陰の復讐者となりて   作:橆諳髃

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前回の話にも書いた様に、次回武神祭編の最初のパートから始めます。にしてもシドさんを出すのは久しぶりですね……まぁオリ主が主体となって物語進行をしていくので当然の流れにはなってしまいますが……

さて、今回は主にアルジさんとラムダさんの話が中心に進んでいきます。どうにか武神祭の最初パートまで持っていきたかったのですが、予定よりもだいぶ長くなってしまったのでキリの良いところできりあげてます。

という訳で34話ご覧下さい。


34話 復讐者、ラムダと親密になる

 

 

 

 俺はラムダに案内されてとある部屋に案内された。勿論ハカマも一緒に連れて行かれているんだが、俺とは違ってスライムで出来た手錠を付けられての状態で……

 

(にしてもまさかこうなるとは思ってなかったな……)

 

 ハカマと再会を果たして、それでハカマに言われるがまま眠っていたら、ラムダがこの部屋に駆けつけてきた事にすぐ気が付いた。その時にすぐ起きればよかったんだが、ハカマの眠りに誘う撫でる手つきには中々抗えず、やっとの事で意識を覚醒させた。

 

 それでハカマの身の潔白を証明する為に、催眠や洗脳の類がないかどうかを調べる装置がある部屋にまできた。これはイータが作ったもので、シャドウガーデンの構成員が何らかの洗脳や催眠を受けてしまった時の事を考えて用意されたもの。

 

(そう言えばこれを作るのに実験を手伝わされたな……)

 

 実験の被害者は主にベータ、“カイ”や“オメガ”と名乗る事を許されたナンバーズの子達で、俺が彼女達に対して強めの催眠術を施したのち、その兆候が確認出来るかと、確認出来たならばそれを装置で除去するといったものだ。最終的には全ての項目をクリアしてこのアレキサンドリアとミドガル王国の拠点にも設置されている。

 

(でもあの時の実験は……今思い返してもキツかったなぁ……)

 

 どこがと言われれば、洗脳や状態異常をかけるのは俺の役目な訳で、それでもしイータが作った装置が上手く作動しなかった時に彼女達を元の状態に戻すのも俺しか出来ない。実験はトライ&エラーの繰り返しだというのは理解しているが、それでも俺が大切に思っている子達に洗脳等の類をかけていくのは精神的にも応えた……

 

(まぁそれがバレてイータがアルファに滅茶苦茶怒られた訳だが……)

 

 あれは俺が途中で止めに入らなかったらヤバかった……だってあのまま行けばイータに金輪際の実験を禁止して違う役職にぶち込む勢いだったからな。その時のイータの顔は正に絶望に打ちひしがれるかの様で、そへが可哀想に感じたから途中で止めた。

 

 結果としては今のイータがある様に、今後は何事も報連相を欠かさない様にとアルファから釘をこれでもかというくらいに刺されて許された。

 

(でも、まさかアルファから許可を取らずに実験してた事にはドン引きしたな……)

 

 俺はてっきり許可を貰ったからこそ堂々とやっていたんだと思っていたし協力もしたんだが……そうでないなら最初からイータの事を諭して許可をもらいに行かせるなりさせていたな。

 

(でもアルファが怒っていた理由が、まさか俺を利用して実験していたからというのが驚いたな)

 

 勿論被害者のベータ、カイにオメガを巻き込んだ事に対しても怒っていたけど……

 

「確かにアルジは万能でなんでもこなせる技能を持っている。それは私も認めているし、イータもそれが分かっているから彼を頼ったんでしょうけど、でも彼は何もやっていない誰かを傷つける事を1番嫌うのよ? それも自分の仲間に対して……アルジはあなたの実験が上手くいく事を願って力を貸したと思うけど、それでも心の底では彼女達に危害を加える様な真似は嫌だったはずよ。その事を……しっかり認識してちょうだい」

 

