陰の復讐者となりて   作:橆諳髃

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凡そ1ヶ月ぶりの投稿となります!

今回もキリの良いところで終わらせております。
まぁ前回のアルジさんとクレアさんのやり取りは……後から考えるとやり過ぎたなぁ〜……と思ってしまいますが、今の所は今私が考えている路線から大きく外れていないのでこのままで行きます!

という事で、今回の物語も読んでいただければ幸いです!


44話 復讐者、発破をかける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝になった事を、朝日の眩しさで自覚した。

そして目を開けると……姉さんが気持ち良さそうに俺を抱き締めながら寝ていた。

 

 俺の頭の位置は言わずもがなだが、姉さんに抱きしめられている状態は正直嬉しい。

 

(なんでって……なんだかんだ言って姉さんの匂いと温もりが落ち着くから)

 

 でも気になる点が1つあって……それは姉さんの匂いに混じって、どことなく甘い香りがする事だ。

甘いお菓子から漂ってくる匂い……と言われても正直頷いてしまうくらいだ。

 

(でも寝る前はこんな香りしなかったんだが……)

 

 そう思っていると、もう1つ気付いた事があった。

それは俺の右手の指先からも、今感じている甘い匂いが付いているという事で……

 

(だが昨日は特に何もなかったが……)

 

「んぅ……ふぁ……あ、アルジぃ〜……おはよう〜」

 

 考えている内に姉さんも起きた様だ。

まだ少し眠そうにしているけど、そこもなんか可愛いなって感じた。

 

「あぁ、おはよう姉さん。昨日はよく眠れた?」

 

「うん……久々に快眠だったわ……アルジが隣にいてくれたおかげでね♡」

 

「っ⁉︎ ふ、不意打ちはズリィって……

 

「ふふっ♡ やっぱり隣にアルジがいるのといないなとでは睡眠の質が違うわ。ありがとね、アルジ」

 

 そう言いながら俺の頭を撫でてくる姉さんの姿に……いつもは感じないかんかこう……ドギマギとした感覚を覚えた。

 

(これも昨日姉さんから告白されたからだったり……するんだろうな)

 

 にしても姉さんの肌が……いつもよりも潤っている様に感じた。

いや、確かに俺の記憶の中では姉さんの肌は綺麗と言っても過言じゃあない。

だが昨日最後に見た時と違って……ハリも追加されている様な……そんな気がする。

 

「どうしたのアルジ? お姉ちゃんの顔をマジマジと見て?」

 

「えっ? いや、昨日最後に見た姉さんの顔よりも艶とかがあって潤っているなって感じて……それと今香っているのと何か関係があるのかな〜、なんて……」

 

「えっ⁉︎ そ、そうなのかしらっ⁉︎ 私は特に香りとかは感じてないし……でも肌のツヤと潤いが良いのは、さっきも言ったけど久しぶりにアルジが隣にいてくれたからよ?」

 

「そ、そうなんだ……まぁ姉さんが言うならそうなんだよね」

 

「ふふっ、そうよ〜? こうして朝からアルジ成分を補給して〜、アルジの事をうりうりしながら可愛がって〜……本当に今の時間が幸せに感じるわ♡」

 

 そう言いながら抱き締めを強くして、頭を優しく撫でてくる手つきはいつもと変わらない。

 

(まぁ香りと言っても、俺も姉さんとは久々に寝たから……多分それでかな?)

 

 俺の右手の指先がしっとりとしているのは……まぁ今はほっといても良いかな。

どうせそんなに大した意味はないんだろうし……

 

(取り敢えず今日の試合まで大分時間があるし……もうちょっとゆっくりしていこうかな)

 

「あらアルジ……なんだか眠たそうね? 良いわよ。お姉ちゃんの胸の中で……ゆっくり眠って」

 

 姉さんに耳元でそう囁かれて……昨日と同じくまた睡魔が俺の事を襲った。

 

「じゃあ……またちょうど良いくらいに起こして……」

 

「えぇ、分かったわ。おやすみ、アルジ♡」

 

「うん……おや、すみ……」

 

 そうして昨日と同じ状況みたく眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side クレア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ……もぅ……可愛い♡)

 

 私の胸に顔を埋めながら眠っているアルジの顔が……本当に可愛くて仕方がない。

こんな一面を他の人が知ったら……もう誰もアルジのことを手放せないと思う。

 

