陰の復讐者となりて   作:橆諳髃

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凡そ2ヶ月ぶりくらいにこの作品を投稿します。
最近は職場の方から『chat GPT』や『Gemini』のアプリを教えてもらい、それにハマっていました。

それらのアプリを使って、自分がこの題材を使って書いてみたいなと思うものを質問していったら、私が普段書いている文章が本当に稚拙に感じるほどに良い文章でまとめられていて、それで文章の内容として参考にできる表現がないかどうかも色々と試行錯誤していたら、いつの間にか時間が経っていた感じですね……

そのアプリを使っていて、自分の文才が特に上がったわけではありませんが、私自身、自分が書いているこの物語を最低限アニメ2期まで終わらせたいと思っておりますので、なんとか頑張って書いていきます!

前書きはここまでにして、新話をどうぞご覧ください!


50話 復讐者、赤い月の舞台へ介入する《後編》

 

 

 

 

 

 

 

side 第三者視点

 

 

 

 

 

 

 その夜……御伽噺でしかないと思われていた話は現実になった。

いつも眺めていた月は紅く不気味に染まり、それによってほぼ街中にて無害だったはずのグールが活発化。

それにより襲われた者が頻出し、また襲われた者もグールになるという悪循環が出ていた。

 

 世界の中で1番治安が悪い無法都市だが、今の地獄絵図を見れば普段の光景の方がよっぽどマシで……

 

 逃げ惑う人々とそれを追いかけるグール。

そしてグールは屋内にいる者にまで襲いかかって来る。

 

 無法都市に設置されたギルドは、冒険者を募ってなんとかこれを収めようとするも、被害が増す一方であり、他の地域に比べて忠誠心や街の存亡などに興味が微塵もない冒険者は我先へと逃げ出していく。

 

 それにはギルド職員や魔剣士協会から派遣された者が指揮を取ろうにも、もうどうにもならないところまで来ていた。

 

そしてグールは冒険者ギルドの目の前まで来ており、被害を食い止めるべく集まっていた残りの冒険者や魔剣士達も、次第に諦めの感情が募っていく。

 

 その時、一陣の風が辺りをふきつけた。

その風は、何もかもを凍させるような、ただそれだけしか表現ができないほどの風が、冒険者ギルドの、特にグール達がいる方向に強く吹いた。

 

 その風の余波により、ギルドの前で凌いでいた冒険者達も目を閉じたり顔を腕で覆って吹き飛ばされないように耐える。

心の中では何が起こったのかまるで理解できないでいるが、今はただ吹き荒れる風が収まるのを、そこにいた冒険者達は耐えるしかなかった。

 

 凍えるような風が吹き荒れてどれ程の時が過ぎただろう……現実的な時間にして僅か数分であるが、その場で耐えていた冒険者達からすればそれが体感として数十分にも感じられたことだろう。

 

 その風の勢いが収まり、1人の冒険者が顔を覆っていた腕をどけると……

 

「な、なんだよこれ……」

 

 その感想は他の冒険者や魔剣士達も呟いていた。

何故なら先程までこちらに迫っていたグール達が氷漬けにされていたからである。

それも足元や関節部分のみをが凍った状態という摩訶不思議な光景で。

 

「こ、これなら!」

 

 それを効果と思った冒険者が近くにいたグールに剣を振りかぶろうと突出した。

そして剣の間合いに入って振りかぶろうとしたその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌が聞こえた。

その瞬間にグール達は意識を失うかのように眠りに落ち、そしてグールに斬りかかろうとした冒険者も、手から剣が滑り落ち、地面にうつ伏せになって意識を失った。

 

「こ、これは一体……」

 

「グール達の動きが……止まった?」

 

 ギルド周辺にいた冒険者達や魔剣士達は、今目の前で起こったことが何なのかが理解出来ないでいたが、一応の危機は去ったものと判断し、ギルドの防衛に走らせていた冒険者や魔剣士達に周囲の警戒と、逃げ遅れた人々の避難誘導をするべくそれぞれ動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ハカマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドの近くにある比較的高い建物の屋上に、ツバが広い黒色の帽子にピッチリと身体のラインが浮き出るほどの黒衣、その黒衣の上から薄手で膝丈ほどの長さがあるカーディガンの様な物を羽織った女性が、ギルドの様子を見ていた。

 

 それは、過去別の世界線でアルジと一緒に旅をしていたハカマで、先程ギルドのグール達を氷漬けににしたのも彼女がしたことである。

 

「それにしても、案外この世界でも元いた世界と同じ様に力が使えるのですね」

 

 私はこの世界に来てアルジと再開した。

そして今は、彼が自分の兄と一緒に組織したシャドウガーデンに所属して、彼のやろうとしていることを手伝うことに決めた。

 

 それにあたっては私もまた戦いに身を投じることになる。

ただ、ここでも前と同じ様な力が使えるかは不安だった。

 

 でもこの世界では魔力という、私が元いた世界とは異なる技術があって、その魔力の扱い次第では色々なことができると簡単に教わり、そして自分の思い通りに扱おうと思えば扱えたから、力の行使についての不安は無くなった。

 

「本当に……この魔力というものは色んなことが出来ますね」

 

 前の世界では、構造体の装備によって属性が付与されていた。

私の場合は氷結で、武装にその属性を付与して戦っていた。

そしてハカマの場合は氷の属性であり、相手を瞬時に凍らせる程の力を持つ。

 

 またこの世界で魔力制御を立ったの数日で覚え、彼女は元からの属性である氷の使い方も細かく制御できるようになった。

それも相手の一部分だけを凍らせるといった離れ業に……

 

 ハカマがこの世界の魔力について改めて操作性が高いと感心していた時、この街の全域に歌が流れた。

それは男の声であったが、とても澄んでいる声であり、誰もを魅了するかというほどだった。

 

 そして歌が終わると、街中で暴れていたグールが行動を停止し、その場に倒れる。

 

(この歌声……いつ聞いても聞き惚れてしまいます……)

 

