
(だが目の前の存在から溢れ出る魔力……例え瞬間移動出来るアーティファクトを使ったとしてもこんなにも有り余る物なのか⁉︎)
全身紅色の甲冑を身に纏っているから素性は分からないが、語り口調からして男だろう。そして傍目から見ても質量の重そうな鎧を身に纏いながら音もなくこの場に現れた。正直あり得ない話だ。そんな存在は聞いた事もない。
100歩譲って瞬間移動出来るアーティファクトを目の前の存在が持っており、ここに移動してきたとしよう。だがそれでもこの男から伝わる魔力の流れは強大で、そして……
「う、美しい……はっ⁉︎ (わ、私は何を口走った? う、美しいと言ったのか? 目の前の存在の魔力を間近で感じ取って?)」
そこまで思考した時、私は吐血してしまった。まさか目の前の存在から溢れる魔力に当てられてだろうか……
(だがこれは相手にとって大きな隙を作ったも同然……私の悲願もここまでか……)
「ほぅ、俺の魔力を感じ取ってそう答えるか」
(っ⁉︎ し、仕掛けてこないだと⁉︎ 何を考えて⁉︎)
片足を着いており尚且つ吐血をする程息苦しい今の状況は、相手から見れば隙だらけで狙い放題の筈……今の私はただの山賊であったとしても格好の獲物の筈だ。にも関わらずこの男は一体何を……
「何を考えている……って? そんな物決まっている。お互いが利益になりそうな事だ」
「互いの……利益、だと?」
「あぁ。俺は訳あって戦力が欲しい。そしてアンタはその病気を治して祈願成就したい……ってところか? まぁともかく損得かどうかは俺の話を聞いてからでも遅くはないが……聞くか?」
「なっ⁉︎ そ、そんな上手い話が簡単にある筈が「『ディアボロス教団』の元ラウンズだったか?」っ⁉︎ ど、どこでそれを⁉︎」
「ほぉ、カマをかけたつもりだったんだが合ってたか」
「くっ……⁉︎ な、何が望みだ⁉︎ っ⁉︎グブッ……」
「そう力むなよ。別にアンタにとっても悪い話ではないと思うぜ?」
そこで目の前の存在は語り始めた。奴の目的は先にも言ったように私という戦力が欲しい。そして私の目的は、この不治ともいえる病を癒す事と、『ディアボロス教団』のラウンズに返り咲く事。私がラウンズに返り咲く事については目の前の存在も予想していたようだ。
だが奴はこんな事も言ってきた。
「ラウンズとかに返り咲くってのもアンタの中では良いことかもしれないが、それよりももっと良い条件を俺には用意出来そうだ。そこの所……聞きたくはないか?」
一応聞いてはみたが……なんともまぁ絵空事の様な物言いだった。誰がそんな物を信じれる事だろうか? 地位、名声、金……世の中常にそれで回って来た。そして私もそれが世の中で絶対のものであると理解している。それに比べて目の前の奴が言う事がなんとも甘過ぎる。
しかしその考えも、病を治してもらった後の手合わせで180°変わってしまったが……
甲冑を身に纏う男と私がそれぞれの獲物を持って対峙していた時だ。私は若い頃から身に付けて来た相棒で刀身が細く鋭い両刃の剣、対して奴は……私が持つ剣よりも遥かにリーチが短くなんの変哲もない黒鉄色のナイフ。
そんな物で勝負にはならないだろうと最初は思っていた。だが蓋を開けてみれば……私の完敗だった。私の攻撃は容易に捌かれた。受け流され受け止められ、あろう事か刀身の先端で私の突きが相殺される……
病が治り、全盛期よりも少し劣るほどの実力ではあるが、それでもこの突きが見切られたのは、これまで会ってきた中でラウンズに所属する者達のみ……
だが目の前の存在はこの初見の突きをいとも簡単に合わせて相殺してくる……。それに驚いた表紙に私は足払いを受けて地面に転がされる。そして首元にナイフを突き付けられた。
(ハッ……結局私は!この存在に遭遇した時点で死ぬ定めだったか……)
「ダ、ダメーッ‼︎」
手合わせを止めたのは……なんとルクレイアの娘のシェリーだ。どうやら私とこの存在の話を隣の部屋で聞いていた様だ。そして何を勘違いしたのか、この手合わせを止めにきた様でもある。
「お、お母さんにとって大事な人……私にとってもお父さんの様な人なの! だから……お父さんを傷付けるのはやめて‼︎」
(フッ……本当に何を勘違いしているのやらこの娘は……。ルクレイアと同じく平和ボケも良い所だ)
だが……お父さんとシェリーから言われて、自分の中で体験した事もない感覚が生まれる事を同時に自覚した。これは一体……
すると目の前の存在は突きつけていたナイフを納めて私に語りかけてくる。
「今その子から父さんって呼ばれて戸惑っているよな? その感情は多分だが、アンタが今まで感じたことのないものの筈だ。ラウンズにいた頃よりも反応に戸惑って、そして気恥ずかしくてくすぐったい……それを感じた今のアンタは、果たして本気でラウンズに戻りたいと思えるかな?」
まただ。またさっきと同じ様な甘い発言を……だが……
(何故だ? 何故この存在と接して……シェリーに父と言われて安らぎの様なものも感じられる?)
