陰の復讐者となりて   作:橆諳髃

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読者の皆様、本日もお越し頂きありがとうございます!

今回で一応4章は終了し、次回は後日談を書いていく予定です。そして今回また新たに別作品の技を織り込んで話を書きました。ご都合主義の作品ですので、『陰の実力者になりたくて!』の世界観にマッチしてないと感じられたらそこは申し訳ないなと思いますが、前々からこう書きたいなとも思っておりましたので、作者としてはあまり悔いはないと感じます。

さて、前書きはこの辺りと致しましてどうぞ本編をご覧下さい。


30話 復讐者、千年の停滞を解放する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ネルソン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぐぅ〜……今日はなんという日なのだ⁉︎)

 

 1年に1回の行事ではあるが、されど毎年観客席が全て埋まると言っていいほど盛況な女神の試練は、我々教団への財源確保を担っている。その管理を任せられているのは儂であり、その運営を勤めて100年では足りないくらいにここを知り尽くしておる。

 

 そして長らくそうしていると、この日だけは気を楽にして過ごせるというものだ。奴らの介在させる余地もなく、いつも抱えるストレスから脱却される日と言えば……誰でも簡単に想像はつく事だろう。

 

(そんな日だと言うのに……何故こんなにもイレギュラーな事が起こるのだっ⁉︎)

 

 コロシアムに出場者とは関係ない者が乱入したかと思えばその者の力を感じ取ってアウロラが召喚されるわ、その後聖域への扉が開かれて『シャドウガーデン』の奴らの侵入を許すわ、それに儂の攻撃では奴らに傷一つつける事も出来ずに分身体が返り討ちにあい、途中から全く分からないイレギュラーな存在が乱入したと思えば『シャドウガーデン』の首魁の様な存在も儂がいる空間に来るし……

 

(しかもあの首魁……多分まだこの聖域にいるよね?)

 

 あの後『シャドウガーデン』の連中は何かを成したのかこの聖域から早々に退散した。犬の亜人種の女が未だ儂にギラついた目を向けておったから、この施設にコピーとして残しているオリヴィエを召喚してぶつけようとしたのだが、そのまま戦闘になる事もなく去って行ったのだ。

 

(ハァ〜……今日はもうゆっくりさせてくれ……)

 

 そう思っておったが、中枢に侵入者のアラートが鳴ったのだ……

 

(あぁ……あの化け物じみた首魁がいる所に儂が行かねばならないのか……)

 

 儂がそう思ったのも当然だ。なにせあの首魁はまだ何事かをなす為に移動した事を呆然としながらではあるが見ていたのだ。そしてそんな無様と思われる様を晒しながら奴の戦いも見ておった。それで思ったのは……

 

(あんなのに勝てる奴いる訳ないではないかっ⁉︎)

 

 丁度オリヴィエのコピー体がいるが……それでも勝てるかどうかなどわ……

 

(あぁ……っ! 行きたくない行きたくないっ‼︎)

 

 ネルソンは物凄く幼児退行したみたいな駄々を心の中でこねたが……ここを管理する身として仕方なく……仕方な〜く中枢へと移動した。そして中枢に侵入した者を見て一気に心の余裕を取り戻したネルソンではあるが、その侵入者が先程ハラエルどもを叩き潰した『シャドウガーデン』の首魁である事はこの時思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルコシアスのリミッターを完全に解放させた後と言うのは……いつもやっている魔力操作が上手く出来ない。まぁこの状態でも敵を叩き潰せる程の力は残ってるけどな?

 

 まぁ上手く出来ないといってもガンダムタイプの装備を身に纏えないって意味合いで、さっきしたみたいに扉を固く閉ざす大きな鎖に増やされた魔術を弱体、無効化させる事ぐらいは余裕でできる。後はただの大きな鎖だから力を込めて引き千切れば良いだけで……

 

 そんな時にこの空間に現れたのはネルソンって奴と、俺よりも年下に見える金髪少女だ。にしても……

 

(なるほど、あの女の子はアルファに似ているな……と言う事はあの子がアルファのご先祖になるって事だよな)

 

 だが魔人ディアボロスとオリヴィエが戦ったのは千年前だ。ならそこにいるオリヴィエは本人のレプリカになるんだろうなぁ〜……

 

(レプリカ……か。その言葉を聞く度にあの世界の事を思い出すな)

 

「おい! 貴様に問うているのだ‼︎」

 