 響いていた歌を、ハカマは目を閉じ集中して聞いていた。

その歌は、前自分がいた世界でも偶に聞いていた歌声……その声は、彼女からすればいつまでも聞いていたいと思うほど。

 

「……作戦を継続します」

 

 歌が終わってから数分後、彼女は再び行動に移る。

全ては前の世界線から恋慕っていた、あの人のためを思って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アンネローゼ

 

 

 

 

 

「デェェェヤァァァッ‼︎」

 

 暗い大通りをグールが埋め尽くす中、1人の少女が大きな声を張り上げながらその対岸に吶喊、次々に斬り伏せていく。

しかしグール達を見ると、その者達はまだ生命活動を停止させておらず、なんとか立ちあがろうとしても、手足の腱や神経を一時的に遮断されているかのように斬られていて、立ち上がれなかった。

 

「ふぅ……今までただ相手を斬るというよりも難しい技です」

 

 それを成したのは、元七武剣の1人であるアンネローゼだった。

今の彼女の装いは、本来の白のインナーやパンツの上から薄紫色の鎧を纏う姿ではなく、全身黒のボディスーツに所々金の縁やラインが装飾された物を着て、その上から薄紫色の鎧を纏っているというものだった。

 

 因みに黒のボディスーツについては、アルジから直接分け与えられたスライムを形質変化させた物であり、そして元七武剣のアンネローゼであるとバレないように、目を覆う黒いバイザーのようなものも装着されてあった。

 

「それにしても魔力制御を細かく意識することでこんな事も出来るなんて……流石はアルジくんですね」

 

 アンネローゼは、勿論今までも魔力を刃に纏わせたり防御や俊敏さを上げるために用いてはきたが、ただ纏ったりしてきただけで細かい調整はしてこなかった。

 

 しかし後日、アルジからスカウトされてオルバが管理している組織付けになった際、アルジから魔力を帯びたスライムを渡され、魔力操作、制御についても直々に教わった。

 

 そして彼女自身も七武剣に登り詰めるほどの実力を持っていたために、魔力操作や制御の点についても呑み込みが異様に早かった。

そんな彼女は現在……攻撃対象を無傷で制圧する手段も学んだ。

それが先のように、相手の腱や神経の繋がりを魔力で一時的に遮断するという方法だ。

 

 この手法をとる時、武器は何でも構わないが、今回の場合はアンネローゼが持つ両刃剣に魔力を纏わせ、その刃に沿った魔力が相手の身体の箇所に当たった時、魔力が相手の皮膚に入り込み、入り込んだ魔力が腱や神経に到達すると、まるでそこを斬られたかのように、魔力が腱と神経の繋がりを遮断するのだ。

 

 腱や神経の繋がりを一時的に遮断している魔力については、一定の時間経過や、魔力の扱いに長けた物が自力で解除しない限り消えることはない。

そしてこの手法については、七陰達は勿論のこと、オルバが率いる組織の幹部陣は皆出来ることである。

 

 それをアンネローゼは、僅か数週間で成せるようになった。

まだ若干精度の違いがあるのは確かだが、それでも相手を無力化出来る点で言えば、現在グールと言えども一体も死亡させていないことを見れば、確かな実力者であるという証になるだろう。

 

(でも……アルジくんの様に全て完璧にとはいきませんね……)

 

 しかしながらアンネローゼはそこで満足はしない。

比較する相手を間違えていることは確かではあるが、それでも今よりも高みに登り詰めたいというプライドを持っている。

 

(そしていつか私は……いつでもアルジくんの側にいれるほどの実力を手に入れて、彼を支えたい!)

 

 そう思いながら次のグールを無力化しようとした時、街全域に歌が響き渡る。

その歌が聞こえたグールは、全て眠りについているかの様に地面に横たわった。

 

「この歌が聞こえたということは……作戦が第二段階に入ったということですね」

 

 前もって聞かされていた今回の作戦内容に、第一段階は住民に危害を加えるグールの侵攻を止めることと、増殖を防ぐこと。

第二に、屋外にいるグール並びに屋内にいるグールの全てを含めて、完全に侵攻を止めること。

第三段階では、逃げ遅れた人たちの救助。

というのが前もって聞かされた内容だった。

 

 そして第二段階については、全てさる方が行うということも聞いていたため……

 

「これが……あの人の実力の一部……なんですね」

 

 街中に響いた歌声……それだけでこの街中にいたグール達が全て無力化された。

正直最初の段階でこれをやっていれば、一体ずつ行動不能の状態に持っていくという非効率な手段を取らなくてもいいと、そんな意見も聞くことになるだろうが、ただ何事においても万全の状態を整えてこそ、ということが大事なのも確かである。

 

 しかも街全体にその効果範囲を広げるとなるとやはり時間はかかるし、尚且つグールやその時危険な行動を行おうとする人達に限定して狙い撃ちにするとなると……途方に暮れることは誰が見ても分かることだろう。

 

「そんなことを、こうもあっさりやってのけるなんて……流石ですね。私も負けていられません!」

 

 第二段階の作戦が発動したと同時に、作戦は自動的に次の段階に移る。

彼女は次の作戦の指示に従い、逃げ遅れた者や負傷している者に対して避難誘導をするため、夜の帳が深い街中を駆けていく。

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アウロラ

 

 

 

 

 

 

 件の事件後、アウロラもアルジに助けられてオルバが率いる組織に所属していた。

そして彼女も今回の作戦にオルバ陣営から派遣されている。

 

 目の前から迫り来るグールの軍勢を前に、アウロラはただ、自身から放たれる赤い魔力で出来た棘を複数飛ばし、全てのグールを生きたまま戦闘不能にしていた。

 

「まぁ……ざっとこんなもんかしら?」

 

 彼女の周りは既に、折り重なって倒れるグールの山が幾重にも築かれていた。

それも全て命を刈り取ることなく、気絶させている状態で……

 

 そんな時、聞き慣れた声が歌を紡いでいた。

その旋律は街の全てを優しく覆い包む様な旋律で、一節だけの短い内容ではあるものの、アウロラは目を閉じてその旋律を聞いていた。

 

