また読者の方々から寄せられております、地の文、一人称、三人称がコロコロ変わって分かりづらいというご指摘などについては、隙を見つけて徐々に治していっている所ですので、また何かおかしい所がありましたら、その時はまた宜しくお願い致します!
それでは最新話をどうぞ!
ルスラン副学園長と話をして丁度1時間程経った。この間、最近先生が仕入れた情報を頭の中で整理して、コトハさんからもたらされた情報と擦り合わせていた。それで今は……
「それにしてもシドくんの弟がまさかアスタロトくんだったとは……全然気が付かなかったよ」
「まぁこの学園の中ではあまり目立たずに過ごしているつもりですからね」
「いやいや君は十分に目立っているよ? 確かにこの学園で君を間近で見たのは今日が初めてだが、何せ困っている人がいたら見過ごせないところや、悪い事をしようとしている生徒達に対しては説教をして改心させる。そして文武両道で、学年の中では優秀な成績を収めていると聞き及んでいる。それに今度の武神祭でも優勝するのではないかと教員から噂話としてこちらにも届いているからね。要するにそんな噂話が立つ時点で君は目立っている、と私は思っているのだが……どうかね?」
「あぁ……そんな話が持ち上がっているんですか……俺としては普通の事をして来たんですけどね……」
「君にとっての普通が、第三者から見たらそうではないという事だろうな。まぁ以前から武力だけ見ても元ラウンズを軽々と屠る実力者だ。目立たないというのは……いささか難しい事だろう」
とまぁルスラン先生は的確に言ってくるものだからそれ以上反論じみた事は言えない。それを察してかルスラン先生も少し笑いながらコーヒーを飲む。
(にしても初対面の時よりも随分と変わったな……)
あの時は誰も寄せ付けない程の鋭利な刃物みたいな雰囲気を流していたのが、今ではその様子もない。巧妙に隠しているとかだったら話は変わってくるが、多分この数年でルクレイアさん、シェリーさんと生活した事で性格もある程度変わったんだろうな。因みにルクレイアさんとシェリーさんについてはあの日以来会った事は無いが……
「それにしても私が疑われているとは……まぁ確かに今の私は『ディアボロス教団』に所属している。疑われても仕方がない事だろうが……」
「まぁルスラン先生が仮に裏切っていたとしたら、その時は俺の手で葬らせて頂きますけど」
「そんな冗談にもならない事を言わないでくれ。君が言うと有言実行になってしまうのだから……。だが私は基本的にこの学園と我が家の道しか通っていない。買い物を頼まれた時は別の道を使う事もあるし、研究の為に郊外へと赴く事はあるが、その時は必ずシェリーか手の空いている者と一緒に向かっている。それでも疑われると言うのなら一緒に行った者の記録もあるので、それを頼りに話を聞きに行くと良い」
「そうですね。その時はまたルスラン先生の所に伺わせて頂きますよ。じゃあ俺は用事が済んだので失礼しますね。忙しい所伺った様ならすみません」
「あぁ、私も君とゆっくり話せる時間が欲しいと思っていたからね。1時間ほどとは言え有意義な時間だったよ。また新しい情報が入ったなら私から連絡しよう」
そうして俺はルスラン先生の部屋を後にした。話を聞く限り先生が嘘を言っている様には見えない。まぁ先生が俺を出し抜く程の演技力を持ち合わせていると言うのなら、そこは俺の実力がまだまだという事だったり、実際俺は一度味方になった者に対して甘いと思っているからな……。
(しかしながらコトハさんの情報が嘘だとも思えないしな……)
という事は……『ディアボロス教団』がルスラン先生が既にスパイだという事を知り得ていて、彼を陥れる為の罠を仕掛けると同時に『シャドウガーデン』を混乱させて戦力低下を狙っている……という考え方も出来る。
(どのみちもう少し情報が集まらないとそこのトリックは解けないだろうし……非常事態に備えて最低限の事はしておこうか)
俺はそう考えながら、もし学園にも『ディアボロス教団』が攻めて来た時の事を想定して少しずつ準備を進めていった。勿論アルファ達やコトハさん達にも今回聞いた話を共有する事は忘れずにだが。
————数日後————
