1月途中から私事が重なったり、今週には定期考査を控えていたりと忙しなかった事もありつぎはぎで書いてありました。
読者の皆様方にはお待たせしてしまい申し訳ございません!
今朝方42話が出来上がりましたので、読んで頂けたら幸いです!それではどうぞご覧ください。
「しょ、勝者! ユーリ・ローウェル‼︎」
審判からの声で俺が勝った事を告げられた。さっきまで罵詈雑言を放っていた観客も、最後俺が放った一撃を見てか唖然としていた。
「(さて、とっととこの場から立ち去りたいというのもあるが……)アンネローゼさんを医務室に運ぶか。審判の人、早く担架をもってきてくれないか?」
「は、はい!」
まぁ負傷者を医務室に運ぶ為の準備は早くからしていて、既に出入口には担架と医務員がスタンバイしていた。それで担架を持った医務員がアンネローゼさんを担架に乗せていたんだが……
「あぁ、運ぶのは俺がやるよ」
「はっ? ですが試合後で疲れているのでは……」
「あの程度じゃ全然疲れねぇよ。それにこの試合でここまで真摯に戦ってくれた人に対して敬意を払いたい、というのは当たり前だからな。つー訳でここは俺に任せてくれるか?」
「は、はぁ……そ、そこまで仰るなら……」
「それと手当ても俺がしておくから、それまでの間は誰も通さないで欲しいって事は出来るか?」
「えっ? まさか怪我した相手の手当ても出来るのですかっ⁉︎」
「ん? まぁ戦場に身を置く上では当たり前の技量だと思うが……ともかく出来るか?」
「わ、分かりました……その様に手配をします」
「助かるよ」
それで俺はアンネローゼさんを担架に乗せて、そのまま医務室に運んだ。本当はいつもの様に運んだ方が楽なんだが……そうするとアルファがこの前みたく怒ってしまうかもしれない。確かに彼女の怒っている姿は……どことなく可愛いんだがな……あまり怒らせたくもないって思っている事は確かだ。
とりあえず俺はアンネローゼさんを担架に乗せ、担架を横に水平な状態で持ち上げて医務室へと運んだ。
医務室に運び終えると、備え付けのベッドに移して彼女の状態を見る。彼女の強い意志もあって、あの場で出せるギリギリの本気を叩きつけた。だから身体に打撲が少しあるが、日常生活や通常鍛錬には支障がない。
(それでも完璧に治して見せるがね)
彼女の鎧を脱がせて、衣服の上から魔力を流す。すると打撲を負った箇所は直ぐに治った。後は彼女が目覚めるのを待つだけの状態なのだが……
「うぅ……ここは……」
「おっ? 目が覚めたか」
「ゆ、ユーリ・ローウェル……そう、私はあなたに負けてしまったのね」
「結果としては、な。でも俺の中では、この大会で戦ってきた人達と比べて強い部類だと感じたぜ」
「でも……私はあなたの本気を少しも出させる事が出来なかった。私の強さに合わせて力量を調整していた……のよね」
「……そうだな」
「そう……過去にベガルタ七武剣に数えられていたとはいえ、あなたの純粋な力、技術……それと精神には歯も立たなかった。年も私とあまり変わらないのに……どうしたらそこまでの強さに至れるの?」
アンネローゼさんから真剣な眼差しを向けられる。にしてもこういった質問は、アレクシアさん以来の様な気がするな。正直俺は……そうならざるを得なかったとしか答えを持ち合わせてはいない訳だし……まぁ俺の中にある答えを濁さず正直に言うしか選択肢を持ち合わせていないから言うだけだが……
「そうならなければいけなかった。そうしなければ俺の守りたいものを守れなかったから。だからこそかもしれねぇな」
「守りたいものを?」
「あぁ。誰だって何かに執着すると思う。例えば、富や名声とか、あるいは誰にも負けない純粋な力とか……な」
そういう奴にはこれまで嫌というほど会ってきた。中には自分の築いてきた地位を脅かされない為に、はたまた自分達に大義があると思い込んで、関係ない多くの人達を大勢巻き込む奴らとか……
(思い出しただけでも吐き気がする)
「ど、どうしたのですか? そんな顔をして……」
「ん? あぁなに、少し嫌な事を思い出しただけだよ」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。そこをアンネローゼさんに心配……されたのかな?