(はぁ〜……凄く気持ち良い魔力の旋律♪ついつい聴き惚れるくらいに……)

 

 そうしている中で、彼女はとある人物が紅の塔を目指して走っている姿を見かけた。

それはアルジの姉であるクレアで、必死の形相で何かを探していた。

 

「あら? あの子は……ふふっ、なんだか面白そうな予感がするわ」

 

 本来であれば、その旋律が終わった時点で作戦の第三段階に移るのだが、アウロラは目の前を必死の形相で走る少女のことに興味を持ち、空からこっそり着いていくことにした。

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はとある世界で、とある血筋な者にしか歌えない歌を歌い、この街に散らばっているグールと、危険な行動に移ろうとしている存在に焦点を当て、行動不能にした。

 

 この歌は『譜歌』と呼ばれるもので、歌に込められた旋律と意味を理解して歌わなければ、ただの歌になってしまう。

 

(にしたって、何で俺がこれを歌えるのか今でも不思議だな……)

 

 とある世界に転移した時、魂だけがその世界に降り立った。

そして生まれたばかりの存在に宿ってしまって、それで宿ってしまった子自体が、その世界ではまた特殊な立場だった。

 

(いや……特殊な立場というより、本来存在しない人物ってところかな)

 

 まぁそんな昔話みたいなことは、また機会があれば話すとして……あぁでも、歌を歌える様になったのは、夢の中でとても綺麗な女の子に会ってからだった気がするな。

 

 それに夢で会った女の子は、その世界である時からずっと俺の隣に立ってくれてた子に似ていた……というよりも、夢の中の女の子の子孫だったりするのかねぇ。

 

 まぁなんやかんやで、その世界でとある血筋を引くものしか歌えない歌を、俺も歌えるんだが……

 

(久しぶりに歌ったし、それに広域且つ散らばっている相手を対象に設定するのは中々骨が折れたな……)

 

 その範囲全てを対象にするなら別に苦ではないのだが、散らばっている対象を魔力頼りで選別しているから、流石に精神を使った。

 

 まぁその甲斐あって、街中のグールや危険な行為に移しそうな奴らは沈静化させたし……

 

「俺も行くか……紅の塔へ」

 

 アルジは紅の塔目掛けて空を駆ける。

未だに空の天辺には赤い月が、まるでそこにあることが当然であるかの様に浮かんでいる。

 

 ただ彼がこの騒動を巻き起こした首謀者に近づいていくにつれて……今回の悪夢の様な出来事は終結していくことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side クレア

 

 

 

 

 

 

「どこ……どこなのアルジ‼︎」

 

 クレアは最愛の弟を探していた。

もう1人弟はいるが、その弟はいつの間にかいなくなることが多く、最終的に無事に戻ってくるので今のところそこまでの心配はしていない。

 

 しかしもう1人の弟、アルジについては別だ。

彼女は、彼が自分よりも圧倒的に強い実力者であることを理解している。

ただそれは別にして、彼女はいくら自分よりも強いからといっても、彼のことが心配でならなかった。

 

 アルジがいつも自分に隠れて行動していることは、自分がまだ魔剣士学園に通う前から、つまり実家で暮らしていた時から薄々感じていた。

そして魔剣士学園に彼が通う様になって、彼の寮部屋で一緒に寝る様になってからも、彼が夜な夜などこかに行っている事も知っていて、それも本人の口から聞いている。

 

 どういう方法を使ってかは分からないが、アルジがどこかに行ったと認識した時にも、自分の腕の中で彼がいつもと変わらず眠っている。

でもその時目の前にいるアルジは……何となく本物ではないという事を理解していた。

 

 しっかり呼吸していて、こちらが何か問いかけてきた時にはちゃんと答える、至って普通のはずなのに……目の前にいる存在が本当のアルジではないと、彼女の勘は告げていた。

 

 でもそれを差し置いて……

 

(私はあの子が無事でいてくれたら……それで良いの)

 

 そんな思いをクレアは持っている。

持っているが、理性と本能は違っていた。

 

 理性では彼がどこに行ったとしても無事でいてくれるのなら、無事に自分の下に帰ってきてくれるのなら、それで構わないと思っている。

だが彼女の本能としての部分は……アルジと離れたくない、どこにも行かせたくない、行くというのなら自分も一緒に連れて行って欲しい。

 

 そして……アルジのことを誰よりも愛しているのは自分であり、彼のことを誰にも渡さないという人一倍の独占欲を持っている。

 

 そんな理性と本能を併せ持つ彼女は、今どこに行ったかも分からないアルジのことを必死の形相で探し回っていた。

 

 襲いくるグールに対しては、剣の一振りで生命活動を停止させる。

その様相はまるで、自分の邪魔をするなとでも言うかのように……。

 

 そんな時クレアは1人の人物と出会う。

それはメアリーと名乗るヴァンパイアハンターで、永らく吸血鬼を撲滅する為に行動しているという、外から見ればクレアと歳も変わらないくらいの女性だった。

 

 身体的特徴としては、ピンク寄りの赤い長髪を背中あたりまで伸ばして、瞳の色も赤い。

服装としては紺色に近い装いで、頭には三角帽子(トライコーン)を被っていて、どことなく貴族の装いを思わせるかのようだった。

 

 そんな彼女の目的はとある吸血鬼を探し出すことであり、今から紅の塔に行くと言う。

クレアは彼女に、自分の弟を探していて、その特徴をした男の子を見なかったかと聞いた。

 

 問われたメアリーは、その特徴に合致するか分からないものの、同じ年くらいの男が吸血鬼によって攫われたところを目撃したと答えて、クレアはその答えを聞いた瞬間、心の中を絶望感が支配する。

 

 確かに自分よりも強いアルジではあるが、吸血鬼が相手であり、それも複数人いた場合は負けてしまうかもしれない。

そんな図式が、自然と頭の中で組み上がってしまった。

 

(あ、アルジが……攫われた……攫われちゃった……)