 ネルソンがなんかキレ気味に言ってくる。確かに俺はさっきアイツがアルファ達の事を侮辱した様なシーンを見たからキレたが、今の俺の格好は初対面に映るはずだから、どうしてそんな因縁じみた目を向けられるのか全く分からないな。

 

(それにあのハゲ自身全然大した事ねぇし、本人の実力であれば()()()の方が高いな)

 

 あぁ、アイツというのはこの前俺が結果的に『ディアボロス教団』から引き抜いた奴だ。今頃もオルバさんに扱かれて強くなってる頃合いだと思うけど……

 

 まぁそんな事を片手間に思いながら2つ目の鎖を引きちぎる。

 

「えっ……えぇっ⁉︎ ちょ⁉︎ 本当に何してるんだっ⁉︎」

 

「何って……鎖を引きちぎってるだけだが?」

 

「そういう事を言っているんじゃないっ! 常人の身でありながら何故その鎖を! しかも鍵を使わずに解除できるのかと聞いているっ⁉︎ そもそも中枢で魔力は扱えない筈! 例え扱えたとしても古代の術式が使われたその鎖を頭容易くなどっ⁉︎」

 

「あぁそれのこと? まぁ……俺自身がここに魔力を吸われない様に魔力が練れるからだろ? で鎖に施されてる物も、それ自身を無効化できるほどの魔力を流し込んだりすれば後はただの鎖だし、後は引きちぎるだけ……なっ? 簡単だろ?」

 

「なっ……か、簡単……ふ、ふざけるなぁっ⁉︎ そんな事が簡単で済ませて良いはずがない‼︎ オリヴィエ! あの不届者を斬り捨てろぉ‼︎」

 

「っ‼︎ ダメ! アルジ逃げて‼︎」

 

 アウロラが悲鳴じみた声をあげて俺に逃げろと言ってくるが、そう言い終わった頃には遅くオリヴィエと呼ばれた女の子は俺の眼前へと来ていた。

 

(あぁ……確かに早いなこれは)

 

 この子もおそらくだが、この施設の恩恵とやらを受けているんだろう。まぁディアボロスと戦えるぐらいに強いという話だから更に強力なバフが乗っかった状態と見て良い。それもまぁ……

 

「アルファほどじゃないか……」

 

 ポツリと独り言の様に呟く。俺に攻撃を仕掛けてきた少女、オリヴィエは剣を片手で白羽どりされても表情は何も動かさなかったが、ネルソンはあり得ないという様に口をあんぐり開けて驚いていた。

 

 オリヴィエは白羽どりされた剣をどうにか抜こうと身体全体に力を込めて引っ張っているみたいだが、俺の手からは微動だにしない。やがて2人の間の引っ張る力に負けてかはたまた俺が剣を抑えている力が強すぎたのか、剣にヒビが入り始めて、やがて剣の途中から折れた。

 

「な……なぁっ⁉︎」

 

 それを見ていたネルソンは、さっきと同じく驚きの表情を浮かべるだけで全く動く気配がない。

 

(というかテメェも戦いに参加しろよ?)

 

 これがディアボロスの幹部クラスとか……確かに研究者としては良い線を行ってるんだろうが……こういった場面では全くもっての役立たずだな。

 

 逆に剣を折られたオリヴィエは表情を変える事なく折られた剣を握ってさっきの様に向かってくる。まぁレプリカで指示された事でしか動けない仕様であるなら当然の動作になるが……

 

(悲しいな……レプリカと言えど生きているというのに……)

 

 それにこの空間の壁にびっしりと埋め込まれている楕円形の様な者からも、目の前の少女と同じ気配がする。成程……確かに千年もあればこれだけのレプリカを揃えるのも難しくないか……

 

(なんて言うとでも思うか? 普通に胸糞悪い気分だ)

 

 この胸糞悪さは……アルファ達がいた空間と同じ種類のものだ。それに俺は別世界で……その存在として産まれた事も経験済みだ。

 

(その世界では主犯を完封なきにまでボロボロにして説教して終わらせたが……)

 

 アイツはまだ救えたから良いものの、目の前のハゲはダメだ。最早論外で助ける余地は無しだ。そもそもアルファ達を過去とはいえあんな目に合わせた原因を野放しにするつもりは毛頭ない。

 

(ただここにいる彼女達はどういった形であれ助けたいな……)

 

 あまりやった事はないし、上手くいくかも分かりはしないが……何もやらないで彼女達が何も残さず野垂れ死ぬ様な結果だけは回避したい。

 

(こうなれば一か八かだ)

 