(怪我人に心配されるほど顔色が変わってたか……俺もまだまだだな)
そう思った瞬間、俺の左頬に何か温かい感触……いや何かに優しく触れられている感覚がした。そこに意識を向けると、アンネローゼさんが少し上体だけ起こして俺の頬に手を当てていた。
「その……急にこんな事してごめんなさい。でも……何故かあなたがさっき浮かべてた顔が儚げで……」
「それって慰めてたりとかの類だったりする?」
「っ⁉︎ ご、ごめんなさい! これまで剣の腕とかを磨いてばかりだったからその辺が疎くて……」
「いや、嬉しく感じたくらいさ。逆に気を使わせてすまねぇな」
(っ⁉︎/// 凄い綺麗な笑み……)
「ん? どうかしたか?」
「い、いえなんでも! ただ戦った時の笑みとは違ったから驚いてしまって……」
「あぁそういう……」
「そ、それで私決めたんですけど!」
「んぉっ⁉︎ ど、どうした急に」
「私はベガルタ七武剣の地位を捨てて、自分の剣の腕を鍛える為に武者修行をしてきました。今回の大会だって、自分がどれほど実力があるのかを試し違ったから出場したんです。でもあなたに会って……まだまだ上がいることを知りました。そしてあの試合で見せてくれたあなたの剣が……とても綺麗に思えたんです!」
(あっれぇ〜……なんか既視感を覚えるシチュエーションなんだが……)
「ですから……どうか私を弟子にしてくれませんかっ⁉︎」
俺の手を両手で取りながらそう懇願してくる彼女の瞳は真面目そのもので、多分俺が何も言わずにどこかへ行っても追いかけますと言わんばかりの気迫も感じられた。
だが俺の今の姿は借物の姿であり、ユーリ・ローウェルという人物は本来この世界には存在しない。まぁ名前が似ている人はいるかもしれねぇが、それはそれとして……
(こんなに真面目に懇願している人をそのままにするってには……俺としては後味が悪いよな)
いっそのことアンネローゼさんもこちら側に引き込むか……そうすればこうして悩む事もないわけで、まぁアルファ達には相談するが。
「や、やはり私があなたの弟子になるのはダメ……でしょうか」
(うっ……そんな目で俺を見ないでくれ……っ!?)
これじゃあまるで俺が捨てられた子犬を見つけた俺が、何もせずにそのまま立ち去る……みたいな感じになるじゃあねぇか!? はぁ……もうどうにでもなれ……
「わ、分かった。少し……時間が欲しい。最低でも今日中に答えを出す。だから今日はこのまま試合会場にいて欲しい」
「っ! わ、分かりました!」
そうして俺は救護室を後にした。アンネローゼさんと話し合っている最中にも試合は進み、後2試合した後にはアルジ・カゲノーとしての第1試合が始まる。
(というより……俺が聞いていた話と違うな? あの日受付のお姉さんから聞いた話では決勝に進めるのは4人だけだと聞いたんだけど……俺が聞き間違えたのか?)