 

 頭の中にまで、アルジが攫われてしまったことに対する絶望と、攫われた後の彼がどんな仕打ちを受けてしまうのかを考えてしまったが為に……冷静な判断が出来なくなってしまう。

 

「落ち着くんだクレア。確かに私は同じ年くらいの男が攫われたとは言ったが、身体的特徴がそうだったかは暗くて見えていなかったし、何より攫われたのがその子だったとしても、ついさっきの事だ。だから今から助けに向かえば間に合うかもしれない」

 

 そんな時に言われたメアリーの一言に、クレアは冷静さを取り戻した。

 

「そ、そうよね……今から向かえば間に合うはずよね!」

 

 クレアは自分を鼓舞し、再び前に進む活力を得た。

全ては自分にとって愛おしい存在……アルジを助ける為に。

 

(待っててアルジ! お姉ちゃんが必ず助けに行くから‼︎)

 

 こうしてクレアは、ヴァンパイアハンターのメアリーと行動を共にし、紅の塔へと向かった。

 

 とは言うものの、アルジについては例え無数の吸血鬼に囲われてしまったとしても一網打尽にしてしまうことは目に見えていることだが……

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅の塔の入り口に到着した。

入り口に着いたのは良いが、なんか白い人が倒れてる。

 

(傷口を見る限り……これは兄さんがやった事かな)

 

 一瞬で兄さんがやった事だと分かった。

斬り口が雑ではないし、しかも相手の顔を見る限り、何が起こったか分からないような顔してやられてるからな。

多分兄さんの事を狩りやすい獲物が何かと勘違いしたんだろうが……

 

「それで? そこからずっと視線を送ってくれてるあなたはどこの誰かな?」

 

「フフッ、気配を消していたのに、あなた様には分かってしまうんすなぁ〜」

 

 入り口の影から現れたのは、白い着物を纏い、頭には赤い市女笠(いちめがさ)を目深に被っている女の人だった。

そしてその人の背中から白い尻尾が見え隠れしているので、おそらく獣人なんだろうなとあたりを付ける。

 

「それにしてもこうして近くに寄ってみれば……やはりというか、懐かしさを思い出しんす」

 

「懐かしさ? 俺はあなたが何を言っているのかは分からないが、俺はあなたの後ろに聳え立つ紅の塔に用がある。倒して欲しいんだが……」

 

「あらまぁ、それは奇遇すなぁ〜。わっちも後ろにある塔に用向きがありんしてなぁ〜。もしよろしいようでしたら、わっちと一緒にいきんすか?」

 

 何故か知らないが、目の前の女性の獣人から一緒に塔の中に行かないかと誘われる。

いや、本当になんでそうなる?

 

「……俺の用は特殊だ。だから1人で行きたいんだが……」

 

「そうでありんすか……残念でありんすなぁ〜」

 

 俺の回答を聞いた女性の獣人は、口では残念そうに言いながらも、声の様子からあまり残念そうには聞こえない。

揶揄われたのかと思いつつも、俺も俺の用事を済ませる為に歩み出す。

 

「兄さんなら特に問題はないと思いんすが、中には吸血鬼がおりんす。中で何かをされる様なら、気を付けて進みなんし」

 

「忠告、痛み入るよ」

 

 女性の獣人が言ってくれた忠告を聞いて、俺は紅の塔へと入って行った。

彼女の言う通り、塔の中には吸血鬼が湧くほどいたにはいたが、俺が当たった譜歌によって殆どが眠り状態に入っていた。

 

 時折目覚めた吸血鬼もいたにはいたが、そいつらに対しては当身で気絶させておいた。

 

(さて、兄さんは……最上階ら辺か)

 

 取り敢えずその塔を上へ上へと登っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side シド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやぁ〜、ここは本当にここの都市は貯金箱だなぁ〜って改めて思う!

何せ僕から擦ろうとしてくる人が自分から近づいてきて、それで逆に僕に擦られるんだから。

 

(これで資金がまた増えたぞ!)

 

 そう思っていたけど、今度は古くから聳え立つ塔に目を向けた。

聞こえてきた話を聞く限りだと、大昔にこの土地一帯を支配していた吸血鬼があそこを根城にしていて、中は当時のままらしい。

 

(と言うことは……あそこにも沢山のお金が眠っている‼︎)

 

 そう考え付いた僕はすぐさま行動に移った!

夜の時間を狙って、その塔に侵入する。

入り口に建てられていた大きな門の上に誰かがいて、それで急に襲いかかってきたけど、動きが遅過ぎて逆に返り討ちにした。

 

(アルジと手合わせしてきた影響か……こういう相手は物足りないんだよねぇ〜)

 

 だからと言ってアルジに勝てた試しがあるかと問われたら……全くと言って良いほど、というより一回も勝てた試しがない!

 

(しかもアルジって……まだ本気出してない気がするしなぁ〜)

 

 こっちは本気出して戦ってるんだけど……アルジの場合はそこが見えないというか〜……

 

 そんなこんなで塔の最上階まで来たけど……なんか赤い髪した男の人が何か儀式をしている真っ最中みたいで、多分今回の赤い月を引き起こした黒幕なんだろうなぁ〜。

 

(よし! ここは一つ背後から攻撃してみよう! そしたら相手もそれを簡単に防いで、「ふははは、よくぞここまで来たなぁ!」みたいな黒幕ムーブでやってくれるはず! それをいとも容易く打ち破る僕! うん! これぞ陰の実力者だよね‼︎)

 

 そう思いながら黒幕と思しき人に背後から斬りかかった僕……だったんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

「グワァァァァッ⁉︎ ば、バカなぁぁぁぁっ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 という、モブの様な断末魔を上げながら消滅してしまった……。

 

「……あれっ⁉︎ これが今回の首謀者⁉︎」

 

 僕はあまりにもな幕切れに拍子抜けしてしまった。

 

「でも、首謀者っぽい人を早く倒せたんなら、この塔を隅から隅まで探索できるってことだよね!」

 

 そう、僕は確かに陰の実力者として大成したいことは確かだけど、その為には大量の資金がいる。

そしてこの塔にも財宝とか沢山の金貨が眠っているに違いない!