 とこんな風にアルファはイータに説教をしていた。それを聞いたイータもハッとした顔になって、泣きそうな顔になりながら俺に謝ってきた。正直どんな状況かも分からないまま実験に手を貸した俺も物凄く悪いのだが……そう思った俺もイータに謝って彼女の謝罪を受け取った。

 

 その後はイータもちゃんとアルファに許可をもらって実験を再開した。勿論ベータ、カイ、オメガの3人にも謝罪をしてたし、もし3人がこれ以上実験に付き合いたくないと言うなら無理に付き合わせない事も約束した。

 

(まぁそうなったら俺が身体を張って実験の被験者になるが……)

 

 確かにイータの実験は危険が伴うものばかりだが、それでも完成したら役に立つのが殆どだ。この世界は近代ヨーロッパの雰囲気が強くて、俺が元いた世界とは違って魔力があるから、近代ヨーロッパよりも更に発展した文化と生活水準である事は間違いない。

 

 でもそれは都市部に限っての話が殆どだったりして、隅々にまでは行き渡りきれていない。だからイータの研究が今後のこの世界の多くの人達に行き渡って、それが少しでも幸福に繋がる道になるというのなら、俺は幾らでも力を貸したいと思った。

 

 そんな思いもあって、もし実験に協力してくれる人が今後見つからないのであれば、アルファを説得して俺が幾らでも身体を張ると言ったんだ。でもそれを聞いてベータ達が……

 

「そ、それだともしアスタロト様の身に何かあれば、シャドウガーデンの要が無くなるに等しい事ですっ! ですから実験をするというのなら変わらず私達が協力しますから‼︎」

 

 と言ってきた。正直そんじょそこらの事で俺が傷付く事は無いけど……でも彼女達の心遣いというか決意の表れと言った方がいいのか? ともかくそれを無碍にするのも憚られたから、その後は変わらず実験を再開したな。

 

 それで数日後にようやく完成したそれは、動作もしっかりしていて不良な所も無いと判断された。実験の最後に、強力な毒を食らった状態だったり自分自身に変な暗示をかけておかしな精神状態に陥った俺で試したからな。その性能は普通に太鼓判を押せるくらいの出来だった。

 

 とまぁ、そんな過去があった訳だ。それで俺の事をその装置に繋げて催眠術の類が無いかどうかを調べられたけど、結局は何もされていないという結果になって、ラムダも安心したみたいだったな。

 

「なんか変な心配をかけてしまったみたいだな」

 

「い、いえ! 私としてはアスタロト様に何事も無かったと分かったので一安心です‼︎」

 

 俺が謝ると、ラムダはいつもの様に直立不動で言葉を返して来る。

 

(だけどハカマとの関係はどう話すかな……)

 

 ハカマの方は、さっきのラムダとのやり取りで俺の状況が分かっている為なのか俺に説明を一任している。でもハカマが言った事は正しい事なんだよなぁ……

 

(確かにこの世界ではラムダが言う様に、彼女と旅をした事はないし、記録にも残ってはいない。俺とハカマの頭の中以外は)

 

 だからどう説明したものやら……

 

「(う〜ん……少し無理矢理ではあるが……)そう言えばさっきの話の事だが、俺とハカマの関係性を聞いていたんだよな?」

 

「ハッ! 私がその者を問いただしている最中でしたが、その時にアスタロト様がお目覚めになられて」

 

「あぁ。それで俺とハカマの関係だが、これは事実だな。昔彼女と共に旅をしていたよ」

 

「っ⁉︎ で、ですがこちらにはその報告は一切、影も形もない入っておりませんが……」

 

「それは当然といえば当然の話なんだよな」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「今から俺が言う事は、ラムダ達からしても全く理解の及ばない内容になる。でも俺からすればそれが真実だって事を……頭の片隅にでもいいから入れて欲しい」

 

「そ、そう……ですか。分かりました」

 

「あぁ。それで俺とハカマがいつ一緒だったかについてだが……夢の中で一緒にいたんだ」

 

「……はっ? ゆ、夢の中でありますか?」

 