結論を言うとアルジの聞いた話は聞き間違いではなく、受付をした者が若干ニュアンスを間違えて話していた。正しくは1ブロック4人を決勝に進ませるというもので、今回の武神祭は参加人数が多く出た事によって、例年よりも多く決勝に出さなければならなくなったとの事で……
そして今回は3ブロックから決勝進出者をそれぞれ4名出すとの事で……一般参加の魔剣士12名と、前回の優勝者であるアイリス・ミドガル、初代武神祭優勝者である剣聖、ベアトリクス。そして魔剣士学園側で出場権を獲得したアルジ・カゲノーとローズ・オリアナ。計16名による決勝トーナメントに今大会はなったのである。
だが今回オリアナ王国宰相を殺めようとした罪でローズ・オリアナは試合資格を剥奪され、その代わりにアルジと準決勝で戦ったクレア・カゲノーが代わりとして出場することとなった。
(それを後から聞いて、最低でも明日にならなければ結果は分からない……ね)
まぁ仕方ないといえば仕方ないし、まずアンネローゼさんの件をアルファ達に相談するか……自分が今変装している事をバラして良いかも込みで……
まぁ結構な反対意見とか返ってくるだろうな〜……と思いながら、アルジはアルファの下へと向かった。
side アルファ
アルジとアンネローゼっていう子の魔剣士の試合が終わった後、彼は少し経ってから私達が観戦している部屋まで来たわ。
なんでも相談事があると言って、彼の顔はいつもに比べて凄く悩んでいた様だった。それで話を聞くと、あの試合の後アンネローゼに弟子にして欲しいと頼まれてしまったみたいで……
(はぁ〜……全くこの子ったら……)
人タラシの才能がある……という事は前々から分かっている事だけど、でもなんでこうも女性ばかりが集まるのかしら? 確かに男性もいつのまにかタラシ込んでいるけれど、それに比べれば圧倒的に女性率が高い。
「その……アルファ達に迷惑がかかるっていうなら……俺も無理には言わないし、アンネローゼさんには謝るから……」
私達の事を気遣っての言葉だと、これまでの長い付き合いで分かったわ。
(でも……彼の目が悲しそう……)
まるでお気に入りのオモチャを横取りされてしまった様な……そんな悲しい目。
(あぁ……そんな目をする貴方見ていると……)
彼の事を抱きしめたくなってしまう。この場には私とアルジ以外で他の七陰がいるけれど、皆も私とアルジの仲は勿論知っている。だからこの場でこの子に抱き付いても何も問題ないと思うのだけど……
(そうしてしまうと……今度は私が耐えられそうにないわね……)
今抱きついてしまえば……我慢できなくなって最後まで彼を離したくなくなると思う。
「あ、アルファ? や、やっぱり……駄目……だよな」
「(っ⁉︎ ふ、深く考え込んで何も返事が出来ていなかったわ……)少し考えていたの。アンネローゼ……だったかしら? 彼女の事は……」
「あぁ、もちろん覚えているさ。何たってカイがベガルタ七武剣から引き摺り下ろされた事で彼女がその席に着いたんだから」
そう、アルジの言う様にナンバーズのカイは元ベガルタ七武剣の1人として活動していた。そしてディアボロス教団のチルドレンとしても……
でも彼女が悪魔憑きとなってしまってからは、教団側は彼女を亡き者にしようとした。そして彼女の家も取り壊し、一族郎党も亡き者にしようとしていたの。まぁそれもアルジによって阻止されたわけだけど……
それでカイの一族が今どうしているかというと、オルバさんのところで後方支援しているとコトハから聞いたわ。今では新しく入った新人の世話をしていると聞いて、新しく入った新人達も次第に力を付けているとも話に聞いたわね。
待っていたらただ失われるだけだった命も、彼の手で救われていく。それがどんな状況下であっても、彼はその命を諦めない。
(アルジは自分の手の届く範囲で偶然やれているだけと言っているけど……)