気持ち良さそうに寝るアルジを……私はいつもの要領で優しく撫でる。

それが気持ちよかったのか、アルジは頭を左右に振って私の胸にスリスリしてくる。

 

「んっ♡もぅ……甘えん坊さんなんだから♡」

 

 そんな姿が愛おしく感じて……もっと甘やかしてしまう。

どうせならこんな時間がずっと続けば良いのに……

 

(でもそんな都合の良い話は……きっと来ないのよね……)

 

 そう……ずっとこの幸せな時間なんて続かない。

だってアルジにもアルジの幸せの形があるし……私がアルジの事を愛しているからって、彼の同意が無ければそれはただ自由を縛り付けているに等しいって……私はそう思う。

 

「んっ……また気分が高揚してきて……」

 

 その高揚感を紛らわせる為に……私はアルジの事を強く抱き締める。

 

(だ、ダメ……歯止めが効かないっ⁉︎)

 

 いつもならアルジの事を強く抱き締めて愛でるだけで満足出来ていたのに……今だと高揚感を抑えることが出来ない。

 

(昨日……アルジが眠っていた事を良い事にあんな事をしてしまったから……)

 

 そしてアルジも……今朝疑問に感じていた筈。

アルジに聞かれて咄嗟に嘘を吐いてしまったけれど……

 

(っ⁉︎ だ、ダメよっ⁉︎ またやったら今度こそ気付かれちゃう‼︎)

 

 無意識に私の手がアルジの手を取って、昨日と同じ事をしようとしていた。

そんな事をしてしまえば……本当にアルジに気付かれてしまう。

 

(うっ……んっ……でも……もどかしい……)

 

 そんな気を紛らわせるように、彼の足の間に自分の足を片方滑り込ませる。

 

「あっ……んぅ……」

 

 少しだけ……高揚感が薄れたのを感じる。

正直昨日の事もあってこれでは満足が出来ないけれど……我慢するしかない。

 

(でも私は……貴方の事をもっと感じていたい……アルジ)

 

 自分の欲望を必死に抑え込みながらも……私はもっとアルジの事を感じたいと思って仕方が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度寝をした後……幾分かスッキリした気持ちで朝食を食べていた。

勿論姉さんの分も作っていて、それでいつもの如く姉さんの距離が近い。

 

(まぁ数日間離れていたら仕方ないか……)

 

 そう思いながら食べ終えて、武神祭の会場へと向かう。

 

「そう言えば昨日はお姉ちゃんも武神祭に出ていたのに、アルジの姿が試合をする時しか見かけなかったんだけど……どこに行ってたのよ?」

 

「えっ⁉︎ あ、あぁ〜……アンネローゼさんの所とか友人のところとか?」

 

「……ホントに?」

 

「本当っちゃ本当の事だけど……」

 

「……そう。それで? 今日はお姉ちゃんの試合は見てくれるのよね?」

 

「そ、そうだね……その時に俺に何も用事が入ってなかったら……」

 

「なによそれ? まるで用事が入る事が決まっているかのような言い草じゃない? ……まさかそれも昨日言ってた隠し事って奴かしら?」

 

「うっ……さ、さいです」

 

「……はぁ〜。全く……いつからアルジはそんなに隠し事をする様になったのかしら?」

 

 はい、幼少の頃からずっとしてます……

 

「まぁ良いわ。とにかく……アルジとお姉ちゃんは反対同士のブロックだから、決勝の時にはまた一緒に戦えるでしょう?」

 

「順当に行けばだけどね?」

 

「あら? 途中でお姉ちゃんが負けるって含みのある言い方じゃない?」

 

「(あれっ? なんか今日はやけに姉さんが食い付いてくるよな?) ま、まぁ……ユーリ・ローウェルって選手の試合を見ていたら……ね」

 

 まぁそれも俺の事なんだけど……

 

「……確かにあの選手は、アイリス様や武神ベアトリクスと同じくらいと言って良いくらいに別格の選手だと思うわ。でも、だからって最初から負けに行くつもりで試合に臨むんじゃないの」

 

「ま、まぁそうだよね……」

 

「えぇ。だからアルジ……お姉ちゃんが決勝に勝ち上がるところを見ていて」

 

「(そう言われたら……うん、としか言えねぇじゃあねぇか)……分かったよ。それと、姉さんが怪我無く勝ち進んで来れる事も祈っているよ」

 

「えぇ! 任せなさいっ‼︎」

 