 

「よし! そうと決まれば行こうか!」

 

 僕はその場を後にして、財宝がありそうな塔の上階に目星を付け、探索に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最上階にいた少し大きめの魔力を垂れ流してる奴の反応が消えたな……)

 

 塔の中層と上層の境目辺りを進みながら俺はそう感じる。

それでこの魔力の感じからして、上の奴は兄さんがやったんだということも分かる。

 

(ただ兄さんの近くに……僅かではあるが力の奔流を感じるな)

 

 まるで死んでいるかの状態に感じるが、何かが影響を及ぼして、その力の奔流を流している存在が死んでいる状態から覚醒するかもしれない。

 

(ただ兄さんの事だから、さっきの奴を黒幕だと思って手を下して、その後塔の中にある財宝とかを掻っ払う気なんだろうなぁ)

 

 別にそこは兄さんの勝手だから、その後どうなろうが知ったことじゃあないが……

 

「それでこの塔にいる他の人は……」

 

 魔力を薄く伸ばして、塔の中にいる存在を知覚する。

大量の吸血鬼達については言わずもがなだが、最下層の広めの空間には、ベータと、ベータの任務に着いてきた664と665、そして666ことローズ先輩がいる。

 

 最上階あたりには兄さんで、中層あたりをブラブラしてるのは……なんか暴力的な魔力を垂れ流してるな……誰かは知らないが。

それで中層にいる奴と俺がいる場所の間くらいに、さっき塔の門であった女性の獣人がいる。

 

(後他にいるのは……っ⁉︎ はっ⁉︎ どうしてここに姉さんがあるんだ⁉︎)

 

 ベータ達がいるところに、突然姉さんの魔力ともう1人知らない人の魔力を感知した。

突然現れたとあった、多分塔の隠し通路的な所からその場に移動してきたんだと思うが……

 

(……まさか俺を探しにきたのか⁉︎)

 

 それならば……嬉しい気持ちはあるものの、それはそれとして、こんな危険な場所に姉さんがいてほしくはなかった。

 

(今からでも姉さんと合流するか? いや、でも今はこの姿だしな……)

 

 まぁいつもの姿に戻ればそれで終わりだが……

 

(でも今は……少し調べたいことがある)

 

 それは、俺が歌った譜歌から短時間で覚醒してきた吸血鬼達についてだ。

眠りから覚めるのには一定の個体差はあるんだろうが……それでも俺が直接当身して気絶させた奴らには共通の点が見受けられた。

 

(あの世界で人類に危害を加えた細胞……このまま看過することはできない!)

 

 それを野放しにしてしまえば……この世界にいる人類、いや、それどころか生物が絶滅してしまう。

 

(そうなってしまえばディアボロス教団に復讐するどころの話ではないからな)

 

 だからこそこの場で一片たりとも見過ごす言葉できない。

大元を叩けば、後は広範囲に術をかけて消し去ることが出来るが……今はそれがどこにあるのかが詳細な位置まで分からない。

この塔付近にその大元が存在することは確かだが……

 

(塔の入り口付近から反応があるか……)

 

 ここまで登ってきたものの、まさか反応が強く出る箇所が塔の出入り口からだとは思わなかった。

そもそも吸血鬼がその細胞に感染していることなんて予想がつく訳がないし、その細胞を知覚してから、その反応が強く出る場所がどこからかなのかを探ったから、その分のタイムラグがあったことは否めない。

 

(取り敢えずこの騒動を引き起こした首謀者は兄さんが倒したっぽいし、俺は俺でこの細胞が出てくる元を……っ⁉︎ 姉さんに何かが急接近している⁉︎)

 

 そんな時、姉さんの下に何かが急接近していることをまりょくで感知した。

 

 それは吸血鬼が出している魔力パターンじゃない。

これは……中層あたりをブラブラしてた奴か⁉︎

 

「……姉さんに危害が及ぶ前に叩くか」

 

 そう言いながら俺は、元は外を眺めるために使われていたであろうテラスの様な所から身を乗り出して、一度塔の外へ。

そして中層あたりに差し掛かったところで、中層階あたり、姉さんの反応が強く出た場所に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side クレア

 

 

 

 

 

 

 

 

 メアリーの案内の元、私は紅の塔の中に侵入していた。

メアリーはここに住んでいた元住人らしくて、隠し通路も全て把握していたと聞いた。

 

 それで隠し通路から塔の中に入った時、黒ずくめの集団に出会した。

奴らも吸血鬼の仲間かと思ったけど、聞いてみたらアイツらは自分たちはシャドウガーデンに属するものだと答えていたわ。

しかも手元にある書物から一切目を離さずに答えていて、まるで私達を敵視していなかった。

 

(というよりも……気にも留めていないという感じかしら)

 

 その態度にムカついてくってかかってしまったけど、ここで時間をかけてしまうということは、アルジが更に危険に晒されてしまう可能性が高いということ。

 

 だからその一団は一先ず放っておいて、私達は塔の最上階に向かった。

すると塔の中に吸血鬼達がいたわ。

まぁここを昔から根城にしていたから当然だと思うけど……

 

(それにしても……どうしてこんなに無防備で寝ているのかしら)

 

 彼らの種族が夜に活発的に行動することは知識として知っていた。

それで今回彼らと初めて対峙した訳だけど……どうしてこんな状態になっているのか分からないし、不気味にも思えた。

 

 メアリーにもこんなことはあるのかと聞いてみたけど、メアリー自身もこんなことは初めてだと語っていたわ。

 

(でもそれより今はアルジのことよ!)