 未だ攻撃してくる彼女を捌きながらその機会を窺う。ここで漸く再起動したネルソンが、1人だけでは相手を殺せないと判断したのか更にオリヴィエを召喚した。それも俺が思った通り壁に埋め込まれている楕円形の物から。

 

 召喚されたオリヴィエ達が剣を構えて俺に殺到する。袈裟斬りや刺突、上段に構えて振り下ろそうとしたり、逆袈裟斬りの様に下から振ろうとしたりと一人一人若干の動作は違うが、どれも俺を殺そうとして振るわれるものだ。

 

 まぁ避けるのは全然苦にはならないけれど、避けていく内にオリヴィエがオリヴィエを斬る様なフレンドリーファイアの状態にはさせたくない。

 

 という事で取れる手段として、オリヴィエ達が持つ剣を一つ残らず粉々に叩き割る事を考えつく。あれぐらいの強度であれば自分の素手に魔力を通して、どこぞの高校生とは思えない体格をした存在の守護霊みたくオラオラのラッシュとかで普通に対処可能だ。

 

(剣の中間辺りを握り潰すのも全然良いんだけど、それだと途中から上の刀身が残るし、この子達の場合は普通にそれを握って攻撃するだろうからな〜)

 

 だから攻撃手段を無くすという上で剣自体を木っ端微塵に砕くやり方が1番良いと感じる。

 

 そう感じた瞬間に俺は実行に移した。俺の四方八方から迫り来るオリヴィエの剣を、俺は両手に魔力を纏わせて拳による連打を浴びせた。まぁオリヴィエ達を出来るだけ傷付けさせない様にするが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 三人称視点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルジを逃さない様にと取り囲むオリヴィエのレプリカ達。そしてアルジの命を奪わんと一斉に飛びかかり、各々が違う剣の握り方や構え方をして凶刃を振るう。

 

 普通の魔剣士であれば、オリヴィエ1人に瞬殺されるだろう。それはレプリカであったとしても結果は同じで、それが複数……アルジの命を刈り取る為に、例え自分と同じ姿をした者が何体地に倒れ伏そうとも、与えられた役割に殉じる為に動くのみ。例え自分が払った剣で自分と同じ姿形をした者が死んだとしても……

 

 そもそもここにいるオリヴィエのレプリカ達には、管理している者の命令だけを聞く様プログラミングじみた事を施されている。その為仲間意識などはなく、連携なども考えない。ただ与えられた命令を完遂する。

 

 そんな仲間も斬り殺す程に振るわれそうになるオリヴィエ達の剣をアルジは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウオォォォォォォォォッッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迫り来る剣を殴る。近くにあった剣、オリヴィエに当たりそうな剣から優先的に殴り、その度に殴りつけられた剣は粉々に砕け散る。そして剣を最後まで折られたオリヴィエは、それでもアルジに向かい続ける。例え無手であってもアルジを殺すという命令は生き続けているのか、何も考えていない瞳を向けながら目標に殺到する。

 

(まだ向かってくるか……ならば!)

 

 アルジは無手で向かってくるオリヴィエ達に対して当身の要領で首筋をトンッと叩く。だが相手が気絶する程の威力ではやっておらず、かと言って当身をされたオリヴィエ達はアルジから距離を取る様に下がり始める。

 

「な、何が起こっているというのだっ! おいっ、オリヴィエ! さっさとその侵入者を殺さぬかっ‼︎」

 

 その状況にネルソンは、再度焦った表情をしながらもオリヴィエ達に命令した。しかしその命令で動こうとするオリヴィエは誰1人として存在しなかった。

 

「な、何故だっ! 何故1人も動かんっ⁉︎」

 

 そうしている内に最後のオリヴィエに当身をしたアルジは、少し肩を軽快に鳴らしながらオリヴィエ達に近寄り、ネルソンの独り言の様な喚きに答えた。

 

「そんなの、俺がさっき彼女達に仕組んだからに決まっているだろ?」

 

「し、仕組むだとぉっ⁉︎」

 

「まぁ簡単な話だ。彼女達の身体の中に不自然な魔力の流れを感じた。だから俺はそれをさっきの当身で少し弄っただけだ。まぁ人間で言うところの……正常な判断ができる様に彼女らを縛り付ける邪魔な回路を切断した……って言ったら通じるかい?」

 

「えっ……それって……」

 

 そんな事が今を生きる人間に出来る芸当なのかと、アウロラは驚愕する。勿論ネルソンもそう思って表情には出すものの、アルジが言った言葉に理解が出来ずフリーズする。

 

 そんな2人の反応はどうでも良い様に、アルジが1番近くにいたオリヴィエの前に立つと、オリヴィエの視線に合わせる様にしゃがみ込む。

 