俺はある程度の準備を進めて、同時に学園で行われる武神祭の準備も始めていた。まぁ武神祭についてはそこまで準備をする事は無いと考えているし、いつもと同じくらいのの実力が出せれば問題ないと思うな。
「アルジ様」
そう考えていたら、近くに来ていたニューに呼び止められる。彼女の魔力が俺に近付いていたから驚いてはいないんだが、初日会った時とは髪型やメイクが違ったから一瞬だけ誰だと思ったのはここだけの話だ。因みに今のニューは長髪を後ろで一括りにまとめており、丸メガネをかけていた。
確かアルファから、1年くらい前に『悪魔憑き』を発症した人間を『シャドウガーデン』に迎え入れて、それから少しして頭角を現した子がいたと聞いた事がある。その子は半年くらいで『ナンバーズ』に加入する程の実力者で、特技は変装と確か言っていた。
「(アルファが言ってたのはこの子の事だったんだな)やぁ、何か進展があったかな?」
「いえ、昨日アルジ様からもたらされた情報と変わった事はございません。ただ少し気掛かりな所がございまして……」
「気掛かり?」
「はい。以前捉えた者達に拷問した所、その者は全身鎧に身を包んでいて、頭部も全て覆える程の兜をしていると……ただ話す時、時折咳をしていた……と」
「咳……か。(成程、その症状は確かに数年前ルスラン先生が患っていた症状だな。だがそれも治したし、様子を見る限りそんな兆候も見られなかったが……)ありがとう、少しの情報でも俺としてはとても助かるよ」
「あ、アルジ様にそう言って頂けて……わ、私も嬉しいです///」
(ん? 普通に受け答えしただけなんだが、何故顔を赤めている? まぁそんなに深く考えなくても良いかな)
「ところでアルジ様は武神祭に出られるんですね」
「あぁ、一種の腕試しみたいなものだけど……」
「腕試し……ですか。アルジ様なら簡単に終わってしまいそうな気がしますが」
「いや、こんな所で全力出す訳にもいかないだろ? だから出来る限り善戦している様にして勝つ様にはする予定だけど……」
「成程、真の実力は隠すといった具合ですね。では私も観客席からアルジ様の事を応援させて頂きたく思います」
「まぁ見ていて面白くないかもしれないけどね。そう言えば兄さんは出たりするのかな?」
「はい、アルジ様の下に向かう前に少しだけ話しましたが、シャドウ様も出られるとの事で」
「(兄さんも出る? もっぱらモブに徹する様な兄さんが?)へぇ……兄さんは何か言ってた?」
「はい、私もよく聞き取れなかった所があるのですが、何やらネームド? という単語が聞こえたかと……」
「ネームド……(兄さんはまたモブっぽい事考えてるっぽいな)分かった。まぁ兄さんと当たった時は全力で当たらせてもらうとしようか(兄さんが手加減できない様に……な)」
「っ⁉︎ それは滅多にない機会ですね! その時は是非学ばせて頂きます‼︎」
「あ、あぁ……まぁ学べる所があれば……」
「はい! では私は情報収集に戻ります」
「うん、こっちからもまた何かあったら伝えるよ」
俺はニューを見送った後、普段の日常に戻っていった。
ニューからの情報提供があった2日後、俺は武神祭が行われる会場に来ていた。観客席は基本埋まっていて、外の方では賭け事が行われていたりと賑やかにはなっているな。
(学生のうちから賭け事とは……なんともまぁ教育に悪い様な気がするな……)
これに対しては自分が持っている意見だから、賭け事が絶対的な悪と言っている訳ではないのだが、やはり学生からの賭け事は……と思ってしまう。まぁ個人的に少額で楽しんでいるのなら良いとは思っているけど……
それで試合を見ていたら、姉さんの番になった。まぁ姉さんの実力なら、物凄い実力者を相手にしない限り問題ないと思っているけど……
(と考えてたらあっさり相手を倒しちゃってるよ……)
とまぁぼんやりとした感想を持っていたら、不意に姉さんと視線が合う。姉さんも俺の視線に気がついた様で……
(っ⁉︎ な、なんか投げキッスされたっ⁉︎)
他の人からは見えていないんだろうが、俺の目ではハッキリと捉えていた。姉さんからの投げキッスが……