 2人でそんな会話をしながら試合会場へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アレクシア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜……アイツ何も言わずに立ち去ったわね」

 

 ローズ先輩と地下で剣をぶつけ合った翌日……気付けば私は負けていて、ナツメが私を介抱していた。

私が意識を失っている間にローズ先輩はその場を離れていて、なんで先輩を止めなかったのかをアイツに問いただそうとしたけど……でもアイツにそんな戦力は期待できない事は最初から分かっていたからグッと堪えた。

 

 それで今日ナツメが借りている部屋に行くと……もぬけの殻だった。

昨日別れ際に自分の部屋に来てくださいと行ってきたくせに、来たら当の本人は居なくて……

 

(机の上に意味深な書き置き……ね)

 

 そこには今ローズ先輩を取り巻いているであろう状況が書かれていて……

 

「ここまで分かっているなら……私にぐらい知らせなさいよ」

 

 そんな愚痴をここでこぼそうにも、それに対して返してくれる人は1人もいない。

 

(もしアルジくんがそばに居たなら……)

 

 アルジくんが武神祭に出場している事は理解しているし、彼も彼で何かと忙しく動いている事も分かっている。

それでも彼がそばに居てくれたなら、今回の事もなんとかしてくれたのではないかと考えてしまう。

 

(ホント……都合がいい女よね……)

 

 そう考えたのも一瞬で、私は今自分に出来る事をやろうと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合会場に着いた時、姉さんから一緒の席で見ようと誘われたものの、最初の試合がユーリ・ローウェル対アイリス・ミドガルだった為に、友人と見る約束を〜……と、姉さんにまた嘘を吐いてしまう。

 

(分身で誤魔化せば良いだと? いや……最近の姉さんは勘が鋭くなっている。原因は夏季休暇に入ったくらいに数日間姉さんと一緒にいれなかったことだから……まぁ俺が1番の原因になるか)

 

 結局分身を送ったとしても些細な違和感で分かってしまうだろう。

だからこそあんな苦し紛れの理由になった訳だし、姉さんも嘘だと見抜いている筈で……

 

(でも……今はまだ言えないんだ)

 

 確かに今回は自分の興味本位で動いている。

裏でディアボロス教団を叩く為の作戦行動をしているとはいえ、アルファ達の台本には本来ない事をしている。

 

 だが、自分の中では例え元が興味本位の参加であったとしても……ディアボロス教団達に向ける憎悪に変わりはない。

自分が動く事でアルファ達の任務がやりやすく進行されるのであれば、俺は自分の身体をどれだけ使い潰したとしても良いとすら思えるほどに……

 

(そして……姉さんを傷付けた奴らを許す事は絶対にありえない……)

 

 どんなに小さな事であれ……それが姉さんやアルファ達……俺の大切な人達を傷付ける存在となるのなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手の言い分がなんであれ復讐するだけだ……2度と俺の大切な人達を傷付けない様に……徹底的に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう考え込んでいると、いつの間にか選手の控え室へと辿り着いていた。

その時には既にユーリの姿に変装しているから準備とかもないんだが……

 

(このまま舞台に行くか)

 

 アルジは控室に入る事もなく、舞台へと続く通路を進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アイリス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は舞台の中心に立っていた。

反対側に立つのは、対戦相手のユーリ・ローウェルという男で、聞いたことがない名前だった。

 

 だけど先日の試合から彼を見て思いました……彼は私よりも遥かに上に立っている存在であると……

 

(ですが……負けるわけにはいきませんっ!)

 

 私にもこの試合に勝ってなすべき事がある。

昨今はディアボロス教団やシャドウガーデンなど、この国で好き勝手に行動を起こす連中が多い。

 

 だから私も、その2つの組織が何か事を起こそうとする前にこちらから動きたいと思っている。

現にオリアナ王国の国王については……実際に会ってみて何者かが裏で手を引いていると感じた。

 

 そして武神祭の前にも、アレクシアが持ち帰った情報を元にリンドブルムの教会にも令状を出し、怪しい事が起こっていないかの調査をお父様にも進言した。

 

 だが結果は傍観の一言であり、今回の事も他国の事に口出しをする事ではないと言われた。

 

(これも一重に……私に力が足りないから……)

 

 最近はそう思うことばかりだ。

もっと私に力があればと……

 

(……あの人ならどうしただろう)

 

 シャドウガーデンが王都を襲撃した時に少しだけ言葉を交わした彼であれば……今の世の中とどう相対するだろう。

彼がシャドウガーデンという、現段階では敵対勢力である事は理解している。

 