ラウンズの世界では地位と名声、そして力が全てを従える力でもあり、それが私の中でも魅力に感じた。
しかしこの者と接して、そしてシェリーに父と言われて……これまでラウンズに抱いていた
(あぁ……この男はこの感情を私に伝えたかったのだな……)
これまで私利私欲でしか他人を利用してこなかった私が……まさか半世紀以上生きて漸くこの感情を理解するとは……私は一体どこで生き方を違えてしまったのか……
私は……ラウンズに縋る以外の生き方を初めて見出せたのだ。
「なっ……ラウンズに返り咲いても良いだと?」
「あぁ、別に俺の大切な者を傷付けなければ問題ない。というよりも俺としてはアンタにそうしてもらった方がありがたいんだが……」
「……なるほど。要するに私にスパイ行為をしろと言うのだな? だが良いのか? 私がもしもまたあちら側に寝返るとは考えないのか?」
「あぁ、そこは問題ないだろう。今の感情を持ち続ける限りはそんな心変わりはしないだろうし、例えそうなってしまった時は、俺が責任を持ってアンタを滅ぼしてやるさ」
「(うっ……ほ、本気で言っている目だなこれは……)と、所で君の名前を聞いていなかった。なんと呼べば良いかな?」
「あぁ……そういえば名乗っていなかったな。俺の名前はアスタロト……この世で苦しむ人達を少しでも助けたいと思っている偽善者だ」
「苦しむ人を救う……まさか教会関係者か?」
「あんな真っ黒な所に所属してたまるかよ。『悪魔憑き』も救済されるべきと考えていながら影では何やってるか分からない所なんて真っ平ごめんだ」
「ま、まぁ君の様な者ならばそう言うだろうな。さて……この後の事だが」
「あぁ、そこも考えてある」
そうしてアスタロトと名乗る者は、私を『ディアボロス教団』のラウンズに返り咲かせる段取りを提示し、それと同時にスパイ役にもなった。
私が襲ってしまったルクレイアについてだが、どうやらあの間気絶していた様で誰が襲って来たのかという記憶はすっぽりと抜け落ちているらしい。そこを私が助けに入ったのだが、相手が強敵で苦戦している所をアスタロトに助けてもらったと言う事にした。これも彼が考えた案で、それが1番不自然だからと言う事で採用した。
そこから派生して私とルクレイアは……籍を入れた。まさか研究で利用していただけの女を妻として迎えるとは思っていなかったが……存外一緒に生活してみれば、これまで生きて来た中であまり感じられなかった、戦いの場でしか味わえないと思っていた潤いを感じられたのだ。
そしてシェリーは、ルクレイアと籍を入れたと同時に義娘となった。シェリーとのやり取りは……とても充実したものだと感じている。今まで妻子を持っておらず、武芸一筋でやって来た身だ。ルクレイアを利用する為にシェリーにも良い顔をしてきたが、いざ娘として接しなければならないと思ってたどたどしい感じに接してしまった。まぁそれも私の中では有意義なものに感じるのだが……
(あぁ……私にとっての利益、いや潤いはこんなにも近くにあったのだな)
これも全てアスタロト……いやアスタロトくんと言った方が良いのか。ともかく彼のおかげでラウンズなどに対してのしがらみは全てなくなった。まぁスパイ活動をする為にその座に戻りはするのだが、今までの様に残虐な考え方は捨てて、私が守りたい者……ルクレイアとシェリーの為にこれからの人生を捧げていこうと思っている。
————回想終了————
まぁそんな事があって、今はスパイ活動をこなしながらルクレイアとシェリーとの幸せな家庭を築いている。昔の自分では考えられないものだが……今はこの生活を手放したくない。
(それにしてもアスタロトくんとは偶にやり取りをしたりはするのだが……)
変な話ではあるが、彼がどんな姿をしているのかを見た事がない。書面でのやり取り以外では偶に彼がふらっと現れて手合わせをしてくれるのだが……
シェリーとシドくんとの雑談を傍らで聞きながら頭の片隅でそんな思考をしていた時だ。ふと辺りに目を向けていると、あの時感じた綺麗な魔力の流れが見えた気がした。
(ど、どこで見えた⁉︎)
それは意外にも早く見つかった。こちらに視線を向けている青年が1人いたのだ。髪は銀髪で瞳はアイスブルーに近い青系統の色、肌の色は少し色白で、女性から見ても羨ましいと感じてしまう程綺麗な肌質だということは、少し遠くからでも見ていて分かる。
そしてなんと言っても彼を循環する様に纏われる魔力の流れ……目の前のシドくんも確かに綺麗な流れだが、彼から感じるものはそれよりも遥かに繊細で綺麗だ。何より……
(あの時に感じた魔力の流れそのもの、いやあの時よりも繊細で美しいと感じる。間違いない……彼こそが)
そう思った私は彼に対して目配せをした。そしてそれを見た彼は、誰にも分からないほど自然にこちらへとアイコンタクトを返してくれた。
その数秒にも満たない僅かな時間……何かが劇的に変わったわけではないのだが、頭の片隅でいつも気になっていたもの、最後のパズルのピースが噛み合う瞬間だったのだ。
side out
(まさか少し兄さんの様子を見ていただけでバレるとは……)
偶々兄さんが他の人と話している様子をちょっと見ていただけだったんだけど……その相手がルスラン先生の娘さんでしかもその場に同伴しているとは思わなかったな。
(兄さんがチョコを渡した相手……それがシェリーさんって事だよな?)