ま、まぁ? その仕草があまりにも可愛らしかったから避ける事は出来なかったんだけど……それを更に見た姉さんは俺にしか分からないような笑みを浮かべていた。それが追い討ちで気恥ずかしく感じて……目を逸らした。
(まぁでも……こんな光景が見られるくらいだから、表向きは平和って事なんだろうな)
裏ではドロッドロのやり取りが交わされている事が珍しくない世の中だが、そんなものは別に姉さんが知らなくても良い世界だ。それを知らない姉さんや身近な人が、何気ないやり取りで笑い合える世界、幸せでいられる世界。そんな光景があるからこそ、俺は頑張る事が出来るんだ。
(だからそれを平気でぶち壊そうとする奴は……どんな手段だろうと叩き潰す‼︎)
っと、そんな思考をしている間にそろそろ俺の出番か。準備しないとな。
俺は観客席から立ち上がって、人の波をものともせず控え室へと向かった。
side クレア
(アルジが私の試合を見に来てくれた! とても……嬉しい‼︎)
私はその嬉しさが一杯になって、選手の控え室から一旦観客席に向かっていた。席を探していたら、丁度前側の席が空いていたからそこに座った。ここからならあの子の試合も間近で見えるから、とても勉強になると思うわ。
それでアルジの試合が始まったのだけど、あの子ったら何を考えているのか試合を長引かせていたわね。相手との実力は、見るからに天と地程の差が圧倒的に開いているというのに、まるでギリギリの実力で戦っているかの様だった。私から見てみれば早く終わっても良い試合の筈なのに……
(でもアルジの方は全然疲れている様子はないのよねぇ……)
見かけでは疲れてますって言わんばかりの表情をしているけれど、よくよく観察してみれば全く重心とかがズレている様子はない。逆に彼の相手はそんなものお構いなしに疲れ果てている様に見える。
そんな時に試合が動いたの。アルジの相手が今あるなけなしの魔力を振り絞って剣に纏わせ、アルジに突撃していった。相手の方は、それに対しての反応をしていないから勝ち誇った様な顔をしているのだけど……
「はぁ……全くもってなっていない……」
そんな呟きが聞こえた瞬間、アルジの相手をしていた人は、アルジが立っていた所を通り過ぎた所で倒れていたわ。
(多分だけど……アルジがカウンターを放った?)
早すぎて見えなかったけど、多分そう。アルジは相手の一撃を紙一重で避けて、その後相手の首の付け根をトンッ……とやったんだと思う。
(それにしても凄い技術だわ……一瞬にしてあんな動きを……もし私がやられたとしたら反応出来るかしら?)
反応が出来て仮に避けれたとしても、その次がある。アルジは基本的に相手の一手二手先を見据えて動いているから、その後も追撃をしてくる事は目に見えているわ。
(でも……だからこそ私も頑張ってあの子に並び立ちたいと思える!)
今はまだあの子の足元にも及ばないかもしれないけれど、でもいつか私は並び立って見せるわ!
クレアはその思いを強くしながら、アルジとこの試合で互いに競えるのを心から待ち望んだ。
side out
先程の試合を終えて一旦観客席に戻った俺は、丁度兄さんの試合を見ていた。それで兄さんの相手は、いつもクレア姉さんがお世話になっているローズ先輩で……
(って、一体何をやっているんだ兄さんは?)
意気揚々とローズ先輩に突撃していったと思ったら、呆気なく剣の一振りで吹き飛ばされる始末。しかも盛大に吐血しながら……
(あれ……いや、えっ? まさか兄さんとしてはあれがモブっぽい事なのか?)
正直自分でも何を言っているのかよく分からん。あの行いがモブっぽいとかどういう意味だ?
いや、確かに俺強いですよムーブしてた奴が、そいつよりもめちゃくちゃ強い主人公とかキャラからの一撃で地に沈む……ていう構図だと思えば、まぁなんとなく? 分からないでもないが……
(でもモブって、そもそも何回も生き返らないしなぁ〜……)
兄さんの事を見ていると、まぁ色んな吹っ飛び方をしていた。というかどうやったらあんな事を自分で演出して実行に移せるんだ? 全く……兄さんは違う方向に物事を考えるから本当に訳が分からん。
(というかモブっぽいって思っておきながら異様な注目されてるのに気付かないのか兄さんは?)