 だが彼がシャドウガーデンのNO.1に位置付いている訳ではなく、シャドウと呼ばれる存在がその組織を立ち上げたと、世間ではその話で溢れかえっている。

なら彼はどういった立ち位置なのだろうか……

 

(敵対組織である事は間違いない……でも彼が悪かと言われればそんな感じもしない)

 

 アスタロトとはあの一瞬少し話して、手を通して魔力を感じ取っただけだ。

でもあの一瞬だけだったけど……彼が完全な悪だとは思えない。

彼は彼で何か成そうとしている……勝手な感想だけど、私はそう感じてならない。

 

「両者、準備は良いですね⁉︎」

 

 審判の声で現実に引き戻される。

私は腰に差している剣を引き抜き構える。

 

 だが目の前の彼は……

 

「ゆ、ユーリ選手? 準備は良いですか?」

 

(っ⁉︎ 剣を構えていないっ⁉︎)

 

 彼は右手に下げてある剣を引き抜かずただ自然体のまま立っていた。

 

 だが視線だけは私の事を見据えていて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンタは逆に準備が出来ている様に見えてんのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、審判に向けたかはたまた私に対してか分からないが……ハッキリとそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 審判に準備できているかと言われたものの、俺は逆にそういう風に見えるのかと、相手からの疑問に対して疑問を持って答えた。

本来なら相手に嫌われるやり方だが……ここは真剣勝負の場だ。

相手がどんな思惑を抱いていようが関係ない、正々堂々と勝負する場だ。

 

 それなのに……

 

(目の前の彼女は揺らぎまくってるじゃあねぇか)

 

 彼女とは一度、王都襲撃の際ちょっとした会話をしただけにすぎない。

まぁアレクシアさんからアイリスさんの事について結構話を聞くから、ある程度の趣味嗜好や、何を考えて国を背負っているのかは理解しているつもりだが……

 

(それが逆に邪魔してるのかねぇ〜?)

 

 今の国の事を考え過ぎて、もっと国を、民の暮らしを良くしたいと考え過ぎて……でも自分の思い通りに行かない結果にどうすれば良いか分からずにふらついている。

俺には今目の前に立つアイリスさんがそう見えてしまった。

 

 だから俺は準備が出来ている様に見えるのかと我慢で返したんだ。

審判にはそうだが……この言葉を1番投げかけたかったのはアイリスさんに向けてだ。

 

 その結果、アイリスさんも分かりやすく反応してくれた。

その反応を見て俺は、今度は彼女に対してのみ言葉を投げかける事にする。

 

「国の事を考えたか、はたまた別の事を考えているのか分からねぇが……俺から見てアンタの心は揺らいでいるように見えちまうな」

 

「……そんな事はありません。ここは真剣勝負の場です。自らの実力のみがこの場での結果を、勝利を勝ち取る事が出来る。それなのに他の事などk「ならどうしてアンタからは、他の参加者達と違って闘志みたいな物が薄っぺらくしか感じ取れないのかねぇ?」……はっ?」

 

「強さは関係ねぇんだよ。その場で本気で勝ちたいって気持ちが……何故かアンタからは感じられねぇでさ。確かに俺と戦った奴らは……正直下は4級、良くて準2級くらいの強さとしよう。でもこの場で勝ちたいって気持ちはあったぜ? 俺と戦うのが怖くて怯えていた奴でも……まぁ勝ちに行きたいという意思は感じられたな。

 

なのに何でアンタからは何も感じられないんだろうな?」

 

「そ、それはあなたが誤解しているだけです! 私も他の参加者達と同じく、この武神祭を最後まで勝ち抜くつもりで参加しています‼︎」

 

「表の方はだろ? でも本心ではそこまでは考えてないだろ?」

 

「な……なにを……」

 

「アンタの目を見れば分かる……真剣勝負の場なのに……色々と考え過ぎて心がぶれてる。勝ちたいたい気持ちは本当なんだろうが……俺からしたら何もかもが中途半端にしか見えない。だからいくらアンタがこの国最強と言われようが、戦う準備も出来ていない奴相手に剣を抜く事なんかねぇのさ」

 

 なんならこのまま剣を抜かずに戦っても構わないが? と、最後にそう付け足した。

するとアイリスさんは見るからにプルプルと身体を震わせている。

顔は俯いていて見えないが、俺の言葉でプライドが傷付いて怒り狂ってるんだろうな。

 