それが常人にとってどれだけ難しい話になってくるのか……まぁアルジは他の人と比べてズレている部分があるから、今更ではあるけど……
「(そんな彼の直感が彼女の事を気に留めているという事は……ここはアルジの考えに任せた方が良いわね)彼女も元はベガルタ七武剣の1人……戦力としては申し分ないし、シャドウガーデンの直接引き入れる事は難しいかもしれないけれど、コトハ達の所であれば問題ないと思うわ。でも1つ懸念があるとすれば……」
「……あぁ〜、なんとなくアルファの言いたい事が分かるな」
「えぇ。彼女は馬鹿という言葉が何個も付くほど真面目だと言う事ね」
「うん……これまで生きてきた中で1,2を争う程に……」
「悪魔憑きの実態や、私達の事を聞いてしまったら……最悪の場合彼女1人で事を起こしそうな気がするの。私達の計画の範囲内なら問題はないのだけど……」
「そうだな……まぁ俺もそんなところがあるから強くは言えないけど……」
「貴方の場合は、例え計画外の事をやってしまったとしても、ちゃんと後始末をしているでしょう? だから私達は貴方のやる事に口を挟む事は無いし、信頼できるの」
「そ、そうか?」
「ええそうよ。だからもっと自信を持ってちょうだい」
そう言いながら私は頭の調子でアルジの頭を撫でた……いえ撫でてしまっていたわね。今の私は、少しでもアルジに触れてしまうとこの子の事を存分に甘やかして、そして自分もこの子に甘えたくなってしまう程に歯止めが効かなくなりかねないというのに……
(あぁ……とても恥ずかしそうな顔をしているわね……このまま……)
そう思いかけたところでアルファはアルジとの約束を思い出し、先に進む事を我慢した。
「アルファ……なんかキツそうだが……大丈夫か?」
「(っ⁉︎ また顔に出ていたかしら……)え、えぇ……大丈夫よ」
「そ、そうか……俺が言えた義理じゃあないが……あまり無理はしないでくれよ? アルファにもしもの事があったら俺は……」
「っ‼︎ えぇ、無理はしてないから大丈夫よ。だから貴方は堂々としてちょうだい」
「……そうだな。ありがとな、アルファ。それじゃあそろそろ行ってくる」
「えぇ、行ってらっしゃい」
そのやり取りを交わして、アルジは部屋から出たわ。それを最後まで見送って、自分の席に深く腰をかけた。
「アルファ様……」
さっきまでのやり取りを見ていたガンマが、私の事を心配してくれたかこちらに駆け寄って来る。それに対して私は大丈夫と言って彼女を安心させるのだけど……
(アルジ……私はもっと貴方と……)
身体の奥底は正直な様で、今すぐにでも私はあの子の事を抱き締めて貴方の存在を身近に感じていたい……そう思っている。
side out
(アルファには何度も迷惑かけてばかりだよな……)
アルファ達のいる部屋から出た後すぐに試合だったから、直で対戦場の真ん中に赴く。相手は一般予選を勝ち残った1人で、1回も見かけた事が無い奴だった。まぁそれもさっさと終わらせたんだが……
(どうやって終わらせたか? まぁ相手が真っ直ぐ突っ込んできたから、それに合わせてカウンターを腹にお見舞いした程度だがな)
俺からしたら普通の速度だったんだが……周りから見れば何が起こったかなんて分かんないんだろうな。やった事は単純で、タイミングを図って相手の鳩尾に剣の柄部分を当てただけだ。後は相手の重量と突っ込んできた速度がその柄に乗った、ってだけの話で……
まぁそれが終わってすぐ、アンネローゼさんのいる医務室に行く途中でアルファの事を考えていた。俺は彼女であるアルファにいつも甘えていると。彼女が寛容であるからこそ繋ぎ止める事が出来た縁が多くあるし、彼女が裏で色々と考えているからこそ、兄さんや俺は自由にやれている。
(だが俺は……そんなアルファに何か返せているだろうか?)