「君は……君達は多分作られてから外の事なんて分からずに、自分達が何の為に産まれたのか分からずに……ただただここにいてあんな奴の命令に従ってたと思う。

 

だけど俺は……そんな生き方、自由な意思を持たないままただ生きて……こんな何もない所に何年何十年何百年囚われて生きてきた事を目の前で見せつけられて……許せないんだ」

 

 アルジの目は真っ直ぐオリヴィエの瞳に注がれる。オリヴィエは先のネルソンの命令に従ってた様に無気力な表情に変わりはないものの、アルジの本気で自分達を想う目に、自らの瞳も少しずつ揺れ動いている様に見えた。

 

「ここが無くなれば……この施設の魔力供給によって生きてた君達は、次第に自分の身体を保つ事が出来なくて、崩壊していくと思う。

 

でも俺は……何かの形であれ君達の、君達に外を見せたいんだ! こんな何もない真っ白い空間が最後に映る光景として終わらせたくない‼︎ だから……こんな事初対面な存在に言われたって信頼もクソも無いけど……俺と一緒に……俺の大切な人達と一緒に外の世界を見に行かないか?」

 

 アルジは、自分で言った台詞にただならぬ矛盾を孕んでいる事を理解しながらも、彼女に手を差し伸べた。

 

 それは当然の事で、この施設が崩壊しようがオリヴィエ達を外に連れ出そうが、彼女達の肉体はどの道崩壊するのだ。アルジはオリヴィエと戦いながら何とか彼女達を御体満足な状態でここから連れ出そうと考えていたが、彼女達の肉体を繋ぎ止められそうな触媒が思い当たらなかった。

 

 彼女達はオリヴィエのレプリカで、医学的に考えても遺伝子情報はオリジナルのオリヴィエと遜色ない。だがオリジナルオリヴィエの肉体は残念ながら存在しない。

 

 例え肉体があったとしても、ここにいるオリヴィエのレプリカ達は何回もコピーされたものだ。幾ら遺伝子的に一緒とはいえ、失敗する可能性が高い。いくらアルジが他の者から万能と言われても、彼にも出来ない事の1つ2つ、否それ以上に存在する。

 

 だからこそ、その手段を考え付いても実行出来ないアルジは表面上優しげな表情でオリヴィエに手を差し伸べているが、実際に心の中では今やろうとしている事でしか彼女達を解放出来ない自分が腹立たしく感じていた。

 

 そんなアルジの心の中を無意識ながらも感じ取ったのだろう。アルジに手を差し伸べられたオリヴィエは、少しだけ笑みを浮かべながらアルジの手を、その身体に似つかわしい小さな手で握った。すると手を握ったオリヴィエの身体が光り輝く。

 

 その光は人の形から丸い玉の形に変わって、アルジの掌の上に収まる。それを見ていた他のオリヴィエ達も、自身を光の玉に変えてアルジの掌の中にある玉に集った。この空間にいた全てのオリヴィエがアルジと共に外へ出るという意思表示でもある。

 

「こんな形でしか外に連れ出せないが……絶対に損なんてさせねぇからな」

 

 光の玉を別空間に移したアルジは静かにそう呟く。完全な身体も意思を持ったままの状態で彼女達を外に連れ出せない事を悔しがる様に。

 

 その後アルジは剣が突き刺さる台座の前に立ち、剣の持ち手をゆっくりと握った。

 

「な、何をしておるっ⁉︎ そんな汚い手でその神聖な剣に触れるなd「テメェが言うなよ」ヒィッ⁉︎」

 

「これまでテメェは何百何千以上の命を弄んできただろうが? そこにいるアウロラ始めさっきの複数の女の子達と……『ディアボロス細胞』を埋め込んだ子供達もな?

 

「なっ⁉︎ き、貴様どこでそれをっ⁉︎」

 

「どこでとかどうでも良いんだよこのハゲ! ともかくテメェに汚いと言われる筋合いなんてねぇんだよっ‼︎」

 

「は、ハッ⁉︎ き、貴様も儂の事をそうやって……っ⁉︎(ま、まままさかっ⁉︎)」

 

 ネルソンがアルジの発言を聞いて激昂するかに見えたが、発言の中にあったハゲの言い方に若干の違和感を覚えて何かを考え込んだ。そしてその答えに行きついた時……アルジを先程までどこの馬の骨とも分からない小僧という評価から恐怖の対象へと変わった。

 

「よっと……なんか意外に馴染むなこの剣」

 

「あ、貴方……なんでそれを引き抜けるのっ⁉︎」

 

「何でって……引き抜いたら不味かったか?」

 

「だ、だってその剣……英雄の末裔の血を引き継ぐ者じゃないと抜けないって書いてあったもの! それなのにどうして貴方は……」

 

「どうしてって言われても……この剣に受け入れられたからじゃあないか? これもアーティファクトの部類になるだろうし、そのアーティファクトにだって使用者を決める権利を主張してくる奴がいるかもしれないだろう?