「突拍子もない事だというのは俺でも思う。だが実際に俺は、寝ている最中に彼女と出会っていて、こことは全く違う世界を旅していたんだ。全人類を滅亡寸前にまで追いやった元凶を取り除く為に」

 

「ゆ、夢の中でもアスタロト様は戦っていた……と?」

 

「簡単に言ってしまうとそうだ」

 

 そこから先は詳しい事を省略しつつラムダに話していった。まぁ聞いている本人からすれば信じられない話に違いないが、俺としては夢で旅をしてきたの部分以外は事実だ。

 

(本当の事を言えればどれほど楽なんだろうな……)

 

 実際本当の事を話すかも頭を過ったが、それだと余計に混乱させてしまうだろう。勿論ラムダの事は信頼している。信頼しているが……やはり俺の過去を語るのはどこか怖いと感じてしまう。まぁ夢の中で旅をしていたという設定も中々危ない橋だと思うが……

 

「……私からすれば俄に信じがたい話ではありますが」

 

「そんなの俺だって思うよ。そんな話が現実にあるわけがないと……だが経験をしている身としては、この話でしか彼女の身元を保証する事が出来ないな」

 

「そう……ですか」

 

 彼女もなんとか納得しようとしているが、いくら俺の話だとしても信憑性がイマイチだというのは本当の事で……

 

(……ならいっそ俺の記憶を見せるか)

 

 この場で俺に洗脳の類がかかっていないと証明されている。だからラムダに俺とハカマが旅をしてきた記憶を見せれば、彼女も納得はしてくれるんじゃなかろうかと。

 

(あぁ、それが1番ややこしくもなく納得しやすいだろう)

 

 そう思った俺は自分の額に掌を軽く当て、ハカマと一緒に旅をしてきた記憶を思い浮かべていく。俺がその世界に降り立った時、ハカマと出会って、そのまま一緒にその世界を旅して回った事。他の人達と出逢いながら、その世界を蝕んでいる元凶を葬り去った事。その後は自由気ままに旅をして、その世界を離れた事を……

 

「大体こんなところか」

 

 細かい部分は省きつつ、思い浮かべた記憶をコピーして白い球体を作る。それを亜空間から出した懐中電灯みたいな者に吸わせて、完全に吸い取らせた後に懐中電灯のスイッチを入れて壁に向けたんだ。

 

「っ⁉︎ こ、これがアスタロト様の記憶でございますか⁉︎」

 

 ラムダが驚きの声を上げる中、壁に映し出された俺の記憶はどんどん動いていく。そこには当然ハカマの姿や、もう1人俺と一緒に行動をした子が映し出される。そして遭遇した敵との戦う場面や、元凶を俺の一撃を持って滅ぼした場面。そしてその後のアフターフォローなどひととおり流した。

 

 それで最後まで流し終えてラムダの方を向くと……

 

「なんと……なんと‼︎ ま、まさかあれがアスタロト様の本気なのですかっ⁉︎」

 

 うん、凄く興奮していたね……確かに俺はこの世界に来てあまり本気を出した事はないし、出したとしても精々1〜2割が最高かな? 

 

(といってもこの時も最大3割弱ぐらいだし……)

 

 今では頻度が少なくなったが、まだ俺が女神様と契約をし始めた頃の話、自主訓練で何をしてもビクともしない空間を作ってもらい、そこで戦闘訓練をしていた。勿論女神様達にも協力してもらって今の俺の強さがある訳だが、ここでふと思ったのは俺の限界は今どこらへんになるのだろうか、と。それで俺が思う最大の一撃を用意してもらった敵に放ってみたら……

 

(あぁ、空間が幾重にも壊れて次元の狭間がそこかしこに出来たな……)

 

 それを知って女神様にはしこたま怒られたな……あの空間を元通りにするのに何十年かかると思っているんですか、と。

 

 あの世界では、多少のことならばすぐに元通りになると言っていた。だが俺の放った一撃でボロボロになった空間は、空間の修復に長けた神様が全力で直そうとしても数十年かかる結果という……

 

(なら地上でそれをやったら最悪世界が滅ぶんじゃない?)