アルファはいつも、俺が昔から彼女達にいつも与えてくれているから、だから自分達もそれに応えるのとは言ってくれている。でも俺からしたら当然のことをしたまでで……それがアルファ達から見たら与えている内容になるかもしれないが……
(でも深く考えすぎると堂々巡りするよな……)
俺の悪い癖だ。ともかく今回アンネローゼさんを俺の弟子にするという名目でこちらの陣営に引き込む訳だが……本当はアルファも嫌だと思っているかもしれない。
だって愛している彼氏が他の女から弟子にしてくださいと頼まれて、それで彼氏はその女の子と付きっきりで教えるってことだろう? そんなのは普通に考えて嫌に決まっている。例え彼女が一夫多妻を許していたとしても……そう言って早くから自分達の陣営とは全く関係ないところに手を出している。それが立て続けに起きて、自分からではなく相手から言い寄ってきたものだとしても、普通は断るだろ。
(でも俺は……強い眼差しをもって何かを願う子を無碍に扱うなんて出来ねぇんだよな)
その事をアルファも分かってて許してくれてる。そんな彼女に俺は……甘えてしまってる。ホント……第三者目線から見たら俺が阿呆に見えてくるな。
「まぁそんな事を今更言っても……俺は直らないんだろうが……」
直らないというより直す気が無い……って事になるが、だからこそ俺は決めたんだ。俺の事を必要としてくれる子を幸せにしてみせるって。
そうこう考えている内に医務室の前まで辿り着いて、部屋の中に入る。当然変装して入っているから、アンネローゼさんの方も不審に思わずに俺に声をかけてくる。
「も、戻って来るのが結構早かったですね?」
「ん? あぁ、まぁな。それで、痛むところはもう無いか?」
「えぇ、どこも痛く無いですよ。ただあれだけ動いたのは初めての事でしたので少し筋肉痛があるくらいで、これも明日には治ると思います」
「そっか。それなら良かったな。それでさっきの話なんだが……」
「っ! は、はい……」
弟子になれるかの話でアンネローゼさんの顔が一気に緊張したものに変わる。まぁ意外と答えが返って来るのが早かったからというのもあるだろうが、やはりどっちになるのか結果が気になるんだろうな。
「(まぁ焦らす内容でも無いから言うけどな……)まず結果から言おう。弟子になる事に関しては大丈夫だ」
「っ‼︎ な、なら私は今から……」
「あぁ、実質的に俺の弟子となる訳だな」
「あ、ありがとうございます! 断られたらどうしようかとさっきまで考えていたので……正直気が気では無くて」
「そう喜んでもらえた様なら、俺も考えた甲斐があったってもんだな。でも喜ぶのはまだ早いぞ? 問題はここからだからな」
「えっ……? も、問題?」
「そう、問題だ。それが何かっていうと……俺の正体と俺の目的だな」
「あなたの正体と、目的……ですか?」
「あぁ。まぁ手っ取り早く簡単に言っちまえば……この世界にユーリ・ローウェルって奴は存在しないって事だな」
side アンネローゼ
私はユーリさんの言った事が理解できなかった。“ユーリ・ローウェルはこの世界に存在しない”……それは何かの揶揄かと思った。
そう思った瞬間には私の口から自然と何かの揶揄かと疑問が投げかけられていた。まぁ揶揄でなかったらただの聞き間違いだろうとも考えたけど……ユーリさんは揶揄でも聞き間違いでもないとハッキリと言った。
それなら一体どういう意味で……そう思っている事が顔に出ていたのか、彼から論より証拠だなと言われながら私は目の当たりにした。彼の輪郭がまるでぼやける様にグニャグニャになって形を変えて……最終的には先程まで目の前にいた彼とは全く違う姿をした子がそこにはいたの。年齢からして魔剣士学園に入りたてくらいの年に見えるけれど……
「それじゃあ改めて……初めまして、アンネローゼ・フシアナスさん。俺はアルジ・カゲノーと言います。地方領主の次男で、今は魔剣士学園の1年です。よろしくお願いいたします」
凄く礼儀正しい子が私に向けて、これまた綺麗なお辞儀をしていた……
side out