 

 何故吸血鬼達がこんな状況になっているのか気になるところではあるけど、そんなことは後回しにして最上階へと進んで行く。

 

 それで中層階を進んでいる時だった。

突然通路の壁が何かの衝撃で壊れて、そこから大柄な男が出てきて、私達を値踏みする様に視線を向けてきた。

 

 褐色肌に筋骨隆々の身体、顔は野生の獣の様に厳つくて、こちらに向けられる視線も獰猛さを感じた。

 

「へぇ〜……中々強そうなやつがいるじゃねぇか! それもどっちとも女とは……コイツはツイてるぜ。なぁ……一手ここで喧嘩しようぜ‼︎」

 

 有無も言わさず私達に向かってくるその男は、既に私を攻撃の間合に入れていて、右腕から裏拳を放とうとしていた。

 

(っ⁉︎ ま、間に合わない⁉︎)

 

 なんとか魔力を総動員して身体に纏わせるけど、多分吹き飛ばされるわね。

それを覚悟しながら次の行動に向けて準備しようとしていたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強く肌がぶつかる音が聞こえた。

それは目の前からなっていて……

 

(えっ……何がどうなって……)

 

 私の目の前には獰猛な男だけがいるはずだった。

そして今頃私は、その男から繰り出される裏拳の攻撃を受けているはずだった。

 

 なのに今私の目の前には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おい……この手はなんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が探していたアルジが、私と獰猛な男の間に立って、男から放たれる裏拳を片手で止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……危なかった)

 

 目の前の男は、俺の姉ちゃんに攻撃しようとしていた。

なんでそんな状況になったかなんて分かりはしないけど、ただ一つ言えることがあるとすれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツは復讐対象だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の男がねえさんに繰り出そうとしていた攻撃を、相手の手首を片手で掴んで止める。

威力としては平均よりも上だと感じるくらいだが、ただそれだけしか感じなかった。

 

「て、テメェ……いつからそこn「聞こえなかったのか?」あっ?」

 

「俺はさっき……この手はなんだと、そう聞いた。それに対しての回答を得ていないが……もう一度問おうか?」

 

 俺は、冷静さを装って相手からの答えを聞き出そうとした。

だが相手から返ってきた反応としたら……

 

「はっ! そんなの答えたところで何にもなんねぇだろうが! そこにいる女よりもヒョロそうな優男は、黙ってすっこんでなぁ‼︎」

 

「っ⁉︎ よくも……よくも私のアルジを馬鹿にしてぇっ‼︎」

 

 俺を馬鹿にした様な反応だった。

それに対して俺の後ろにいた姉さんが、物凄い憤怒のオーラを纏いながら目の前の男に対して攻撃をしようとする。

 

 まぁ姉さんがその行動に移そうとしている前に……

 

「そうか。なら……この場から往ね

 

 その言葉と同時に、俺は目の前の男をタコ殴りにする。

掴んでいる手を自分の方に引き寄せて、相手の身体が俺の方にきたと同時に、もう片方の腕で殴り付ける。

 

 そうされた男はその衝撃で俺から離れるが、俺はまだその男の腕を掴んでいる。

掴んでいる腕を、また自分の方に引き寄せる。

そして相手がきたと同時にまた殴る。

簡単に言えばこの繰り返しだ。

 

 結果を言えば、この男の顔は腫れ上がった状態で、そうなるまで俺は殴り続けた。

相手がこの場で歯向かう態度を、これ以上待たせないために。

気絶はさせていないが、俺の姉さんを狙った報いだ。

正直これだけしかしていないのだから、相手側もこの程度で済んで良かったと思ってもらいたいくらいだ。

 

 そしてその男を、塔の外に放り投げた。

 

(なに? オーバーキル? それは知らないな)

 

 何せあの男を殴った時の感触……一般的な人よりもある程度硬いと感じた。

だからこの高さから落ちたとしても死ぬことはないだろう。

まぁ俺が殴った時の傷も含めて、全治するのは1ヶ月くらいかな?

 

(ただ相手が普通の人よりも高い治癒能力を持ってたらそれより早く治るだろうけど……)

 

 そんなことはもうどうでもいいか。

とりあえず姉さんの様子を伺おうとして後ろに振り向いた瞬間……

 

「アルジぃっ‼︎」

 

 姉さんが俺に突っ込んできた。

腕を俺の背中に回してガッチリとホールドするかの様に抱き締めて、頭は俺の胸あたりをグリグリとしてくる。

 

「もぅ……もぅもぅもぅっ! どこに行ってたのよ‼︎ お姉ちゃん……心配したんだから‼︎」

 

 瞳をウルウルさせて……というより、涙を溢しながら俺の顔を見つめてそう言ってくる姉さん。

俺は姉さんを泣かせたかったわけでは無かったが……

 

「……ごめんな、姉さん」

 

「うぅ……ダメ……絶対に許してあげない‼︎」

 

(あぁ……やばい。姉さんがまるで駄々っ子のような雰囲気を纏っちまったよ……)

 

 

 この状況をどうすれば良いかと考えている最中も、姉さんからの抱き締めは強くなる一方だ。

 

「……姉さん、心配をかけてばかりで悪いけど……俺にはやらないといけないことがあるんだ。だかr「ダメ! 行かせない! もし行くと言うなら私も一緒に行く‼︎」姉さん……」

 

「アルジが……アルジだけが何かを背負うことなんてないじゃない! アルジだけが苦しい思いすることないじゃない! アルジだけが……自分の時間を使ってまで他人のために何かするなんて……ないじゃない」

 

 姉さんは涙を流しながら俺にそう強く言ってくる。

俺だけが何か背負ったり、苦しい思いしたり、他人のために動くことはないって。

確かに俺がもし、姉さんと同じ立場にあって、姉さんが今の俺の様に行動しているとしたなら……多分俺も姉さんを必死に止めにかかっていることと思う。

 

「ねぇアルジ……私、頼りない?」

 

「……えっ?」

 

 姉さんから出た言葉が、俺の心にグサリと刺さった感じがした。

俺がそれに対してどう言えば良いか言葉に迷っていると、姉さんは続けて言う。

 

「私は……いつもこう思ってる……アルジの助けになりたいって、アルジの隣にいつまでも立ち続けたいって! だから私は強くなろうって……そう思って生きてきた」

 

「姉さん……」

 

「でもアルジは……いつも私を置いてどこかに行ってしまう……いつしか私の前から完全に姿を消すんじゃないかって……怖いの」

 

「そんな……俺が姉さんを置いて姿を消すなんてこt「ならどうして私も一緒に連れて行ってくれないのよ⁉︎」それは……」

 

「分かってる……私が弱いから……私が、アルジが頼っている他の人達よりも……他の女よりも弱いからだって」

 

 悔しいと、その感情が姉さんから伝わってくる。

俺はただ……俺の大切な人達が、限りない平穏の下、平和に暮らしてくれたらって、そう思って行動している。

姉さんのことを蚊帳の外にしていたなんて、そんなこと今まで思ったことすらない。

 

(ただ単に……姉さんに危険な目に遭ってほしくないだけなんだよ……っ!)