 

 だからこそ俺は自信にリミッターをかけている。なに? マルコシアスの時にリミッターを外していなかったかと? あれはマルコシアス自身に付けた物だ。俺自身に科せた物じゃあない。

 

(まぁマルコシアス以外もだが、あのリミッターはまだ1段階残ってるし……)

 

 特にアスタロトオリジンは俺の愛機だから、計3段階のリミッターを付けている。言うなれば、ビクともしない空間を壊してしまったのが愛機での本気の一撃だった訳だが……

 

 後俺は短気だ。その証拠に、俺の大切な人が傷付いたり傷つきそうになった時にブチギレる。だからその反動で本気にもなりやすくなる。まぁその短所が分かっている為に、俺は自分が怒り狂った場合でもある一定の数値まではいかないようにその部分にも制限を課している。

 

「まぁそう捉えても良い。あんな世界に害悪しかもたらさない物は最初から本気で潰すに限るからな」

 

 ただここで馬鹿正直にあれが全力じゃあないと言うのも面倒だから、適当に繕って言っておく。

 

 それでどうにかハカマについての誤解は解かれた。これで一件落着か……と思っていたら

 

「その……今回私のせいでアスタロト様の貴重な休息時間を邪魔してしまいました。ですのでその罪滅ぼしをさせていただきたいのですが!」

 

 と、言われてしまった。俺は別に気にしていないと言ったんだがそれでも引いてくれず、仕方なくラムダからの罪滅ぼしを受け取ることにしたんだが……

 

「そ、その……アルファ様の様にはいかないと思いますが……私の膝枕を堪能していただけたら……と。た、確かに元軍属てしたので……硬く寝心地も悪いかもしれないとは思うのですが……」

 

(な、なんかラムダがここまで赤面するのなんて珍しいな……)

 

 いつものラムダとは違って言葉に覇気が伴っておらず、不安が混ざっている感じがした。でも彼女が思い切って言ってくれた事だ。

 

(なら俺もそれに答えるしかないだろ?)

 

 俺はラムダに膝枕をしてもらう事になった。場所はラムダの使っている個室でしてもらったんだが、その個室にも初めて入るから少し緊張が伴う。入って部屋を見渡せば、整理整頓がしっかりとなされていて、部屋の片隅には自己鍛錬の為か筋トレ器具も置いてある。

 

「あ、アスタロト様……どうぞこちらに」

 

 ラムダは1番上に羽織っている物を脱いでベットに腰掛ける。いつもその羽織越しでしか見てなかったからではあるが、ラムダもアルファ達に負けない程にスタイルが良い。まぁ元軍属で今もシャドウガーデンの教官を務めているからな。当然の話なのかもしれないが……

 

 俺はラムダに誘われて彼女の横に座って、そこからゆっくりと身体を彼女の方へ倒していく。いよいよ俺の頭が彼女の太ももに到達する。そこで俺が思った事は……

 

(あぁ……気持ちが良い)

 

 ラムダは自分の膝枕は硬いから寝心地が悪いと言っていたが、そんな事は一切感じられない。確かに元軍属という事もあって引き締まっているけれど、そこに筋肉をカバーする女性特有の柔らかさがあって……

 

「そ、その……どうですか?」

 

「あぁ……とても良いよラムダ。自分では卑下してたと思うけど、そんな事はないし寧ろ良い具合だと思う」

 

「そ、そうですか‼︎ よ、良かった……で、ではこちらもアルファ様の様にはいきませんが、頭を撫でても宜しいですか?」

 

「お願いしても良いかな?」

 

「は、ハッ! イェッサー‼︎」

 

 ラムダに頭も撫でられて、ぎこちなさはあるけど初めてにしては気持ちよく感じる。それを感じ取ってさっきの眠気が復活してきたのか、俺はいつの間にか眠りについた。

 

 因みにハカマもラムダと一緒に眠りについた俺の頭を撫でていたと聞いた。それでハカマの処遇についてはシャドウガーデンの預かりとして、その後本格的にどうするかを本人に聞く予定の様子だ。まぁ彼女曰く、俺がここにいるのなら組織に入ると言っているけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ラムダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ま、まさか私がアスタロト様に膝枕をする日が来るとは……)