まぁ兄さんの事だ。適当にモブっぽいイベントを消化しただけだと思っているんだろうな。それもチョコを適当に渡しただけだから誰に渡したかも覚えたないんだろうなあの様子は……
因みに俺はクレア姉さんとローズ先輩、それとコトハさんに渡した。コトハさんに対しては使い魔経由ではあるが、まぁ当日のうちに届いているだろう。後は「シャドウガーデン』の皆にも渡す分は用意してある。構成員で600人を超えているから作るのは手間だったが、それも無事終わってあるし、後はどうやって渡すかだな。
(取り敢えず『七陰』の皆には手渡しで……それだったら『シャドウガーデン』の皆に対しても手渡しの方が良いよな?)
イメージで言うならばアイドルの握手会や著名人のサイン会みたいな感じで……うん、それが手っ取り早い様な気がするな。
そう考えた俺は、後はどう渡すかの計画を綿密にしながらとある所へと向かっていた。それは魔導士学園の副学園長室で、兄さんと雑談して随分経った。そろそろ戻っている筈だと勝手に思って向かっているんだが、これでまだ外出中か既に帰宅しているのなら別の日に来るとしよう。
そこまで思考していると、丁度副学園長の部屋に辿り着いた。俺はドアを3回ノックして中から返事が返ってくる事を待つ。数秒経って返事が返って来たら、俺は失礼しますと挨拶してドアを開けた。
「ようこそ。そろそろ来る頃だと思っていたよアルジ・カゲノーくん。いや……アスタロトくんと呼んだ方が良いかな?」
「それに対しては好きに呼んでくれて構いませんよ、“ルスラン先生”」
俺はある事を確かめに福学園長であるルスラン先生からある事を確認する為にここに赴いた。それこそが、アルファ達『シャドウガーデン』に罪をなすり付ける計画を誰が立案し実行に移したのか……コトハさんが調べてくれた内容と照らし合わせる為に、『ディアボロス教団』にスパイとして潜入している彼の話を聞く。
彼とオルバさんが率いる組織は全くの無関係ではあるが、これからその関係性も、というよりルスラン先生をオルバさんのところに組み込もうとは考えている。その方が、オルバさんもそうだけどルスランさんもやりやすいだろうなと感じるし。
(これまではルスラン先生に『ディアボロス教団』にスパイとして潜入させて、より詳しい組織状況を探らせる事に集中させたいからアルファ達やオルバさん達にも黙っていたが、これからはその必要もないだろうな)
ルスラン先生はこの数年間スパイとして活動して来ただろうから、俺達以上に情報を仕入れてこれたと思う。まぁスパイとして潜入している間にもし『ディアボロス教団』側に寝返ったというのならその時は容赦しないが……
そう、これからはこちらからもある程度の攻勢に出てみても良いと個人的には考えている。まぁそこの辺りはアルファに相談して決めた方が良いから、独断専行で攻める考えは持っていない。ともかく……
(今回の騒動を引き起こした奴は……念入りに復讐してやるとするか)
アルジは頭の片隅でそう思考しながら、ルスランからもたらされた情報を聞いた。
さて、今回も凡そ6000字程で書き上げております。大体キリが良いところで毎回終わってますね。
そしてお話を読んで頂いて分かるかと思いますが、この作品ではルスランを味方サイドで書いています。まぁ無理矢理こじつけてはいる感じではありますが……では今回の騒動を引き起こした首謀者は誰なのか?
『ディアボロス教団』の幹部に連なる者か、前回同様他作品からボスクラスを持ってくるのか、はたまた……
ともかくとして予想しながら読んで頂けると幸いです。まぁ今の時点で誰を今回の首謀者に置くかは決めているので、それに話を繋げれる様に書いていきます。
では今回はここで失礼致します。次回もまた見て頂ければ幸いです。