 

確かにこの剣を引き抜く条件が英雄の子孫だったり血を引き継ぐ者って書かれてるかもしれないけど、それが絶対でない事は俺が何度も見てきた。だから別に俺が引き抜けたとしてもおかしな事は1つもないさ」

 

「そ、そう……なのね?(じゃああの説明文って何だったのかしら?)」

 

 アウロラはアルジがこの空間から別の所に行っていた際、勿論剣の事も調べていた。そこに書かれていたのはアルジ自身が言っていた様に……英雄の血を受け継ぐ者のみこの剣を扱えると言った文言だった。

 

 だが目の前でその文言はアルジによって砕け散ったのだ。確かにアルジは英雄の血を受け継いではいないし、そもそも別の世界からの転生者である。

 

 しかしながらアルジは……英雄に負けず劣らずの、否当時のオリヴィエ以上の実力を持つ。その為にアルジが剣を握った際、剣はアルジの実力を押し測っていた。結果、剣はアルジにな、使われても良いと判断したのである。だからこそアルジの手にも馴染む様に剣自らが機能を変えたのだ。

 

「じゃあ早速目の前の鎖で試し斬りするか」

 

「っ⁉︎ ま、待て! 待ってくれぇっ⁉︎ そこだけはぁっ‼︎」

 

「何を言ったところで止まる気もねぇしおせぇんだよ‼︎」

 

 アルジの掛け声と共に振るわれる剣……ネルソンは待つ様に懇願するが、そもそも聞く気がないアルジはそのまま一太刀によって扉を固く閉ざしていた鎖を全て斬り裂いた。

 

 鎖が魔力の粒子と化して消失するのを見届けて、大きな扉の前に立つ。そして外見からしても1人ではビクともしない扉をアルジは1人で開け放つ。

 

 扉が開いた時、アウロラは顔を背けた。そこには、アウロラがアルジにだけは見られて欲しくない物があったからであり、アルジも扉の先にある物を見た後、アウロラの様子を見て察した。

 

「……これをどうして欲しい?」

 

「……そうね。この施設ごと……壊してちょうだい」

 

「……分かった」

 

 アルジはアウロラの頼みに了承の意思表示をして、扉を背にして今も尚怯えた様子のネルソンに一歩ずつ近づいて行く。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ……コイツを視界に入れるだけで腹が立って仕方ない……)

 

 神に遣える神官の1人という肩書きを持っている奴が聞いて呆れる。こんな奴はこの世界に生き永らえさせる意味もない。

 

だからこそコイツには地獄が生緩いほどの罰を与えないとなぁ?

 

 まぁ落ちた先が地獄の時点で俺からすれば生ぬるいというか慈悲というか……まぁ金輪際生まれ変わりがない様に輪廻の輪からも外れる様にしないとな……

 

 奴がこれまでの事を本気で反省して謝ってくるなら、ワンチャン監視付きで『ディアボロスの雫』を与えずに最後を迎えさせる……という選択肢は少しだけ浮上するが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッ‼︎ そもそも奴に慈悲を与えるつもりなんて毛頭ない‼︎ さっさと輪廻の輪からも外すに限る‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故そんなに激怒しているか……だと? そんな当然な事……龍の逆鱗ならぬ俺の逆鱗になる物に触れたからだ。

 

 1つ目……過去アルファに『ディアボロス細胞』を植え付けて実験した元凶だからである。確かにそれがなければ俺はアルファに合う事はなかったかもしれない。だがそんなたらればを考えたところで全く意味も為さないが……ともかくそれによってアルファを傷つけて尊厳を踏み躙ったから。

 

 2つ目……オリヴィエ達のレプリカを創り、この空間に何百年単位で閉じ込め、尚且つ自由意志を与えなかった事。正直俺だったら途中で発狂しているかもしれないが、それも自分の意思を持てるからこそで、彼女達は最初からそれを許されなかった。俺と一緒にくるかどうかも……応えてくれるかどうか五分五分だと思ってた。もしもこちらの返答に応じてくれなかったのなら……