俺が本来の姿をアンネローゼさんに見せて数秒くらいだろうか。全然状況が飲み込めていないんだろうな〜、って様子を見せていた彼女だったけど、次第にパクパクと口を動かし始めた。
「え、えぇっと、あの……えぇ〜? さ、先程まで私と接していたのがユーリさんではなくアルジさん? しかも魔剣士学園の1年生で……年齢的にいえば15,6くらいの子で……」
そんな反応になってしまうのも十分に分かるのだが、今はとにかく話を進めていきたい。そう思って俺は少し咳き込む。するとアンネローゼさんも何もない空間に視線を向けながら考えるのを一旦やめてくれた。
「話を続けても良いかな?」
「あっ、えっと……は、はい」
「確かに混乱してしまうよな。弟子入りをしたいと思った相手が、まさかの子供だったんだから」
「い、いえっ! 決してそれだけで混乱していたわけではなく……その、纏っている魔力といいますか、それが全く違っている事にも驚いて……」
「まぁ違う人になりすますのなら、それぐらいやらないと駄目じゃあないですか?」
「そ、それはそうなんですけどって……アルジ・カゲノー……っ! 今年度の魔剣士学園から選抜された子じゃないですか⁉︎ 変装出来ることも驚きですけどどうして変装してまで一般枠にっ⁉︎」
「その答えがこれから話す目的な訳なんだけど……」
そして俺はアンネローゼさんに全て話した。俺が今どこに所属していて何を成すために行動しているのかを……
「……ディアボロス教団、ですか。それに悪魔憑きの正体……まさか裏側でそんな事があったなんて」
「まぁ大抵はそんな反応をしますよ。それでどうします? 今ならまだ無かったことに出来ます。試合の後でユーリ・ローウェルに敗れた後、弟子入りをしたが断られてしまった……って事にも出来ますけど」
「っ⁉︎ まさかあなた……記憶まで改竄できるとっ⁉︎」
「普通に出来ますね」
「……これまでの人生で一体、あなたに何があったっていうんですか?」
「知りたいですか? 聞いてもあまり良くないものになりますけど」
「……聞かせてください。あなたのこれまでの事を」
アンネローゼさんからそう言われて、俺はこの世界で生まれてからの事をかいつまんで話した。馬鹿正直に話すと時間が長くなるし、何より今伝えておくべきことだけを伝えられれば良いなと思ったから。
(それに興味が出たら彼女から聞いてくるだろうし、その時にちょっとずつ話せばいいか)
とアルジさんは考えていますが、今後の付き合いでアンネローゼさんから物凄い勢いで自分の事を聞かれることになろうとは、この時全く、これっぽっちも思っていません。
said アンネローゼ
私は彼の、アルジ君の事を聞いた数分前の自分を殴ってやりたい衝動に駆られた。彼の過去は、他人がおいそれと聞いていいものではないと感じたからだ。もしかしたら彼がところどころ嘘を混ぜていっているのかもしれないけど、そんな根拠はどこにもない。それに……
(彼の眼は正直だった。いぃえ、あれほど真直ぐな視線を私は見たことが無い……)
数年前、突如ベガルタ七武剣の座から追いやられ失踪したカレン郷の事件を追っていた時謎の集団に襲われたことがあった。有象無象ではあったが、私からすれば大したことが無い実力の者たちで、それでも数だけはいっちょ前に揃えてくる。そんな時に失踪したと思われるカレン郷と会った事を覚えている。その時の彼女の瞳も真直ぐだった事を覚えている。謎その場にいたのかを聞いたとき、どこか不思議な言い回しに聞こえたけれども、多分彼女は何かの陰謀に巻き込まれてしまったんだろう。何せその時語っている彼女の瞳は真直ぐであり、嘘をついているようには見えなかったから。そしてアルジ君の瞳もあの時のカレン郷とどこか似ていて真直ぐな瞳だ。そんな瞳を持つ子がこの場で嘘を吐くはずなんてない! それに……
(彼の瞳が……とても悲しそうに見える。まだこんなに若い子なのに)
彼は何も悪いことはしていないはずなのに、どうして彼や彼が思う大切な人が巻き込まれるのか……。そんな彼の目的は……
(復讐……それも彼の大切な人達を傷付けた存在達に対しての……)