(まぁそうでもしないと本気で剣を振るってくれないだろうか、そうしてもらわないと困る)

 

「……審判、試合開始の合図を」

 

「えっ……で、ですが「早くっ‼︎」し、試合開始っ!」

 

 するとアイリスさんが審判に試合を始めるように捲し立て、審判が合図したと同時に俺の懐へと移動、剣を横凪に振るっていた。

 

(まぁ今までの人達より相当早いな)

 

 これはアンネローゼさんより上を行く技量だなと感じた。

アイリスさんがさっきまで立っていた地面が陥没していたし、地面を蹴る時の力も相当なものだし、何より無理な姿勢で無理矢理迫るという事も見受けられない。

 

(でもこんなもんじゃあない筈だろ?)

 

 横長に振られた剣を、俺は片手で掴んで受け止める。

 

「っ⁉︎」

 

「おいおい、何を驚く事がある? 魔力で手を覆えば剣を受け止めるなんて造作もない事だろ? それにさっき言ったように……半端な覚悟で振られた剣で試合に臨もうなんて……対戦相手を侮辱しているとしか思えないな」

 

「侮辱……? 侮辱というならあなたの方だ! 剣を抜かずに戦うなど奢っているのですか⁉︎」

 

「奢るも何も、それでも試合として成立しているのなら俺は構わないと思うがね? 逆に俺は、純粋な勝負に色々と考え事して本気を、自分のベストを尽くさない方が侮辱だと思うが?」

 

「っ⁉︎ このっ!」

 

 アイリスさんは掴まれた剣を強引に振るって、剣を握っていた俺の手を振り解いた。

そこからはアイリスさんが怒涛の攻めを繰り出してくる。

その一撃一撃がどれも早く、力強い。

 

(でもそれだけで俺が剣をとる理由にはならないが……)

 

 その振るわれた攻撃を、俺は難なく受け止めたり避ける。

 

(まぁ色々と溜め込んでいた様だし……ここら辺でスッキリさせとかないと、この後色々とマズイことになりそうだしな)

 

 そう思いながらも、今も迫るアイリスさんの攻撃に対処していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side ローズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレクシアさん達と地下で再会した翌日、私は自分がローズである事がバレないように頭から膝下まで覆える黒い外套を纏って、武神祭が行われている会場へと来ていた。

ここまでは誰にも見つからず来る事が出来たとあって、私の目的としてはとても都合が良い。

 

(私の目的は……オリアナ王国を守る為)

 

 宰相であるドエムの策略によって、お父様は傀儡と成り果ててしまった。

それも自分の意思ではなく、相手に薬を盛られての知らぬ内に……

 

 武神祭が始まる前、お父様と久しぶりに会った。

私はお父様に会える事が楽しみで仕方なかった……のに、あった時の父の姿に衝撃を隠せなくて、そして隣で邪悪な笑みを浮かべたドエムを見た瞬間に襲いかかっていた。

 

 それが原因で私は今年の武神祭に出場できなくなってしまったけど……

 

(そんな事は今どうでも良い。とにかくお父様の元に行かないと!)

 

愛剣であるレイピアを背中に背負った大きなケースに隠し入れて、どうにかここまでやって来た。

 

(でも奴らも私がどう動くかは予想しているはず!)

 

 ここからは変装も意味がないと思い、纏っていた該当を脱ぎ捨ててお父様がいると思われるVIP席へと向かう。

 

 いくらか施設の中を走って、次の角を曲がった所でVIP席までもう少しのところ……異変がありました。

 

「っ⁉︎ こ、これは……」

 

 黒ずくめの者達が血を流して倒れていた。

倒れ伏す者の中で息をしているものはおらず、悉く生き絶えていると感じました。

 

「ようやく来ましたね」

 

「っ⁉︎ あ、あなたはっ⁉︎」

 

 その倒れ伏した者達の中心に……黒い外套を着た人がいた。

そして奥には同じ格好をした人達が複数人いて……

 

(でも目の前にいる人物は……この中で1番強い!)