だって、見るからに観客の人達もドン引きしているし、姉さんも見るからに頭抱えているしな……。
それで対戦相手のローズ先輩の方を見たら……なんか観客とは全く逆の方向の表情をしているんだよなぁ〜。なんかこう……相手を何回倒しても倒れないから、そこに一種の興味というか、力強さを感じる……みたいな。
(自分でも何を言いたいか分からないんだが、多分あれは兄さんに対して興味を持っているって顔をしている事は間違い無いだろうな……)
そしてローズ先輩が兄さんの姿勢に感服したのか、自分の最大限の力を見せるかの様に自分の剣へ魔力を注ぎ込んだ。それに対して兄さんも力強い視線で応えて立ち上がり、構えてローズ先輩に先程と同じく突撃した。
(まぁ、そんな決死の行動じみた事も主審に止められたらなんの意味もないけどな)
結果を言えば兄さんは主審に止められて、ローズ先輩が勝ち上がった。まぁ当然の結果だと周りは感じているんだろうが……
(まぁ兄さんは表ではモブを演じたいからな……馬鹿馬鹿しく思えるが……)
まっ、取り敢えず順当に勝ち上がれば姉さんやローズ先輩とも当たるだろう。姉さんと最後に交えたのは……もう数年前にもなるか。姉さんも姉さんで俺を驚かせたいがために模擬戦とかに誘わなかったのは分かっているし、俺もまたこうして交える機会が楽しみだったからこそ姉さんの考えを尊重した。
(後はこの数年忙しかった事もあるし。ともかく……姉さんと試合でぶつかるまでは体力は温存しておこうか)
とは考えているものの、実際にクレアさんと当たるまでは全くもって何も消耗しないまま勝ち上がるアルジさんの姿がありました……
side ローズ
(アルジくん……前々から思っていましたけど、強いですわね)
彼と知り合ったのは、彼がこの学園に入学してすぐの事でした。私の友人関係にあたるクレアさんから……ほぼ毎日と言って良いくらい彼の話を聞かされていました。彼女曰く、アルジくんはとても優しい好青年であり、剣術もクレアさんを遥かに上回っている程の実力者であると。
ただ時折抜けているところがあって、そこが物凄く可愛く見えて仕方ないとも言っていて、私自身も一体どんな人物なのか日に日に気になっていきました。
そしてあの日、いつもの様にクレアさんの部屋を訪ねたらいなくて、彼女としてはそんな事は今までなかったから焦っていた事も覚えています。それで探しに行くと意外とすぐに見つかって、彼女は弟であるアルジくんの部屋に行っていたのです。しかもその事が当たり前だというくらいの雰囲気でいましたわね……
(でも、クレアさんの言う様に本当に出来た弟さんですね)
私もオリアナ王国の王女として礼儀作法を徹底的に叩き込まれましたが、初めて会った時の彼の言動を見て、彼は本当に地方貴族の子息なのかと思ったくらいでした。
それからというもの、クレアさんを通じて彼と会う機会が多くなりました。それでクレアさんが言っていた様に、とても優しい好青年だという事が普段の生活態度から見て取れて、剣術の腕前も遠目から見る機会があったのですが……確かにとても鮮麗されている様でした。そして少し抜けているところも、彼女が常日頃言ってた通りで、アルジくんがクレアさんにそこを突かれてアタフタしているところとか……確かに可愛らしいと感じてしまいました。
そして今は武神祭も恙無く進行していって、準決勝に進みました。勝ち残っていたのは、去年も準決勝にいたと覚えている生徒が1人と……
(クレアさんとアルジくん……ですね)
彼女達がここまで上り詰める事は予想に難しくなかった。そして……
(私が1回戦であたったシド・カゲノーくん……彼にも奥底に一種の強さを感じました)
何回打ちのめされても向かってくる忍耐力と諦めのなさ……あの3人兄弟の中では確かに実力は1番下に見えてしまいますけど、それでもやはりクレアさんの弟さんなんだと思いました。
そして目の前では、今まさにクレアさんとアルジくんの試合が始まろうとしています。どちらが勝ってもおかしく無い程の実力者で、あの2人と戦う機会が近いと思ってくると、今から震えが止まりません!