 

 姉さんが弱いって訳じゃあない。

他の魔剣士達よりも腕はずば抜けていると言っても良い!

 

 でも……だからって姉さんのことをこの世界の、裏の世界の事情なんて……出来れば姉さんに見て欲しくない!

 

(こんなのは俺のエゴだ。エゴだって分かってる!……だから、俺は……)

 

 涙を浮かべて不安な顔をした姉さんに対して、俺は……姉さんがやっている様に強く抱きしめた。

 

「っ⁉︎ あ、アルジ……?」

 

「俺は……姉さんのことを弱いだとか一度も思ったことはない。寧ろそこらにいる様な魔剣士よりも強いって思ってる」

 

「なら……だったr「でも」っ!」

 

「俺は……姉さんが大切だ。大切だと思うばかりに……俺は自分のエゴを押し付けて、姉さんが危険な目に遭って欲しくないって、そう思ってる。今回のことだって……俺は姉さんに傷ついて欲しくない。例え俺が傷だらけで姉さんの下に帰ってきて、それで姉さんが悲しんで……心が傷ついたとしても……それ以上に俺は……姉さんが傷付いて、苦しんでいる姿を……見たくはないんだよ」

 

「アルジ……」

 

「でもさ……結局姉さんのことを1番傷付けているのは……俺自身だって理解してる。こんなに姉さんのことを心配させて、俺のせいで苦しませて……それでそんな俺のことを、許してくれる姉さんに甘えてる。本当に……これまで生きてきて、俺は屑だなって……そう思わされる」

 

 俺が今浮かべている表情は……歪んだ笑みになっていることだろう。

 

 姉さんを安心させようとして、でも今の俺が傍目から見たら物凄い屑な人間に見えて、自分が大切な人に傷ついて欲しくないと願いながら、その逆でその人達のことを1番に傷付けている俺は……

 

(それでも……俺は!)

 

 姉さんのことを更に強く優しく抱き締める。

 

「んっ……あ、アルジ……」

 

「虫のいい話ってことは俺が1番理解してる。でもこれだけは信じて欲しい……俺は、何があったとしても、どんな姿になったとしても必ず……必ず姉さんの下に帰ってくる」

 

「アルジ……うん、待ってる。私はいつでも……貴方の帰りを待ってる」

 

「うん。それで……この事が済んだら俺は……姉さんに全て打ち明けるって約束する。この前姉さんが告白してくれた事に対する答えも……必ずするから」

 

「っ⁉︎……分かったわ。帰ったら……アルジのこと、貴方の全てを聞かせてもらうから。それが例えどんな答えだったとしても……お姉ちゃん待ってるから」

 

 

 姉さんは、ようやくいつもの笑顔になってくれた。

まだ瞳には涙が溜まっていて、目から溢れた雫が頬を伝って下に落ちていってるけど、それでもさっきの様な不安な顔はどこにも無かった。

 

「さぁ姉さん、ここは危ない。だからすぐ安全な場所に避難するんだ。俺は俺で今回の騒動を引き起こした元凶を終わらせてくるから」

 

 そう言って俺は姉さんから離れる。

姉さんも、俺から離れる事が惜しいと感じながらも離れてくれた。

 

(そう言えば……姉さんに同行してくれた人に挨拶もなしに話を進めてしまったな)

 

 その事を思い出して、俺は姉さんとここまで同行してくれた人と正面から対面する。

 

 紺色のトライコーン、服装もどこかの家族を思わせるもので、赤い超髪をした女性……だが普通の人ではなく、この人も吸血鬼であるということはすぐ理解した。

 

 しかしながらここまで姉さんと一緒に行動してくれたということは、この地に屯している吸血鬼とは違う考え方を持った人なんだということも把握した。

 

「その、ぽっと出で変な空気を出してしまって申し訳ありません。俺はアルジ・カゲノー。そこにいるクレア・カゲノーの弟です」

 

「そ、そうだったのか。なら君がクレアが探していた弟なのだな」

 

「そうなります。俺はいつも姉さんに心配ばかりかけてしまって、今日に至っては、こんな危ないところまで俺のことを探すために出てきてしまった。急いでいたので書き置きを残していたのですが、その事でかなり心配させてしまった様で……」

 

「そうだな……そこにいるクレアは、ここにくる途中からも弟である君のことを心配していたよ。それが分かったのなら、今後はあまり姉君に心配させる様なことばかりしてはダメだぞ?」

 

「はい、心得ました。しかしながら俺にも、果たさなければならない事があります。それは多分……俺にしかできない事だから。それで、ここまで姉さんに同行してきたあなたに、さらに面倒をかけてしまうことを頼んでしまうのですが……どうか姉さんを安全なところまで連れていって欲しい」

 

「……分かった。君のお姉さんのことは任せろ」

 

「よろしくお願いします。では、俺は行きます。姉さん、また後で」

 

「うん、待ってるからね」

 

 俺は姉さんの調子が少なからず元の半分以上に戻ったと認識して、その場から塔の出入り口まで飛び降りる。

飛び降りている方向に自然と視線がいって、それで俺の視界が収めた光景というのが……

 

(やはりか……また俺のことを好かない神が送り込んだか? 本当にどれだけ暇なんだそいつは……)