復讐からは何も生まれない……そんな言葉を耳にしたことがある。物語の中でもそうだし、実際にも聞いたことがある。でもアルジ君の話を聞いて私は考えてしまった。復讐からは何も生まれないとは言うけど、果たしてそういう人は相手の気持ちを考えていっているのか、そして自分自身もそう思う事はなかったのかと。自分自身もそんな感情をもって、それでも気持ちに折り合いを何とかつけてそう言い切れたのなら、その人のいう事は正しいのかもしれない。
でも逆に何も考えずに……それこそ自分の考えたことこそ正しいと、それを他者に押し付けるような場合なら、私も納得しないと思う。そんな言葉に芯はあるのかと。
(そしてアルジ君は、小さな時から復讐という……芯のあるそれを背負っている)
多分彼の大切な人達も背負っていると思うけど、それでも彼の重荷はまだまだ思いと、私はそう感じてしまった。今日初めて彼に会ったばかりだというのに……
最初はユーリ・ローウェルに弟子入りをしたいという話だったのが、いつの間にか大きな話になったとは思うけれど……
(……えぇ、私は決めました)
私はベットから立ち上がって、アルジくんに近付く。そして彼の手を両手で握った。
「あ、アンネローゼさん?」
「アルジくん。私にも……手伝わせてくれませんか? 貴方のやりたい事を」
「……でも話で聞いていたと思う。俺のやりたい事は、大切な人達を傷付けた奴らに復讐する事だって」
「そうですね。私も最初は弟子入りしたいという目的でした。でもあなたの話を聞いて、あなたの目を見て決めたんです。あなたの力になりたいって。確かにアルジくんから見れば私の実力なんて大したものではないかもしれません。それでも……あなたの手助けをしたいと思っている私がいます」
「そう……ですか。分かりました。ならアンネローゼさんも、今日から俺の大切な人の1人です。あなたが何か困っていたり、助けて欲しいと願うのなら、その時は俺が助けに行きます」
私の手を強く握り返してくれるアルジくん……それがとても暖かく感じた。復讐する事を掲げてはいるけど、彼の手から伝わる温もりはそんな事を感じさせないほど……優しいものだった。
side out
アンネローゼさんを引き込む事に成功した……んだけど、なんかこういったパターンが定着しつつある様な、そんな気もする。正直断られたら、アンネローゼさんには悪いけど弟子入りの話の場面まで記憶を消して、それで断るつもりだった。まぁ彼女の場合はそれでも追いかけて来る様な気がするけど……
その後は弟子入りの事も話して、今後彼女がどこに身を寄せるのかも話して決めた。シャドウガーデンでは難しいと考えた俺は、ここはオルバさんの所に預けようという事を決めて、それをコトハさんの使い魔経由で知らせる。
(えっ? どうやってコトハさんの使い魔を呼び出しているか? 俺が何もない空間に作り出す四次元ポケット経由だが?)
まぁこれも偶然分かった事だが、まぁこの事は今は良いとして、白い兎に今回の事をレポートにして書いて、それを兎に渡す。兎はそれを器用に口で咥えると、そのまま四次元ポケットに飛び込んで行った。
それを見ていたアンネローゼさんが驚いていたけど、まぁ魔力の扱い次第で誰でも出来ると言っておいた。※出来ません……
(取り敢えずは……俺達に賛同してくれる人が増えたって事で良いよな)
「それではアルジくん……不束者ですが、これからよろしくお願いしますね!」
「うん、よろしくお願いします。それとアンネローゼさんの方が年上なんだから、俺に対しては敬語じゃなくても良いよ。後、不束者の使い方間違っているんしゃあないかな?」
ともかく、アンネローゼさんが間接的にではあるけどシャドウガーデンの陣営に入った。
アンネローゼさんがアルジさんの陣営に加入しましたね。取り敢えずいけそうだったら味方陣営に引き込んでいくスタンスは、まぁ手慣れたものになりつつあります。特にアルジさんの人タラシは歯止めが効かない状態ですね……
さて、次回はどうにかローズさんを出せる様に書いていきたいと思っています。それではまた次回お会い致しましょう!