(こんな感覚は……あの日以来でしょうか……)
幼少の頃、私は盗賊に攫われてしまった事があります。その時私は武術に興味がなく、それこそオリアナの姫に相応しくあろうと芸術に傾倒していました。
でも攫われたあの日見てしまった。自分を攫った盗賊を、まるで当然というくらいに糸も容易く打ち負かした者と剣術を……
(綺麗……)
その時の私はそれしか感想が浮かびませんでした。私を助けてくれた人は頭に見慣れない兜を付けていたために顔は分かりませんでしたが、声からして私と同い年くらいの男の子だったのだろうという事は分かりました。そして私を助ける為に差し出された手が、子供とは思えない程力強いもので……そして温かかった。
それ以来芸術の類には目もくれず、剣術に勤しむ毎日を送ってきました。オリアナ王国では異端である事は理解していますが……
(それでも私はあの人の強さに憧れて、そしてあの人の様に強くなりたい!)
あの日以来あの人がどうしているかどうかは分かりません。でもこの道を極めていけば、いつかどこかで必ず会える日が来ると信じています。
そうして目の前では既にクレアさんとアルジくんの試合が始まっています。それを見てしまえば、誰が見たとしても2人がここまでの試合の間でどれだけ力を使わずに相手を倒してきたのかが分かるくらいの試合運びをしていました。
(これが……クレアさんとアルジくんの本気……という事でしょうか?)
私はクレアさんとこの数年間何回も打ち合い稽古をしてきました。その時クレアさんとも本気で打ち合った事も何回かありますけど……あの時よりも鋭さが増しています。
(凄い……こんな戦いを見られるなんて……)
魔剣士を志して、こんな機会は滅多に無いと思うくらいにクレアさんとアルジくんの剣術は素晴らしいと感じました。この2人のどちらが勝ち上がったとしても私は負けるつもりなんてありませんけれど……
(それにしても……どことなくアルジくんの動き方があの人にそっくりだと思うのは気のせいでしょうか?)
そんな疑問がよぎりながらも、ローズは目の前で繰り広げられる試合から目を離さないでいた。
side out
side クレア
(身体はとっくに疲れ果てている筈なのに……心の奥底がどんどん熱くなって止まらない! もっと……アルジと打ち合っていたい‼︎)
クレアとアルジが試合をして既に5分以上経った。最初は両者とも身体を温める為に、まるで準備運動をするかの如く打ち合っていた。そこから段々とギアは加速していき、高速移動を織り交ぜながら互いの得物をぶつけ合う。観客席から見れば残像が至る所に出来上がっていき最早本体を目で追う事が出来るのはシドやローズなどの一定の実力者のみであった。
それ程までに激しい打ち合いが最低でも5分は続いている状況で、アルジはまだまだ余裕だが、クレアは体力的にギリギリで正直剣を持って立っているのもやっとの状態だ。それに付け加えて魔力も剣に薄く纏わせるのがやっとの状態で……
(でも、ここで私は止まりたく無い‼︎)
そんな状態でもアルジに追い縋る程動けているのは、一重に彼女の信念だった。昔から自分よりも実力が遥かに上で、何度模擬戦をやっても勝てなかった相手。実家にいた頃は今やっている様な打ち合いも僅か数秒しか持たなかった。
だが今は……それが数倍数十倍にも続けられている。そして胸の内からどんどん湧き出てくる高揚感が、更に彼女を限界以上に動かした。それは目の前で打ち合っているアルジさへも驚きの表情にさせたが、同時に……
(あぁ……アルジが笑ってる……私と打ち合っている中で笑ってくれている!)