 

(そう考えるだけで本当に反吐が出る……)

 

 それにオリヴィエはアルファの先祖様といっても良いだろうし、いくら千年前の人であれ、俺の大切な……好きな人の親族に対してこんな扱いをしたのだ。到底許せるわけが無い。

 

 それと最後の3つ目……2つ目の理由と被るが、アウロラをこの地に封じた事だ。それも自我を持ったまま千年も……

 

(確かに彼女が訳ありだと言う事は認識していたし、あの扉の向こうの物を見てそれも確信に変わった)

 

 そして『ディアボロスの雫も……扉の向こうにあった物から抽出されたと考えて、それがアウロラと関連があると結びつけるのなら……

 

(……頭の中が怒りに支配されて最早何も考えられねぇなこれは)

 

 そしてアウロラにこの施設ごとこの施設の核になっており、尚且つアウロラさんに関係がある物を壊して欲しいと言われた。肯定でしか返事できなかったが……俺の予想通りなら、そんな悲しい結末なんて俺は認めたく無いし逆に覆してやる!

 

 アウロラには壊せと言われたが……要はこの施設の核となっている術式とか設定を変えれば良い。簡単には行かないかもしれないが……やってみるさ。

 

(それにあんな悲しそうなアウロラの顔を……そうさせた目の前のハゲは、確実に輪廻の輪から絶ってやる……!

 

「ハッ……⁉︎ く、来るな! こっちに来るなぁっ⁉︎」

 

「おいおい何をそんなに喚き散らかしてやがる? そもそもここはテメェのホームグラウンドだろ? ならさっきの様に自分の分身体を作ってかかって来いよ?」

 

「なっ⁉︎ 何故その事をっ⁉︎」

 

「そんなのアルファのここにきた時からの記憶を覗いて知ってるからに決まってんだろうが? そんな事も分からないほど頭の回転が悪くなったかよ……ラウンズ11席の強欲さんとやら」

 

「っ⁉︎ や、やはり貴様は……さっきのっ⁉︎」

 

「ご名答……『シャドウガーデン』の創設者の1人? まぁ肩書きなんてどうでも良いなこんなところでは。まぁその1人で、コードネームは『アスタロト』で、本名はアルジ・カゲノーだ」

 

「っ⁉︎ あ、アルジ・カゲノーだとっ⁉︎ あの女神の試練にも参加していたっ⁉︎」

 

「あれはどこかの誰かが勝手に登録した結果だ。まぁ呼ばれた以上出ないわけにもいかなかったから出させてもらったが……」

 

「な、なななっ……まさかあの変な格好も貴様がっ⁉︎」

 

「変な格好とは失礼な……あれも歴とした神様の姿なんだがな? まぁ別世界のだけど……取り敢えずはテメェの相手を俺がしてやるよ。あの姿にもならないしこの剣も使わない。なんなら魔力も纏わずに相手してやるよ」

 

「ヌゥゥゥゥッッッ⁉︎ 儂を見くびるなぁぁぁぁぁっっっっ‼︎」

 

 そう言ってアルファ達の前でやった様に数十体規模で分身を作って、さっきのオリヴィエみたく一斉に飛びかかる。

 

(さっきのを見て学習しねぇのか……)

 

 そう思いながら真っ先に飛びかかってきた分身体を思い切りぶん殴る。ぶん殴られた分身体は、殴られた箇所がまるで鉄が溶岩に溶かされる様にドロドロになり、更に身体全体に伝播して殴られた箇所と同じ様に溶けた。残ったのは……それが人だったのかどうかも分からない何かだった。

 

 それを未だ飛びかかってくる奴らに同じ様にして行く。顔を殴り、横腹を回し蹴りして吹き飛ばし、踵落としを頭に落としたり……

 

 そうしている内にネルソンの方が先にガス欠になったのか、分身体を作らず後退りしていた。

 

「な、なんだその身に纏う稲光はっ⁉︎ 魔力は使わないんじゃなかったのかっ⁉︎」

 

「ハァ? 相手の言を、しかも敵の言った事をイチイチ信じる馬鹿がどこにいるんだよ? あぁ、目の前にいるか。だが俺は今も魔力なんて使ってねぇよ。そもそも魔力使ってたら、テメェの分身体なんて殴られただけで水風船の様に破裂しちまうんだからなぁ?」

 

「ヒィッ⁉︎ な、ならそれは一体何だとっ⁉︎」

 

「俺が今やってる事は……ただ特別な呼吸をしているだけだが? まぁこの世界でやってる奴なんて居ないだろうが……」

 