 

 こんな事をするとは全くもって考えて来なかった。第一にアスタロト様はアルファ様の恋人であり未来の夫になるお方で……他にもベータ様にガンマ様もアスタロト様の恋人関係になったと聞き及んでいる。また他の七陰の皆様もアスタロト様を気になっていらっしゃる……いやほぼ全員がアスタロト様の事を狙っていると言っていい。

 

(そんな中で私が七陰の皆様を差し置いて膝枕をして良いのだろうか⁉︎)

 

 今回の事は、いかにハカマという存在が怪しかったからといってもアスタロト様を無理矢理起こしてしまうかたちとなってしまった。その事が自分としては申し訳なく思って膝枕を申し出たのだが……

 

(わ、私の様な硬い太ももでも大丈夫だろうか?)

 

 アルファ様達の様にバランスの良いスタイルとそれに相まった肉付きは、世の女性からすれば喉から手が出る程欲しい物だろう。実際にアスタロト様がアルファ様に膝枕をされて大変気持ち良さそうに眠られていたところを数回見た事がある。

 

(それもアルファ様みたく、奇跡に等しい黄金比の身体があってこそだ。それに比べ……)

 

 私はシャドウガーデンに入る以前から長らく軍属に身をやつしてきた。その為に戦闘に特化した肉体になっている訳だが……当然世の女性と比べて体脂肪率も低く、逆に筋肉量や筋密度は平均よりもかなり高いだろう。

 

(そんな女性の膝枕を……果たしてアスタロト様に満足してもらえるだろうか?)

 

 こんな事を考えているが、既にアスタロト様を自室に招いていて、私はベットに腰掛けている状態だ。今更違う事で償いたいとは言える訳もなく……

 

(えぇいっ! 私ともあろう者がいつまでウジウジ考えている! 覚悟を決めろっ‼︎)

 

 内心でその様に自信を鼓舞して、いよいよアスタロト様の頭が私の太ももに……

 

(んっ///こ、これがアスタロト様の……)

 

 私の膝枕に頭を預けて下さるアスタロトの顔は……とても穏やかな笑みを浮かべていた。こんなにも硬い枕だというのに……

 

 そう思っていたものの、直接アスタロト様から良い具合だと言って下さって、それを嬉しく思った私は頭を撫でて良いかの許可が自然と口に出ていた。従来では考えられない事だが、アスタロト様からも頭を撫でて良いと言われた私は……恐る恐る手を伸ばした。そして初めて私は異性の頭を撫でたのだ。

 

(あっ……や、柔らかい……)

 

 傍目から見ればとても刺々しく硬いのだろうと思い込んでいたアスタロト様の髪は柔らかくて、撫でている自分もとても気持ちが良いと感じた。

 

(そ、それにしても私は上手くアスタロト様を癒せているだろうか……)

 

 なにぶん誰かを褒めた記録などあまり無いし、その際に頭を撫でるといった行為もあまりした事がない。それも異性に膝枕をすると同時に頭を撫でるなど……

 

(そんな憧れなど、とっくのとうに捨て去ったはずだったが……)

 

 元々私の生まれが軍属でもあり、厳しく育てられてきた。勿論作法については徹底的に叩き込まれた為に、そこら辺の貴族よりも出来ると自負してはいるが……その貴族達の令嬢の様に蝶よ花よと呼ばれる類は一切経験して来なかった。

 

 確かに少しだけそんな経験をしてみたいと考えた事は嘘では無いが、それでも将来立派な軍人になる為にとそれも切り捨てた。

 

 だが今アスタロト様を膝枕しながら頭を撫でていて……私は自身の内側から心地良さを感じる。そう思いながら撫でていると、いつの間にかアスタロト様は眠りについていた。

 

……かわいい(っ⁉︎ い、今私は何を口走った⁉︎ あ、アスタロト様の事が可愛いと……そ、そう口走ってしまったのか⁉︎ な、なんたる不遜を……)