私と打ち合ってくれているアルジは、確かにいつも笑みを浮かべてくれた。でもその笑みはどこか空虚に見えてしまって……それが凄く悲しかった。あの子の姉なのに……あの子の強さに寄り添えない私が悔しくて、心が痛かった。
でも今のアルジが浮かべている笑みは……昔の様な空虚さなんてどこにも無い。今この時を素直に楽しんでいる、そんな笑みに見えたの。
(だから……そんな顔をもっと見ていたい! 貴方の……心の底から楽しんでいる様な可愛い笑顔を‼︎)
とっくに限界を迎えている筈のクレアの身体は……アルジを捉える為に更に加速していった。
side out
(凄い……凄いよ姉さん‼︎)
正直俺は、姉さんがここまで着いてきてくれるなんて思っても見なかった。数年前までは、姉さんは最高で数十秒くらいしか俺の動きについて来れなかった。
(それがたった数年でここまで……)
今の俺は……どんな顔をしているだろうか? 姉さんがここまで着いてきてくれて驚きの表情を浮かべているだろうか? それとも……自然と笑っているのだろうか……まぁそんな事は置いておいて……
(久々に……純粋に楽しいって思えてくるな)
心の底から湧き上がる興奮が、身体の隅々に行き渡る……いや、それだけじゃない。どんどん循環する様に加速していく。それに伴って俺も自然と動きは早くなっていったんだが……
(っ⁉︎ 姉さんが今の俺よりも更に早くなった‼︎)
一瞬にも満たない時間だったかもしれないが、微かに俺の速度よりも速く動いて……俺の胴に横薙ぎで叩き込んでくる。
(あぁ……すげぇ……すげぇよ姉さんは‼︎)
俺は心の中で姉さんに賛辞を贈りつつも、その横薙ぎに対してバックステップをして躱した。
(っ⁉︎ 姉さんの剣が俺の胴に刺し穿つかのような軌道を……っ⁉︎)
そこで俺は見たんだ。姉さんが浮かべていた獰猛な笑みを。まるで狙い通りに事が運んだ事が嬉しいと言った感じで……
(あぁ……純粋な剣術だけでここまで追い縋ってくれる……これは、もしかしたらアルファ達と同じくらいの域に達するのも時間の問題かもしれない)
そう考えている間にも姉さんの剣先は俺の胴に数ミリずつ迫ってくる。このままいけば俺はその剣に押し込まれる様に吹き飛ばされるだろう。実戦であればそんな事はないが、これはあくまでも剣術のみで、魔力量も姉さんより少し多い程度で自分に対して枷を付けていた。だから姉さんが剣に纏っている魔力と、俺の身体をまるで刺し貫かんばかりの膂力に当たってしまえば、いくら身体に魔力を纏っていたとしても吹き飛ばされてしまう。
(でも、いくら姉さんといっても簡単にそれでやられるわけにはいかない!)
姉さんは今この瞬間を本気で、そして全力さえも少しずつ超えて俺に迫ってきているんだ。ならそれに対して俺も応えないと格好がつかねぇだろ?
そして、あともう少しで剣先が触れそうになったところで、俺は剣を持ってない左手で姉さんの剣を掴む。掴んだ後、そこを起点に身体ごと姉さんの右側に回り込む様にして剣先の軌道から外れた。
その時の姉さんの顔は驚愕に満ちた顔をしていたけれど、それでも悪あがきみたくこちらに対して突きから無理矢理こちらへと振り払う様に剣を向けて来た。
だが今の姐さんの体勢は悪い。普通の魔剣士程度であればなんとかなるだろうが、アルファ達の様に上の人達であれば簡単に対処出来てしまう。
アルジがそう思う様に、アルジに振られたクレアの剣は弾き飛ばされていた。アルジが自分の剣で下から上へと振り上げてクレアの剣を弾き飛ばしたのである。それと同時にアルジはクレアの首筋に剣を突き立てる様にした。
「姉さん……これで終いだ」
「……はぁ……降参よ」
姉さんの降参によって勝負が決した瞬間、会場から湧き上がる程の声援が起こった。さっきの試合がそれ程にまで良かったて事なんだろうが、俺と姉さんからしたら、互いに本気でぶつかっていただけだったんだけどな。
それで姉さんの方を向けば、降参したところで疲れ切った感じに座っていた。俺は姉さんの方に歩み寄って手を差し伸べた。それに対して姉さんも、疲れた顔をしながらも笑って俺の手を掴んでくれた。俺はそれを引っ張り上げる様に、姉さんを立たせる。
「ごめんなさいアルジ……疲れてしまって、立つのがやっとなの。だから肩を貸して欲しいのだけど……」