 そう、これはとある世界で吸血鬼と化した存在を夜でも倒せる様に編み出された呼吸法だ。この呼吸法をする事で血液に酸素を多く行き渡らせ、尚且つ自分の身体に太陽と同じエネルギーを纏わせることが出来る。その纏わせたエネルギーの事をその世界では『波紋』と呼んだ。

 

 その纏った波紋で吸血鬼を殴れば、それで相手は殴られた場所から鉄を溶岩に入れた時みたいにその箇所から溶けて、次第に身体を伝播して倒すことが出来る。まぁ相手の強度や呼吸によって纏う波紋でそんな事象は変わってくるが……

 

 そして俺が纏った波紋の強度は、普通の人間にやっても殴られた箇所がドロドロに溶ける。強度を上げればそれでその存在を滅ぼす事も出来るもので、俺に襲いかかってきた奴らもそんな感じで倒していたに過ぎない。

 

「こ、呼吸っ⁉︎ 呼吸だとっ⁉︎ そ、そんな物でいかに分身体といえど人を殺せるわけが「だが実際に俺は実演してみせた。さぁ……次はテメェの番だ」や、やめてくれぇっ⁉︎ わ、儂が悪かったぁ! 今までやってきた事は全て謝るっ! 『ディアボロス教団』からも足を洗う‼︎ だから……だから命だけはぁっ⁉︎」

 

「……ハァ〜。とことん頭の中がめでたい奴だ。これまでテメェに同じ様に懇願してきた人達がいて……テメェらはそれを何食わぬ顔で蹴って来たんだろ? そんな奴がテメェの番になったら命乞いしやがる……矛盾してるよな?」

 

 目の前のハゲの命乞いが本当に滑稽で……胸糞悪い。だから俺は、自分の中にある怒りに比例させて深く呼吸し、纏わせている波紋を強力な物にさせていく。

 

 それを見ていたハゲは、この世の終わりだとでも言わんばかりに両膝を地面に付いた。俺が纏わせた波紋の輝きの強さを見て、自分の命乞いは通じなかったと捉えて、最早逃げる気も失せたみたいだ。まぁ逃げたとしても地の底、世界の果てまで追いかけてぶちのめす(復讐する)が……

 

「さて……元からそうだが、テメェの戯言なんて最初から聞く耳持たないし、俺の大切な物達を傷つけた時点で天国はおろか地獄にも行けると思うなよ?」

 

「な……なら儂は……」

 

「勿論……輪廻の輪からの追放だ。違う何かに産まれる事も違う世界線への転生も何も無い魂の消滅……自分が犯した罪を悔いて朽ち果てろ!

 

 俺の放った拳は奴の顔面を真正面に捉える。捉えた瞬間奴の顔面はドロドロに溶けるが、それで終わりなんかじゃあない。これが序章だ。ドロドロになった奴の顔面を魔力で治して元通りにしてまた殴る。それの繰り返しを何十何百と撃ち込んだ。ここまで殴れば例え波紋を纏ってなくても身元不明の死体になるが、そこは俺が元に戻している為まだこのハゲは死んでない。

 

(ただ言いようも無い苦痛を全身で感じているだろうが……)

 

 そこまで殴ったら意識も失うんじゃあ無いかと思うだろうが、俺は奴の意識が飛ばない様にもしている。まぁこれも魔力の応用ってやつで、他の世界では難しい技術でもここでは簡単に色んな事で応用が効くな。魔力様々って感じだ。

 

ア"ァ"ァ"ァ"ッッッ……ナゼッ⁉︎ ナゼヒドオモ"イニゴロザナイィィィィッッッッ⁉︎

 

 俺が今も尚殴っている為に目の前のハゲは滑舌が悪くて、ギリギリ何を言っているのか聞こえるぐらいだ。まぁその問いに答えるのなら、これまで蔑ろにしてきた命の倍以上に苦痛を与える為だが?