 

 自然と口に出してしまった言葉に私自身混乱していた。だが私は更に混乱する事になった。それは……

 

「んん〜……」

 

(っ⁉︎/// あ、アスタロト様が私の腰にだ、だだだ抱きついてっ⁉︎///)

 

 先程まで上を向いていたアスタロト様の顔は、身体ごと私の方に向いてきた。それと同時に私の腰をアスタロト様のまるで抱きついてくる様に腕を回してきて……

 

(そ、それにアスタロト様の顔が私のお腹に密着して……んっ⁉︎///)

 

 その時点で私の撫でる手は止まってしまい、アスタロト様の息遣いが私のお腹にかかる感触で今更ながら恥ずかしさが込み上げてくる。そんな恥ずかしさと一緒に、今まで生きてきて感じた事がない感覚も感じられて……

 

(こ、こんな感覚……初めてで……)

 

 自分自身どう収集をつけるかも分からなくなった時、私の手が白い肌をした手に優しく掴まれる。

 

「どうか落ち着いて下さい」

 

「は、ハカマ殿……」

 

「アスタロトがこの状態に入っているという事は、あなたの膝枕そして頭を撫でられる感触が気持ち良かった事を意味しています。その事であなたの心情などがとても混乱しているのではないかともとれますが、今はアスタロトの頭を撫で続けてくれませんか?」

 

「……承知した」

 

 そう言われた私は……内心で渦巻く感情に未だに整理を付けきれずにいるが、ハカマ殿に言われた様にアスタロト様の頭を撫でる。そうすると自然と……私の中で込み上げてきた感情は落ち着いてきた。それを自覚してアスタロト様を見れば……安らかな表情と寝息を立てながら眠っている事に気付く。その表情を見て私は……

 

(あぁ……アスタロト様のこの表情を守って差し上げたい……)

 

 私の様なものが烏滸がましいと……そう思ってしまう。思ってしまうがそう感じた事も事実だ。それと同時にアルファ様もアスタロト様を膝枕している時はこんな想いを抱いているのだろうと自然と考える。

 

(アスタロト様……私は一生貴方の元で誠心誠意尽くします。例えどの様な敵が貴方の道を阻もうとも……不肖ながらこの私が切り開いて見せます‼︎)

 

 ラムダが心の中で決意した事は……アルファがいつかアルジに言った言葉と一緒だった。そんな事を知らないラムダであるが、自分の心から湧き出たその言葉の強さと決意は、彼女の指導する新兵達をさらに強靭にしていく事は勿論の事、彼女自身を強くしていくものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急な事で申し訳ありませんが、私もアスタロトの事を撫でても良いですか?」

 

「あっ……あ、あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラムダに膝枕をされて寝ていると、いつの間にか夕方に近い時間なっていた。

 

(って……まさか俺ラムダの邪魔をしたんじゃ……)

 

 度々俺もここに来て新兵の子達の訓練を見ている。そして今頃の時間帯だと夜間任務を想定した訓練に入っている筈で、その時も必ずと言って良いほどラムダが見ていた。

 

 だが今回は別で指導を取れる子に任せている様だ。その理由は勿論俺が彼女の膝枕で眠ってしまったからであり……正直丁度良い時間になったら俺の事は気にせずに新兵の方に行っても良いと思ったんだが……

 

(……またいつもの寝癖の悪さかよ)

 

 アルファとよく添い寝をする様になって(彼女から一緒に寝ようと誘われたり、俺が寝てたらいつの間にかベットの中に潜り込んできたり)分かったんだが、どうやら俺の寝相はとても悪いらしい。その時は決まってアルファに抱きついて寝ていて、それもかなり密着している。まぁ好きな人同士で抱きしめ合いながら寝る事については、世の同棲しているカップルや夫婦の間では普通の行為なんだろうが……

 

(それにしたって俺の場合は酷すぎる……)

 