 

 それを感じ取った私は、背負っていた大きなケースからレイピアを取り出そうとするけど……

 

「私達はあなたと敵対する意思はありません。寧ろあなたのなす事を手伝うつもりでここにいるんですよ?」

 

「私を……手伝う? あなた達は一体……」

 

「我らはシャドウガーデン。陰に潜み陰を狩る者……」

 

「シャドウガーデン……っ! リンドブルムでもあなた達を見ました。一体何が目的なのですか⁉︎」

 

「今はそんな事よりも、あなたのなすべき事が優先では? 勿論私達はあなたの邪魔をするつもりもありませんし、邪魔が入らない様にもできますよ?」

 

「……」

 

 私はその人の言葉を完全に信じたわけではないけれど、今は一刻も早く私のなすべきを果たすために行かなければ。

 

 私は何も言わずにその場を去り、お父様の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アイリス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一心不乱に相手を斬る。

相手が反応できない速度で、相手が敵わない力で……目の前の相手を倒すためだけの剣を振るう。

 

 それは……今までで1番私の実力が出ている状態だった。

激昂した状態で振るう事は少なかったけど、でもこの状態の私が過去1番で実力が出ていると感じていた。

 

(なのに……どうして届かないっ⁉︎)

 

 相手は私の剣を避け、受け流し……そして軽々と受け止めてくる。

それも素手で……

 

(何故剣も抜いていない相手に私の剣が……力が届かないっ⁉︎)

 

 その事に焦り、さっきよりも早く、力を込めて剣を振るう。

それでも相手は顔色を変えず……最初から変わらず私の剣に対処してくる。

 

(私はこの国で1番実力のある魔剣士なのに……この武神祭に勝利して、今より私の声が届くようになれば、この国で悪事を働く奴らに対しても備える事が出来るのにっ! なのに……どうして目の前の男は私の邪魔をするっ⁉︎)

 

 そんな考えが思考の殆どを占めようとしている時だった。

 

「はぁ……」

 

 ユーリであるアルジは、相手にも分かる程に盛大な溜息を吐く。

それと同時にアイリスの剣を掴み、離さなかった。

 

「っ⁉︎ このっ……どれだけ私を馬鹿にしてっ‼︎」

 

 荒げるようにそう叫んだアイリス。

それに対してアルジは顔色一つ動かす事なく、ただじっとアイリスの瞳を見つめた。

 

(っ⁉︎な、なに? この感覚は……)

 

 先程まで憎たらしいと思っていた相手の筈なのに、今ではそんな考えも小さくなっていく事が分かる。

それに戸惑っている自分も……

 

「っ⁉︎」

 

 そんな時、アイリスの身体に何かが流れ込んできたのを感じた。

それは相手から送られてくる魔力で、その感覚が……この前王都襲撃の際に出会ったとある人に何処となく似ていた。

 

(目の前にいる男から……魔力が流れ込んでくる……あんなに憎たらしいと思っていたのに……この人から流れ込んでくる魔力はどうしてこんなに安らぎを与えてくれるの……)

 

「漸く落ち着いたか?」

 

「……えっ?」

 

 私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。

私の攻撃を顔色変えずに捌いていた男が……少しだけ笑ったから。

さっきの様な嘲笑ではなく、単純な笑みを浮かべているのを見て、この人はこんな顔をするんだと、何故かそう考えてしまった。

 

「さっきまで全然余裕のない顔してたし、剣筋も全然ブレブレだったし……でもそれは、何かに対して背負い過ぎて、自分しか頼れる存在がいなくて、自分でなんとかしなくちゃって思い込んで……それで必死だったんだろうなぁ〜って何となく分かった。まぁ試合を始める前からそんな顔してたからなんか心配でな……凄く嫌な言葉になったけど発破をかけさせてもらった。武士道精神とかに傷を付けたんだったら、悪かったと思ってる」

 

「えっ……あっ……その……私も剣を持っていない状態のあなたに不意打ちを叩き込むような真似をしてしまって……」

 

「いや、あれは俺が100%悪いし、アイリスさんが謝る事でもねぇさ。まぁそれでも納得出来ないって言うなら、この場で互いに謝ったって事で水に流そうぜ?」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「おっ、漸く笑ったな。今のアンタとなら、楽しく剣を交えられそうだな」

 

「そ、その事ですけど……さっきのやり取りで私の実力があなたの実力に全く届かないと分かってしまって……棄権しようと、思っています」

 

「そうか……でもそいつは勿体ねぇな」

 

「えっ?」

 