 

 

 

 

 

オォォォォォォッッッッッッアァァァァッッッッ‼︎

 

グゥアァァァァァッッッッッ⁉︎

 

 

 

 

 

 

 

 それから更に数分かけて波紋を纏わせた拳によるラッシュをハゲに叩き込み……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「永久の闇に堕ちろ……|紅き原初の波紋疾走《クリムゾンプライモーディアルオーバードライブ》‼︎

 

 仰向けの状態で少し浮かせたハゲの土手っ腹に、今出せるありったけの波紋を纏ってぶん殴る。殴ると同時にそのハゲを地面に叩きつけて、更に呼吸の循環を早めて波紋を強くしていく。奴の腹は既にマグマの様に身体がドロドロに溶けて、その腹から地面が見える程に風穴が空いている。

 

 波紋を纏った俺の拳はハゲの身体を貫通して、そしてこの施設の地面に届いた。その瞬間、地面を伝ってこの施設全域に俺の波紋が伝播して、辺り一面に紅いスパークが迸る。

 

ウオォォォォッッッッ‼︎ 全て壊れろォォォォッッッッ‼︎

 

 俺が叫びながら力を更に込めると、紅いスパークがこの施設全体を埋め尽くして……俺の視界も紅に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アルファ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は任務をやり終えて、今回の『ディアボロス教団』の施設があるであろう湖全体が見渡せる場所に来ていた。あの扉に繋がっていた施設は湖の下にある事が分かって、あの施設に残っているであろうアルジがどうやって今回の幕引きをするのかを考えながら様子を伺っていたの。

 

 あの第3戦力が乱入するといったイレギュラー以外、任務は全て滞りなく終わって、イプシロン達も有益な情報を記録に残して持ち帰ってくれたわ。

 

「それにしてもアスタロト様はどうやってあの施設を破壊する気なんでしょうか? アルファ様のお話を聞く限りでは魔力をいつもと変わらず使っていたと聞いていますけど……シャドウ様の様に魔力を爆発させて施設を壊すんでしょうか?」

 

「さぁ、それはどうかしら? 確かにアルジにもできると思うけど……実際に私達が見たのは、紅い鎧を纏った時に取り出していた武器ね。あの大きな砲撃による一撃しか私達は見た事がない……だからそれ以外にも辺りを巻き込んだ、爆発力のある攻撃は持っていると思うわ。ただアルジがそんな大雑把な攻撃をするかどうかなのだけど……」

 

 私が自分の考えを伝えた時、湖に変化があったの。さっきまで月明かりしか映していない綺麗な水面だったのが、底から何か紅い光が溢れ出してきたわ。その光が段々強くなったと思ったら、今度は湖の水を押し上げる程の紅い本流が大きな柱となって私たちの前に現れたの。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいっ⁉︎ あ、あれからは全然魔力が感じ取れないんですが……」

 

 ナンバーズのカイが魔力測定器を手に持ってそう教えてくれた。この測定器はイータが創った物で、私も何度も立ち会っているから数値も信頼が持てる。それに対象を決めて使うことが出来るから、事ある毎に重宝しているわね。そして計測器を見てみると、確かに目の前の紅い柱を捉えて測定を行っているわ。でも数値はゼロのまま動かない……

 

「(あの紅い柱を発生させたのは確かにアルジだという事は分かる。でも魔力が一切伴っていない状態での周りに被害を及ぼす程の範囲攻撃……考えてもアルジが何をやったかなんて分からないけど……)フフッ♡益々あの子の事が好きになったわ♡」

 

「あ、アルファ様がまた惚気て……でも私もそうなる気持ちは分かるかも……

 

 イプシロンが何か呟いた気がしたのだけど、今はアルジが生み出したこの綺麗な紅い柱を目に焼き付けておこうかしら。それで紅い柱が消失したのは、それを私達が目撃して数分後だったわ。柱に打ち上げられた湖の水は、リンドブルムの街を水浸しにした。それも普通の道が川下りできる様な規模で。

 

 その後、リンドブルムの街中を必死な形相で駆け巡りながら復興の手伝いをするアルジさんを目撃したとかしなかったとか……そんな話があったと言います。

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




解説




◾️|紅き原初の波紋疾走《クリムゾンプライモーディアルオーバードライブ》

アルジだけが使える波紋。波紋が使えるという事で、ジョジョの世界にも行った経験あり。
アルジだけが使える波紋であり、真紅のオーラを纏う。また波紋の強度が強いので、発動時並みの吸血鬼が少し触れただけで一瞬であの世行きとなる。

さて、今回で一応4章は終わりです。次回は3回目の後日談を書いていく予定です。

にしても書いていくうちに色々と別作品の物を取り入れたくなったり、期間が空いたりしてオリ主などの登場人物の口調が乱れたり、オリジナルの登場人物が長らく出てなくて主人公達との交流がないように描かれていたりと、読者の方々から見ればあやふやになっている感覚かと思います。その辺り申し訳なく思いますが、こちらも出来うる限り作品のイメージは損なわず、また読者の皆様も面白いと感じられる様に精進して参りますので、何卒宜しくお願い致します。

ではまた次回お会いいたしましょう。
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