「姉さん、そう言って歩くのもキツイんでしょ? 俺が控え室まで運んで行くから、無理しないでよ」
「そ、そう? なら……甘えようかしら」
「あぁ、任せてくれ姉さん」
アルジはそう言うと、クレアの膝裏と背中の上の方を抱える様にして抱き上げた。所謂お姫様抱っこである。
「あ、あああアルジ⁉︎ い、一体何してっ⁉︎」
「えっ? い、いや、こっちの方があまり姉さんにも負担ないだろうなと思って……」
「そ、そうなの? (で、でもその気遣いがとても嬉しい♡)」
そんな光景を見た観客達は、それが物珍しいのか黄色い声援送っていた。アルジはその黄色い声援をものともせず、堂々とした足取りで控え室まで行った。
歩いて数分、俺は姉さんの控え室に到着していた。長椅子が丁度あったから、そこに姉さんを座らせる。
「もぅ、あんなに人が多い所で急に抱き上げられたら恥ずかしくなるじゃない⁉︎ まぁとても良かったんだけど……」
「えっ? 最後の方がよく聞き取れなかったんだけど……」
「なんにも言ってないわ! それで……今日の試合……どうだったかしら?」
「うん、凄く楽しかったよ。まさか姉さんがあそこまで追い縋ってくるなんてさ……あの域までいけるのはあともうちょっとくらいかかるって思ってたんだけど……姉さんの限界を超えた本気を見れて凄く嬉しかったよ」
「っ! そ、そう/// 私も……アルジの本気に近い状態まで持っていけたならとても嬉しいわ。それで……私今日は疲れるくらい凄く頑張ったじゃない?」
「あ、あぁ……」
「だからね、その……ご褒美が欲しいなって」
「ご、ご褒美? ま、まぁ俺で出来る様な事であれば……」
「アルジだったらなんでもこなせてしまうからそこは心配していないわ。寧ろ貴方にしかできない事だから。じゃあ私の隣に座ってちょうだい」
「えっ? あ、あぁ……」
そして俺は姉さんに言われた通り隣に腰掛けたんだ。腰掛けた途端、横から衝撃が襲って来て、踏ん張りきれずに長椅子に仰向けで倒れたんだ。
何が起こったのかと思って見たら……姉さんの顔が間近にあって、というよりほぼ顔しか写っていなかった。それで次に実感したのは、姉さんが俺の身体にのしかかっているであろう重みと……
(この唇の感触って……っ⁉︎)
俺がその感触に戸惑っていると、唇だけじゃなくて口内にも何かが入り込んで来た。それは俺の舌とかに絡み付こうとする様にくっついては離れてを繰り返して……
(って……これってでぃ、ディープキスってやっ⁉︎)
そんな思考をさせてくれない程、姉さんは俺にキスをしてきた。なんか最近にもこんな事があった様な……もぅそんな事をボンヤリとしか考えられない程に俺は姉さんのなすがままにされて……
「んっ……んぅっ……ぷはっ……ふふっ♡ ご馳走様アルジ。 とても……良かったわ♡」
とまぁ、さっきまで疲れていた様子が嘘の様に今の姉さんはイキイキとしていた。まるで俺の活力を吸い取っていったかの様で、逆に俺は……何故か羞恥と謎の疲れが生じて逆にグッタリとしていた。
因みに試合が終わった後のアルジさんは、クレアさんを控え室に送った時の事を冷静に思い返して、なんであんな行動をとったのかと後から恥ずかしくなり後悔したといいます……
はい、久しぶりに10000文字以上書きました。次回もこれぐらい書ければなと思ってます!
それで今回は武神祭の決勝前まで書きましたが、もうほぼほぼアルジさんとクレアさんの話でしたね。私も書いてていつの間にかこうなっていましたが、今度はいよいよ決勝という事で、アルジとローズの試合を中心に書いていく予定です。
それと久々にアルジさんとクレアさんがイチャイチャしている所をかけて少し満足しています! これからも他のヒロイン達とのそういった内容を早めに書ければなと考えています!
それでは、次回またお会いしましょう!
第17話であったアルジさんとアルファさんの絡みを書いて欲しい方
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R-18で書いて欲しい。
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R-17.9までで書いて欲しい。
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本編をとにかく進めて欲しい。