 

 ともかくとして、そんな存在が送り込んだ奴らがこの世界に蔓延ってしまうと……完全にこの世界はそいつらの支配下になる。

支配下になる……というよりも、最悪の結果としてこの世界の文明が滅びる。

 

 そうなる前に……

 

「全て……塵も残さないほどに殲滅し尽くす!」

 

 両手にアスタロトの装備である仕込みナイフと210mm対物ライフルを顕現させて、眼下に広がる、本来この世界では起こり得ないはずの災厄のを滅ぼし尽くすために、落下速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side クレア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルジは行ってしまった。

しかもこの塔の外壁に沿って自由落下していくといった、誰が見ても自殺行為の様な行き方で……

 

 正直この場に現れた時もいつの間にか私の目の前にいたからどうやって来たかわからないけど……壁とかが破損していないことを見るに、多分上層階から壁に沿って自由落下して来たんだと思う。

 

 他の人からしたら突拍子もないやり方だけど……

 

(でも、アルジだからこそそれが可能なのよね……)

 

「クレア、君が探していた弟さんは見つかった。君はここまで弟を探しに来るという理由でここまで来たし、その弟からも君を安全な場所に連れていって欲しいと頼まれている。私としては、君を安全な場所まで避難させたいと思っているが……」

 

 メアリーからそんな申し出を受ける。

確かに私はアルジを探しにここまで来た。

あの子が大変な目に遭っているんじゃないかと心配で、ここまで来た。

 

 でも様子を見る限り、確かに大変なことに巻き込まれていると見えたけど、あの子なら何があっても大丈夫だって思ってる。

 

(それよりも逆に私が危ない目に遭いそうになって、それをアルジが助けてくれたんだけど……)

 

 今の私の気持ちは正直、あの子が無事でホッとしている。

あの子に傷一つついてなくて、あの子が元気な様子で……本当に良かった。

 

 そんなアルジから、ここは危ないから安全なところに行くようにって言われたわ。

本来ならあの子の言うことに従うところで、私も面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだと思っているわ。

 

 だけど……

 

「いいえ、私もメアリーのやることに、最後まで付き合うわ」

 

「っ⁉︎ な、何を言っている⁉︎ 君の弟は見たかったんだろう⁉︎ それなら君は、彼の言う通りにすぐ安全な場所に避難するべきだ!」

 

「確かにそうかもね。でも今回の騒動を引き起こしたのはアンタの元同僚の吸血鬼なんでしょ? それを1人で止めるつもりなの?」

 

「私は最初からその覚悟を持ってここにいる。心配は無用だ」

 

「心配はしていないわよ。アンタの実力については、短い間だけど近くで見て来たんだから。でもね、アルジ……あの子が、自分が本来首を突っ込まなくてもいい事に、自分が解決しなくてもいい筈の事に、全力で向かって行ってる。だから私も、あの子のようにはいかないけど、アンタの抱えている厄介事に最後まで付き合うわ」

 

「なっ⁉︎ そ、それでは彼との約束が……」

 

「確かにアルジとの約束は違えてしまうわ。それでも私は……あの子が抱えている厄介事を、少しでも背負ってあげたいの! それであの子の背負う荷が軽くなるなら、私は……どんな事でもやってやるわ‼︎」

 

「……そうか。分かった。これ以上私からは何も言わない。だが、危険だと思ったら、私を置いてでも逃げるんだ」

 

「それは、その時の場合によるわね。私、結構アンタのことも気に入ってはいるんだから」

 

「ふふっ、面と向かれて言われると少し気恥ずかしいな。よし、ならば行こうクレア。背中は任せたぞ」

 

「ええ、大船に乗ったつもりでいなさいよね」

 

 私達はそこから一気に塔の上層階まで登っていく。

道すがら吸血鬼に襲われる場面もあったけど、さっき急に現れた大柄な男よりも弱いと感じてしまって、手こずるようなことは全くなかったわね。

 

(早くこんな事を終わらせて、アルジの下に帰るわよ!)

 

 その意思を強く持ちながら、私はメアリーの先導で最上階へと足を踏み入れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

side out








後半になるに連れてどう着地しようかと迷いながら書いたので、終わり方が雑になった感じが否めません。
それにしても物語序盤で出て来た細胞ってなんですかね?
今回も作者の暴走で違う世界から邪魔者を投入します。

さて、この邪魔者が投入される事で物語はどのように変化するでしょうか。
※なお、基本物語の終わり方はワンパターンのため変わらない予定……

それはまた物語が進むに連れて明らかになると思いますので、続いて解説に移ります!



解説



◾️譜歌
『テイルズ オブ ジ アビス』で出てくる術技で、その作品の主人公に同行するヒロインが使います。
またこの術技は、そのヒロインが持つ特殊な血筋と、その術技の特質上、歌を歌い様々な効果を発揮するものではありますが、その旋律の意味を理解して歌わなければ効果を発揮しないという、テイルズシリーズでも特殊な術技の1つに入ると思います。(あくまでも作者視点)

譜歌は全部で7節あり、今回はそのうちの1節を出しました。
効果範囲内の対象に睡眠効果を及ぼすもので、対象範囲内で術の効果を受けた者は眠りに入ります。

眠りから覚めるのは個人差はありますが、その対象に何か起こすようなアクションをしなければ、最低でも数分間は眠ったままの状態です。(こちらも作者視点)




解説は以上となります。
因みにテイルズシリーズの中で私が好きなタイトルは、『テイルズ オブ ジ アビス』と『テイルズ オブ ヴェスペリア』になります。
なのでテイルズシリーズで出す術技は基本この2作品が中心になる予定です。
読者の皆様でテイルズシリーズを知っていらっしゃる方、好きだという方はどのタイトルが好きでしょうか?

さて、次回については、いよいよ最終展開部分を書いていく予定です。
上手く纏まればいいなと思いつつ、それについてはその時その話を書いている私に任せる事にします。

それではまた次回にお会いしましょう!
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