「アンタはこの先襲いかかってくるであろう何かから、自分の守りたいものを守る為に力が欲しいんだろう? でも周りには自分と同じか、若しくはそれ以上の実力を持った奴がいない。だからこれ以上の成長が見込めないって思ってるだろ? でも今はどうだ? 目の前には、本気の状態ではないといえ、アンタの剣を傷一つつく事なく凌いだ俺がいる。それも剣も抜いていない状態で……どうだ? 強くなるキッカケ、欲しくないか?」

 

 そんな事を私に対して言ってくる彼の顔は……とても楽しそうだった。どうしてそんなに楽しそうな顔をしているのか私には分からない。

分からないけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に……稽古を付けてください。私は、今の私よりも強くなりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 私は彼との試合を行う前よりも強い意思で、彼に返答していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイリスさんをなんとか落ち着かせた。

最初に俺が発破をかけてしまった事が原因だったが、あのままだとあれ以上に何もかも追い込んだ状態にしてしまいそうで……

 

(そんな状態で彼女に剣を振るって欲しくないって、そう思っちまったんだよなぁ〜)

 

 周りの奴から見れば、お節介にも程があるって言ってくるだろう。

それでも俺は、俺の手の届く範囲で助けられる何かがあるのなら助けたいと思う。

完全な悪人は例外としてな?

 

 それで俺も漸く剣を抜いてアイリスさんの剣を受けているんだが……

 

(あぁ……さっきとは断然違う)

 

 戦闘狂って訳ではないが、それでもこうして実力がある人と剣を交えるのは楽しいと感じてしまう。

 

(それにアイリスさんの顔も結構楽しそうな笑みを浮かべているし……)

 

「こんな風に……」

 

「ん?」

 

「こんな風に剣を交えて楽しいと感じたのは久しぶり……いいえ、あなたが初めてですよ」

 

「そうか、俺はアンタのお眼鏡に適ったって事で良いのか?」

 

「はい、それはもう。この機会を逃してしまえば、今後あなたの様な存在と打ち合える機会はないという程に……今私はあなたと剣を交えるているこの瞬間が……とても楽しいです!」

 

 とても純粋な笑みを浮かべながらアイリスさんは剣を振るってくる。

その一振りが先程とは全く違う威力と鋭さをしていると、俺の剣を通して分かる。

 

「そうかい! なら俺ももう少し……本気を出してみるかね‼︎」

 

 その言葉と共に俺はさっきよりも早く動く。

身体中に纏わせている魔力も少し上げて、アイリスさんに迫る。

俺が縦に振るった一撃をアイリスさんはバッチリと目で捉えて、危なげもなく受け止める。

 

 だがさっきよりも魔力を纏っているから威力も上がっているわけで、俺の攻撃を受け止めたアイリスさんの足元が少し陥没した。

 

「少し纏う魔力を上げただけでこんなにも変わるのですか……あなたは規格外ですね」

 

「そう言うアイリスさんこそ、よく目で捉えて反応出来るな。アンネローゼの限界を引き出した時と同じくらいの力を出してるんだが」

 

「なら私はそれよりももっと動けますよ? なのでユーリさんも、手心なく相手をして下さい」

 

「まぁこの状態でもあまり息切れせずに対応できるって言うなら検討するが」

 

「そこは素直に力を出して欲しいんですが……」

 

「まぁ俺にも色々と事情があってな……まぁアンタのリクエストに少しだけ応えるとするかねぇ」

 

 そして俺とアイリスさんは離れる。

俺はアイリスさんに言われたように、今纏っている魔力にほんの少し足してさっきよりも早く力強く動ける様に準備をして、アイリスさんはアイリスさんで纏う魔力量が上がった。

どうやら俺を迎え打つ準備が整っているようで……

 

 俺とアイリスさん、タイミングを示し合わせたかのように同時に動いて、闘技場の中央で再び剣と剣同志をぶつけた瞬間……俺は感じたんだ。

 

「っ! 不穏な気配がしたな」

 

「えっ?」

 

「アイリスさんすまねぇな。なんか貴族とかが見てるVIP席の方で嫌な気配を感じたからさ、この勝負はお預けって事で! んじゃぁ俺は急ぐから!」

 

「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと!」

 

 俺はアイリスさんの静止を聞かずに、その場から一気にVIP席へと向かった。

当然窓をかち割って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




取り敢えず今回はここまでとします。

次回の展開としては、シドさんVSアイリスさん+ベアトリクスさんの決着まで持っていけたらなぁ〜……と思います!

まぁこの章のボスという名の踏み台は準備しています!(世界観は別にして……)

という事で、次回もお楽しみ!
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