 何が酷いかといえば……アルファを抱きしめた時の腕の位置だ。普通背中とか首、頭とかに回すだったら理解できるが……俺の場合は腰の下の位置とか臀部とか何かと下半身に近い位置が多い。もうこれだとスケベ親父と言われても仕方ないくらいだな……ハァ〜……

 

(でも何故かアルファはそれに対して嫌な顔をしない……それどころかもっと強く抱き締めてと言ってくるんだよなぁ〜……)

 

 まぁその時は流石に羞恥心が平常運転だから断っているが……

 

 んで今回はどうやら寝ている間にラムダの腰に抱きついて寝ていた様で……それで動きたくても動けなかったんだろう。だからそれの事で謝ろうとしたんだが……

 

「いえ、アスタロト様が謝る事は何もありません。寧ろ私の方が色々と気付ける事が多い時間でした! それに貴方様に益々お仕えしたい気持ちが強くなりましたし……そ、その! またアスタロト様に膝枕をしても良いですか?」

 

 と言われてしまった。正直俺の事を膝枕して何に気付けたのか疑問なのだが……

 

(その答えの一つとして俺の寝顔がとても変な物だったとか、そんな回答が返ってきたら恥ずか死ぬ気持ちでいっぱいになりそうだ……)

 

 まぁ今回ラムダに迷惑をかけてしまったなと思ってしまった俺は、夕方からの新兵の子達の訓練を手伝う事にした。ラムダからはとても助かりましたと言われたけど、元はと言えば本来彼女がこなすはずだった予定を崩してしまったので、こちらが謝りはすれど感謝される事はしていないと思ってる。

 

(でも純粋な感謝を断るのはラムダに悪いからな)

 

 そう思った俺は彼女からの感謝を素直に受け取る。訓練が終わると、既に日が山の向こう側に隠れるぐらいに時間が経っていたから、そろそろお暇しようと思ってラムダに声をかけたんだが……

 

「その、今回はこちらに泊まって行かれませんか? その、今後の事で話したい事もありますし、それ以外の事でもアスタロト様の事を知りたいなと思ってしまって……後はハカマ殿も目覚めたばかりでありますし……本日だけでも彼女の側に疲れた方が良いのではないかと勝手ながら思い……あ、アスタロト様がこの後別件があるのであれば無理にとは言いませんが‼︎」

 

と、ラムダとしては珍しい事に俺の事を引き留めてきた。訓練の様子を見て欲しいとか指導して欲しいという理由でそんな事はあっても、個人的な理由でというのは初めてだったな。

 

(まぁ偶にはそんな事があっても良いな。さて、明日は武神祭の予選登録の日だからな……正午までにはミドガルに戻るとしようか)

 

 夜遅くまで彼女と語らったりするのは難しいが、それでも俺が見えていないシャドウガーデンの事を知ってる事があるかもしれないし、そもそも彼女のプライベートは全くと言って良いほど知らないから、こちらとしても良い機会になるだろう。

 

 そんな事を思いながら今日はアレクサンドリアに泊まって、ラムダと訓練の仕方やプライベートな事を話したり、残った時間はハカマと過ごしてその日は終わった。振り返ってみると今日1日は良い日だったなと思う……

 

(でも寝る時にハカマがベットに潜り込んでこようとするのを阻止したのは流石に疲れたな……)

 

 向こうにいた時はなんかなぁなぁで添い寝とかもしていたけど、今の俺は健全な一般男性と同じ羞恥と感性を持っている。確かにハカマと添い寝する事は嫌って訳じゃない。寧ろ安心感を覚える。だが今の俺がなんの決意や覚悟も持たないままなぁなぁでしてしまうのは……俺の精神的に参ってしまう事があるので、ハカマには悪いが丁重にお断りした。

 

(この仕様……どうにかならねぇかな……)

 

 アルジさんはそう思っているものの、この世界に降り立った時点で付与されたもので……そしてそれは女神様が良かれと思って付与したものなので、アルジさんがこの世界でどれだけ時を過ごしたとしても改善する事はおろかマシになる事もありません……

 

 

 

 

 

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